ガラム王国を襲った大侵攻から五日が過ぎた。オレ達は新居を拠点にしながら依頼を順調にこなし、すっからかんだった金もそこそこの額まで戻すことに成功していた。
ただ、相変わらずオレ達がいない間、家の留守を任せられる人は見つけられないままである。今、は 高価なものなどおいていないので狙われることもないだろうが今後のことを考えればすぐにでもそういう人の確保は急務であるとわかっているのだが、
「……ダメだな」
「うん、ダメだね」
「ダメだにゃ」
今回もギルドで募集してもらった人と面接してみたのだが、全員不合格の烙印を押されることになった。
「皆、金目当てなの隠しもしないし受かる気あんのかな」
「お給料だけで満足してくれるないいけど、そんな感じじゃないしね。魔道具とか貴重な物手に入れたら皆持ち逃げしそうだし」
「あいつらの匂いは嫌いにゃ! メルルの奴より嫌な匂いにゃ!」
ダグラスからは適任の人物が中々見つからないとのことで未だ誰も紹介は来ていない。自分たちで募集してみたが結果は散々だった。
「こうなったらダグラス頼みしかないか」
「でも、この五日間でそこまで価値はないけど色々魔物から材料手に入ったし管理できる人が今すぐ必要じゃない? 中には日持ちしなさそうなのもあるし、売ってお金にしてもいいけど武器とかに加工できるの売っちゃったりしたらもったいないし」
この五日間ひたすら多数の依頼を受けていた結果、金と共に魔物から様々な部位を手に入れていた。今までオレにとっては食えるか食えないかの二択だったがこれらは武器屋や薬になったりもするらしい。
特に薬の中の回復薬、いわゆるゲームのポーション、は信じられないほど高額で取引される。回復魔法が無いこの世界で傷と体力を回復できる薬は超貴重品とのことで早々帰る者でないため冒険者は魔物からとった材料を合成してもらったり、自分で作ったりしてなるべく安く済ませるらしい。
「こうなると仲間に回復薬作れる合成職の人とか武器が作れるが鍛冶職人がいてくれればいいよな。オレ達じゃどれがいいのか悪いのかわかりもしないし」
イリスも多少はわかるがそれでも限界がある。元々魔法使いのイリスは魔法関係の知識は豊富であっても他の事ではやはり見劣りしてしまう。
無論、公的教育機関がないこの世界で様々なことを知っているイリスは物凄く賢いと言えるのだが。ダグラスにも生きた辞書のようだと驚かれていた。
鍛冶や合成は専門的なのでその職人でなければどうしようもないのも当然である。
「ガラム王国は鍛冶とか合成は盛んでないからアゼルが望むようなレベルの人がいたとしてもお店持ってたり既に雇われてたりすると思うよ?」
金がないオレ達では鞍替えさせるだけの賃金は払えないし、金だけで繋がる関係も理解は出来ても何となく嫌なので金があってもそういうことはやらないが。
「……まあ、焦ってもしょうがないしゆっくり選ぶしかないにゃ」
メイは何か言おうか迷っている様子だったが、結局何も言わなかった。何か心当たりでもあるのだろうか。言いたくないことを無理矢理聞き出すわけにもいかないので流すしかないが
「引き続き探すぐらいしかないかもね。鍛冶の街ヘリオードとか華の国アメリアに行けば腕のいい職人も見つかるだろうけどここを開けていくわけにはいかないもんね」
皆で行くとなればいくら二匹に乗ろうが相当な日にちが必要になるし。オレだけならかかる日数もかなり短縮できるがその職人探しを満足にこなせる自信は皆無だ。ニキとダイはイリス達を仲間と認めてくれたようだが、さすがに緊急事態でもないのにオレがいないところで背に乗せるのは却下らしく、結局打つ手がない状況だった。
どっかに都合よくこの家を預けても信頼できる暇な人がいればいいのだが、そんな都合のいい人がそうそういるわけがない。
とりあえず今は現状維持という結論になりオレ達は今日も依頼を受けにギルドに行った。
そこで見覚えのある人を目にする。
透き通るような金髪に、海のように深く神秘的な青い瞳でナイスバディのお姉さん、確かにどこかで会っているはずだった。
そのお姉さんはオレと目が合うや否や、それまでの困ったような顔から咲き誇るような笑顔を浮かべてこちらにパタパタと駆けてくる。
「旦那様~!」
そう言って抱き着かれた。そこでようやく思い出す。
