Position Sul  地面に向けた銃口              September 26, 2006掲載

 銃撃戦の合間、もしくはそれに発展する可能性の高い緊張状態において、公的機関の警備担当官や犯罪捜査官は、手にしている銃をどこに向けているべきか。
 もちろん危険因子の方向に向けているのが理想だろう。
 しかし、いつでもそうしているわけにはいかない。一番マズいのは、フラフラとマズルが泳ぎ、味方や一般市民のいる方向に銃口が向くことだ。
 実戦の最中であれ、高度な緊張状況であれ、自分の銃が同僚や一般市民に危険を及ぼすことは避けなければならない。
 ピストルは小さく軽い。操作性が良い分、ライフルなどのロングガンと比べると、銃口が勝手な方向を向きやすい。
 Position Sulは戦闘の合間にどのようにピストルを保持するべきかを考え、手法として確立したものだ。1997年より使われている。
 TEESのAlan BrosnanとTFTTのMax F. Josephが共同開発した。TEESとはTactical Explosive Entry Schoolで、現在はOlive Security Training Centerとなっている。アメリカでのトレーニングセンターはテネシー州メンフィスにあり、法執行の公的機関および軍に向けて戦闘訓練をおこなっている。
 TFTTはTactical Firearms Training Teamで、公的機関向けのトレーニングセンターだ。こちらはカリフォルニアにある。
 Alan Brosnan はOSTCのTraining Directorであり、Max F. JosephはTFTTのTraining Directorだ。
 “Sul”とはポルトガル語でsouthを意味する。South=南だが、同時に世界の下側の意味がある。北半球に住む者の発想だ。南は下側にある。下向きのポジションだからPosition Sulだ。そしてsulには、muzzle downの意味もあるらしい。
 Position Sul はCQBを含む連携したオペレーションで有効、かつ実践すべきものだ。たった一人で戦闘を行い、周囲は敵ばかり、関係のない一般市民や味方、守るべき対象が自分以外に存在しない場合であればPosition Sulは活用しなくて構わない。

 Position Sulは自分の前の地面、25cm程度離れた場所にmuzzleを向けた状態をいう。まっすぐ下ではなく、少し右、左にあっても構わない。
 銃を握っていない手の指を伸ばし、手の甲を前に向けて胃の前あたりに置く。銃を握った手の中指の関節を、銃を握っていない手の伸ばした指の関節あたりの付ける。
 写真は親指をつけているが、これは必ずしもやらなくても良い。
 この体制から瞬時に銃をターゲットに向けることができる。極めて小さなサークルでクルリと前に向けて同時に両手保持が完成する。シンプルだがよく考えられたスタイルだ。
 Traditional Low Ready, あるいはPosition 3(45度の角度で下に向けた状態)は同僚の膝に銃口が向いている。緊迫した状況にあって、そのままトリガーを引いてしまう可能性は無いわけではない。万一、そうなってもPosition Sulならば、弾丸は地面をえぐるだけで、問題はない(跳弾の可能性までは、とりあえず構っていられない)。銃弾が同僚の膝を直接貫くよりはマシだ。
 銃を握っていない手が銃と腹部との間にあるので、銃が身体に密着し過ぎない。密着し過ぎると、万一、トリガーを引いてしまった場合、自分自身を撃ってしまう可能性がある。このスタイルはそれを避けるという意味もある。また手の甲に押し付けるような体制でマズルが不用意に泳ぐことを避けることができる。
 両手保持のまま下に向けているのは窮屈だ。やってみるとわかる。黙って立っているだけなら構わないが、動き回るのは難しい。銃口があちこち向いてしまう。
 銃口を上に向けておく?・・・悪くは無い。しかし両手保持の体制では窮屈であり、真上に向けているつもりでも動き回っていると、気付かないうちに銃口は45度ぐらいの確度になってしまう。気が付けば誰かの頭に向いていることもある。そして、いざ銃を前に向けようとするとき、意外にやり難い。
 Position Sulは1997年に発表された後、世界中の法執行組織に採用された。繰り返すが単独行動事に使う手法ではない。
 Position Sulに関して誤解されている場合も多い。Position Sulは以下の3つの状況に使うものだ。
 1つ目は、戦闘中の移動時だ。安全な場所から次の安全な場所に移動する際に使用する。この時、誰かが自分をカバーしてくれていることが前提だ。単独の場合、まただれも守ってくれない場合、マズルは常に危険因子の方に向いていなければならない。また誰かをカバーしながら移動するのであれば、Sulは使えない。
 味方が自分の前に立つ、あるいは自分の前を移動(通過)する時も、Position Sulの体制をとってマズルを下げるべきだ。インドアエントリーの際、自分の後ろにいる捜査官のマズルが自分の背中に向いているというのは嫌な気分だろう。間違って撃たれたらたまったものではない。こんなときはPosition Sulが有効だ。また自分の火線を味方か、一般市民が横切るようなことがある場合も、銃口を下げるべきだ。
 そしてもう一つが、群集の中での行動時だ。一般市民に危害を加えない為には、銃はコンパクトに自分の身体に近づけていなくてはならない。しかし敵を発見した場合、Sulから一気に戦闘モードに入り、マズルを一瞬で敵に向ける。この時もコンパクトな動きが重要だ。
 基本的にはPosition Sulを活用するときは、以上3つのシチュエーションだけだ。後は臨機応変に対応するしかない。

September 26, 2006
Satoshi Maoka

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