遺伝医療をすすめる際に最低限必要な遺伝医学の基礎知識

1.遺伝医学の基礎知識 | 2.遺伝カウンセリング | 3遺伝子検査 | 4.染色体検査 | 5.出生前診断 | 6.日本人類遺伝学会認定医の到達目標

 
日本人類遺伝学会・臨床遺伝学認定医の到達目標の改訂について

(平成10年10月改訂)

 
総 論
1. 臨床遺伝学認定医の役割

 臨床遺伝医は,遺伝性疾患の臨床専門家として,遺伝性疾患の患者を全人的にかつ家族,地域社会の一員として把握し,患者や家族の健康保持とその増進,及び疾病の早期発見や予防・治療・療養・療育の役割を担う.また臨床遺伝学の研究と遺伝性疾患に対する臨床実践を通して,国民の健康増進と福祉の発展に寄与することが期待される.

2.臨床遺伝医に期待される医師像

(1)自己研鑽

 常に積極的に自己研修に励み,遺伝性疾患をめぐる最新の医療・医学・遺伝医学情報に関する知識および臨床遺伝学的技術の吸収に努め,さらに遺伝性疾患の正確な診断を行い,最も適切な対応・治療を選択する能力を培う.また,他人からの評価を受け入れるように努める.

(2)医の倫理

 医師としての社会的・職業的責任と医の倫理に立脚して,その業務を遂行する.さらに遺伝性疾患に鑑み,患者および家族の人権や知る権利・知らない権利を十分に尊重し,プライバシーを守る.患者の自律的意志決定を尊重する.患者・他の医師・社会などからの多様な意見に耳を傾け,必要に応じて倫理委員会などの判断を仰ぎ,医療法・医師法に従って業務を遂行する.

(3)患者と家族に対する態度

 患者や家族と好ましい信頼関係を作り,十分な説明を行い,同意を得ることを基本態度とする.特に致死的あるいは永続的障害の原因となる遺伝的要因を有する患者と家族については,真摯な態度で接し,心理的支援を行う.

(4)患者や家族に対する説明

 患者や家族に遺伝性疾患の症状,遺伝的発症機構,病態生理,自然歴,経過,予後,治療法などについて各人の有する背景に応じた適切な説明を行い,必要があれば遺伝医学的事実に基づく説明を行う.また,患者団体・患者支援団体などの意義を理解して,積極的に協力する.

(5)他の医療関係者との協力

 他診療科の医師や医療従事者及び他の医療機関と協力して医療が行える.その際,主治医の医療に対して臨床遺伝学の立場から適切な助言を行う.また,医師以外の医療関係者養成,資格についても十分理解し協力する.

(6)地域医療

 遺伝性疾患の保健医療に関する国内外の地域計画に参加して貢献することができる.また,地域医療に従事する他の医療技術者に対して臨床遺伝学の教育を担当することができる.

(7)医療,社会資源の活用および医療経済

 医療・福祉関係の法律,政令,条例や医療保健,公費負担制度を理解し,これを活用できる.特に障害や慢性疾患を有する患者の場合は地域医師会・保健所などの医療保健機関,福祉事務所・児童相談所などの福祉関係機関,デイケアセンター・リハビリテーションセンター・職業訓練所・学校などと協力して患者が可能な限り日常生活を享受できるよう適切な管理・指導が行える.医療行為の費用や,費用と効果の関係を理解し,医療の向上と経済との相互関係について認識する.

(8)臨床遺伝学研究

 遺伝医学の進歩に貢献するよう自ら臨床遺伝学的研究を行い,あるいは他の研究に協力する.

3.一般的診療能力

(1)病歴,家族歴の聴取および病歴の記載

 患者の遺伝性疾患の診断や対応・治療に有用な病歴・家族歴を聴取し,問題解決志向型の病歴記載ができる.

(2)診察

 正しい手技による診療を行い,これを適切に記載し整理できる.常に全身を包括的に観察できる.

