遺伝医療をすすめる際に最低限必要な遺伝医学の基礎知識 1.遺伝医学の基礎知識 | 2.遺伝カウンセリング | 3遺伝子検査 | 4.染色体検査 | 5.出生前診断 | 6.日本人類遺伝学会認定医の到達目標 |
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遺伝カウンセリングとは患者・家族のニーズに対応する遺伝学的情報およびすべての関連情報を提供し,患者・家族がそのニーズ・価値・予想などを理解した上で意志決定ができるように援助する医療行為である.その過程で,心配している状態・病気は遺伝的に本当に心配しなければならないことなのか,本当に心配しなければならないことならば,その可能性はどの位あるのか,その可能性を避ける方法はないのか,避ける方法があるならば,それはどのような方法で,どこで受けられるのかなどの疑問に答えるために多くの情報提供を行なう.
具体的には以下のようなクライアントが多い. a.本人,配偶者,親,子,同胞,その他の血縁者に遺伝性疾患や先天異常の人がいて,自分あるいは自分の子が同じ病気になるのではないかと不安に思っている人. b.結婚の相手がいとこなど血縁者であり,結婚しようかどうか迷っているカップル. c.妊娠中に薬を服用したり,X線検査を受けたり,感染症に罹患したりして,胎児への影響を心配している妊婦. d.高齢妊婦(一般的には35才以上)のため胎児への影響を心配している人. e.習慣性流産のカップル. f.その他. 近年の遺伝医学の進歩は目覚ましく,多くの遺伝性疾患で,その原因が明らかにされ,遺伝子レベルの正確な診断ができるようになってきている.これらの方法を用いることにより,保因者診断,発症前診断,出生前診断も正確に行なえるようになり,より直接的に遺伝的な問題に対する不安を解消することができるようになってきた. しかしながら我国においてはまだ医療行為としての適切な遺伝カウンセリングのシステムは存在しない.日常の診療行為の中でもつねに患者のニーズに耳を傾け,遺伝カウンセリングの必要な患者がいた場合には適切な施設を紹介することが重要である.医師の行ういわゆるムンテラの中で処理してはならない.
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遺伝カウンセリングには次のようなステップがある.
1)遺伝学的原因が明らかになるような正しい診断をつける. 2)詳細な家系図および家系を構成するひとびとの臨床症状に関する情報を集める. 3)遺伝的危険率を推定する. 4)再発率がある程度高い場合,出生前診断,保因者診断などそれを回避する方法があるかどうかを示す.またそれらの検査を希望する場合にはどこで受けられるかを紹介する. 5)上記の事柄をクライアントの文化的背景,理解度を考慮しつつ,正確に伝えて、これからどうしようかという意思決定の援助をする. |
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心理カウンセリングなど他のカウンセリングと同様,遺伝カウンセリングにおいても非指示的対応,共感的理解,受容的態度のカウンセリングの三原則を守る必要がある.すなわちカウンセリングは非指示的に対応する中で,クライアント自身が問題解決能力を高めていくコミュニケーションプロセスなのである.遺伝カウンセリングにおいては正確な遺伝医学の知識をわかりやすく伝えるというステップを加えることにより,遺伝的問題で悩む患者・家族の不安をかなりの部分取り除くことができる. |
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遺伝カウンセリングの結果によっては,相談者の一生や家族の運命をも左右することになる.遺伝カウンセラーに求められる資質としては以下のようなことがある.
1)メンデル遺伝学,細胞遺伝学など正確な近代遺伝医学の知識をもっていること. 2)遺伝医学の進歩は急速なので,最新の遺伝情報にアクセスできる設備と能力を持っていること. 3)上述したカウンセリングの基本的技術と経験を有していること. 4)遺伝カウンセリングに関係した倫理的・法的・社会的問題を理解し,それに対処できる能力を有していること 5)関連する他の多くの診療部門とコーディネートできること 遺伝カウンセラーは遺伝医学を修めた医師が理想であるが,アメリカ・カナダでは特別な教育を受けた遺伝カウンセラーという専門職が確立しており,遺伝専門医の指示のもと遺伝カウンセリングを行っている.わが国では1991年に日本人類遺伝学会が臨床遺伝学認定医制度を発足させ,臨床遺伝医の育成と普及をはかっており,遺伝カウンセラーの認定制度も準備中である. |
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遺伝疾患の診断やその遺伝予後を判定するためには,詳細な家系図を作ることが必要である.家族歴を聴取する意義としては,以下のことが挙げられる.
