はてブのコメント見るとその種の要望もありそうなので、有名な間違いについて書く。 ただ、ありきたりの説明をしても詰まらないので、多少の工夫はしたい。 射撃姿勢や遮蔽物の扱いの話もしたいが、どう考えてもフィクションの話と絡めて説明しにくいので、改めて書こう。 はてブの反応を見ると、基礎的な知識でも知られていないものが多いようだ。 今までウチでは銃については製品情報中心だったが、今年から技術・運用にまつわる話も書くようにしたい。 銃に関する間違いと言うと、しばしば映画やドラマの間違いというのが例に挙げられる。 アメリカの銃・装備・兵器の雑誌Tactical WeaponsにはBad Hollywoodという映画の間違いを指摘する連載記事まであるほどだ。 映画から広まった間違いは、アニメや漫画にも影響を与えている。 有名なもののうち、アニメや漫画にも見られるもののみ説明しよう。 正直、有名すぎて説明するのが恥ずかしくなるほどだ。 サイレンサー(サプレッサー)がついた銃の描写というのは誤解が多い。 音、装着方法の間違いがよくある。 しかし最大の間違いは、リボルバーに装着するサイレンサーだろう。 リボルバーに装着するサイレンサーは、漫画ではゴルゴ13によく登場するが、存在しない*1。 サイレンサーというのは発射の際の気体の動きを制限することで音を減少させる器具なのだが、リボルバーは見ての通りスカスカで銃口以外にスキマが多いので、そこから気体=音が漏れてしまうのだ。 これも有名過ぎて説明する意味はないかもしれない。 拳銃を横に傾けて保持するスタイルだ。映画発祥でアニメや漫画でも頻繁に見られる。 もちろん見栄え以上の意味はない。 状況として銃を横にしたほうがいい場面というのはあり得るが、かなり特殊な状況なのであえて通常の状態で横に持つ必要性はない。 この現実の「かなり特殊な状況」については、情報源がかなり微妙なものがある。 例えば「イスラエルではこのテクニックが使われている」「昔、馬賊がフルオートのモーゼルM712を使うとき横に持った(反動を利用して横薙ぎに連射する)*2」「左利きの人間が薬莢が下に落ちるように持った」などだ。 いずれにしてもその実態の裏が取れていない話で、しかもかなり特殊な状況の話なので考慮する必要はない。 そもそも拳銃は縦に持って狙い、反動を抑えるように設計されているものだ。 しかし考慮すべきこととして、映画のせいで現実のギャング、チンピラがこの撃ち方をするようになったということがある。 映画やテレビの影響というのは凄いもので、映画に登場した銃や武器の類はたちまち真似をする人間が出てくる*3。 「ダーティーハリー」上映後、44マグナムリボルバーのS&W M29を持ち歩く警察官が登場したように。 だから、「映画の真似をするバカ」という意味合いで横に銃を持つ人間を描くことも現在では可能になった。 実際、木多康昭の『喧嘩商売』ではそうしたバカとして横に持つ人物を描写していた。 映画の銃に関する間違いでよくあるのは、マガジンを交換しない、弾を換えないということだ。 これはアニメや漫画でもよくある。 しかしマガジンの交換を行う作品でもマガジンをどこに入れているかの描写がないこともある。 (そもそもそれ以前に銃や武器の収納に気を使っていない作品は多いのだが) マガジンというのは結構重く、かさばるもので、小さな銃のものでない限り隠し持つのは厄介だ。 よくある拳銃のマガジンは、スニッカーズより場所を取ると思っていい。 銃本体も持ち歩くとなると、尚更収納場所の選択肢は狭められる。 銃に限らず装備の配置や収納というのはアクションと直結した要素なのだが、アニメや漫画ではかなり軽視されている。 映画では、銃で撃たれた人間が後ろに飛ぶということがある。 アニメや漫画でもそうした描写がされていることがある。 だが、これは現実には起こらない。 砲やそれに近い大口径の銃、機関銃の掃射のような特殊な場合を除いて、そうしたエネルギーは生じないのだ。 銃弾は人体に穴を開け、損傷させることはできるが、人体を大きく動かすことはできない。 もし人体を動かすエネルギーがあるなら、防弾チョッキを着た人間も撃たれて後ろに吹き飛ぶことになっているだろうし、銃を撃つ人間も後ろに吹き飛ぶくらいの反作用を受けていることになる。 他にも多くの間違いはあるが、キリが無くなるのでこの辺にしておく。 このシリーズは一旦止めて、銃の扱いに関する基礎知識はまた別に始めたい。 (追記) まず、状況によって横に持って撃つというのが実戦の例としていくつかあったとされている。 それとは別に、映画では見栄えや演出のために横撃ちを行う例がいくつかあった。 現在、映画で最古の例とされているのは「続・夕日のガンマン」(1966-67年)で、イーライ・ウォラック演じるトゥーコが風呂の泡にまみれた姿で銃を撃つシーン。 また、ジョン・ウーの映画「男たちの挽歌」等で横撃ちが取り入れられたのを初とする人もいるが、ジョン・ウーのそれらの映画では銃を縦に持っているシーンしかない。 ギャングの描写として普及したのは、「Boyz n the Hood」(1991年)からではないかとされている。 ただし、この映画で横撃ちは限られた場面にしか登場していない。実際にはこの時期から様々な映画で少しずつ使われている。 こうした横撃ちは、特殊な状況であるとか、あるいは俳優の顔をよく映すためとか、それぞれの演出に合った理由で生まれたとされる。 その後、この撃ち方はスタイリッシュなギャングの撃ち方として定着している。 個別の例としてはそれ以前の映画にもあるが、知られているのは以上のような流れだ。2009-01-04
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映画発祥の間違い