(3)診断

 患者に生じている問題を正しく把握し,病歴・家族歴・診察所見より必要な検査を選択し,得られた情報を総合して,適切な診断を下すことができる.さらに,診察・検査所見をもって,他の専門医に紹介できる.

(4)対応・治療・療養・療育・予防

 遺伝性疾患や遺伝が関与する障害に対して考えられる対応法の中から患者・家族の個々の状況・特殊性を考慮して,もっとも適切な治療・支援・予防を実施できる.

(5)家族の遺伝的素因や疾患への配慮

 同一家族内の発端者と同じ遺伝的素因や疾患を有する者の早期発見,予防,治療が実施できる.

(6)遺伝カウンセリング

 患者および家族に対して適切な遺伝カウンセリングを行うことができる.

(7)社会生活および社会復帰への配慮

 疾患を有する患者ができるだけ日常生活の機会が損なわれることなく,社会復帰や社会参加が可能になるよう,すなわち就学や就業が円滑にできるように配慮できる.

 

各 論
大項目 中項目 小項目A(行動目標) 小項目B(知識

I. 遺伝医学の基礎知識 1. 遺伝学史 1.遺伝医学の歴史を知り,臨床遺伝学の実践に役立てることができる. 生物学と遺伝学,医学と遺伝学,分子生物学と分子遺伝学,遺伝医学に関わる生命倫理

2. メンデル遺伝 1.メンデルの法則を説明できる. 分離の法則,分離比,独立の法則,優劣の法則,連鎖の法則,優性,劣性,,戻し交配

2.接合性,遺伝子変異,遺伝子型と表現型の関係を説明できる. 遺伝子座,遺伝子,野生型遺伝子,変異遺伝子,対立遺伝子(アレル),複対立遺伝子,遺伝子型,表現型,ホモ接合,ヘテロ接合,複合ヘテロ接合,ヘミ接合,ナリ接合,遺伝 形質

3.ヒトメンデル遺伝の特徴を理解できる. 常染色体優性遺伝,不完全優性,共優性,垂直伝達,常染色体劣性遺伝,X連鎖優性遺伝,X連鎖劣性遺伝,男-男伝達,Y連鎖遺伝,保因者,家族例,孤発例,散発例,新生突然 変異,遺伝的異質性,表現度,浸透率,多面発現,限性遺伝,従性遺伝,遺伝的表現促進, 表現型模写,エピスタシス,メンデル遺伝の例外,片親性ダイソミー,ゲノムインプリン ティング,性腺モザイク,遺伝的隔離,遺伝子量効果,偽常染色体遺伝

3. 非メンデル遺伝 1.多因子遺伝を説明できる. 多因子遺伝,同義遺伝子,相加遺伝子,ポリジーン,量的形質,連続形質,2項分布,標準曲線,標準偏差,悉無形質,易罹病性,しきい値,しきい形質,致死効果,適応度

2.細胞質遺伝を説明できる. ミトコンドリア(母系)遺伝,細胞質遺伝,ヘテロプラスミー,ホモプラスミー,閾値効果,ミトコンドリアDNA異常,組織特異性,遺伝子欠失,遺伝子重複,点変異,ミトコンドリアDNA欠乏,電子伝達系酵素複合体

4. 分子遺伝学 1.ゲノム・DNA・RNA・遺伝子の構造を説明できる. ゲノム,核酸,DNA,DNAの構造,塩基対,相補性,反復配列,ユニーク配列,CpGアイランド,構造遺伝子,遺伝子の構造,プロモータ,エキソン,イントロン,open reading frame (ORF),エンハンサ,遺伝子族,ホモログ,ハウスキーピング遺伝子,偽遺伝子,転写開始点,キャップ構造,ポリAテール,ポリA添加シグナル,ドメイン,多様性

 

