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ここの話後々、重要になってっくる予定です。
王都大侵攻編
第十六章 生まれと元の世界の恩恵
朝起きてまず初めにしたことは反省と若干の自己嫌悪だ。詳細は省くが、言えたものではないので、おおよそ人間の限界というものを一回りいや、二回りほど超えたオレに必死に応えてくれた二人は辛そうだった。その疲労も苦痛も幸せそうに受け入れてくれるから助かるが今度からもう少し加減をしようと決意する。いざその時になって、抑えられるかと聞かれると疑問ではあるが。
 疲労しきった二人を置いて行けるはずもなく今日は依頼を受けることはせず、休みになった。あれだけやったというのに自分でも呆れるくらいにピンピンしているし、休みと言っても体が鈍るといけないので宿の裏の空き地のような、とてつもなく広い庭で久しぶりにニキとダイと真剣に鍛錬をする。並みの魔物では相手にならないオレの本気を受けられるのはシロや母さんを除けばこいつらくらいのものだろう。イリスやメイが弱いとは言わないが耐えられるとは正直思えない。騎士団のクライスさんならいい勝負は出来そうだとは思うが戦っている姿を見てないので詳しくはわからない。出来ればいつか手合わせしてみたいものである。
 いつだったかイリスに向けて毎朝鍛錬しているといったが、実はあれは完全に嘘ではないのだ。毎日鍛錬はしていた、それは朝ではなく決まって昼か夜だったが。
 というわけでしばらくまともに動けていなかった二匹もストレスが溜まっていたのかかなり本気でかかってきて途中からお互い完全に戦闘モードでやりあってしまった。前もってダイが気を利かせて土と氷で作り上げた特製の壁が無かったら間違いなく周囲に被害が及んでいただろう。
 武器なしの肉弾戦、武器だけありの近接戦、魔法だけありの遠距離戦。ニキとダイは、前者二つは特殊な力を使わず肉体のみ、後者は独自の氷や雷の力のみ使い、様々な条件を付けて存分にやりあった。最後二体一でなんでもありでやった時には周囲は無事だったものの地面に幾つものクレーターのような穴があちこちに開いて綺麗にならされていた庭が悲惨なことになっていた。ダイの力で直したが今後はそこも気を付けなければならないと心に刻み込んでおく。
 体を動かしてすっきりした様子の二匹に昨日の夜のお礼で肉を御馳走する。気を利かせてイリスの部屋で寝てくれたのだ。あんな状況で入って来られなくて幸いだった。確実に呆れられただろう。
(いや、もう呆れられてるか)
 特にニキはどうしようもない息子を見る目でたまにオレのことを見つめてくるのだ。ここのところ毎日盛っているし、恐らくこれからもこういうことは起こるだろうから反論できない。理解ある相棒で本当に助かると二匹と神に感謝した。
 その日一日休んだイリス達は翌日には復活したのだが、金に余裕はまだまだあるので依頼はしばらく受けないと言う事でパーティの方針は決定した。ダグラスの言っていたことも関係なくはないが一番の目的はオレ達の仲を深めることと実力の把握、そして今後の方針を決めるためである。
 昨日のオレとニキ、ダイの鍛錬を見たメイは接近戦の指導をオレに頼んできたのだ。
メイが自らの職業として選んだのはシーカー、聞けば主に周囲の魔物の気配を感知したり地図にも載っていない未知の場所の地形を把握したりと、いわば情報収集のスペシャリストの事である。無論一人で危険な場所を調べることもあるので戦闘能力は必須、魔法の才がないので獣人としての素早さを活かしたナイフを使っての戦いを得意とするとのことだ。シーカーという職業も匂いや自らの危機に敏感な獣の本能をもっているので天職だろうとイリスも言っていた。獣人の五感は、種族によって誤差はあるが、人間の約二倍か三倍だというのだからそれだけで有利だろう。
