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王都大侵攻編
第二十章 腹黒チャンピオンとの奇妙な縁
 時間は一時間遡る。

 一人でやる、そう言いだしたオレにクライスが食って掛かって来た。
 矢継早に繰り出される質問を無視してオレはこれだけを繰り返す。

「あいつらにはオレの仲間の護衛をしてもらう。そして南側は俺一人でやる。周囲に誰も近づけさせないようにしてオレが戦う姿は決して例えあんたたちでさえ見えないようにしておく、これが飲めなきゃオレは一切協力しない」
「無茶を言わないでくれ。いくら神獣の主と言え君一人にすべての責任を負わせるわけにはいかない」
「ならオレは戦わない、それだけの話だ」
 

 睨み合うオレとクライス、そこで

「はっはっは! これは俺達の負けだよ、クライス。言うとおりにしてみようぜ」
「ギルドマスターまで何を言いだすんですか!?」
「だって、それ以外方法ないじゃねえか」
 
 このダグラスの簡潔な言葉にさしものクライスも言葉に詰まる。
 
 その上

「儂もそれしか方法はないと思うな」
「失礼ながら私もです。無論本意ではありませんが」
 
 王様と宰相からも援護射撃が来る。形勢はオレに傾いて来ていた。

「そこの愚かな男と同じ意見なのには本当に不愉快ですが、最早議論している余裕もあまりありません。アゼルさんが大丈夫とおっしゃっているのですからそれを信じるしかないでしょう」
「義理とはいえ弟を愚か呼ばわりとはひでえ兄貴だ」
 
 なるほどここまで齢が離れているのは血が繋がっていないからか、と納得する。ささやかな疑問が解消された瞬間だった。

「アゼルさんは独自の魔法を使われるようですし、その魔法が見られたくないのでしょう。我が国の宮廷魔術師も似たような部分があるのでわかります。こうまで秘匿に拘る理由まではわかりませんが、こうまで譲らないのは余程のことなのでしょう」

「ですが……」

「ディスティニア様も同じでしたから無駄ですよ。子は親に似ると言いますがここまでそっくりな親子も珍しいでしょう。何も頑固な部分を引き継ぐことはないと思いますがね」
 
 この発言にびっくりした。王様が知っているのだからそれより年上の宰相が知っていてもおかしくはない。ただ、前にあった時何も言わなかったからてっきり関係ないと思い込んでいたのだ。

「グラント・ハウト、これでも一応彼女の唯一の師匠ですからね。弟子の弟子には名前くらい覚えておいていただきたいものですね。最も僅か数年で実力は抜かれてしまった情けない師ですが」
 
 表情だけでそこまで読むなんて、どういう洞察力をしているのだろうか。しかも母さんの師匠だったなど母さんからその存在すら聞いたことはない。
 
 王様も意外だったらしく驚いてた。

「儂もその話は聞いたことがないぞ」
「彼女に頼まれていたので墓まで持っていくつもりでしたから。まさか彼女の息子が現れるとは私も予想外でしてね、しかもそれが神獣に認められし者だとは。悩みましたがアゼル様は彼女を血は繋がらずとも本当の母のように慕っている様子、秘密にしておくのは人に道に外れると思ったのです」
 
 そう言って綺麗に一礼した。散々腹黒い人は見てきたが一番の食わせ者は間違いなくこの人だ。

「ちなみに、ヘキサグラムも元は私の弟子でしたね。まったく、奇妙な縁です」

 ヘルメスさんの、あの腹黒具合はこの人から受け継がれたのか。どうりでだ。
 
 皆、オレを含めて完全にグラントさんの発言に動揺を隠せず、唯一この場で冷静なグラントさんがあっという間に話をまとめてしまった。オレの条件を呑んでくれたので文句はないがいまいち釈然としないのは何故だろうか。
 
 その後細かい話を終えたオレはイリスやメイが待つ部屋に行く。

「アゼル! さっきのは一体どういう事なの!?」
「すまん。後で全部話すから今は先に用件だけ済ませてくれ」

 珍しく興奮した様子のイリスには悪いが時間がない。戦いの準備ならすぐ済むが、これからかなりの数の通信のための触媒をつくらなければならないのだ。数が数だけにかかる時間も馬鹿にならない。

「イリス、それにメイもこれを持っていてくれ」

 前もって用意していた指輪を渡す。
 先程イリスと通信したのはお互いに付着した髪の毛を利用したもので即席であるため効果も弱い。こうして目印としてオレが念入りに作っておかないと詳しい場所を把握していなければ通信できないのであれはあくまであの時だけのものだ。

「これは簡単に言うと持っていればある程度の距離までならオレといつでも遠距離でも会話できる魔道具だと思ってくれ」
 「どういうこと?」
「説明してる時間はないんだ。頼む、オレの話を黙って聞いてくれ」

 後で誠心誠意、心を籠めて謝ろうと誓う。急いでなければオレもこんな冷たい言い方なんてしたくないのだ。

「今からオレは魔物を食い止めるために戦いに行ってくる。ニキとダイを置いて行くから二人はここでこいつらから離れないでいてくれ。いいか、絶対一人にはなるなよ」

「アゼルが戦うことになるとは思ってたけど、私達が参加できないのは何で?」
「悪いがそれも言えないんだ」
 
 オレの顔を見て察してくれたのかイリスはそれ以上何も言わなかった。本当に出来た女である。俺にはもったいないくらいだ。

「アゼルは冒険者に混じって戦うのにゃ?」
「いや、北の半分は冒険者と軍を配置してクライスがそれを指揮しながら戦う。南側に来る魔物はオレ一人で対処する」
 
 この発言に二人は先程の会議など比にないくらいに反対された。

「私達だって冒険者何だから自分の身は自分で守るわ! いくらアゼルが強いって言った手一人じゃ何が起こるかわからないじゃない!」
「そうにゃ! アゼルが物凄く強いのは認めるけど、それとこれとは話が別にゃ!」
「これは決まったことなんだ、それに万が一なんてありえないから心配はいらない。オレを信じてくれ」
「でも……せめてニキかダイは連れて行って。そうすればアゼルの身だって安全でしょ。私達はどっちから絶対離れないようにしておくから」
「いや、ダメだ」
「どうして? 何でそんなに危ないことをしようとするの?」
 
 ここでオレは大きく溜め息を付いた。ここではどこで誰が聞いているかわからないから言いたくなかったがもう時間がない。

「イリス達は勘違いしている。もちろんイリス達の身の安全も考えてるが、オレはオレの身の安全を一番に考えてる。オレが死んだらイリス達に何かあった時どうしようもないからな」
「だったら何で?」
「なぜってそれは」
 
 これを言いたくなかったのは周囲に聞かれない為にと実はもう一つある。実にくだらなくて、理由ともいえないものだが。
 
 それは

「オレはこいつら一緒じゃない方が強いんだよ」
 
 絶対自信過剰にみられるからだ。


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