「久しぶりだな、ジュリー。なんでこんなところに?」
娼館で楽しい時を過ごさせてくれた時以来である。左右二人からの冷たい目線に殺気を感じ、ジュリーにばれないようにそっと身を離しておく。
だが、ジュリーは気にせず体を摺り寄せてきた。
「もう! 約束したのにすっかり忘れてるんだから。また来てくれるって言ったからずっと待ってたのに来ないんだもの!」
怒っているのだろうが全然恐くない。むしろ甘えているようにしか見えない。年上のはずなのだがどうしてこうも子供っぽく見えるのだろうか。
「あーそういえばそうだったな」
確かにそんな約束をしていた。だが、イリスとの約束もあったし、大侵攻のゴタゴタですっかり記憶から抜け落ちていたのだ。
「旦那様が来てくれないからこっちから来ちゃった」
語尾に音符が付くように可愛く言う。個人的にはダメじゃないし、むしろ全然バッチ来いなのだが、そう簡単な事じゃないし色々問題があるのだ。
ほとんどの理由は左右で絶対零度の視線を向けてくる女性二人のことだけだが。
「アゼルってば私達が知らない間にまた女の人に手を出してたんだ。まだ王都に来てから一か月も経ってないのに随分手が速いことで。しかもこんな綺麗な人の心を掴めるんだもん、女ったらしの才能であるんじゃない?」
「ふー!」
「す、少し待ってくれ。ちゃんと事情は説明するから。だからイリスはその眼だけ笑ってない笑顔を止めて、メイはとりあえず獣から獣人に戻ってくれ、な」
どちらも怒っているが特にメイなど髪の毛が逆立ちそうである。話を聞いてもらえるか不安になる程だ。
嘘を吐いてもしょうがないのでオレは正直にジュリーと出会った経緯などを説明する。洗いざらい話したおかげか二人の怒りは冷めないものの少し冷静になってくれた。
「アゼルが娼館に行ったのは知ってたし、相手した人がニンフのハーフだっていうのもわかってたけど、こんな美人だなんて……」
前に話したときは相手であるジュリーのことはニンフのハーフとかその特徴を言っていたのだが、実物は予想を遥かに超えていたらしい。
「そう言えば聞いたころあるにゃ。娼館に生物の限界を超えた美貌の持ち主がいて、客はその姿を見るためにだけに大金を払うって、メルルが言ってたにゃ」
何で毛嫌いしてるメルルから聞いているのだ。しかもメルルは何処からそんな情報仕入れたのやら。
「そんなことないわよ~。ちゃんとお話してたまに手を握ったりもしたわ」
決して安くない金を支払う娼館でそれだけで済むのがおかしいのだと言う事に全く気付かないジュリー。こういう自分の美貌に無自覚ですれてない所も人気の秘密なのだろうがそれにしても天然過ぎる。
「でも、もう娼館はやめてきちゃったのよ」
「え、何で?」
確か金稼ぎでなくニンフとしての欲求を満たすために働いていると言っていたはずだ。辞めたらどうやってその欲求を満たすのだろうか。
「うん、だから旦那様に本当の旦那様になってもらおうと思って」
「……それはつまり?」
流石にここまで言われたら意味はわかるが、思わず聞いてしまう。
「お嫁さんにしてもらおうと思って」
確かに前に良い人がいたら一生尽くすとか言う話は聞いていたがその良い人がまさか自分になるとは想像もしてなかった。もちろん気に入ってくれたように感じてはいたがまさか、わざわざ自分から探し回って店まで辞めるとは。
だが、ここまで言ってもらったのに答えをはぐらかすなんて男じゃない。イリス達を受け入れる時にもしそういうことした相手が望むなら誰だろうと責任を取るときめたのだから。
「わかっ」
「「ダメ!」」
イリスとメイがオレの声をかき消す。珍しくメイの語尾がにゃではないがこれは焦っていたり、余裕が無かったりするときの兆候なのである。たまに行為の最中でもなくなるがそれはまた別だ。
要するに二人ともすごい剣幕で拒絶していた。前もって言ってあったしそのことも了承してあったというのに。
「絶対ダメ! 誰が何と言おうが私は絶対認めないから!」
「メイも反対、大反対にゃ!」
必死と言った様子で騒ぐ二人。一体何だというのか。
「何でダメなんだ? 少し前まで良いって言っててくれたのに気が変わったのか?」
「気は変わってないけどダメなものはダメ!」
意味が分からない。変わってないならダメじゃないだろうに。