 と、いうわけで自らの仕事を果たすために非常に重要な戦闘能力を高めるためオレに師事を乞うてきたのだ。正直教わるか自分で考えて創意工夫はしてきたが、戦い方を教えた経験は皆無なのでかなり渋ったが基本的なことだけという条件付きで折れた。惚れた女のお願いに弱いのは男としての性であろう。
無論、渋ったのも基本だけに限定したのにも理由がある。
 オレの職業をこの世界で表すならかなりこじつけではあるものの刀や剣を使って戦う剣士、魔法を使うその名の通りの魔法使い、それに加えて神獣の主というものがあるがこれは神獣を連れて行動している人のことを指し示す。これらすべては先程も言ったが母さんに教わったものもあるがほぼ自己流で作り上げた物、言わばほぼ我流である。それだけならまだしもその我流の技や魔法は元の世界の知識を使って作ったものが多数を占めているのだ。その知識がないメイに教えたとしても理解できなかったり、変な癖がついて逆に弱くなったりする可能性が高い。なので、体を鍛えたり母さんから教わった基本的な部分を教えたりすることだけにしなければならないのだ。軽々しく教えて逆に弱くなられた日には大問題である。ちなみに騎士や宮廷魔術師は剣士と魔法使いのように剣と魔法を使うのに加えて各王国に伝わる特殊な技や秘伝の魔法を使える為名称が違うのだ。
 メイは獣人ということもあるのか身軽なうえにかなりの腕力もあった。もちろん、ニキやダイには到底及ばないがこれなら弱い魔物なら素手でも倒せるのではないだろうか。
 次々に繰り出される拳をオレはその場から片足を一歩も動かずに状態を逸らしたり半身になったりして躱す。さすがにメイもこれにはムキになってがむしゃらに攻撃を仕掛けてくるが容赦はしない。魔物と戦う時には油断も容赦も入り込む余地はないのだから。ひと
通りあしらい続けていたら体力が切れてきたのか、攻撃や動きが鈍く雑になって来たので躱しながら足を引っ掛ける。メイは簡単にその足に引っ掛かって前のめりで地面に倒れこみそうになるので、その前に動いて体を抱き留めた。オレの時はこんなもんじゃなく母さんに容赦なく地面に投げ飛ばされるか叩き付けられていたがさすがに女の子にそんなことはできない。
「集中しないなら終わりにするぞ」
「……ちゅ」
 いきなりメイがキスしてきた。後で聞いたら抱き留めてくれた姿がかっこよくてキュンとしたから、だそうだ。鍛錬中にそんなことする余裕があるので容赦なくお仕置きをしてやった、もちろんそっちの意味で。
そんな脱線をしながらも武器を使ったものなどの鍛錬や基礎体力作りにも付き合いメイは短期間でオレが驚くほどメキメキとその力を伸ばしていった。
 一方でイリスの方にも師事してくれるように頼みこまれた。イリスは魔法に付いて教えてほしいと言われたのだがこれも芽衣の時と同じ理由で渋り、同じ理由で受諾した。男がバカと言うよりオレが甘いだけかもしれない。
 しかし、イリスに教えるのはメイ以上に苦労を強いられた。魔法の知識や性質などはオレよりイリスの方が圧倒的に詳しかったからだ。しかも何とイリスは完全ではないが宮廷魔術師しか使えない魔法をヘルメスさんに習っていて使えるのである。国の秘術を勝手に教えるのはどうなのかと思ったが自分も人の言える立場でないと自嘲した。なので、基本的な事を教えると言っても何もない。とりあえず魔力量を増やす鍛錬を教えたのだがこれだけではあまりにもやることに芸が無さ過ぎる。
鍛錬は辛いものと言っても成長を実感できなければモチベーッションが下がってしまい、その効果も薄くなってしまう。そんな非効率なことはないので仕方ないが少しだけ自分でオリジナルの魔法を作るコツを教えた。
「魔法は対価として釣り合うだけの魔力さえ使えば大抵の事は使用者の思い通りに発動してくれる。直接人の体に魔法を掛けられない理由は」
「魔法とは魔力を使って世界に干渉する力の事を指し、その世界で独立している生物に対しては決して効果を及ぼさない。なので、例えば人を燃やしたいと思えば、まず世界に魔力を支払い生物のいない空間に炎を生み出す。そしてそれを操って人にぶつけるといった手順が必要になってくる。同様の理由から人の体に直接干渉が必要になる治癒魔法は魔法では実現不可能とされている、だよね」