1)正確な診断の助けとなる. 2)正確な予後を推定することができる. 3)遺伝疾患の発症前診断や発症予防が可能となる. 最近米国人類遺伝学会で標準化が提唱された家系図に用いられる記号と記載法をテキストのおわりに示した.家系図は必ず古い世代を上に新しい世代を下に記す.我国ではしばしば左から右に向かって書いてある家系図を見かけるが,上から下というのは国際的に決められていることなので,左から右というのは好ましくない. 家系図をとるにあたってのコツとしては次のようなことがある. 1)血縁者およびその配偶者,特に遠縁の血縁関係の聞き出しには,まず固有名詞と住所を聞いておく.そうすれば,次にそのまた血縁者を聞くときに,クライエントはすぐ思い出すことができるであろう. 2)いま問題になっている遺伝性疾患に関係ある事項のみならず,関係ないと思われてもできるだけ情報を詳細に集める. 3)流産,死産,新生児期あるいは乳児期などに死亡したものの情報は非常に重要である. 4)最初からきれいな家系図を描こうと思わないこと.最初はラフなものでよい.すべての情報を得た後,清書する. 家系図から情報を読みとる際,最も重要なことはどの人とどの人がどれだけ遺伝子を共有しているかを知ることである.親・子・兄弟はそれぞれ遺伝子を1/2ずつ共有しており,第1度近親と呼ばれる.我国では伝統的に「親等」という言葉があり一般にひろく用いられている.しかしこれは法律用語であり,1親等は親と子の関係を表し,兄弟は2親等になってしまう.したがって親等という言葉を医学用語として用いてはならない.兄弟も親・子と同じく,1/2の遺伝子を共有していることに注意が必要である.祖父母,孫,オジ・オバ,オイ・メイは第2度近親であり,1/4の遺伝子を共有している.いとこは第3度近親で,1/8の遺伝子を共有している. 常染色体優性遺伝病の場合は第1度近親者の情報がとくに重要である.患者の両親が正常と思われる場合でも軽微な症状がないかどうか詳細に検討する必要がある.表現度の差の大きな疾患もあるからである.また患者が生まれたときの両親の年齢を聞いておくことも重要である.父親年齢が高くなると常染色体優性遺伝疾患の突然変異率が高くなるからである. 常染色体劣性遺伝病が疑われる場合は,夫婦間に血縁関係がないかどうかを記載する.夫婦間に血縁関係があると常染色体劣性遺伝による疾患である可能性が高くなる.最近では核家族が多くなり,先代にさかのぼって家族歴を聴取するのが困難になりつつあるが,両親の出身地を聞いておくとある程度類推できることがある. X連鎖劣性遺伝病を対象とするときはとくに母方の家系の男性について詳しい情報を集める必要がある. 家系内に同じような病態の患者が複数発生すると,短絡的にメンデル遺伝病を考えがちであるが,親に均衡型相互転座があり,それに由来する染色体異常の場合や,母が抗てんかん薬を服用していて,その催奇形作用により発症したものなどもあるので,詳細に家族歴を聴取する必要がある. |
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遺伝病は同一家系内に再び現れることが多い.メンデル遺伝病や遺伝性の染色体構造異常では理論的に分離の法則にしたがう分離比が算定できる.これを理論的再発率という.しかし,ヒトでは分離比を乱すさまざまな要因が知られており理論どうりにはならないことがある.このような場合には経験的再発率が用いられる.経験的再発率は多数の同一疾患家系の解析から得たものである.
