遺伝医療をすすめる際に最低限必要な遺伝医学の基礎知識 1.遺伝医学の基礎知識 | 2.遺伝カウンセリング | 3遺伝子検査 | 4.染色体検査 | 5.出生前診断 | 6.日本人類遺伝学会認定医の到達目標 |
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胎児を対象として,疾患の診断や胎児状態の評価を行う出生前診断には,大きく分けて次の5つの方法がある.
1)画像診断法(X線,超音波,MRI) 2)胎児から細胞を採取して検査する方法(羊水,絨毛,臍帯血) 3)母体血を使用して検査する方法 4)胎児鏡を用いる方法 5) 体外受精した受精卵の1細胞を用いる方法(着床前診断) 以上の検査法の中から,単独で,または複数の検査を組み合わせて診断する.とくに最近の遺伝子工学的技術の発展はめざましく,分子遺伝学的手法を用いることによって,遺伝性疾患の出生前診断が可能になってきた.従来の遺伝カウンセリングが,遺伝形式の決定から再発危険率の推定といった確率を論じたものであったのに対し,絨毛や羊水中の胎児細胞の染色体分析やDNA診断,胎児細胞の酵素活性の評価による代謝異常症の診断など,出生前に胎児異常の有無を直接診断できるようになったのである.しかしながら,倫理的にも社会的にも多くの問題を包含しているのも事実である.
先天異常の胎児診断,特に妊娠初期絨毛検査に関する見解(日本産科婦人科学会,昭和63年)が出されて11年の歳月を経たが,基本的姿勢は現在も変わっていないものと考える.しかし,近年の各種疾患の遺伝子レベルでの研究が進むにつれて,様々な疾患に,なんらかの形で遺伝子が関わっていることが明らかとなってきており,新しい検査法の開発も進んできている.こうした現状において,単に検査を行う技術があるから検査をするということではなく,検査を行う目的・意味を十分に理解して行うことがきわめて重要であると考えられる.日本人類遺伝学会の遺伝カウンセリング・出生前診断に関するガイドラインおよび,母体血清マーカー検査に関する見解(日本人類遺伝学会 倫理審議委員会 同理事会)についても参照のこと. |
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一般には,先天異常の胎児診断,特に妊娠初期絨毛検査に関する見解(日本産科婦人科学会,昭和63年)a〜gに示された夫婦からの希望があった場合を適応として考える.この中で比較的頻度の高い,a.b.c.と,最近の新たな適応となっている母体血清マーカー値異常例について述べる. |
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a.両親のいずれかが染色体異常保因者
染色体異常児と診断される率は高齢妊娠に比べるとはるかに高いとされている.その率は染色体異常の種類や保因者が父親か母親か,等によって異なるので個々の例について検討する |
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b.染色体異常児出産の既往
両親の染色体が正常であっても,染色体異常児出産の既往がある場合には染色体異常児を反復して妊娠する率が高まることが知られている.一般には,該当する母体年齢に対応する染色体異常率の約3倍と考えられている.また,染色体異常児の出産既往者は,次回の妊娠での染色体異常の反復について,強い不安感を持っていることが多い. | |
c.高齢妊娠
胎児染色体異常の約50%を占める常染色体トリソミーは,多くの場合卵子の減数分裂時の染色体不分離によって生じ,その率は母体の加齢に伴って高くなることが知られている.例えば,21トリソミー(Down症)は,一般には出生1,000対1とされるが,35歳では380対1,40歳では100対1となっている.そのため高齢妊娠とされる35歳以上(出産予定日の年齢)の妊婦を羊水検査の適応としているが,最近は高齢妊娠が増加傾向にあり,高齢妊娠を適応とする検査例数が急増している. 35歳という年齢の選定は,産科的高リスク妊娠が35歳以上とされていることも理由の1つであるが,羊水穿刺に伴う流産の危険率を,Down症が発生する確率が上回る年齢という基準で選定されたものである.