王都大侵攻編
第十五章 エロ猿なんてもんじゃなく……
イリスが作ってくれたご飯を存分に堪能しそのまま風呂に入って部屋の扉を開けようとしたところで異変に気付く。部屋の中に何者かの気配がある。ニキとダイは宿のリビングでくつろいでいるから違う。イリスも女湯に入っているはずだからこれもありえない。
狙われるようなことをした覚えはないが、もしかしたら母さんのことを未だに罪人だと思っている奴がひそんでいるのだろうか、可能性としてはそれくらいしか思い浮かばないのだが。
このまま悩んでいても仕方ないので警戒を解かず、その気配に気づいていないふりをして部屋の中に入る。
いつでも逃げられるように扉を開けたまま部屋に入って確信したがやはり誰かいる。
そいつは巧妙に気配を消しているが、日々野生の中で過ごしたオレの感覚を誤魔化せはしない。どんな魔物や動物でもオレが本気で警戒している周囲に隠れることなど許さないのだ。この刺客が誰だか知らないが所詮人間の気配など見破るのは容易い。
刺客はベッドの中に隠れていた。オレが休もうとしたところを仕留めるつもりだろう。面白い、その誘いにオレは乗ることにした。
気付いていない自然は態度を装ってベッドに腰を掛ける、次の瞬間その刺客はかぶっていた布団を投げ飛ばして襲い掛かろうとしたところでそいつの腕を捻り体勢を崩させ、逆にベッドの上で馬乗りになってやる。片腕は手で押さえもう片方の手は胴体と一緒に足で押さえてあり空いている腕で刺客の首に抑え込んでいる。完全に抵抗を許さない態勢だった。しかし、それはこの場においては些か不味い体勢だった。なぜなら、
「……何でお前がオレのベッドにいるんだ、メイ?」
「……あはは、驚かそうとしたんだけど逆にやられちゃったにゃ」
刺客の正体は先程別れたはずのメイだった。気まずそうにメイは笑っていたがそんなので誤魔化されるわけがない。とりあえず首にあてた腕だけは放してやる、これで苦しくないし上体だけなら多少動かせるだろう。
「それで何でこんなことをしたんだ? まさか本当に驚かすだけが目的じゃないだろう」
「えーと、その―言いたく無いってありですかにゃ?」
「ありだと思うか?」
逆に問いかけてやったら観念したかのように器用に耳を項垂れさせる。
「わかった、言うにゃ。アゼルが寝るのを待ってそこで襲っちゃおうと思ったにゃ」
「何で襲おうとした?」
「な、何でってそんなのわかってるくせ言わせるにゃ!」
まったくわからないのだが。メイとは仲直りだって今日済ませたし、それ以外で恨みを買うようなことはしていない。そもそも会って数日で命を狙われるような恨みを買えるようなことは滅多にないが。
だとしたら最初からオレの命を狙って近寄ってきたのだろうか。いや、今までの態度が嘘だとは思えない。あれは絶対演技じゃなく素だった。だとすれば人質を取られたりして誰かに脅されたのだろうか。そんなどうしようもない状況なら何とか納得できるが、そもそもそいつは何のためにオレを襲わせたのかという新たな謎が浮かび上がる。
やはり考えても結論はさっぱりわからない、だ。
「悪いがまったくわからない。話してくれ」
「うう、アゼルは意地悪、ドS、ケダモノにゃ。こんなこと女の子に言わせるなんて……でもそういうところがいいのにゃ」
「はあ?」
意味が分からない。一体何を言っているのか。
いや、待て。なんだか機能もこんなことがあったような。そう昨日この部屋で同じぐらいの時間に、
「あ」
そう既視感を得た時メイは唯一自由の利く首を素早く動かし、ほんの少しの間だが口と口が接触した。押さえ込んだままの体勢だったので顔と顔の距離はほとんどなく、避ける暇はなかった。あったとしても考えに集中していたので躱せなかったろうが。
「これでわかったにゃ? アゼルを食べにきたのにゃ」
オレは、襲うとか食べるとかつくづく獣人らしく野性的というかいちいち男前な発言だ、と現実逃避気味考えていた。こんなオレに想いを寄せてくれるのは単純にうれしいしそういうことは大好きなので大歓迎なのだが、昨日の今日で別の女性と関係を持つのにはさすがに抵抗があった。無論、娼館に行ったのはノーカウントである。あれはお金を動かす所謂ビジネスだ。金払ってないけど。
心の中で言い訳の理論武装を完了したので目の前の獲物の、おっと違う違う。キスされてスイッチが入りかけている。落ち着くんだオレ。
改めて目の前のメイの説得に乗り出す。
「悪いがオレは既に昨日、イリスとそう言う関係になってるんだ」