「お、おう」
 逆にオレが教えられている方が多い気がするがそこは気にしてもしょうがない。気にしたらかなりへこみそうだし。
しかし、今の内容には若干誤りがあるがそれは訂正しないでおいていた。それはオレにとって奥の手というよりは禁じ手に近いものだから。それが、万が一人に知られたら今までの比ではない騒動に巻き込まれると悟ったオレは母さんにすらこのことは内緒にしていたのだから。イリスも人には言わないだろうが何かの拍子で発覚するかわからない。知っている人にも飛び火しかねないし、黙っているのが得策だ。
「要するに斬ったら燃える剣とかも剣の表面や内部に触れたら発火する魔法が組みこまれていてその効果で出来ているってことだ。鉱物とかは無機物、生物じゃないのは世界の一部だからかなりの難易度になるが直接魔法で干渉できる。こんな風にしてできる魔道具と呼ぶ。オレの刀にも常に最善の状態に復元する魔法が掛けられてるから刃こぼれも気にせず戦えるってわけだ。王様にもらった袋もなんらかの空間の魔法が掛けられた魔法具だったよな、確か」
 無機物には魔法を掛けることは理論的には可能で実際そう言う事例も少なからずある。だが、その難易度は非常に厳しいもので一流の職人ですら一生に一つ魔道具を作れればいい方と言われているらしい。その為魔道具はとても貴重で滅多に手に入らない引く手あまたの垂涎もののレアアイテムというわけだ。そしてその希少性故、魔道具は非常に高価であり、盗賊や金持ち、その他卑怯な収集家などの格好の的になるらしい。
「こうして考えるとアゼルは二つも魔道具を持ってるんだよね。Bランク以上の人でも持っている人は滅多にいないのに。その内、狙われたりするかもね」
「勘弁してくれ」
 実にありえそうな話である。こんなところで変なフラグは立てたくないので速攻その話は断ち切った。
「とにかく魔道具の作成ではそうやって物に魔法を付加して何らかの特殊性を生み出す のは理解できるな? だったらその物を魔法に置き代えて、二つの魔法を組み合わせてやればいい」
「魔法を合わせる?」
「そうだ。あんまり具体的な例は教えたくないんだが仕方ない、か。一つ例を見せると、イリス簡単な魔法でいいから火を出してくれ」
 イリスは言われた通りに小さな火の塊を掌の上に生み出す。詠唱もなしでこの速さ、さすがである。
「この火の球を消すにはどうすればいいか上げてみてくれ。もちろん、魔力の供給を断つとかはなしで他の手段で」
「水をかけるとか?」
「正解だ」
 袋から取り出した水筒の中にある何の変哲もない水をかけると火は当然のように消える。
「じゃあ逆に同じ条件で火を強くするにはどうする?」
「……風を送る?」
「そうきたか、まあそれも正解だ。もちろんただの風だと掻き消えてしまうから燃えやすい酸素とか、いや、なんでもない。性質を加えたものになるだろうがな。これで一つ、答えが出たろ?」
「どういうこと?」
 これは決してイリスの頭が悪いというわけではない。むしろイリスは賢い部類だろう。
母さんと話していてまさかとは思っていたのだが外に出て確信した。この世界の住人はどうやら魔法は魔法としてしか見ない傾向がある。それらはそういうもので組み合わせたりとか何故そうなるのかなど考えたりしないのだ。あくまで傾向なので全員がそうではないが。この理由は詳しくはわからないが、オレは魔法という現象が、魔力というものが、融通が利きすぎる所為にあると考えている。魔法は頭の中でイメージすることが大事であってその使う分の魔力さえあれば、ぶっちゃけ原理は大まかでいいのだ。より強く大きな火を起こそうと考えれば魔力多く使えばいいし、風を起こしたくても同じように、手法を多少変化させはするが、世界に魔力を捧げればいい。万能すぎる魔力を使っても起こせない現象であるならば実現は不可能、そういう意識が根付いているのだろう。
