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【社説】

児童養護施設 育ちの場に「家庭」を

 親と離れた子が暮らす児童養護施設が家庭的な場となるよう、国は集団生活型から小規模型への改修を計画している。養育上の困難を抱えた子が増えている。職員を増やさないと掛け声倒れになる。

 小規模施設の先行例がある。埼玉県加須市の「光の子どもの家」。敷地にいくつもの「家」が建てられ、四十五人の子どもが「家族」と見なされたグループに分かれて暮らす。同じ職員が親のように養育を受け持ち、眠る時には本を読み聞かせる。食事も家庭ごとに。日々の営みは実の親との関係が壊れた子にとって、再び人間関係を築くための大切な時間だ。職員は子どもにとって「自分のためにいる愛着を受け止めてくれる人」となるからだ。

 こうしたきめ細かな事業を行うには人手が必要だ。だが、国の職員配置基準は三十年前から変わらない。「職員一人に対し、子ども六人」。諸外国に比べて低い水準だ。このため、子どもの家では「職員一人でほぼ四人」となるよう、バザーなどを続けて、加配分の人件費を捻出してきた。

 児童養護施設を小規模型に作り替えるという議論は十年前、増え続ける虐待の合わせ鏡として始まった。施設は全国に五百七十九カ所、その七割は二十人以上の集団生活型だ。約三万人が保護されているが、半数以上は親から虐待を受けた子。核家族時代に養育できない親が増え、その連鎖がまた虐待を生む。児童相談所に通告された虐待は年間六万件だが、施設に保護されるケースは一割しかない。施設が常に満杯だからだ。

 家庭でより深刻な問題を抱えた子が選ばれるようにして入ってくるのに、脆弱(ぜいじゃく)な職員体制では一人一人に向き合えない。厚生労働省もやっと来年度予算要求に施設小規模化の整備費を盛り込んだ。だが、改修に数千万から数億円がかかる。二の足を踏む施設も多い。

 大人数の雑居部屋で子どもたちは安らげず、いじめも深刻という。職員による虐待もある。国は法改正で施設内の虐待対策を講じてきたというが、昨年度は四十六件が報告された。職員の資質だけでなく、人手不足や居住環境の悪さも遠因となっている。

 施設は原則十八歳で退所しなくてはならない「十八歳の壁」もある。ケアを必要とする子は社会の姿を映す。里親制度の拡充も含めすべての子どもの発達を保障できる方策が急がれる。自分で声を上げられない子を犠牲にしてはならない。

 

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