「構わないにゃ。強い男は女を侍らせるものにゃ」
そう来たか。完全に獣の考え方である。まあ、獣人だからそういう部分あるのは致し方ないのかもしれないが。
「メイはアゼルに惚れたし、アゼルの物として扱ってくれていいにゃ。抱きたいときは好きに抱いていいし、いらなくなったら捨てても我慢するにゃ。アゼルの事好きだから」
こんなこと言われて嬉しくないはずがない。今まで猫っぽいとしか思ってなかったので意識したことはなかったが、メイの体系は子どもっぽいものの顔や性格が可愛らしいのは言うまでもないだろう。ロリコンではないオレでも思わず、クラッと来たが、まだだ。まだ陥落はしない
「悪いけどオレにはイリスがいるんだ。このままオレがメイとそう言う関係になればイリスと仲間でいられなくなる。それは、オレは嫌なんだ」
「それなら大丈夫にゃ。イリスには言ってあるにゃ」
「え、マジで?」
いやいや、そんなわけがない。そんな簡単に許可が出てたまるか。それなら娼館に言ってあんなに怒る意味が分からない。他の女とそういうのが嫌だからあんなに怒ったのだろうし、いくら仲が良いからっていや、仲が良いからこそそう簡単に許すとは思えなかった。
「メイ、嘘を吐いてるだろ」
「本当にゃ! イリスが手引きをしてくれなきゃメイがアゼルの部屋に忍び込めるわけがないし宿の場所だってそうにゃ」
確かに別れた後誰かにつけられた気配はなかったし、誰かの協力なしに宿の場所を探り当てる程度ならともかくニキとダイが見張っているリビングを回避して部屋まで入り込めるとは思えなかった。
ただ、それを認めたら後がないとわかっているので他の可能性を探る。
「それは、ほら。匂いを追ってとか。匂いを感じられれば誰にも見つからずに入ってくれるだろうし」
「犬の獣人じゃあるまいしできないにゃ! 何ならイリス本人に聞けばいいにゃ!」
そう言ってメイは泣き出した。
「そんなに、そんなにメイのこと嫌いなのにゃ! これでも精一杯頑張ってアピールしたのに嫌なら嫌って正直に言えばいいにゃ! メイが勝手に好きになったのはわかってるけど、だからってそんな言い訳ばっかり言ってアゼルはずるいにゃ! ふぇぇぇぇん!」
「え、いや、決してメイの事は嫌いじゃないし。ちょ、ちょっと待ってくれ。頼むからそんな泣くなよ」
「うわあぁぁぁぁん!」
ガチ泣きである。鼻水まで垂れ流すくらいの潔い泣きようだ、ってそんなのんきなことを言ってる場合ではない。
「え、ちょ、ま、うわ、ど、どうしろってんだよ」
謝っても宥めても一向に効果はない。女の子に泣かれたときにどうするかなんてこちらではもちろんの事、元の世界でも教えてもらったことはない。ただただパニックになるしかできなかった。普段の落ち着きなど欠片程もない。
そのせいもあって失念していた。オレが部屋の扉をあけっぱなしにしていたことを。当然話し声程度なら大丈夫だろうがこんな全力の泣き声では扉の外へ響き渡る。つまり、どういうことかというと、
「この、馬鹿アゼル! メイに何したのよ!」
「イリス!? あ、いや、ちょっと待って! これは誤解だ!」
そこで今の態勢がどう見ても襲われて泣き出した女姓とその襲撃者のようにしか見えないことに気付いて慌てて弁明したが、
「うるさい! いいからそこに黙って正座!」
取り合ってもらえず一喝された。こうなったらオレは言われるがままにするしかない。
イリスは怒りながらもしっかりと扉を閉め、メイの元に駆け寄って抱きしめる。
「大丈夫? ほら、泣かないで」
「うぅ」
イリスが抱きしめてあやすと泣きべそは掻いていたものの何とか収まった。
「それでアゼル、何してるの?」
絶対零度の視線でイリスがオレを見てきた。まるで道端のごみクズを見課のような視線である。
「オレは何にもしてないって!」
「何で何もしないのかって聞いてるのよ! メイが、女の子がこんな勇気出してるのにそれでも男!」
「いや待て! ホントこのことに知ってたのか、ていうかならオレ誉められるとこだろ! 浮気しなくて何で怒られる!?」
「正直、嬉しいけど女の子泣かしといて誉められるわけないでしょ! どうせメイに言われるまで気付かなくて、気付いても私の事とか引き合いに出して色々言い訳したんでしょ!」
なんという読み、まさか最初から聞いていたのか。
「聞いてなくてもわかるわよ!アゼルはそういうことに関しては本当に単純でへタレなんだから。とりあえず私は認めてるからそのことは何にも考えなくていいの。単純にメイのことをアゼルがどう想ってるのか、それだけ考えてあげてよ。でなきゃメイが可哀そうでしょ」