大項目 中項目 小項目A(行動目標) 小項目B(知識

I. 遺伝医学の基礎知識 4. 分子遺伝学 2.DNAの複製と修復を説明できる. DNAポリメラーゼ,半保存的複製,DNAヘリカーゼ,DNA修復,修復酵素,ピリミジン2量体,除去修復,組み換え修復,複製後修復,不定期DNA合成,,テロメラーゼ

3.転写,翻訳,遺伝子と蛋白質生合成,遺伝子発現の関係を説明できる. RNA,mRNA,rRNA,tRNA,cDNA,セントラルドグマ,遺伝子発現機構,トリプレット, 転写因子,転写,プロセシング,スプライシング,ドナー/アクセプター部位,選択的ス プライシング,翻訳,翻訳開始点,リボソーム,ポリペプチド,シャペロン

4.遺伝子変異について説明できる. 塩基置換,同義置換,非同義置換,トランジション,トランスバージョン,塩基欠失,塩 基挿入,遺伝子変換,点変異,フレームシフト,リードスルー変異,インフレーム変異,ナンセンス変異,ミスセンス変異,サイレント変異,機能獲得型変異,機能喪失型変異, 優性阻害効果,エピゲネティック変異,エピゲネシス

5.DNA多型について説明できる. 多型の定義,RFLP(リフリップ),ミニサテライト多型,VNTR,マイクロサテライト多 型,2塩基反復配列多型,3塩基反復配列(トリプレットリピート)多型,DNAフィンガ ープリント,多型マーカー,DNA多型の応用

6.DNA診断・研究技術について説明できる. cDNAライブラリー,クローン化DNA,サザンブロット解析,ノザンブロット解析,PCR(ポリメラーゼ連鎖反応),ASO法,オリゴヌクレオチド,RNAプロテクション法,パル スフィールドゲル電気泳動法,SSCP法,プライマーDNA,制限酵素,パリンドローム, 制限酵素地図,逆転写酵素,ハイブリダイゼーション,組み換えDNA技術,DNAリガーゼ, 組み換え体DNA,ベクター,プラスミド,バクテリオファージ,コスミド,大腸菌人工染 色体(BAC, PAC),酵母人工染色体(YAC),遺伝子移入,トランスフェクション,ト ランスダクション,形質転換,バイオハザード,DNA診断法,直接診断法,間接診断法, プローブ,ゲノム多様性,ジーンターゲティング,トランスジェニックマウス,ノックア ウトマウス,hnRNA,モノクローナル抗体,SAGE,ディファッレンシャルディスプレイ, サブトラクション法

 

大項目 中項目 小項目A(行動目標) 小項目B(知識)

I. 遺伝医学の基礎知識 5. 細胞遺伝学 1.細胞分裂と染色体分離について説明できる. 細胞分裂,分裂前期,中期,染色体の複製,有糸分裂,成熟分裂,二倍体,一倍(半数) 体,キアズマ,染色体交叉,不均等交叉,細胞周期,四価染色体,交互分離,隣接I型分 離,隣接II型分離,3:1分離,組換え染色体,染色体不分離

2.染色体各部分の構造・種類について説明できる. 中部着糸型染色体,次中部着糸型染色体,端部着糸型染色体,クロマチン,ヘテロクロマ チン,染色分体,姉妹染色分体,姉妹染色分体交換(SCE),動原体,付随体,セントロメ ア,常染色体,性染色体,X染色体,Y染色体,偽常染色体領域,性染色質,Xクロマチ ン,Yクロマチン,ライオニゼーション,遺伝子量補償,相同染色体,対合,核型,テロメア

3.染色体異常の種類と発生機構について説明できる. 異数性異常,トリソミー,モノソミー,倍数性異常,構造異常(転座,均衡転座,不均衡 転座,ロバートソン転座,欠失,重複,逆位,挿入,環状染色体,イソ染色体),位置効 果,片親性ダイソミー,核外喪失(anaphase lag),モザイク,キメラ

4.染色体分析法について説明できる. 分染法,バンド,染色体領域,G分染法,Q分染法,高精度分染法,蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)法,核型表記法(ISCN),細胞培養法,染色体標本作製法

