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世界のモバイル事情

携帯電話は「諸刃の剣」の存在 ─ 100万加入を超えた北朝鮮携帯電話市場の実態(後編)

2012.05.07

しかしながら、同社の持株比率が75%以上で個別の決算数値を公表している5市場の各営業収益の対前年同期比増減率に目を転じると、コリョリンクが125%増と高い伸びを見せた一方で、他の4市場はいずれもマイナス成長もしくは1桁台の微増にとどまった。企業の収益性を示すEBITDAマージン(同値が大きいほど収益性が高い)でも、コリョリンクは80%という高率を記録し、5市場の中で断トツの位置にある。

なお、この極端に高いEBITDAマージンは当四半期だけの異常値ではない。直近の2四半期を見てみても2011年第1四半期が87.6%、同第2四半期が84.3%と、当四半期をさらに上回る値となっている。利払前・税引前・償却前ベースの利益ではあるものの、北朝鮮の携帯電話ビジネスは、営業収益の実に8割以上が利益(2011年第3四半期決算ベース)となっており、極めて高い収益性を有している。

NTTドコモのEBIDTAマージン(2010年度)は37.1%、印トップの携帯事業者バーティー・エアテルは同33.7%(2011年第3四半期)であることからも、同社の同値が著しく高い水準にあることが分かる。サウィリス一族が、オラスコム・テレコム売却後もコリョリンクを手放さなかった理由は、両国の密接な関係が根底にあったにせよ、同社のこのように突出した成長力と収益性に対する大きな期待があったからだろう。

北朝鮮では稀有の広告宣伝活動も積極展開

北朝鮮の広告産業は未発達の状況にあるものの、コリョリンクはサービス開始当初からラジオや新聞、屋外広告などを活用した広告宣伝活動を積極的に展開してきた。

2011年9月には北朝鮮がホスト国となって平壌で開催された国際テコンドー連盟(ITF)主催の第17回テコンドー世界選手権大会で、コリョリンクがプラチナ兼独占スポンサーとなっている。世界約80カ国から約800人が参加した同大会において、同社は会場内のいたるところに広告を掲示するなど、大々的な広告宣伝を実施した。

海外へ向けての情報発信の場ともなるこうした国際大会を通じて自国の携帯電話ビジネスを全面的にアピールしたという事実は、北朝鮮が同ビジネスに本気で取り組んでいくことの決意表明であるとも感じられる。オラスコム・テレコムも、このような協賛広告へ参画は、北朝鮮にとって初のことだとしている。


松本 祐一(まつもと・ゆういち)
情報通信総合研究所副主任研究員。日本国際通信(現ソフトバンクテレコム)及びNTTコミュニケーションズで、在日外国人市場における国際電話サービス販売促進業務に携わる。2008年4月より現職。海外のモバイル市場に関わる調査業務に取り組むとともに、会員向け情報提供サービス「InfoCom モバイル通信T&S」の編集・執筆を担当。

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