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誤字脱字、読みにくいとの指摘が多く申し訳ないです。

できるだけなくしていくのでお付き合いお願いします。
王都大侵攻編
第十八章 どこにでもクズはいるらしい
「い、一体どうするのですか!? この規模の大侵攻を我らだけで食い止めるなど不可能です!」
「落ち着いてください、ヒルス中階梯。そのように焦っても何も変わりませんよ」

 クライスさんがヒルスという宮廷魔術師を宥める。この場にいるという事は現宮廷魔術師代表だろうが、挙動不審過ぎるし慌て過ぎだ。これではダグラスが頼りにしていなかったのも無理はない。

「これが落ち着いていられますか! 我々は死を目前にしているのですよ!」
「ですから、だからこそ落ち着いてかつ迅速に対処しなければならないのです。それともヒルス中階梯は死にたいのですか?」
 
 クライスさんの冷たくも正しい意見にヒルスとやらは言葉を失くす。こんな奴の相手に裂く時間も惜しいだろうに、クライスさんの苦労が嫌でも想像できた。
 
 今いる場所は王宮の作戦会議室というところでそこにいるメンバーは王様に名前を忘れたが宰相の人。騎士団代表のクライスさん、宮廷魔術師代表のヒルス、ギルドマスターのダグラスにオレを加えた全六名だ。イリスとメイは別室で待っており二匹はその護衛中である。
 
 あの後ギルドに行ったオレ達は慌てた様子のダグラスに連れられてここまで案内された。
 
 当初、オレがいることをヒルスとかいう奴は露骨に嫌がった。クライスさん曰く、アゼルさんの事は私と同じかそれ以上の人にしか言っていない、とのこと。
 こいつにとって見れば名前を素性も知れない冒険者がこの場にいるのが許せないのだろう。しきりに自分達と同じ地位とは思えないとかなんとか偉そうなことばかり言っていたし。エリート意識が高すぎるクズ、オレの中では早くもこいつに見切りをつけていた。
 
 もう少しオレがガキではなく、見た目が強そうであればとも思わなくもないが、外見に騙される程度という事でもある。やはり必要ない。

「クライスよ、何か手はあるのか?」
 
 王様が口を開く。あのおちゃらけた感じは一切せず、最初に謁見した時の圧力をその身から放っていた。

「正直なところを申しましてかなり厳しいと言わざるを得ません。私以外にもう一人いればやりようもあるのですが」
「軍の指揮をギルドマスターに任せて騎士団長は前線で戦っていただくというのはどうでしょう? それならば騎士団長がその力を如何無く発揮できるのではないですか?」

「兄貴には悪いがそれは無理だ。オレにだって冒険者をまとめるっていう役割があるし、軍の指揮携帯なんて俺は聞いたこともない。そんな奴が指揮したらこんな馬鹿みたいな奴らばっかりの軍が更にダメになるだけだって。下手すりゃ冒険者の方も中途半端な働きしかできずに共倒れなんて最悪なシナリオが出来上がるね」
 
 馬鹿にされたヒルスが何か言い返すが誰も相手にしなかった。この場においてその無能さをわかってないのはヒルス自身だけだ。

「やはり正攻法で行くしかないと思われます。私達騎士で前線を敷き、それを宮廷魔術師が援護する形以外この王宮のメンバーではそれが限界かと」
「申し訳ないがギルドの方も出来る限りの冒険者も大して使い物にならない。素質だけなら中々の奴もいるんだが如何せん経験が浅すぎる。一人を除いてな」
 
 この言葉でその場のヒルスを除いた全員がオレを見る。目立たないように黙っていたというのに台無しである。といってもダグラスも今回に限っては悪気も悪戯心もないのはわかっているのでしょうがないが。

「アゼルさん、何か手はありませんか?」
「こんな奴に聞いたところで無駄です、騎士団長。所詮どこの馬の骨とも知れない冒険者風情ですよ」
 
 代表して聞いたクライスさんの邪魔をするヒルス。いい加減鬱陶しくなってきたがこの場で暴れるわけにもいかないので見過ごしてやることにした。そんなことよりもクライスさんとの話だ。
 
 オレは迷ったが正直に答えることにした。

「……あるにはあります」
「それは一体?」
「嘘を吐くな!」
 
 恐らく、どういって方法ですか、と聞こうとしたクライスさんの言葉を遮ってヒルスは怒声を上げる。このクズが。

「貴様如きが、我らが思いつかない方法を思いつくなどありえん! どうせ金が目当てで適当なことを言っているだけであろう! まったくこれだから平民は屑ばかりだというのだ。クライス殿もこんな奴の虚言に乗せられるなんてなんて愚かな。どうせクズに似合った環境で、クズのような教育を、クズそのものの親から」
 
 瞬間、血が沸騰した。

「死ぬか、おい」
 
 オレの絶対零度の暴言で空気が凍りつき、その声に込められた怒りに唯一気付きもしないヒルスの顔が、ようやくその言葉を理解したのか怒りで赤くなってさらなる罵声を上げようと息を吸ったところで、

「ひぃ!」
 
 抜いた刀を首筋に突き付けた。クライスさん以外の誰もが剣閃はおろか刀を抜く姿を目で追えてすらいなかった。逆に言えばクライスさんは目で追い、対応できたにも関わらず何もしなかったのだ。こちらが殺さないことを完全に読んでいたのだ、これが騎士団長の実力か。
 
 オレも本気ではないとはいえここまで見切られるとは思っていなかったので内心驚嘆していた。しかもちゃっかり邪魔者を庇わないという腹黒振り、この人も人のこと言えないくらい良い性格している。
 興味がクライスさんに移ったおかげで若干怒りも収まった。無論、もう一度こいつが逆鱗に触れたなら誰が何と言おうが殺すが。