「この人だけはダメにゃ! この人を許すくらいならメルルの方が全然ましにゃ!」
「おいおい、ジュリーはこう見えても意外と気が利くし、他の奴よりは信頼できるともうぞ」
根拠は野生の勘と寝た時の感じなので説得力ないが。
「それにこんな綺麗な人に求婚されて、責任も取らず逃げ出すのはオレらしくないだろ」
「綺麗だから駄目なのよ!」
「ブサイクだったらいいのか? わけわからん理由だぞ、それ」
「違います! そうじゃなくて……」
埒が明かない会話が続いていたのだが、ジュリーは何かに気づいたように手を叩く。
「わかったわ~」
「何がだ?」
「二人が私を嫌がるのは旦那様を取られたくないからね。独占したいってことでしょう?」
「ち、違……わないですけど、そういう恥ずかしい事はわかっても言わないでください!」
「かわいいー。この子も旦那様のものなの?」
ジュリーが遠慮なくイリスに抱き着いた、イリスは離れようともがいているのだが、ジュリーが意外なことに巧みに抵抗する腕をかわして抱き着き続ける。挙句の果てに頬ずりまでし始めた。
「否定はしないけど、その旦那様はやめてくれ。やっぱりそう呼ばれるとムズムズする」
「えー、じゃあ……あなたでいいかしら」
一時の事だと思っていたのであの時は気にしなかったが改めて連呼されると気恥ずかしいのだ。
イントネーション的に他人ではなく夫という事だろう。これならまだマシである。
「何勝手に話を進めてるにゃ! メイ達は認めてないにゃ!」
「別に綺麗だからってイリス達の事を放っておくつもりはないぞ。それでもダメか?」
「ダメにゃ!」
「何で?」
「そ、それは……」
メイは一瞬躊躇ったがキッとこちらを睨んですぐに口を開く。
「だってこんな綺麗な上、エッチも上手なニンフの人いたら絶対アゼルはこの人の所ばっかりいくだろうし、それにニンフなんかと比べられたらメイ達に勝ち目なんかないにゃ! そんなの嫌にゃ!」
「だからオレは比べたりなんかしないって」
そんなことで何をそんなに嫌がっているのか。その程度の覚悟でオレは二人を受け入れたわけではないというのに。
確かにオレはエロいことが大好きだが、それだけで愛情を決めるほど馬鹿じゃないつもりだ。
ただ、二人はそうは思えないらしい。
「例えアゼルがそう思わなくても私達がそう感じちゃうの! ニンフみたいに生まれついてのスペシャリストみたいな人に適うわけがないし、そんなの耐えられない!」
「メイもアゼルに満足してもらえなくなりそうで嫌にゃ! そうじゃなかったとしても恐いものは恐いにゃ!」
愛されていると感じるのだが、そう言われても困ってしまった。ここでジュリーを見捨てるのはあの時の覚悟を軽んじることになる、それはオレにとって譲れるものではないのだが、こうまで惚れた女に言われてそれを無下にあしらうのも何か違う気がする。
そう思って困りきっていたのだが、
「じゃあ、こうしましょう。二人ともちょっと耳を貸して」
ジュリーが半ば無理矢理、嫌がる二人を抱き寄せるようにすると何かを耳打ちする。聞こうと思えば聞こえるが内緒話を盗み聞きするような卑怯な真似はしない。なので、どんな話をしたかはわからなかったのだが、その話を聞いた二人の表情が激変した。
一体何を言ったのやら。
そこから女同士の秘密の話がしばらく続いた結果、
「やっぱりジュリーの事は賛成するね!」
「メイもにゃ!」
「変わり身速いな、おい」
まあこちらとしても助かるのでいいのだが。しかし一体何を言ったのか気になってしまうではないか。
「じゃあ今日はジュリーに家の案内と歓迎会ってことで依頼は休みにするか」
他の三人も賛成したので早速みんなで買い物に向かった。
その夜、行為の後、二人が寝ている間にジュリーに聞いたら条件付きで許されたのこと。その条件とやらがジュリーの手管のすべてを指導するといった、何ともオレにしたらくだらないものだったが、そんなことを気にする二人にオレはより一層愛情を深めることができたのだった。
もちろんその後もジュリーとは散々貪り合って、結局寝たのは日が昇ってからである。
正直、ジュリーを甘く見ていたと思ったがそれも良いと思ってしまうあたりオレはやはり単純で馬鹿だった。
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