カスタネットって?
<カスタネットの語源>
カスタネットとは、栗という意味のスペイン語”カスターニャ”に、小さいという意味の語尾”エット”をつけて作られた言葉です(であるからして、メヌエットは小さなメヌ、トランペットは小さなトランプなのですぞ、お立ち会い。以下本稿は話半分に読んで下さい)。
ですから、カスタネットとは小さい栗という意味なのです。この名前の付いた理由は、その形を栗の実に見立てたものなのですが、見てわかるとおりカスタネットは実際の栗よりも大きいのです。
そこで、大きいという意味の語尾、オン(トロンボーンは大きなトロンボなのです、いえこれホント)をつけてカスタノーンでも良さそうなものですが、まあ、これは一種の愛称のようなものなのでしょう。
「栗ちゃん」です、よろしく、みたいな。
<カスタネットの用途>
カスタネットはスペインの舞踊で頻繁に使われる楽器で、打楽器奏者によってではなく、踊り手により演奏されます。カスタネットというとフラメンコの楽器というイメージが(幼稚園児の楽器というイメージと同じくらい強く)ありますが、初期のフラメンコは楽器の伴奏を伴いませんでした。カスタネットを用いるようになったのは舞台の上で踊られるようになった後のことだそうです(もともとはパルマ、すなわち手拍子で歌い、踊られました)。
<カスタネットの種類>
さて、カスタネットにもいろいろな種類があります。
まず、スペイン舞踏で用いられるカスタネットについて説明します。
1.スペインの舞踏用カスタネット(オリジナル)
このカスタネットの形はまさに栗を半分に切ったような形なのですが、その2つをつないでいるのは幼稚園児が使う(もちろん大人が使っても法律的には何ら規制されませんし、現に幼稚園の先生達も使っています。便宜上こう表現することをお許し下さい)カスタネットと違い、紐なのです。
ですから、叩いた後、自動的には開いてくれません。
こんなやっかいな楽器をスペインの舞姫達は両手に持って、小指から人差し指までを駆使して叩いているのです。労働基準法に抵触しないことを心から願う次第です。
楽器本体の材質は、ザクロの木(グラナディージョ。ちなみに、ザクロの実から作ったシロップはグラナデン・シロップ。カクテルの名作、テキーラ・サンライズ等に用いられます)や圧縮布(テラ)等が用いられます。最近は特に初心者向けに軽くて扱いやすい合成樹脂(フィブロ)も用いられます。
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(舞踏用カスタネットの一例)
2.管弦楽用カスタネット
クラシック音楽の作曲家達がスペイン音楽に興味を持ち続けたことは別項で書きました。このことにより、オーケストラにもカスタネットが導入されるようになりました。
ファリャの「三角帽子」はそのもっとも有名な一例です。
この場合、演奏するのは当然打楽器奏者です、原則的に踊りを踊る必要はないのですから(演奏会当日、当団の打楽器奏者が踊りを踊っていたら是非ご一報下さい)。
そこで、楽器も演奏しやすいように形を変えました。
二分割された栗(形のことですよ)の間にシャモジ状の板をはさみ、両手で演奏する楽器にしたのです(それぞれ大きさは適当に拡大縮小をかけてご想像下さい)。確かに踊りの楽器としてはブサイクです。でも、格段に演奏しやすい楽器になりました。
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(管弦楽用カスタネットの一例)
3.幼稚園児用(?)カスタネット (ミハルス(?))
上記の二形態のカスタネットは茶色もしくは黒に着色されます(もしくは、素材のまま着色されません)。これは確かに栗のイメージを留めています。
それが、カスタネットがどういう変遷を経て幼稚園児の赤青二色のカスタネットになったのか、筆者は寡聞にして知りません。ついでながら、天津甘栗でも、能勢の銀寄でも、赤青二色の栗というものは私は未だかつて見たことがありません!!。
(別の筆者注)
出典は忘れましたが、この「幼稚園児用(?)カスタネット」は、ある日本人により、舞踏用カスタネットを学校教育用に鳴らし易く改造されたもので、その発案者の名を取って「ミハルス」(そう、”みはる”さんです!)という名前があったことを覚えています。(間違っていたらごめんなさい!)
さて、説明するまでもなく、幼稚園児の使うカスタネットでは二枚の板はゴム紐でとめられていて、叩いたあとは勝手に開きます。何とも子供だましのような楽器なのです(ウソですよ、と、幼稚園関係者や楽器販売関係者が万一見ておられたときのためにフォローしておきます)。
− で、関西シティフィルハーモニー交響楽団のカスタネットは・・・
−
ところが当団の一メンバーいわく、(以下、会話体で引用)
「学生時代に三角帽子やったんですよう。そのときね、カスタネットが足りなくて、買うお金もないし、あの赤と青に塗られたカスタネットをマジックで黒く塗って演奏会当日暇な団員をかき集めて叩かせたんですよ」
無茶なオケもあったもんです(このオケに参加していた、という方が本稿をお読みでしたら、ご一報下さい)。
関西シティフィルはそんなことはしません。しないんじゃないかな・・・?まちょ(以下、著作権にふれることを考慮して削除)。
なんにせよ、演奏会当日は、スペインの祭りの雰囲気を盛り上げる楽器、カスタネット。
その情熱の響きに酔いしれて下さい。
(文) 川井 裕史 (ヴァイオリン)
(構成&別の筆者) 岩田 倫和 (チェロ)
(楽器の絵) 「新音楽辞典 楽語」(音楽之友社刊)より一部引用
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