「クライスさん、その内容を話すのに一つだけ条件があります」
「何でしょうか?」
 
 わかっているというのに平然と言ってくる。たいしたものだ。
 
 またクズが懲りずに何か言おうとしたから刀をもう少しだけ押し付けて黙らせる。首から少し血が出るがこの程度では死なないし、というか死んでも問題ないので構わない。

「こいつをこの戦いが終わるまで牢にでもぶち込んでおいてください。それが無理ならオレの目の前に現れないようにしてください」
「わかりました。作戦を聞くためなら仕方ないですね。ヒルス中階梯、今すぐこの場から立ち去り、指示があるまで自室で待機していてください」
 
 また無駄口を叩こうとするヒルス。これ以上は恐らく生命維持に関わる血管が切れるというのにドМな奴だ。

「自ら出て行かないというなら仕方ありませんね」

 空々しいとはまさにこのことだ。クライスさんは部下の騎士団を呼び出すとヒルスを牢に入れるように指示する。
 それに満足したオレは刀をしまう。それで喋っていいと勘違いしたのかヒルスが喚きだす。

「な、何故私がそのような目に合うのです! 騎士団長と言えど宮廷魔術師である私を拘束するなど越権行為ですよ! 離せ、くそ! 離さぬか!」
 
 その声は徐々にフェードアウトして聞こえなくなった。ここでまた失言すれば命を刈り取ってやったものを運がいい奴だ。
 それにしてもクライスさんの印象ががらりと変わった。強いが真面目過ぎて少々面白みに欠ける人だとばかり思っていたが、オレの人を見る目もまだまだだ。

「申し訳ありませんした、アゼルさん。初めからこの席に入れないようにしたかったのですが災害時に宮廷魔術師を理不尽に左遷したという事実を残すわけにはいかなかったのです」
 
 オレが言い出したから体のいい理由を得て隔離したと。この人たちがわざとあいつが何を言ってもほとんど反応しなかったのはオレを怒らせてその発言を引き出すためだったのか。前もって打ち合わせをしている時間もなかったし。
 
 うまく使われたことになったが不思議と気分は悪くない。自分より上手なひといるというのは悔しくもそれを超える楽しみがあるというものだ。
 
 この場にはタヌキかキツネしかいない。何とも物騒な所だ。

「これからは一緒に戦うんだし呼び捨てでいいですよ。冒険者に宮仕えって対場は違えど仲間なんですし」
「でしたら私の事もクライスと呼んでください、いえ、くれないかい。私達は仲間
なんだろう?」
 
 オレはニヤリと、クライスはさわやかにと違いはあったが互いに笑って自然と握手をする。腹は決まった。ここまで言って力を出し惜しむなんてせこい真似はしない。もちろん、対策は立てる、立てないは別問題だが。

「それじゃあ作戦の内容を話します。まず、クライスには前線で戦ってもらう」
「構わないが軍の指揮はどうするんだい? 対個体に特化した騎士である負けはしないが私にはあの群れを押しとどめることは出来ないよ」
 
 代表してクライスが質問する。負けないとは大した自信だ。
 周囲は何も言わないがこちらの話にしっかりと耳を傾けていた。

「それもやってもらう。戦いながら指揮は出来るよな?」
「可能だけど、前線で戦っていたら全体の把握なんて出来ない。そんな状態では適切な指示は不可能じゃないのかい?」
「それはこれでどうにかなるはず」
 
 そう言って映写(ビジョン)を使って見せる。皆、驚いた様子だがそれに構っている暇はない。これからこの程度の魔法バンバン使うのだから。

「この魔法を改造して全体が見える位置に置いた奴の視界の映像をあんたの周囲に常に映るようにしておく。通信の魔法を使って指示も可能だ。おーい、イリス」
「きゃ! あ、アゼル? どこにいるの?」
「悪い、後で説明する」

 申し訳ないが時間がないので一方的に通話を切った。
 通信をしたのはイリスだ。ここからイリス達が待つ客室は少なくとも二階から三階は離れている。これで性能の証明になっただろう。

「これなら戦いながら適切な指示が出来ると思うんだが、どうだ?」
「可能だね」
 
 驚く時間がもったいないとわかっているから簡潔に答えを返してきてくれる。何とも頭が回る奴だ。

「次にこれを見てくれ」
 
 魔物の群れを皆に見えるように映写(ビジョン)展開する。

「これを見てもらえばわかると思うが魔物の群れは北と南両方から攻め込んできてる。数はどっちも多すぎて不明。つまり、オレ達は戦力を分断して戦わなきゃいけないってことだ。クライスと軍で北を抑えたとして、南は冒険者だけで抑えきれるか?」
「無理無理、百パー突破される」
「だろうな」
 
 ここで大丈夫ならオレが出なくても良かったのだが、ない物ねだりして仕方ない。そもそも大丈夫ならオレに頼みはしないか。

「だったらもう片方はオレが殲滅する。ただし、条件が一つある」
「何だい?」
「……」
 
 この条件にはさすがに皆困惑を示す中には反対する人まで出てきた。だが、オレとしてもここは譲る気はない。頑として聞き入れる様子の無いオレに諦めを悟ったのか、やがては皆嫌々ながらも賛同してくれる。
 
 ここまで行ければ後はもしもの場合を想定しておくだけだ。
 そして、それに加えてオレは唯一の懸念を話し始める。

 魔物到達まで残りわずか約一時間、時間がなかった


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