王都大侵攻編
第二十二章兼エピローグ 残った懸念とこれらの日々
その後日談と言うべきか、王都に戻ったオレは当然のことながらこっぴどく叱られた。もちろんイリスとメイの二人にである。
正座させられて小一時間文句と愚痴を言い続けた二人だったがオレが怪我は無く、無事に帰ってきたことに免じて許してくれた。
王様からは大げさなくらい感謝されて、一冒険者には身に余る褒美をくれようとしたので必死に断った。もらえる者は貰う主義だが、さすがに国の土地をくれると言われてもどうしていいのかわからない。
そういうのは貰うにしても、もう少しオレがこの世界の事に詳しくなってからにしたかったので、今回オレが使った魔法や道具の破棄、そしてオレが単身で戦ったことを秘密にしておくと言う条件で何とか納得してもらった。
何か欲しいものが合ったらすぐ申し出るように言われたが、たぶん一生しないだろう。あの腹黒達に借りを作るのはなんとなくだが嫌な予感しかしないからだ。
ただ、次に会ったダグラスから報酬は受けとった。ギルドがわかる限りの倒した魔物の分の報酬と言う事で金貨が百枚。オレがほとんどの魔物を欠片も残さず倒してしまったから確認できたのは半分もないらしく、これでも少なすぎるとのこと。
正当な報酬だし金はあっても困ることはないのでもらうのには抵抗はなかったが貰っても今のところ使い道がない。考えた結果、一つの案を思いつきダグラスに相談したところ最高の物を用意するとのことなのでその金に加えて持っている金のすべてをダグラスに預けた。
そこまでして手に入れた物、それは家だ。
「すっごいにゃー。こんな立派な家を、冒険者初めてわずか二週間足らずで買うなんてアゼルはやっぱり大物だにゃ」
「大物かどうかはともかく、これで拠点が出来たしこれから色々便利になるだろ。金はすっからかんになっちまったがこれから人も増えるだろうしこれくらいで構わないさ」
ダグラスが用意してくれた家は三人で住む荷余りにも大きすぎた。いや、恐らく例え十人住んでも余るだろう。豪邸と言うに相応しい立派な家だった。訓練場や工房と一通りどころかここだけでその気になれば冒険者に必要なものがすべて揃えられるようになっているらしい。
維持費やらなんやら必要な金は前持った金からもらったとのことで十年はそれらの事は気にしないでも良いとのお墨付きをもらった。食材やら家具やら生活に必要な物もあらかた揃えているのでしばらく何もしなくても生きていけるくらいである。
キッチンを見たイリスは非常にご満悦そうだったし、メイはメイで日があたる大きな庭で気持ちよさそうに猫みたいに丸まって二匹と一緒に微睡んでいたし、みんな気に入ってくれたようで何よりである。
金を払って宿に泊まるのも悪くはないしそれが普通らしいが、これから二人を養っていくと決めた以上宿で暮らすというのはなんとも味気ない。ここなら思う存分に鍛錬も好きなことも出来る。
しかもこの豪邸の他に隣の倉庫も、と言っても最早一軒の家なのだが、使用できるようにダグラスが交渉してくれたらしく、仲間が出来た時に泊めてやれとのこと。豪邸側に泊めてやってもいいのだがたぶんそういうことする時の声が聞かれる気がするので、断固としてそれは嫌なオレにはこれは助かった。なんなら将来有望な奴をそっちに住ませて鍛えてやってもいいかもしてない。
その倉庫をどうするかは今後決めるとして、今決めなければならないのはオレ達三人が依頼でいない時に屋敷を管理してくれる人である。これはダグラスに信頼できる人を紹介してもらえないか頼んだのだが、現在も捜索中とのことで中々はかどっていない。早めに決めたいところであるが下手な人選をして裏切られるのも御免なので難しいところである。
そんなこんなで平和を手に入れたかのようなガラム王国だが、一つだけオレには懸念が残っていた。それはオレが会議の時に上げた唯一の懸念である。
―なあ、一つ聞きたいんだけど騎士団長とかってそんな頻繁に国を開けるもんなのか?―
会議も終わりかけたところでオレはクライスに問いかけたのだ。
―いや、こんなことは滅多にあることじゃないよ。一人二人がいないことはよくあるけどここまでいないのは非常に稀。五十年に一度あればいい方だね。国を守る騎士や宮廷魔術師が国をおろそかにしてはその存在の意味がないからね―
そうなのだ、そうなるといくらなんでも偶然が重なり過ぎではないか。姫様の婚儀とかで偉い宮廷魔術師が国を離れている時に、偶然近隣の国が危機に陥り騎士団長達が出張り、そんな時に偶然国の周囲の魔物に異変が起き、偶然魔物がより強い魔物に率いられて大侵攻をするなんてことがあるのだろうか。後者二つは因果関係があるのでわからなくもないが、誰かが国の守りが薄い時を狙い澄ましたかのように動いたようにしか思えない。
もちろんそんな奴がいるとも限らない。確証は何もない。だがこれほどの事全てを偶然と言い切っていいのだろうか。
オレがニキやダイをイリス達の元に置いていったのもなによりそのことを警戒していたのが大きい。どこで誰が聞いているかわからないと言ったのは何も王宮の人達の事だけではない。敵が王宮内に潜んでいても何らおかしくはないと考えたからだ。
もし、万が一、これらすべてが何者かの思惑で起こされたことだとすると、そいつは姫の婚儀の時を狙って隣国に囮の魔物達をけしかけて手薄になっているガラム王国を狙ったという極めて計算された作戦を立てた頭の切れる奴だ。
その可能性はクライス曰く零ではないものの限りなく低いとのことなので杞憂であればいいのだが。
「アゼルー、ご飯出来たよー」
自室でそんな取り留めないことを考えていると階下からイリスの声がする。
「早くしないと先に食べちゃうからにゃー!」
メイもいるようだった。どうやら相当腹が減っているらしい。そう考えて思わず笑ってしまった。
「ははは! まあ、そんなこと考えてもしょうがないか」
「「ウォン」」
傍にいるニキとダイもオレの言葉に同調するように吠える。
「その時はその時。今はあいつらとの生活を楽しんで人生を謳歌する、それが一番だよな」
せっかく生まれ変わったのだ。楽しまなければ損である。何かあってもオレが仲間を守ればいいだけの話である。
そう、ただそれだけの話だ。
「今、行くって!」
オレは自分でも気づかない内に笑みを浮かべ、二人が待つ食堂に降りて行った。
これで一つの章が終わりました。こっからまた一気に書き上げてから上げるのでしばらくお待ちください。
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