(敬称略)

受賞された方

『双頭の蛇』武山 建
 迫力バツグンの作画、前回からさらに凄みを増したと思います。決して馴れ合わない男同士の意地っ張りな魂の交流は買いでした。反面、題材といい、画風といい、前回の作品に見られた独自性がやや影を潜め、「上手かった」という印象のみが、セリフや決めの絵よりも残ってしまうのは、まだ自分の持ち味を確立していないからかもしれません。実力は確かなのでさらに高い境地を目指してほしいと思います。
 
『ウソとホント』北川雄規
 投稿の常連(ありがとう!)、北川さんの最新作は、毒舌、もとい超正直な美少女と、決して本心を明かさぬ「ウソつき」男の物語。今までの作品の中で一番いいと思います。両方のキャラクター付けが明快で、特に本音を全開で語る女の子に爽快感を感じました。やや急ながら、物語の展開も前進感があって良かったです。これからの課題は、いかに「深み」を出していくかだと思います。主人公の心の動かし方、正直だとは思うものの、ブスっ子への印象などはあまりにもステレオタイプで少し不満を感じますし、全体に人間が役どころ通りに動き過ぎている感じもします。しかしながら、ここまでのレベルに持ってきた作品への執念を、高く評価します。

『ヒカリしらべ』鹿又利行
 鹿又さんは、決して失敗作を描かない人。前回の作品も、一度トライしてもらったネームも、唸らされるポイントが必ずありました。この作品もいわゆる王道の少年漫画ではないと思いますが、とらえどころのないふわっとした魅力に、強い作家性を感じます。一番いいと思ったのは、善人ばかり登場するのに、きちんとドラマがあり、印象的なラストで締めていること。主人公のヒカリちゃんはじめ、登場人物すべてを応援したくなるのには、並々ならぬ才能を感じます。作画だけは課題と思いますが、どの方向に持っていくのかが結構難しいところかもしれませんね‥。
 
『赤いスマッシュ』稲葉 誠
 入部早々なぜか分不相応に歓迎される新入部員、というのはままある展開ですが面白い。熱いバドミントン漫画。動きの迫力もさることながら、シャトルやグリップにいたるまで、それぞれに考えたアングルで丁寧に描いているところ(ラストシーンなど)印象的でした。若々しい人物絵もいいです。キャラ付けに関しては、「名前が変わっている」ところがアイデアの肝なので仕方がないかもしれませんが、「親の離婚=無口でも仕方ない」「試合前日の親の離婚=もう本気のバドはこりごり」といった描写は説得力十分とはいえず、読み手の感情移入を妨げると思いました。しかし、伸び盛りという印象がある方。

『ヒーローDEATHッ!!』梅原亮太
 太目の線で、黒白のコントラストを上手く使った作画は、水準以上のレベルで、作者が楽しそうに描いている感覚も伝わってきました。迫力も十分です。半面、「スーパーヒーローが公認され、日常にある世界」というのは、分かりやすいはずなのに、どうも上手く溶け込めませんでした。小出しにこの世界のルールが説明されるので、何が起きているのかを把握するので一杯という感じです。大づかみに読者の気持ちを引き寄せる工夫を序盤からしても良かった気がします。
 
『フィールド アンド トラック』喜多正直
 短距離の花、リレーを扱った作品。喜多さんの投稿作の中では、動きの迫力が向上したという点で、一番の出来と言えます。アクションを描いてもどこか静止画のようだったこれまでと比べ、肉体の迫力がとてもよく出ていました。反面、主として大ゴマは良いのですが、小コマ、特に遊びを入れたコマや遠景を描くときなど、出来に極端なバラつきが見られ、結果画面に不安定感が出て、実力より下手に見えてしまっていますので、今後は作画、コマ一つ一つの精度を上げてくれればと思います。

『DEEP INFERNO』高田銀一
 悪の異星人と闘う超人戦士に憧れて‥‥までは良くある話かと思いましたが、そこからの展開には驚愕。まずは、異星人たちを手なずけてリーダーとして君臨するヒロインのキャラクターが秀逸でした。ここで引き込まれたので、この壮大な物語を読み通せたといっても過言ではありません。少し壮大すぎて、何箇所も「あれ、この前の展開ってどうなってたっけ?」と確認の必要がありましたが、随所に登場するカットの印象度、セリフのキレ味はさすがです。
 
『足音はふかふか』森山智史
 読後感のよさ、素晴らしかったです。人でないものが女性として降臨するアイデアは、無数にあるとは思いますが、それでもこの着眼点には脱帽です。単なるヒロインでなく、母のように姉のように、何くれとなく主人公を思う気持ちにはジーンとしますし、結ばれる側のギャルも、本当に心のきれいな女の子なので、むしろ主人公がこんないい目にあってしまうのが理不尽な気さえしました。主人公の守備的な心情、理解はできますが、それでもやや利己的に思えたのですが、作品の傷になるほどではありませんでした。

『上書キデ保存シマスカ?』高橋恭平
 修学旅行、初恋の人、告白。ありきたりになりそうな舞台設定を、見事に個性的に仕上げてくれた作品でした。修学旅行、やっぱドラマになりますね。ともあれ、今回、「手触りのリアリティ」のようなものを一番感じさせてくれた作品でした。「今、オレ、お前のこと好きだ! ‥‥と思うんだよ」というセリフは絶品ですし、その後の展開も気持ちいい。ロングヘアーにまつわるアイデアも。作画は、オリジナリティを失わない範囲で、もう少し試行錯誤してみてもいいかと思います。
 
【ネーム部門】『ブス界へようこそ』河野大樹
 怪作あらわる、との月マガ本誌でのキャッチがぴったりくる衝撃の作品。17歳という年齢を勘案しなくても、これほど引き込まれた作品は珍しい。拒否反応を示す読み手は相当数いると思われるし、このまま掲載することは無理と思われるほど描写もえげつないですが、まちがいなく才能を感じます。極端な設定ではありますが、その実普遍性があり、大げさに言えば人類の歴史ってこんな感じだったとも思えるし、卑近な例では、金融だろうが芸能だろうが、ビジネスというのも戯画化すればこんなものとも思えます。月マガとの相性は‥‥正直さほど良いとは思えませんが、ともかく次回作はぜひ読んでみたい。いろいろ忙しい年代でしょうが‥。

編集長コメント選外




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