当然,高齢妊娠のリスクは,34歳まで全く危惧する必要がないとか,35歳になったら急に危惧しなければならないといった類のものではない.Down症の発生率が,羊水穿刺に伴う流産の危険率を上回るか否かで,Down症発生の確率が高いか否かを論じること自体はナンセンスであり,35歳以上の妊婦は全例検査した方が良いというような指示的な立場はとるべきでないと考えている.あくまで,その年齢での発生率を高いと考えるか低いと考えるかは妊婦自身の問題である.また,検査を受けた場合,異常が判明した際には,遺伝カウンセリングを受けるにしても,その後の方針を自己決定することを余儀なくされる.高齢妊娠に限らず,出生前診断を実施する際には,こういった内容についてもクライアントによく説明し,検査に関する十分なインフォ一ムド・コンセントを行うことが重要である. 最近の新たな適応;母体血清マーカー値(AFP,hCG,uE3など)異常例 欧米では母体血清中のAFP,hCG,unconjugated estriol(uE3)の測定が胎児染色体異常のスクリーニング検査として用いられ,異常値を示す例に対して羊水検査による確定診断を行う方法がとられている.近年,我が国においても急速に普及しているが,この検査に関する事前の説明が不十分であることなどから妊婦に誤解や不安を与えていること等が指摘されており,厚生科学審議会先端医療技術評価部会・出生前診断に関する専門委員会で検討された,「母体血清マーカー検査に関する見解」が平成11年7月21日,厚生省より通知された.本見解の主旨は,母体血清マーカー検査には,十分な説明が行われていない傾向があること,胎児に疾患がある可能性を確率で示すものに過ぎないこと,胎児の疾患の発見を目的としたマススクリーニング検査として行われる懸念があることといった特質と問題があること等から,医師は妊婦に対し本検査の情報を積極的に知らせる必要はなく,本検査を勧めるべきでもないというものである. したがって,本検査において適応といった具体的なものを挙げることは困難であり,強いて述べるとすれば,本検査の内容や問題点を十分に理解したうえで自己決定した妊婦が適応と言えよう.(この検査がスクリーニングとして行われるとすれば,全ての妊婦が検査適応となりうる) |
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産科的管理における広い意味での出生前診断では,超音波検査による画像診断法は大きな比重を占め,詳述しなければならないところである.しかし,本誌の主旨である,遺伝子診療においての出生前診断に関しては,胎児から細胞を採取して検査する方法と母体血を使用して検査する方法が主体となっている.したがって本稿では,胎児から細胞を採取して検査する方法の中から羊水検査・絨毛検査・臍帯採血について,母体血を使用して検査する方法の中から母体血清マーカー試験について,および体外受精した受精卵の1細胞を用いる方法(着床前診断)について述べることにする. |
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1.羊水検査 |
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<検査時期>
一般的には,妊娠15一18週に経腹的羊水穿刺が行われている.この時期は羊水量が多いため(200−300ml),羊水採取が比較的容易であるうえに,羊水中の浮遊細胞の増殖力が旺盛で,培養し易いためである.当院では,妊娠15週前後に施行している.妊娠30週を過ぎると,浮遊細胞の増殖力も低下し,培養が不成功に終わる率も高くなる. <羊水の培養および染色体標本作製,分析> 羊水細胞は,7一10日間培養する.染色体分析に当たってはモザイクの存在に留意する.症例によっては,各染色体に特異的なセントロメアDNAプローブを用いたFISH (Fluorescence in situ hybridization)法を行い分析することもある. <母体ウイルス感染> 遺伝子病だけでなく,妊娠初期の母体ウイルス感染(サイトメガロ,風疹,パルボ,等)において,胎児細胞内のウイルスDNAの存在を調べて,胎内感染を評価することも行われている. <合併症> 合併症としては感染,出血,破水などがあるが,一般には羊水穿刺後に流産に至る可能性は0.5%未満(約0.2%)と考えられている.しかし,この点については検査実施前に患者側に十分説明し,理解を得ておくことが必要である. |
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2.絨毛検査 |
