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携帯電話は「諸刃の剣」の存在 ─ 100万加入を超えた北朝鮮携帯電話市場の実態(後編) | 次の記事 |
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韓国の約半分の人口(約2.4千万人)を擁し、かつサービス開始時点の普及率は実質ゼロ%という、巨大な成長ポテンシャルを秘めた北朝鮮の携帯電話市場を、エジプトはいかにして手中に収めることができたのだろうか。
両国は、長年にわたる軍事的相互協力を通じて緊密な関係を構築してきており、これが携帯電話ビジネスにおける提携成立の契機になったと考えられる。両国の蜜月関係は、2011年1月にオラスコム・テレコムの会長(当時)ナギブ・サウィリス氏が北朝鮮を訪問した際の手厚い歓迎の態度からも察することができる。同氏は故金正日総書記との面会も果たしており、韓国統一省によれば、北朝鮮のトップ自らが外国の企業人を公式に迎え入れることは異例だと言う。当時の模様について北朝鮮の国営メディア、朝鮮中央通信社は、故金正日総書記がナギブ・サウィリス氏を温かく迎え入れ、通信を含む様々な分野でオラスコム・テレコムによる投資が実を結びつつある、と伝えた(朝鮮中央通信社(2011年1月24日))。
サウィリス一族の北朝鮮に対する投資は、通信だけにとどまらず金融や建設分野など多岐に及んでいる。エジプトは今や北朝鮮の経済発展にとって欠かせない存在であろう。
サービス開始月(2008年12月)末時点には僅か1,694件であったコリョリンクの携帯電話加入数は、その後、現在に至るまで急速に増え続けており、2009年12月末時点で9万件超、2010年12月末時点で43万件超、そして2011年9月末時点では80万件超に達した(図2)。さらに2012年2月には、エジプト側の出資元であるオラスコム・テレコム・メディア・アンド・テクノロジーが100万加入を突破したことを発表した(ブルームバーグ2012年2月2日)。前回のGSM事業では、加入数が2万件程度にとどまったことを考えれば、コリョリンクは劇的な成果を上げていると言える。
▼図2:コリョリンクの携帯電話加入数/普及率推移
出典:各種資料に基づき作成
※加入数=オラスコム・テレコムの各四半期決算を基に作成(2012年2月実績は、オラスコム・テレコム・メディア・アンド・テクノロジーの発言に基づく値)
※普及率=米国統計局公表の各年央の人口を基に算出(2012年2月実績は、2011年央の人口を使用)
※2012年2月の数字については、公表時期ベース。100万加入を突破した具体的な時期は不明。
但し、サービス開始から僅か3年余で100万加入に達したとは言え、普及率はいまだ約4%と、極めて低い水準にとどまっており、携帯電話が一般市民にまで広く浸透したとは言い難い状況である。実際、携帯電話を手にすることができるのは、政府高官やごく一部の富裕層等に限られているのが現実だ。建前的には一般市民の所有も認められている模様だが、携帯電話端末の販売価格は約350米ドル(ロイター(2011年11月20日))と言われており、国連統計局公表の同国一人当たりGDP(504米ドル、2010年)の約7割にも匹敵する。一人当たり平均月収は僅か約15米ドル(年換算額=約180米ドル) (同)であるとのデータもあり、北朝鮮において携帯電話はまだまだ一般市民には到底手の届かない高嶺の花の贅沢品である。
直近でも対前四半期比20%超の加入増を記録するなど、サービス開始から3年以上が経過した現在もコリョリンクは順調に加入を伸ばし続けているが、この増加傾向に陰りが見え始める可能性もある。北朝鮮の全組織活動を指導する立場にあり、同国の富裕層の大半を構成していると思われる朝鮮労働党の党員数は外務省によれば約300万人であり、さらに党員の中でも富裕層に属する者は一部のみと見られる。それゆえ100万加入に達した今、近々に加入の伸びが頭打ちになることも十分考えられるだろう。
松本 祐一(まつもと・ゆういち)
情報通信総合研究所副主任研究員。日本国際通信(現ソフトバンクテレコム)及びNTTコミュニケーションズで、在日外国人市場における国際電話サービス販売促進業務に携わる。2008年4月より現職。海外のモバイル市場に関わる調査業務に取り組むとともに、会員向け情報提供サービス「InfoCom モバイル通信T&S」の編集・執筆を担当。
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