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王都大侵攻編
第二十一章 武器属性付加(ウエポンモデル)
「……本気でやれる」
 
 皆、神獣に認められた者としてオレの事を見ていた。だが、それは間違っていないがある意味では正確ではない。
 通常ならそれはこれ以上ないくらいに正しいのだろう。最強の神獣に認められた人間、誰もがそう考える。

 そう誰も神獣より主の方が強いなんてこと考えはしないのだ。
 オレは神獣に認められた者ではない。
 
 神獣を従える主人、それがオレだ。
 
 あの二匹は常にオレの傍にいてオレの力がばれないようにしていてくれたのだ。体から自然に立ち昇るだけで周囲を威圧どころか、侵食していくこの力を。

「あいつらの抑圧なしの全力なんて滅多にだせるもんじゃないし、思いっきり暴れるか!」
 
 スイッチはとうに入っている。このスイッチも異常を通り越した特異な魔力量を秘めるこの体がその押さえの為に作ったものではないかとオレは睨んでいる。こんな力にずっとさらされて自分自身が壊れないように。

「まあ、そんなことどうでもいいか」
 
 今やるべきことがただ一つ。目の前の敵を倒すこと、それのみだ。
 
 オレの本来の戦闘スタイル、それは自分が鍛えた上げた剣と魔法の技術を合わせることだけだ。もちろん時間を掛けていいならもっと別の方法が腐る程ある、それこそ元の世界の知識を使った広範囲の敵の殲滅が可能な魔法だって。

 だが、それらはこんな大規模で使ったことはないし理論を頭でイメージしたりと色々時間が掛かる。ぶっつけ本番なんて御免だし、一番速く実戦的なのはやはり慣れたこの戦い方なのだ。

武器属性付加(ウエポンモデル)(フレイム)

 一本だけ刀を抜いて、その刀の内部に、イメージとしては刀を構成している元素の間に魔力という液体を染み込ませていく感じで、丁寧にけれど一瞬で炎を起こす魔法を刀に流し終えた。擬似的な魔道具だ。永続的ではないがオレの魔力が続く限りこの刀は火の力を得る。

「よし」
 
 後は本能のまま戦うだけだ。
 
 オレは前に出る。それと同時に前方にいた百体近くの魔物は炎を纏った刀の一振りで斬り殺した。突然体がバラバラなるか、その激しく燃える炎に呑まれて死んでいく仲間の姿に驚いて動きを鈍らせた奴にも同じ末路を辿らせてやる。
 
 これを十回程繰り返したところでようやくオレを倒さなきゃ王都には辿り着けないと理解したのかほとんどの魔物のターゲットがオレに向かうようになった。オレは魔物の群れに突っ込んでいたので全方向から襲い掛かって来られるが刀を一振りすれば前方の魔物は数シクル先までの数十対を巻き込んで斬られ周囲にいる魔物は刀から発せられる熱のこもった斬撃の余波で焼け死んでいく。

 最早ランクなんて関係なくオレが刀は死神の鎌の如く一振りすれば大量の魔物の命を奪った。

 わざわざ炎を纏った理由は目立つからだ。目立てば魔物はオレを敵として認識して襲い掛かってくる。ただ、数が数なのでオレを無視して王都に行こうとする奴も中に現れるので、

「逃げんじゃねえよ、爆裂地雷(エクスプロージョン)!」
 
 前もって地中に張っておいた火の玉の近くに魔物が来たら、仕込んでいた魔法が発動して瞬時にある志向性持つ気体を集めた風の魔法を火の玉に収束させる。イリスに見せた魔法を誰かが来たら発動するように改良を加えた物であり、結果は当然、そこを通り過ぎようとした魔物は一瞬で爆発に飲み込まれ血の一滴も残さず蒸発した。

 魔法版地雷と言ったところだ。こんなことが防衛線の至る所で起きている。この罠は防衛線どころか南側の至る所に腐る程用意しておいたし、防衛線のところの物は爆発したのを映写(ビジョン)で確認したらすぐさま新しい罠を張る。

 この地雷だらけの戦場はオレが倒さなければ決して通り抜けられないのだ。一人で戦うと言い張ったのはグラントさんの予想の通りオレの力をなるべく見られないためもだが同士討ちを避けるでもあるのだ。この罠に万が一、誰かが引っ掛かったら当然魔物と同じ末路を辿ることになるので強力だが使い些か勝手が悪い罠なのだ。その分威力は申し分ないが。