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<検査時期>
絨毛採取は,妊娠中期に実施される羊水穿刺法に比べて妊娠の早い時期に行うことができるが,外的刺激が胎児奇形発生の誘因となり得る器官形成期が過ぎてから行うほうがよいとされている.事実,器官形成期間内,すなわち妊娠8週以前に行われた絨毛採取では,出生児に四肢切断といった高度の奇形が高頻度で発生したという報告がある.また,妊娠12週を過ぎると絨毛膜有毛部は胎盤の形態をとり,子宮腔内の一部に限局するようになるので採取器具が届かないような事例も増えてくる.これらの点を勘案すると,絨毛採取時期は妊娠9一11週という限られた期間となる. 出生前診断を希望する妊婦にとって,早期にできるということは,胎児が異常であるかどうかといった不安状態に置かれる期間が短くてすむ点では有利であるが,妊娠早期に行われるので流産率は高く,妊娠の安定した中期に行われる羊水穿刺より危険であるとの評価がなされている. <採取ルート> 絨毛採取部位である絨毛膜有毛部に達するには経腹壁的ルートと経頸管的ルートがある.ともに超音波ガイド下に採取器具を挿入する. <危険性> 流産率は,熟練した施設で約2%と報告されている.羊水検査と比べて,流産率が高い. <適応と禁忌> 絨毛検査の適応は原則的に羊水検査と同じである.しかし,羊水穿刺と比較すれば手技的に困難であるうえに,頻度的に絨毛採取後の流産率も高いことから,受診者の強い希望がない限り遺伝的にハイリスクの症例が選択されて施行されている.さらに,最近では羊水中の胎児浮遊細胞からDNA抽出が比較的容易に行われるようになっており,健常な児を検査のために流産させてしまう危険性を考慮すれば,絨毛検査の適応は非常に限られたものになる.絨毛採取の禁忌は,膣炎・頚管炎などの炎症,切迫流産徴候のある妊婦である.
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3.臍帯採血 |
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<概要>
理論的には成人で血液検査できる項目はすべて検査可能である.しかし,胎児の循環血液量を考えると,極少量の血液しか採取できないという制限があり,胎児血を採取するためには,子宮内にいる胎児・臍帯を穿刺せざるを得ないため,胎児仮死の出現などの危険を伴う.一方,胎児溶血性貧血の診断や治療に有用であるなど,染色体検査とは異なった意義も有する. <手技> 採血部位は,胎盤・臍帯・胎児内血管の三つが考えられ,実際どの部位からも採血可能であるが,主たる採血部位は臍帯である.超音波ガイド下に穿刺する.カラーあるいはドップラー付きの超音波装置では目的としているのが血管かどうか,あるいは動脈か静脈かを確かめながら刺入できる.刺入ののち血液採取するが,採血量は,妊娠20週前後で1ml,妊娠30週前後で3−5mlまでにとどめる. <危険性> 胎児心拍数低下が発生し,妊娠週数によっては緊急帝王切開が必要となることもある.その原因としては,出血・神経反射・原疾患の増悪が考えられる.胎児死亡率は約1%と報告されている. <適応> 羊水検査・絨毛検査の適応以外に,ITP合併妊娠での胎児血小板測定や,Rh不適合妊娠での胎児溶血性貧血,胎児水腫での貧血の検査など,胎児血を直接採取しないと分析できないものもある. |
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4.母体血清マーカー試験(triple marker test) |
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母体血中のAFP,hCGおよびuE3を組み合わせるtriple marker胎児スクリー二ング法は,Down症・18-trisomy・無脳症・開放性神経管児などのスクリーニングに使用されており,現在欧米では一般臨床検査として数多く行われている.日本ではその臨床応用が開始されたばかりである.母体血の採血という比較的簡単に,しかも非侵襲的に行われる検査であるけれども,スクリーニングの対象疾患は限られており,しかも確定診断をできる検査ではないため,医療者側も検査を受ける側も,安易に行うと多くの問題を発生する可能性があり,検査の内容の十分な理解が必要である.