6.集団遺伝学と 1.集団遺伝学の臨床遺伝学における重要性を理解できる. 近縁係数,近交係数,メンデル集団,遺伝子プール,遺伝子頻度,遺伝子型頻度,遺伝疫学,家系 ハーディー・ワインベルグの法則,近親婚,選択交配,近交弱勢,致死遺伝子,優性致死,   解析 劣性致死,遺伝的荷重,突然変異,突然変異率,適応度,自然淘汰,ヘテロシス,遺伝的 多型,遺伝的浮動,ボトルネック効果,創始者(入植者)効果,遺伝的隔離,近親婚率, 突然変異原,遺伝距離,遺伝率,遺伝分散,環境分散

2.家系解析法を理解し説明できる. 関連(association)法,双生児法,親子相関,同胞相関,発端者,完全確認,単独確認, 不完全確認,分離比分析

7. 免疫遺伝学 1.免疫応答の遺伝について説明できる. 主要組織適合遺伝子複合体(MHC),免疫応答遺伝子,免疫抑制遺伝子,HLA遺伝子, 遺伝子重複,多重遺伝子族,免疫学的寛容(トレランス)

 

大項目 中項目 小項目A(行動目標) 小項目B(知識)

I. 遺伝医学の基礎知識 7. 免疫遺伝学 2.血液型の重要性を遺伝医学の立場から説明できる. 各種血液型遺伝,血液不適合,血液不適合の予防・治療法,ABO血液型,ABO不適合移植,Rh赤血球型,MN赤血球型,Ii血液型,P血液型,ダッフィ血液型

3.組織適合性とその遺伝,および臓器移植における重要性について説明できる. 主要組織適合性抗原,マイナー組織適合性抗原,MHC・HLAの種類・機能,クラスI/II抗 原と遺伝,HLAと疾患感受性,白血球抗原,臓器移植,骨髄移植,同種移植片,同系移植 片,H-Y抗原,アロタイプ,DNAタイピング,臓器移植,同種・異系移植,自己移植,ア ロ抗原,アロ(免疫)反応,混合リンパ球培養反応,組織適合性試験,移植片対宿主(GVH) 反応,輸血後GVH反応,宿主対移植片反応,細胞性免疫,ハプロタイプ

4.抗原識別分子の多様性の獲得機構について説明できる .免疫グロブリン,T細胞レセプター,可変領域,定常領域,遺伝子再構成,ゲノム遺伝子 の多様性,多重遺伝子族

8. 遺伝生化学 1.生体内分子の機能と代謝を理解し,遺伝医学的に説明することができる. タンパク,アイソザイム,酵素,細胞外マトリックス,成長因子,増殖因子,ホルモン, 細胞骨格,細胞内小器官,糖質代謝,脂質代謝,アミノ酸代謝,有機酸代謝,リソソーム, ペルオキシソーム,リポ蛋白,ポルフィリン,ピルビン酸代謝,金属代謝,プリン・ピリ ミジン代謝,ビリルビン代謝,膜輸送系,ヘモグロビン血液凝固系,電子伝達系,シグナ ル伝達系,酸化還元系,電解質代謝,ビタミン

9. 腫瘍遺伝学 1.がん関連遺伝子を説明できる. がん原遺伝子,がん遺伝子,腫瘍抑制遺伝子,DNA修復遺伝子,細胞分裂のチェックポイ ント遺伝子

2.腫瘍の発生機構を遺伝学的に説明できる. がん原遺伝子の活性化,腫瘍抑制遺伝子の変異,DNA修復異常,発癌のステップ,2ヒット(段階)仮説,ヘテロ接合性の喪失(LOH),刷り込みの喪失(LOI),融合遺伝子,遺伝子増幅,放射線発癌,発癌性ウイルス,化学発癌,発癌物質,がんウイルス,塩基類 似体,機能獲得型変異,機能喪失型変異,優性阻害(dominant negative)効果,遺伝子変 異,ミスマッチ修復遺伝子,複製エラー,転写因子,細胞接着因子,染色体異常