再発率の推定には正確な家系図作成が先決である.不十分な家系図は誤った遺伝的情報を与えかねない.家系図ができたら,問題になっている遺伝病の遺伝形式からの理論的情報とその家族における特異的情報を加味して,再発率を推定する. しかしながら,確率はあくまで確率であることを念頭におかなければならない.クライアントの多くは0か1かを求めている.近年の分子遺伝学の進歩によって多くの遺伝病に関して,罹患か非罹患かを確実にいえるようになった.遺伝カウンセラーは新しい診断法や利用できるクローン化DNAなどの知識を常に入手しておく必要がある.
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1) 常染色体優性遺伝病(AD)の再発率 |
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AD病の再発率は片親がヘテロ接合体である確率 × 1/2 ×浸透率(p)である.すなわち,(a)親が罹患者で且つ完全浸透(p=1)では再発率は1/2である.(b)親を含めて先祖に罹患者がいないときは,再発率は極めて0に近くなる.極めて稀に表現型正常の親に性腺モザイクが存在し,AD病罹患児が兄弟で生まれてくることがあるので,完全に0とはいえない.(c)不完全浸透(p<1)のときはつぎのようになる.正常表現型の両親の上位世代に罹患者がいる家系では,親が正常アレルのホモ接合体であるか,不完全浸透のためにヘテロ接合体なのに発病していない(保因者)のか,その両方を考慮する必要がある.後者の確率はBayesの定理(後述)を用いて推定する.
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2)常染色体劣性遺伝病(AR)の再発率 |
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AR病の症状は家族内では割合一定しているので,浸透率は問題とはならないことが多い.発端者の両親はヘテロ接合体の保因者と考えられ,次子の再発率は25%である.罹患者の兄弟が血縁者以外の人と結婚する場合には再発率はそれほど高くはならないが,罹患者の血縁者が近親結婚をする場合には再発率は高くなる.たとえば,患者の正常同胞がいとこと結婚したとき,その子供の危険率は2/3×1/4×1/4=1/24である.
罹患者同士の結婚では子供の100%が発病する.先天性聾などでは実際にこのようなことが起こりうる. |
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3)Bayesの定理 |
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不完全浸透または遅発性の常染色体優性遺伝病や女性が保因者かどうかが不明のX連鎖劣性遺伝病の場合はBayesの定理を用いて,再発率を推定することができる.この原理は18世紀のイギリスの科学者であり,聖職者であったBayesにより提唱された.
具体例を示し,Bayesの定理の利用法を解説する.図 はDuchenne型筋ジストロフィーの家系図である. |
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II-3の女性が自分自身が保因者であるかどうか相談を求めて来院した.保因者であるためには,彼女は母親から突然変異をもつ対立遺伝子を受け継いでいなければならない.したがって最初に母親(II-2)が保因者であるかどうかを検討する.家系図によれば,I-2とII-4はそれぞれ罹患した息子がいるので,Duchenne型筋ジストロフィーの真正の保因者と考えられる.II-2は子供の情報がない場合には保因者である確率は1/2である.これを事前確率という.しかしII-2には3人の息子が発症していないという追加情報を加味しなければならない.もしII-2が保因者ならば息子が患者になる確率(条件確率)はそれぞれ1/2である.息子3人が全員患者ではない確率はこれらの独立事象の確率の積になるので,(1/2)3= 1/8となる.II-2が保因者で3人の息子が患者ではない複合確率は 1/2 x 1/8 = 1/16となる.II-2が保因者ではなく,3人の息子が正常である条件確率はもちろん1である.したがってII-2が保因者ではなく,3人の息子が正常である複合確率は1/2 x 13 = 1/2となる.したがって,II-2の3人の息子が正常であるとき,II-2が保因者である帰納確率は次のように1/9 となる(表). |
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表4.X連鎖劣性遺伝の保因者の確率(Bayesの定理による計算) | |||||||||||||||||||
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3人の息子が正常であることを考慮に入れると,II-2がDuchenne型筋ジストロフィーの保因者である確率は1/2から1/9まで低下するのである.相談に来院したIII-3が保因者である確率は母親が保因者である確率のさらに1/2 となるので,1/18 すなわち約5%になる.III-3の3人の兄弟が患者ではないという情報が加わったために,彼女のリスクは25%から5%まで減少したのである.