具体的には,妊娠15週前後に採血した三つのマーカーの値を,過去に検査されたDown症児等を妊娠した多数の妊婦の三つのマーカーの値と比較する.これに年齢のリスクを加味して,計算式によりDown症児の生まれる可能性を確率で示し,ある確率(約1/300)以上に高まっている場合を「陽性」と判断する.この確率は,羊水検査での流産率よりもDown症児の生まれる確率が高まる年齢,すなわち35〜36歳でのDown症児の生まれる確率と考えてよい.「陽性」の場合,確定検査は羊水検査となり,羊水検査を受けるかどうかの遺伝カウンセリングを行うことになる.しかし,検査の性格上,「陰性」と判断された中にもDown症児の生まれる可能性は当然あること,「陽性」と判断されて羊水検査を行っても,異常のない場合も当然多いことに関して検者も被検者も十分な理解が必要である.「陽性」・「陰性」といった評価自体が必ずしも適切な表現であるとはいえないのである.また,「陽性」・「陰性」といった評価がされていなくても,確率のみで示される結果に対し,被検者自身が十分な理解と判断を求められていることを,しっかりと説明することが重要であると考えている.こうした説明のないままに,紙上の署名を得たからといって,インフォームドコンセントがなされているとはいえないと考える. 日本人類遺伝学会の母体血清マーカー検査に関する見解についても参照のこと. |
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5.着床前診断 |
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体外受精(膣壁を通して超音波ガイド下に卵胞を穿刺して卵細胞を採取する.体外=シャーレ内で精子と受精させた後,卵割を始めた受精卵を子宮に戻す方法.本来は,これ以外に妊娠の可能性がないと考えられる不妊症の夫婦のみを対象に許された生殖補助技術)を行い,子宮に戻す前の受精卵(例えば4細胞期)の1つの細胞から核を取り出し,DNAを増幅することで遺伝子診断を行う.
この時期の卵細胞は,1つの細胞がダメージを受けても全て再生する能力があるので,検査で異常がなければ子宮に戻し,異常があればその受精卵を破棄する.母親が中絶を行わなくてもよい点と確実に胎児の細胞を検査している点が従来の検査にないポイントであり,1998年6月,日本産科婦人科学会は,_重い遺伝病の可能性がある場合に限定する._事前に学会で審査を行う._両親の同意を得る.ことを条件に着床前診断を認めたが,不妊症でない夫婦に体外受精を行う点と,受精卵の破棄が簡単であるが故に,いくつかの受精卵を検査して親が選別したものだけ子宮に戻すことも可能であり,生命の選別につながるとの懸念が強い点で慎重に対応が検討されているのが現状であろう. |
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米国では,高齢出産で,異常児出生の危険が高いと予想されたのに,出生前診断をうける勧めを医師が怠ったために染色体異常児を出産し,育児しなくてはならなくなったという訴訟があり,医療サイドが敗訴したという.日本では,39才の母親から生まれたダウン症児について出生前診断がなされなかったとして訴訟されたケースで,『妊婦からの相談や申し出がない場合,産婦人科医師が積極的に染色体異常児出産の危険率や羊水検査について説明すべき法的義務があるとは認められない.妊婦からの申し出があった場合でも,産婦人科医師には検査の実施などをすべき法的義務があるなどと早計に断言できない.』として,医師に過失はないとの判例(H9.1.24,京都地裁)が出ているが,日本でも出生前診断が医事紛争の種になり始めたといえる.
