一時間、正確には五十七分後にまずクライスがいる北側の防衛線に魔物の群れが到着した。その群れは数日前に会った、サウザンドゴーレムにランドラビットに加えオークやゴブリンなどの雑魚からヴァイパーと呼ばれる蛇型のCランクの高位の魔物もいた。
圧倒的なのはやはりその数、一部の隙間もなく視界を覆いつくすその黒い津波は並の物なら恐怖で動けなくなるであろう迫力があった。
そんな光景を防衛線の更にその先、一人で相対することになったクライスはいたって平然としていた。自然体そのものだ。
「先に僕の方が来たようだね。そちらはあとどれくらい掛かりそうだい?」
「見た感じあと一分ってとこかな。オレの方の準備は簡単ですぐ済むから良いけどそっちは間に合ったのか?」
「正直、ギリギリだったけど何とか間に合ったよ。これで王都には一匹も近づけさせないで済む」
「言うねー。それで例のダグラスの予想したこいつらを支配する統率個体らしき奴は確認できるか?」
「……見た限りではそれらしき魔物はいないね。出来ればそのもしもは当たらないで欲しいところだよ」
同感だった。けれど得てしてそういう願いは叶わずに悪い予感ばかり的中するのが世の常だ。
「それにアゼルが言っていた唯一の懸念、もしその考えが正しかったなら……いや、やめておこう。敵がどこで聞き耳を立ててるかわからないからね」
「だな、さすがに通信に割り込めるとは思えないが用心するに越したことはない」
「そうだね。さてと、そろそろ接敵するから通信は待機状態にしておくよ」
「了解、無事生き残れよ」
「そのセリフはそっくりそのまま返すよ。南側を一人で相手するなんて馬鹿なこと言い出した君に」
そう言い残して通信が切られた。あくまで待機状態であり何かあったらすぐに通話できるようにしてある。この通信の魔法をオレのオリジナルで電話というか無線からヒントを得て作り出した。
さすがに音波をただ届かせるのは無理だったのでその魔法を掛ける対象者の体の一部を共鳴させることによって通話を可能にした魔法だ。
現にオレはクライスやイリスなどの髪が埋め込まれた、どこから持ってきたのかわからない、人形を魔道具の中に入れているし、向こうもオレの血を染み込ませた指輪を貸している。これでその魔法の有効範囲内にいれば自由に通信が可能になる。
唯一の欠点は体の一部が埋め込まれた物がわずかでも破損すると魔法の掛かりが不安定になり効果がなくなってしまうことくらいだ。オレの王様からもらった魔道具の様に空間を操作するものがあればそこに隠しておけるのでその心配もないのだが。
北側から剣戟の音が聞こえてくる。映写で確認するとクライスが破竹の勢いで敵を斬り殺していく。時に剣から光が溢れその光を浴びた魔物は肉片の欠片を残すこともなくこの世から消えさる。魔道具の性能もそうだが、その手並みは鮮やかで一切の無駄がない。対個人に特化していると言っていたのにこの殲滅力、もう一人いればどうとでもなると言っていた自信がわかるというものだ。
もちろん、たまに突破を許すこともあるがそれはわざとだ。その魔物は狙い澄ませたように後ろに控えた騎士と宮廷魔術師にあっさりと殺される。クライスが一度に多くの魔物が行かないよう、そうなるように戦いをコントロールしているのだ。そうして戦う中に王都に来た時に会ったシュバーンさんやあのクズ、ヒルスの姿もあった。
「最後に嫌なもの見たな」
そこでその映写は切った。これ以上顔も見たくなかったからと既に目の前まで魔物の群れが迫っていたから。
「考えてみればニキやダイと一緒じゃない戦いなんていつ以来だっけ? 何年も前だよな」
常にニキやダイはオレの傍にいてくれた、日常でも戦闘でも。
「何かやっぱり寂しいな。でもこれで……」
そうしてオレは一時間前のその出来事を思い返した
ルビがうまくいかなかったので変えました。
区切りがついたら前の奴も読みやすいように直していきます。
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