 万を超える魔物と言えど刀の一振りで数十対から下手すれば百体近くを殺されれば、見る見るうちにその数を減らしていく。逃げ出そうとして罠にかかって、周囲を巻き込んで自滅していく奴まで現れ始める始末だ。大勢は完全に決したかに見えた。
 

 とは言っても未だに千を超える魔物が傷つきながらも殺気をむき出しにして向ってくる。恐らくハイベアーなど見たことある奴から考えれば、今残っている魔物は恐らくこの群れの中でも高位の魔物、Cぐらいはある奴ばかりだ。


 強い奴が残るのは当たり前と言えば足り前なのだが、その分学習する知識もあるらしく、匂いで判断でもしているのか罠をことごとく避ける奴まで現れ始める。


「おいおい、どんな勘してんだよ」
 
 地中に埋めて見えないようにしてある罠を一体どうやって感じているのか、方法はわからないが厄介なことには変わりはない。ここでこいつらを退けても生きていたら、かなり先のことだろうがいずれまた大侵攻を起こすだろう。その時余計な知恵を獲得したこいつらがいるのは好ましくなかった。

 それにここまでくれば殲滅する気でやった方が手っ取り早い。


武器属性付加(ウエポンモデル)(アイス)
 
 すぐさま氷の魔法が付加された刀を地面に突き立てる。地面は広範囲にわたって魔物の全身、あるいは下半身ごと凍りつく。これで動きは封じた。

武器属性付加(ウエポンモデル)(ウインド)
 
 風の魔法で体の速度と切れ味を増した刀で瞬時に間合いを詰めて、一体一体確実に葬っていった。動けない魔物なんて怖くもなんともない。そうしてほとんどの魔物をたおしたところで一体だけ氷を破ってこちらの攻撃を受け止める魔物が現れる。後方に控えていてこの力、こいつがこの群れのボスだ。
 
 巨大な斧を持ち牛の頭をした人型の魔物、確かC+魔物、ミノタウロスだ。

「邪魔されてお怒りってわけか」
「ぶおおおおお!」
 
 雄叫びを上げてオレの刀を弾きあげる。そして腕が倍になるほど力瘤を膨らませ斧を上段から振り降ろしてくる。だが、

「遅え!」
 
 その腕が振り降ろされる前に腰に差さっていたもう一本刀を抜いてその両腕を斬り飛ばす。両腕と共に斧も宙に飛んでいくのだがそんなこと些細な事と言わんばかりに気にもせずミノタウロスは斬られた腕で殴りつけてくる。さすがにこの異常なまでの執念には虚を突かれたがそんなことで攻撃はくらわない。交叉するように前に出て今度は肩から先を斬る。

 首を狙ったが間一髪のところで躱されたのだ。だが、抵抗もそれまでだった。

「ぶおおおおおおおおおおおおおおお!」

 さすがに痛みに耐えきれず吠えるミノタウロスの、何かされる前に、残ったもう一つの腕も肩から完全に斬り飛ばす。

武器属性付加(ウエポンモデル)双土刃(デュアルアースソード)!」

 そのまま逃げる隙は与えず土の力で周りに鋼鉄を付け巨大化させた刀と言うよりは大剣と化したそれの、左で心臓を一突きに、右で首を斬り裂いた。あまりにも太い首は巨大化させた刀でも両断出来なかったものの、皮一枚で繋がっているだけで最早その役目を果たせはしない。

 後ろ向きに倒れるミノタウロスから刀を引き抜く。かなり返り血を浴びてしまったがこのランクの魔物では致し方ない。地面に倒れた衝撃でかろうじで繋がっていただけの首を体から離れ転々と地面を転がって、やがて虚しく止まった。

「これで終わったか」

 まだ魔物は残っているがミノタウロスと戦っている内に氷から抜け出して逃げられてしまった。殲滅できなかったのは失敗だったがほとんどの魔物は始末できたので良しとする。
 今回の残党狩りもギルドの依頼で出るだろうし、いずれは狩られるだろう。何ならイリスやメイとその任務を受けるのもありかもしれない。
 
 そう考えていると、しばらくして北側の方からも勝利の連絡が入り、こうしてガラム王国五十年ぶりの大侵攻は幕を閉じた。
一段落まであと少し!


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