 だからこの世界には理科や科学のような学問はない。あってせいぜい読み書きが可能な程度の国語と簡単な計算ができる程度の算数くらいのもので唯一歴史や経済などは元の世界とそう変わらないが。魔科学といったものもあるらしいがイリスに聞いた限りではどれだけの魔力を使えばどれほどの現象になるかを調べるといった測定をするだけのもので原因を究明したりするものではない。幼いころからそういう思考をしなかったためかこの世界の人は閃きという部分が著しく退化しているように感じるのだった。
 元の世界では人は自らが楽をするために知識を絞り出してきたと言う。魔力という楽をするために最適でこれ以上の物がない世界ではそれ以外の物を探し必要がないのかもしれない。正直もったいないと思わずにはいられなかった。元の世界のような知恵と探究心を持った人がいれば世界はもっと繁栄するというのに。
 思考が脱線しかけたので頭を振ってそれらのことを頭の隅に追いやる。今、やるべきことは違うだろう。
「実際にやってみればわかりやすいからイリスはもう一回、今度は体から離れたところに火を起こしてくれ。オレは風の魔法を使うから」
 イリスが部屋の中心に先程と同じものを作り出す。その周囲を障壁でしっかり囲む。
「よく見てろ」
 酸素や水素などを圧縮した風の塊に視認出来るよう色を付けてゆっくりと飛ばす。途中で障壁を開けて風の塊を通してすぐさま蓋を閉める。そして風の塊が火の玉に接触した瞬間爆発が起こり障壁内全てが爆発に包まれた。
「きゃ!」
 爆音に驚いたのかイリスは腰から力が抜けたようにへたり込んでしまう。そこまで驚かせるつもりではなかったのでばつが悪くなる。
「この二つの魔法を同時にうまく使えばほんの少しの魔力で強力な火炎魔法が使えるはずだ。もちろん加減やら多少のコントロールが出来ないと自滅することになるから安易に使うなよ」
「もちろんだよ。こんな魔法アゼルがいなきゃ怖くて使えないもん」
 オレがいればいいのかと思ったが信用してくれているという事だろう。悪い気はしない。
「これはあくまで一例だ。火の威力を強くするってだけでも他にも色々数え切れないほど方法はある。オレにもいくつか思いつくものはあるけど、そんなのほんの一部だ。イリスだけが思いつく方法だってあるだろうし要はどれだけ固定観念に縛られず柔軟に考えられるかってことだ。これが言葉にするなら単純なんだがな実際には物凄く難しい。コツは常識を捨て去ることかな」
「常識を捨てる?」
「そうだ。どんな現象にも原因があるからこそ結果がある。その当たり前を当たり前としないでいればオリジナルの魔法は意外と簡単に出来るもんだぞ。最初は難しいだろうけどなれたらポンポン思いつくし」
 まあ、オレの場合それすら通り越して知識でそれらを知っているのだから反則なんて言葉じゃ生ぬるいが。
「ねえ、じゃあ私がアゼルの事を好きって現象にも原因はあるの?」
「いや、あるだろけど、それはオレにはわからないって。大真面目に言うとそれっぽいことは説明できるけど人の心は流石に確定したことは何も言えないってところかな」
「それじゃあ私の勝ちね。私はその原因言えるもの」
 ほう、それは興味深い。一体何でオレに惚れたと言うのか。
 イリスはそっと首に手を回して顔を近づけてくる。
「それはアゼルがどんな人よりカッコ良くて優しいから、これじゃダメ?」
 主観が入っているので科学的発想で言えば論外だが、オレ的には問題ない。むしろど真ん中ドストレートの大正解(ストライク)である。
「最高の答えだよ、それ」
一旦魔法の勉強は中断し、恋の勉強に変更することになった。その勉強は思った以上に長く続くはめになったが


 そうして一週間が経過した。



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