クマ類の錯誤捕獲の防止の取り組みとその評価
片山 敦司(WMO)
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平成19年1月29日環境省令第3号により、鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律施行規則等の改正が示された。改正内容には『くくりわな』の使用に関する制限が盛り込まれた。すなわち、くくりわなを用いる場合、輪の直径が12cmを超えるもの、締付け防止金具が装着されていないものの使用が禁じられ、イノシシ及びニホンジカの捕獲を行う目的の場合は、よりもどしが装着されていないもの又はワイヤーの直径が4mm未満であるものは使用が禁止された。本施行規則は平成19年4月16日をもって施行されることとなった(図1)。 本改正は、くくりわな等による錯誤捕獲(捕獲対象動物以外の動物が誤って捕獲されること。誤捕獲とも言う。)が頻発し、特にクマ類の錯誤捕獲で多数のクマが放獣の術もなく殺処分されていることから、これらのわなの使用を制限することで錯誤捕獲の発生を抑えることを意図したものである。 一方、『はこわな』による錯誤捕獲も多発しているが、これに対しては今のところ発生を予防する観点での具体策は制度化されていない。クマが周辺で活動していることが確認されている場合はわなを設置しないようにすること、誘引餌としてクマ類が好むものを使用しないこと、天井などに脱出口を設けて万一捕獲された場合でもクマが脱出できるようにすることなどの対策が自主的な取り組みとして行われているが、錯誤捕獲に関する諸問題をうまく解消する決め手がないのが実情である。 本文では、主に『くくりわな』による錯誤捕獲の防止の取り組みに対して、現時点で私が感じていることを述べようと思う。この中で述べることはあくまでも私個人がこの一年間に見聞きした情報の中での私見である。おそらく異なる見解を抱かれている方も多いと思うので別の意見をお持ちの方は、是非本誌に投稿いただいて意見を述べていただきたい。なお、以下で扱う「クマ」は、私が扱うことの多いツキノワグマに限定したものとする。 さて、本論に入る前に、まずは『くくりわな』がどのようなわななのかを簡単に説明しておこう。狩猟読本(発行:社団法人大日本猟友会・監修:野生生物保護行政研究会.2007)では、以下の説明がある。 冒頭に示した制限は狩猟のみならず有害捕獲等にも適用されるが、有害捕獲等における制限については、環境省告示による「鳥獣の保護を図るための事業を実施するための基本的な指針」(平成19年1月29日 環境省告示第3号)において、「くくりわなの輪の直径については、捕獲場所、捕獲時期、クマ類の生息状況等を勘案して、錯誤捕獲のおそれが少ないと判断される場合」には、法改正による制限に関わらないものとされた。また、クマの生息が認められない自治体やイノシシ等の被害が甚大である自治体などではイノシシ、シカの特定鳥獣保護管理計画において狩猟期の制限を解除することも可能とされた。 法改正によるくくりわなの使用制限が公表された当初、イノシシ等の被害が大きい自治体では戸惑いの声が広がった。イノシシの捕獲により被害の軽減を図っている自治体では、農家にくくりわなを用いた「わな猟」免許の取得を推奨しているところも多い。法改正によるわなの使用制限はイノシシの捕獲効率を下げ、捕獲の意欲を減退させるものと考えられた。イノシシの捕獲が低調になることから農業被害のさらなる拡大を危惧する声も多く、特定鳥獣保護管理計画により制限を解除する自治体も現れた。一方、四国などクマの絶滅危惧個体群を抱える地域では、クマ保護の観点から法令の厳格適用を求める声もあり、例えば同じ県内でも特定の地域に限定して規制を解除する処置をとるところも見られた。 このように、くくりわなの使用制限はクマの生息する多くの自治体で受け入れられているが、イノシシの被害の大きい地域を抱える自治体では解除に踏み切ったところもある。これまでのところ、私の知る限りではどちらの自治体においてもクマやイノシシなどの保護管理上重大な支障が生じているという声は聞かないが、現場の実態はどうであろうか。 昨年度(2007年度)は、クマの出没情報は比較的少なく、我々が錯誤捕獲の対応のため、現場に出る回数もあまり多くなかった。図7は、我々(野生動物保護管理事務所関西分室)が、近畿地方において自治体の要請により行った錯誤捕獲個体放獣業務の捕獲形態別件数を示した円グラフである。ここで扱った数値は近畿地方の複数の府県で発生した錯誤捕獲事例数の合計であり、学習放獣等の目的で積極的にはこわな(ドラム缶式檻を含む)で捕獲された事例数は含まない。また、捕獲種別は「くくりわな」、「はこわな」、「その他」と分類したが、「その他」は捕獲柵(囲いわな)などによる捕獲やとらばさみによる捕獲などである。 捕獲件数が少ない2005年と2007年(ともに錯誤捕獲総数は19件)を比較すると、くくりわなによる錯誤捕獲件数は、使用制限がかかる前の2005年が13件であったのに対して、使用制限が導入された2007年は9件と減少した。また、上述のように制限解除をした自治体では、くくりわなによる捕獲の割合が制限を行った自治体よりも高いことがわかった。情報数が充分ではなく、正確に現場の実態を反映しているかどうか明らかではないが、以上のデータからは、くくりわなの使用制限には錯誤捕獲の発生確率を低下させる効果がある可能性があることが示唆された。(なお、大量出没年においてはこわなによる錯誤捕獲が増加する背景には、はこわなの設置時には誘引餌を多用すること、大量出没年にはクマ類の食物資源量が減少し、食物に対する需要が高まっていることから誘引餌の効果が高まっていることなどが関係すると思われる) ・クマの錯誤捕獲の発生確率が低減したことを示す指標(錯誤捕獲の発生理由別件数(錯誤捕獲を有害捕獲と混同させない)、錯誤捕獲個体を殺処分した場合にはその理由の明確化、情報のデータベース化) 参考文献:
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図1.くくりわなの規制強化を示す環境省のリーフレット 〔http://www.env.go.jp/nature/yasei/hunt_gear/leaflet1.pdf〕 |
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図2.ひきづり型(狩猟読本から転載) |
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図3.はねあげ型(左上)、鳥居型(右上)、ピラミッド型(左下) (狩猟読本から転載) |
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図4.イタチ用捕獲器(狩猟読本から転載) |
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図5.くくりわなの構造・作動時の状況の例(コイルスプリングを使用したわなの一例)〔★印は平成19年1月29日の環境省令第3号による制限項目〕 |
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図6.立木の損傷例 (本例では、中央右の竹にくくりわなの固定部(根付け)があった) |
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図7.錯誤捕獲対応事例における捕獲形態別件数と割合(2004-2007年度) 〔上段または左側の数字は件数を、下段または右側の数字は割合(%)を示す〕 |