Bayesの定理は遺伝医学のさまざまな場で用いられている.上記の例では遺伝カウンセリングにおける再発率をより正確に推定するのに役立っている.意識するしないにかかわらず事実上すべての医学的診断の際にはBayesの定理が用いられているのである.Bayesの定理を適切に利用することは,種々の医療上の判断の場で重要である.
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4)染色体異常の再発率 |
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染色体異常は受精時と出生時とで危険率が異なる.重症な染色体異常では流産などのため出生に至らないことが多いからである.経験的再発率が最も重要である.トリソミー型Down症候群の経験的再発率は約0.5%である.他のトリソミーの再発率は非常に低く無視してよい.片親が均衡型転座の保因者のとき,子供が不均衡転座をもつ確率は受精時には理論的に50%だが,出生時の経験的危険率は,母親が保因者のとき高く約10%,父親が保因者の場合は約5%である.
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5)多因子遺伝病の再発率 |
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多因子遺伝病でも経験的再発率が最も重要である.一般頻度をpとすると,患者の一度近親者(親子同胞)の発症率はおおよそ√pである.しかし,性差,人種差などがあるので,わが国においてもそれぞれの疾患について,日本人における経験的再発率のデータを収集しておく必要がある. |
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6)細胞質遺伝の再発率 |
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ミトコンドリア遺伝病は母系遺伝する.父に異常ミトコンドリアDNAが存在してもこれは子供には全く伝わらない.母の異常ミトコンドリアDNAはすべての子に伝えられるが,伝えられる異常ミトコンドリアDNAの比率はさまざまなので,こどもが発症するかどうかはわからない.ミトコンドリア遺伝病の場合,ミトコンドリアDNAの異常が明らかにされても,再発率についての正確な情報は得られない. |
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今までに述べてきたことを基本に遺伝カウンセリングを行うのだが,クライエント一人一人の考え方,感受性,事前の知識,理解力,不安の大きさ,医療に対する信頼感などはさまざまで,同じような病気だからといって一様に進めることはできない.遺伝カウンセリングは遺伝カウンセラーとクライエントとの人間性の対峙である.基本となるのは,お互いの信頼感を良好に築きつつ遺伝カウンセリングを進めることである.遺伝カウンセリングを行う際,筆者が日頃注意していることについて述べてみたい.
遺伝カウンセリングを行う場所は,静かなゆったりした環境が望ましい.一般の診察室で行わざるを得ないこともあるが,人の行き来があったり,騒がしい場所は避けるべきである.遺伝カウンセリングは事前に時と場所を定めて予約制で行うのが望ましい.予約を入れる際,どのような問題についての相談なのか,またどのような解決方法を望んでいるのかを整理し,血縁関係のわかる家系図を準備しておくように伝えておくと,来院してからの遺伝カウンセリングが円滑に進む.原則としてクライエントは問題をかかえる個人あるいは夫婦である.夫側の親族あるいは妻側の親族が同席する場合は十分な注意が必要である.どうしてもどちらかの責任という発想が生まれ,心理的葛藤が起こりやすくなる. 遺伝カウンセリングには,遺伝カウンセラー側も時間的にゆとりをもって臨む.はじめてクライエントに会う際には,「はじめまして.遺伝カウンセリングを担当します○○と申します.どうぞ宜しくお願いします.」などと自己紹介から始め,つぎに「今日はどのような御相談で来られましたか」と遺伝カウンセリングの目的を尋ねる.つねに相談しやすい雰囲気を醸し出すように心がける. あとは 2.で記載した「遺伝カウンセリングの手順」に従って進める.問題となっている病気あるいは状態の診断が正しいのかどうかを確認することは極めて重要である.すぐに確認できない場合には,日をあらためて遺伝カウンセリングを行うことも考慮する.