こういった訴訟がある一方で,現状では生命倫理面の論議が足りず,十分なコンセンサスが得られてはいないので,出生前診断を行うことには慎重であるべきという意見もある.これは,検査を行う側にも受ける側にも,出生前診断についての十分な知識と理解が浸透していない状態で検査が行われている可能性があり,検査結果に対して,夫婦が自己決定する道を社会的にサポートするような基盤が十分に整備されていないとの見解から懸念されているものと考えられる. 妊婦健診の場で,出生前診断についての相談や申し出があった場合,現在どんな問題点が考えられるであろうか,夫婦の心配している遺伝性疾患が具体的な場合,検査内容に関して産婦人科医が説明するだけでなく,その疾患に詳しい医師や遺伝専門医によるカウンセリングを受けた後に,検査を行うか否かの自己決定をしていただくことが望ましい.しかしながら,こうしたカウンセリングを行える環境が整っている医療機関は極めて限られた施設である.さらに,高齢を心配する人の多くは,具体的な疾患よりも,漠然とした不安を心配しており,出生前診断についての説明も通常の妊婦健診の際に聞きたい人が多く,日を改めた遺伝相談を希望する人は少ないのが実状である.こうした理由で,本来十分な時間を取って行われるべき検査前のカウンセリングが,限られた時間の中で産婦人科医が行わざるを得ない現状となっている.検査前の十分なカウンセリングを行える体制作りが,現在の最も重要な課題であろう. しかしながら,カウンセラーという職種も正式には存在しない状況が現実であり,産婦人科医は非常に忙しい外来の中で妊婦に対応している.そういった環境で,出生前診断の自己決定がなされているのが現状であり,今後も,そうせざるを得ないとすれば,われわれ産婦人科医自身がカウンセリングの手法や考え方を身につける必要が生じてきているのではないだろうか.カウンセリングが十分にできない状況であれば,適切な施設に任せるといった対応も考慮するべきと考える. 本来,非指示的に,クライアントの自己決定のサポートを行うことがカウンセリングであるが,出生前診断の自己決定は難しいとされる.その理由として,「腹痛や出血といった自覚症状があって受ける検査ではないため, 検査するか否かを周囲からの情報だけで判断しなければならない.先天異常は種類が多く,同じ異常でも症状や重症度にかなりのばらつきがある.予後を知りたいが,わかるのは診断名だけ.望んだ妊娠が多いのに,人工妊娠中絶を考えながらの決定になる.妊娠中,限られた時間の中で重要な判断をしなければならない.」といった事が考えられる.自己決定の際に考慮すべき事項としては,『夫婦にとって,子どもとはなにかをまず考えてもらうこと.どんな病気が心配で出生前診断を考えているか,その病気のことをどの程度知っているかを明確にすること.その出生前診断の方法について理解すること.検査でわかる限界を知っていること,100%の障害児や100%の健児なんて存在しないことを理解すること.』などが挙げられる.医療側は,上記につき,適切な情報を提供できているのかが問われることになるであろう .生命を抹殺するかもしれないという,重大な決定を行うにあたって,例えばダウン症について,我々がどの程度の知識を持って自己決定のサポートを行っているのかを,考え直さないと行けない状況になってきていると実感している. 産む産まないを決定するのは,女性の基本的人権であるとの立場から,人工妊娠中絶術の合法化を図った時代があり,出生前診断の技術は,その時代に急速に進歩した.出生前診断の技術の進歩によって,従来まで出生前に確定診断できなかった重篤な疾患が診断可能となり,女性たちはより確かな情報を得て,産む産まないを自己決定することが可能となってきているのであるが,逆に女性たちに新たな不安を与え,従来しなくても済ませられた選択を迫ることになっているともいえる.検査技術の向上がもたらしたこのような複雑な状況は,人工妊娠中絶,胎児の人権といった倫理的な議論の重要性をあらためて浮き彫りにしていると言えよう. 現在,出生前診断検査の歯止めになっているのは,確率は低いが流産する危険性を有することである.しかし,ほとんど流産率に影響を与えないと考えられる母体血の採血から,母体血中の胎児有核細胞をピックアップし,胎児DNA診断を行うことが可能となってきており,母体血からの胎児由来細胞の分離法と,その分析法が確立されれば,現在行われている羊水検査や絨毛検査のかなりの部分が,将来置換される可能性がある.しかし,流産の危険率が高まらないからといって,希望するすべての妊婦に対し,検査可能なすべての疾患を対象として出生前診断を行ってよいという見解を認める者は,皆無であると信じたい.もし一定の歯止めを必要とするならば,どこに線を引くかといった非常に難しい問題を包含しながら,検査技術は確実に進歩している. 検査を行う者も,検査を受ける者も,この倫理的・社会的問題を十分に議論する必要があり,双方に高い倫理観が要求されている時代になっていると言えよう. |
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