3.遺伝性腫瘍について説明できる. 遺伝性腫瘍,高発癌性疾患,染色体脆弱症候群,腫瘍抑制遺伝子

 

大項目 中項目 小項目A(行動目標) 小項目B(知識)

I. 遺伝医学の基礎知識 10. 体細胞遺伝学 1.体細胞遺伝学について説明することができる. 細胞融合,ヘテロカリオン,細胞雑種,(細胞の)相補性,相補性群,相補性テスト,遺 伝子マッピング,放射線雑種細胞(radiation hybrid),2重ヘテロ接合,遺伝子操作,組 み換えDNA

11. 生殖・発生 1.生殖の機構を理解し,その異常を説明できる. 減数(成熟,還元)分裂,生殖,生殖細胞,生殖細胞系,配偶子,精子,卵子,受精, 接合体,有性生殖,双(多)胎,単為生殖,雄核発生,生殖腺,性決定機構,形態発生, 出生前診断法,生殖内分泌学,生殖免疫学,生殖細胞遺伝学,生殖の異常,不妊

2.発生の分子機構について理解できる. 形態形成遺伝子,動物モデル,ジーンターゲティング,トランスジェニックマウス,ノックアウトマウス,クローン個体,初期胚,ES細胞,体外受精,ホメオティック遺伝子, パターン形成,転写制御,転写因子,胚葉誘導,遺伝子発現,発現制御,細胞分化,分化 誘導,細胞周期,細胞移動,細胞接着,軸形成,体節形成,極性,細胞骨格,細胞外基質,レチノイン酸,受容体,胚培養,キメラ胚,キメラマウス,核移植,生殖系,全能性

12. 遺伝倫理学 1.臨床遺伝学における生命倫理の重要性 について理解し,実践に役立てることができる. ヘルシンキ宣言,東京宣言,WHO指針,合衆国大統領委員会生命倫理総括報告,人類遺 伝学会指針,パターナリズム,生命倫理, 優生学,優生主義,ユネスコ(ヒト ゲノムと人権に関する世界)宣言,インフォームドコンセント,生命の尊厳,守秘義務, 自律的意志決定,患者・医師間の信頼関係,遺伝的差別,多様性,倫理原則(自律性の尊 重,善行,被害防止,正義)

13. ゲノム医学 1.ヒトゲノム計画の発展を理解し, 医学との関係を理解することができる. 遺伝 ゲノム構造,ヒトゲノム計画,遺伝的地図,物理的地図,染色体地図,疾患地図,生命地 図,コンティグ,塩基配列決定,STS(配列タグ部位),EST(発現配列部位),ゲノム データベース,責任遺伝子,逆行遺伝学,ポジショナル(位置的)クローニング,候補遺 伝子,ゲノムサーチ,エキソントラッピング,エキソン結合法,遺伝子マッピング,大規 模シーケンシング,ホモロジー検索,機能解析,シンテニーマップ,マイクロチップアレ イ,プライマー歩行

2.連鎖解析の方法を説明できる. 連鎖,組み換え,組み換え型,非組み換え型,モルガン単位,センチモルガン,連鎖群, ハプロタイプ,連鎖不平衡,ロッド得点,相引,相反,主遺伝子,遺伝的距離,連鎖解析 法,罹患同胞対法,ホモ接合マッピング,

 

大項目 中項目 小項目A(行動目標) 小項目B(知識)

II. 遺伝医療の実践 1. 臨床遺伝学的 1.遺伝性疾患をもつ患者または血縁者を診療 診療し,適切に対応することができる. 臨床遺伝学的診察,診断,他専門医との連携,予後判定,対応法・治療法の選択,フォロ   ーアップ,家系図作成,保因者診断,当該遺伝病の自然歴,遺伝学的説明,遺伝カウンセリング