血縁者の情報を得る際は要領よく必要な情報を収集する.父方の血縁者に問題となる病気がある場合でも父方だけではなく,母方の血縁者の健康状態についても尋ねる.十分な説明をする前に「やっぱり,こっちの血筋の責任なんだ」などの早合点を防ぐためである.確定診断がなされており,正確な家系図と血縁者に関する十分な医学的情報があれば,遺伝カウンセリングは円滑に進む. 十分な情報が得られたならば,いよいよ本格的な遺伝カウンセリングに進む.まず,問題となっている病気の症状,診断法,治療法,おこりやすい合併症,予後,頻度そして遺伝医学的な発症機序などをわかりやすく説明する.筆者はこれらのことがらを白紙に書きながら説明し,遺伝カウンセリングが終わった後にこの紙を手渡すようにしている.これをコピーしておきカルテに保存すればどのような説明をしたかの記録にもなる.説明を始める前にクライエントに問題となっている病気をどのように考えていたかを尋ねるのもよい.クライエントの理解度を確認することができ,説明しやすくなる. つぎに遺伝様式についての説明を行う.常染色体優性遺伝,常染色体劣性遺伝,X連鎖遺伝,染色体異常,多因子遺伝,ミトコンドリア遺伝などを「1. 遺伝医学の基礎知識」に掲載した図表などをもちいて説明する.病気の人の血縁者が同じ病気になる確率を再発率という.親が常染色体優性遺伝病の場合,子の再発率は50%である.再発率の示しかたは,50%,1/2,二人に一人などさまざまな方法で行うとよいとされている. 遺伝病についての理解の仕方についても説明しておくとよい.人それぞれ顔が違うように遺伝子も異なっていて,これらの遺伝子の違いには劣ったものも優れたものもない.たまたま病気の発症に結びつく遺伝子の変化があるだけであり,遺伝病だからといって卑下することも,差別されることもない.ましてや人格的に劣っているなどということは絶対にないのである.どうしても一般には遺伝病は特殊な存在としてとらえられ,特殊な人だけが罹患すると思われがちであるが,誰でもがそのような病気になりうるのだということを根拠をもって示すと,心理的安定が得られやすい.著者は常染色体劣性遺伝病の保因者頻度を例にとって次のように説明している.「4万人に1人が発症する稀な常染色体劣性遺伝病であっても,100人に1人は保因者である.さらに保因者頻度が1/100程度の常染色体劣性遺伝病が600〜700種類は存在しているので,全く健康と思っている人でも,6〜7個の遺伝子については異常があり,保因者の状態である.すなわち,人類皆保因者なのであり,すべての遺伝子が正常だなどという人は存在しないのだ.」 最近,遺伝子診断を求めて来院される方が増加している.しかし,遺伝子診断についての理解が不十分な方が多い.たとえば家族性乳癌の家系の未発症者が,BRCA1 や BRCA2 を検査し,異常がないことを確かめて,将来乳癌にはならないという確証を得たいというような希望で受診することがある.この場合,同じ家系の発症者の協力を得て,この家系における遺伝子変異を同定する必要があり,これは医療として行うには困難なことである.さらに相談に来た方のBRCA1 , BRCA2 遺伝子を調べて異常がないとしても,乳癌の原因はBRCA1 , BRCA2 だけではなく,将来の乳癌発症を否定することにはならない.家族性乳癌家系の女性は他の女性に比べれば,乳癌発症についてハイリスクなのだから,マンモグラフィー等による乳癌検診を定期的に受けることの方が現実的である.遺伝子診断は目的をはっきりさせてから進めるべきである. 最近,遺伝病を含むさまざまな疾患について,そのサポートグループが結成されているので,希望があればそれらのグループに連絡をとることを勧めるとよい.医療者側からは得られないさまざまな情報および自分だけではないという何ものにも代え難い安堵感が得られる. 遺伝カウンセリングを終わる際には「いままで御説明したことについて,何か御質問はありますか?」「その他,気になっていることはありますか?」などとクライエントに尋ねるようにしている.さらに筆者自身は時間の関係で実施していないが,クライエントに今まで説明した内容をまとめてもらうと,クライエントの理解度がよくわかるとされている.「今日,御説明した事について,あとでわからないことや質問したいことがでてきたら,いつでもいらして下さい.」と,今後も継続して対応できることを保障することも重要である. |
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