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ストイコビッチ平和親善大使スピーチ
-西バルカン平和定着・経済発展閣僚会合- ご列席の皆様、 この度、西バルカン平和定着・経済発展閣僚会合の平和親善大使という責任ある仕事を任されましたことは、私にとり光栄なことです。とりわけ、私にとっての第二の祖国である日本からの依頼は、大変な名誉なことであると感じております。 私はこれまで20年間にわたりフットボール選手としての人生を歩んできました。皆様、良くご存じのとおり、フットボールは世界中で最も愛されているスポーツであり、特に西バルカン諸国ではとても盛んです。誰もがフットボールという共通の言葉を理解し、この言葉の前には、民族も、宗教も、国境も、言語も関係ありません。 世界のクラブチームでは、ありとあらゆる国、民族、宗教、言語のプレイヤーが一つのチームを形成しています。フットボールの世界ではそれが当たり前ですから、私自身、チームメイトが何処の国の出身だとか、どの民族だとか、全く意識すらしませんでした。 実際、苦楽を共にした私の仲間は西バルカンの様々な国の出身です。例えば、Jリーグ「ジェフ市原」の監督を務めるイヴィッツァ・オシムはBHの出身ですが、彼は私のフットボールの師であり、今でも親友です。クロアチアのプロシネチュキ、シュケル、ボクシッチ、ヤルニ、マケドニアのバブンスキー、BHのハジベキッチ、アルバニアのロリ・ツァナらは皆友人であり、今でも良き仲間です。 正にフットボールは、国境や民族や言語の壁を越えることの出来る「架け橋」だと言えるでしょう。 ご列席の皆様、 民族融和には何が必要なのでしょうか。単に「民族融和は大事だ」と何百回繰り返したところで、それはただの言葉に過ぎないでしょう。私は真に必要なものはこの「架け橋」であると思います。人々の交流なしに融和は生まれません。交流を生むためにはきっかけが必要であり、そのきっかけとしてフットボールは大きな役割を果たしています。 例えば、毎年トヨタカップが開かれる東京には、地球の裏側から何千というサポーターが駆けつけます。フットボールの魔法は、瞬く間に国境や大陸を超える力を持っているのです。この魔法を民族と民族の壁を消すために使えないものだろうか、私はいつも考えるのです。西バルカンの各国が親善試合を定期的に行うというのはどうでしょうか。既に近隣諸国との公式戦は行われていますが、公式戦はどうしても勝つことが全てに優先してしまうので民族融和という意味では、親善試合の開催が重要です。既にBHとセルビア・モンテネグロの間では親善試合が行われております。これから少しずつではありますが、多くの親善試合を企画していきたいと思っています。代表チームが試合のために近隣諸国に移動すれば、サポーターも移動します。まずは人々が移動する、交流するということが大事だと思います。そうやって少しずつ少しずつ、壁が無くなっていけば良いと思っています。 欧州フットボール連盟(UEFA)も民族融和のために重要な役割を果たしています。BHにエンティティー毎の民族を分断したフットボール・リーグを認めず、多民族のリーグを創設するために多大な支援を行ったことは極めて重要ではないでしょうか。エンティティを超えたリーグの創設は必ずや交流を促進し、民族融和に役立つと思います。 日本もスポーツを通じた民族融和に大きく貢献しています。サラエボ・フットボール・プロジェクトという日本のNGOが、2000年、サラエボに「KRILO」という多民族の少年フットボールチームを創設しました。結成当初は民族の壁を越えることは難しかったようですが、徐々に交流が行われるようになり、現在ではボシュニャック人、クロアチア人、そして、セルビア人の少年が一つのチームを作って頑張っています。先日、日本政府はこのチームがエンティティの境界線を超えて移動するためのバスを寄贈しました。エンティティを超えて交流が行われることが重要であり、その重要性を未来を担う子供達が理解することは更に重要です。私も、今年の10月、セルビア・モンテネグロ対ボスニア・ヘツツェゴビナの試合がサラエボで行われる際、是非、「KRILO」を訪問したいと思っております。「KRILO」とは翼を意味します。この翼が未来に羽ばたいていくことを楽しみにしています。 ご列席の皆様、 私は、一貫して「スポーツと政治は別である」と言い続けてきました。その思いは今も同じです。私は政治家ではなく、国のシステムや経済政策を変えることは出来ません。しかし、フットボールという共通の言語、誰もが知っている言葉、誰もが愛するテーマを通じて、フットボール選手が平和のために貢献することを願っており、それは可能だと信じています。 私の大好きな映画「アンダーグラウンド」の言葉にもあります。「この物語に終わりはない」と。ようやく西バルカンは平和と安定に向けて歩み始めました。物語は始まったばかりであり、私もフットボールを通じて民族融和の物語に参加していきたいと考えています。多くの人々、特に未来を担う子供達がこの物語に参加してくれることを願ってやみません。 有り難うございました。
平 和 親 善 大 使 |
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