2.メンデル遺伝病患者または血縁者を診療し,適切に対応することができる. 各種疾患の遺伝学的発症機構,家族性遺伝病への臨床的アプローチ法,遺伝子診断法,遺伝カウンセリングの実際経験

3. 多因子遺伝病および精神疾患の患者または血縁者を診療し,適切に対応することができる.common disease, 臨床遺伝学的診察,診断,対応・治療法の選択,家族・家系解析法,遺伝カウンセリング,予防医学的アプローチ

 

4.染色体異常症の患者を診療し,適切に対応することができる. 各種染色体異常症の臨床診断法,細胞遺伝学的診断法,核型分析・判定,隣接遺伝子症候群,遺伝カウンセリング

5. 遺伝性腫瘍の患者を臨床遺伝学的に診療し,適切に対応することができる. 各種遺伝性腫瘍の診断法,治療法,家族検索法,告知,腫瘍遺伝カウンセリング,生命倫理

 

6.ミトコンドリア遺伝病の患者または 代表的ミトコンドリア遺伝病血縁者を診療し,適切に対応することができる.ミトコンドリア遺伝病の診断法,治療法,遺伝カウンセリング

 

7.先天奇形・精神遅滞の患者または 血縁者を診療し,適切に対応することができる. 発生異常,環境危険因子,モニタリング,各種症候群の診断法,コンピュータデータ ベースの利用法,遺伝カウンセリング,出生前診断法,催奇形因子,突然変異原,放射線,ウイルス,薬剤,化学物質,ホルモン,ビタミン,アルコール,化学発癌,発癌物質,遺 伝毒性,胎児毒性,放射線防御法,臨界(感受)期

8.アレルギー性疾患の患者または血縁者を診察し,適切に対応することができる. アレルギー,全身性アナフィラキシー,即時型過敏症,アトピー性疾患,遺伝カウンセリング

 

大項目 中項目 小項目A(行動目標) 小項目B(知識)

II. 遺伝医療の実践 1. 臨床遺伝学的 9.免疫異常症の患者または血縁者を診察・診療し,適切に対応することができる. 自己免疫疾患,原発性免疫不全症,重症混合型免疫不全症,各種免疫不全症,遺伝カウンセリング

10.各種の生化学的異常の患者または血縁者を診察し,適切に対応することができる. 先天代謝異常症,糖尿病,糖原病,ガラクトース・フルクトース代謝異常症,アミノ酸代謝異常症,有機酸代謝異常症,リソソーム病,プルオキシソーム病,脂質・リポ蛋白代 謝異常症,ポルフィリン症,ピルビン酸代謝異常症,金属代謝異常症,プリン・ピリミジ ン代謝異常症,ビリルビン代謝異常症,膜輸送障害,ホルモン異常症,遺伝性アミロイド ーシス,カテコールアミン代謝異常症,受容体異常症,溶血性疾患,ヘモグロビン異常症, 血液凝固系異常症,血小板異常症,生化学的診断法,遺伝子診断法,複合ヘテロ接合,保因者,同胞例,遺伝カウンセリング

11.遺伝性神経筋疾患患者または血縁者を診察し,適切に対応することができる. 遺伝子変異,浸透率,遅発性遺伝病,トリプレットリピートの伸張,表現促進,親の性依存性の表現促進,遺伝子診断法,生命倫理,遺伝カウンセリング

12.遺伝性感覚器疾患患者または血縁者を診察し,適切に対応することができる. 遺伝子変異,浸透率,表現度,保因者,軽症患者,遺伝カウンセリング,生命倫理

 

13.代表的な薬理遺伝学的異常形質について原因,診断,予防,治療などを説明できる. 発症機構,異常形質,検査・診断・治療・予防法,代表的薬理遺伝学的異常形質,G6PD欠損症,血清コリンエステラーゼ遺伝的変異型,悪性高熱,チトクロームP450遺伝子多 型と薬剤感受性,生態遺伝学,ゼノバイオティック

