取りあえずやれやれだ。そんな感想で受け止めた人が多いのではないか。
自民党の安倍晋三総裁が対中、対韓関係で選挙中に示してきた強硬姿勢を転換し、柔軟に対応する方針を打ち出してきた。
対中関係では、尖閣諸島に公務員を常駐させるとした衆院選公約の実施を当面先送りする方針を固めた。政権が発足したあと特使の派遣も検討する。
対韓関係では、政府主催による2月22日の「竹島の日」式典の開催を来年は見送る方針を固めた。大統領選での朴槿恵氏の勝利を受けて、韓国にも特使を派遣する考えを示している。
公約は政党と有権者とが交わした約束である。選挙が終わったからといって反古(ほご)にしたり、大きく修正したりするのは本来は許されることではない。
ただ尖閣への公務員常駐にしろ「竹島の日」の式典にしろ、公約の通りに実行したら中国、韓国との関係はさらに悪化する。日本の利益にならない。
軌道修正は賢明な対応だ。安倍氏の決断を歓迎する。
来年2月25日、韓国では大統領就任式が行われる。悪化した関係を仕切り直す絶好の機会だ。安倍首相の式への出席と首脳会談が実現するよう、政府間で調整を進めてもらいたい。
半面、安倍政権の下での対中、対韓関係の進展をあまり楽観できないのも事実である。安倍氏はかねて従軍慰安婦についての河野談話の見直しを主張してきた。中国公船の尖閣周辺の領海侵犯についても、選挙戦で「日米同盟関係を回復し、領土、領海を断固守る」と強い姿勢を示してきた。
安倍氏が保守的な信条のままに突き進み、中国、韓国との関係が袋小路に入り込むことも心配せざるを得ない状況がある。
ニクソン米大統領が中国との国交を樹立したように、保守的な政治家だからこそ国内、党内を説得し、対外関係を切り開くこともできるはずだ。安倍氏も前回の首相就任後の初外遊先に中国を選び、「戦略的互恵関係」を育てることで合意している。
アジア諸国との結び付きの大切さを考えれば、首相でいる間は靖国参拝は控えるべきだろう。疑心暗鬼を招かないために、憲法改正や集団的自衛権の問題で慎重に臨むのはむろんである。
自民党には長年にわたり外交に携わってきた経験と知恵があるはずだ。対外関係が難しさを増している今こそ生かしてもらいたい。