14.生殖異常の患者または配偶者,または異常妊娠の患者を診察し,適切に対応することができる. 生殖,生殖細胞,配偶子,精子,卵子,受精,接合体,有性生殖,双(多)胎,奇胎,性決定機構,形態発生,生殖内分泌学,生殖免疫学,生殖細胞遺伝学,出生前診断法,不妊,体外受精,胚移植,出生前治療,生殖医学倫理

2. 診断法 1.種々の遺伝医学的診断法を理解し,実践することができる .DNA診断法,遺伝子診断,生化学的診断法,細胞学的診断法,細胞遺伝学的診断法,遺伝 病診断法,出生前診断法(羊水診断法,絨毛診断法,母体血清マーカー検査法,着床前診 断法,胎児血検査法,母体血中胎児細胞分離法),発症前診断法

 

大項目 中項目 小項目A(行動目標) 小項目B(知識)

 

II. 遺伝医療の実践 3. メディカルケア 1.種々の遺伝性疾患に対するメディカルケアを理解し,実践できる. 対応・療育法,発症予防法,コ・メディカルスタッフとの協力,ソーシャルワーキング,地域医療との協力,社会復帰の方法,デイケアセンター,療育センター,患者団体および 患者支援団体の役割

4. 遺伝カウン 1.遺伝カウンセリングの目的を理解し実践できる. 定義,目的,一般原則,扱う事例,家系図作成,遺伝予後(再発率)の推定,フォローアップ,保因者同定法,出生前診断法,ベイズ確率計算法,平易な説明

2.遺伝カウンセリングに際して配慮すべき事項を理解し実践できる. 生命倫理,カウンセリーの心理,メディカルスタッフとの協力関係,医療・福祉関係の法律,協力的遺伝医療,自律的意志決定の補助,知る権利,知らないでいる権利,ゲノム宣 言(ユネスコ),スクリーニングと遺伝子診断,患者支援団体

3.種々の遺伝病における特殊性を理解し メンデル遺伝病における遺伝カウンセリングを行うことができる.非メンデル遺伝病における遺伝カウンセリ カウンセリング ング,染色体異常症における遺伝カウンセリング,腫瘍性疾患における遺伝カウンセリン グ,遅発性神経疾患における遺伝カウンセンリグ,X連鎖劣性遺伝病における遺伝カウン セリング,精神疾患における遺伝カウンセリング,感覚器障害における遺伝カウンセリン グ,出生前診断における遺伝カウンセリング,発症前診断における遺伝カウンセリング

4.遺伝カウンセリングにおいて参考と なる遺伝学的データが利用でき,診断技術についても説明できる. 環境危険因子,遺伝子頻度,浸透率,染色体異常の頻度,理論的再発率,経験的再発率, 多因子遺伝病における再発率,臨床遺伝学文献・データのサーチ

 

5. 遺伝子治療 1.遺伝子治療法の原理と適応を説明できる. 原理と方法,遺伝子移入,遺伝子導入,遺伝子相同組み換え,ベクター,適応と限界,ヘ ルパー細胞,適応疾患,先天異常症の遺伝子治療,腫瘍性疾患の遺伝子治療,代謝疾患の 遺伝子治療,体細胞遺伝子治療と生殖細胞遺伝子治療,遺伝子補充治療,遺伝子修正治療, 生命倫理,インフォームドコンセント

6. 医療行政 1.遺伝性疾患に関する医療行政を理解し遺伝診療に役立てることができる. 医療・福祉関係の法律,政令,省令,国際関係,WHO,地域医療行政,福祉事務所,児 童相談所,保健所業務,母体保護法,家族計画,優生学,人工妊娠中絶,逆淘汰,予知医 学,患者(支援)団体,遺伝子検査と社会

 

遺伝医療をすすめる際に最低限必要な遺伝医学の基礎知識 に戻る

1.遺伝医学の基礎知識 | 2.遺伝カウンセリング | 3遺伝子検査 | 4.染色体検査 | 5.出生前診断 | 6.日本人類遺伝学会認定医の到達目標