ここでお互いヒートダウンした。メイを見ると泣きはらした目でこちらを見てくる。正直、可愛い。イリスが同学年の優等生といった可愛さだとしたらこちらは年下の後輩や妹のような可愛さだ。かなりグラッと来た。
「……ちょっと待ってくれ。考える時間をくれ」
「……うん、わかったにゃ」
メイが頷いてくれたので腰を据えってしっかり考える。こればかりは簡単に結論が出せることではない。イリスが良いと言っているのでそのことは考えないとする。
正直になれば今のメイを見てそういうことをしたいと思わない奴はいない。だが、そんな欲望だけで関係を進めていいのだろうか。オレはイリスとそう言う風になった時、責任を持つと決めた。ならば、同じようになるならメイにも同じように責任を持つべきだろう。
だが、果たしてそんなことが可能なのだろうか。二人の様子を見る限り、今まで考えてもみなかったがこの世界は一夫多妻制の可能性もある。勝手に一人女性としか結婚できないと思い込んでいたがそんな常識はあちらの世界のものだ。それにその世界でさえ、浮気や不倫、愛人を囲っている人達だっていた。要は言ってしまえば二人が良いと言っている今、責任さえ取れれば後は自分がどうしたいかということなのだ。
責任を取る、言葉にすれば軽いがその言葉の中身は非常に重い。人一人の人生を背負うと言う事がどれほど大変なのか、経験したことはないがその苦労は想像もつかないと予想は出来る。二人なら単純に考えただけでも二倍、もちろん恐らくそんな簡単な計算じゃない。もっと多くの苦労や悩みが降り注いでくることだろう。その中でも二人を幸せにする事がオレにはできるのだろうか。
それにそうなってしまったらきっとオレは他の女性ともそう言う関係になってしまうだろう。一度複数の女性と関係を持ったならあと一人や二人増えたところで関係ないとまず、間違いなく考える。オレは、自分で言うのもなだが、そういう意味では節操がないのだから。そういう、あくまで可能性の話だが、未来の女性達も同じように責任を取り幸せにできなければオレにそんな資格はない。
ただ、今のオレは情けないことだがメイの事も女性として愛おしくなっていた。その気持ちは他人から見れば不埒に映るかもしれないが本物だ。これには嘘はない、そう言い切れる。
(何だ、答えは出てるじゃないか)
勇気が無くて、責任を持つのが怖くて今までは答えから逃げていただけだ。本当は答えなんて出ていた。だったら、そう決めたなら後は腹を括るだけだ。
養う金が必要ならその分依頼を受けて稼げばいい。幸いその能力はある。他にも色々問題はあるだろう。だが起こる問題の心配をするのも確かに大切だが、今やるべきことはそんなことじゃないのだ。
そうだ、こうなったら何人でも、何十人でも、その人生を背負っていけばいい。そして全員幸せにすればいいのだ。なにより、もう、イリスやメイが他の奴の物になるなんて想像だけでもはらわたが煮えくり返りそうだった。実際にそんなことになったらためらいなくオレは相手を殺す、それが本能で理解できた。
「なら、答えは決まってる」
覚悟は出来た。その瞬間に完全にスイッチが入った。今までのが軽いと思えるくらいはっきりと、がっちりと。
立ち上がってメイの傍まで行きその小さな体を抱きしめる。
「あ、アゼル?」
戸惑った様子のメイには悪いが有無を言わさずその唇を奪う。丁寧にけれど激しく、自分の物だと刻み込むように。最初は驚いて体を固くしていたが、すぐにこちらの首に手を回して積極的に応えてくる。
しばらくそうして互いに貪りあった後、唇が離れる。涎が糸を引いていやらしく光っていた。そして恍惚とした表情でメイは自ら抱き着いてくる。
「アゼル、大好きにゃ」
「ちょ、ちょっと。認めたとはいえ私がいる前でいきなり始めないでよ! もう、知らない!」
顔を真っ赤にしてその状況を呆気にとられていたイリスは踵を返して部屋から出て行こうとする。だが、
「きゃ!?」
「なに出て行こうとしてるんだ?」
オレは強引に腕を掴んでイリスを自分の方に引き寄せた。無論、怪我させないように力加減は細心の注意を払ったが。
「な、何って出て行くしかないでしょ、こんな状況じゃ。二人の邪魔になるし」
いったい何を言っているのだろうか。散々人をけしかけておいてまだそんなことを言うとは笑いが込み上げる。
「な、なんで笑ってるの?」
「いやー随分的外れだなと思って」
「ん!?」
返答は待たずにメイを抱きしめたまま、今度はイリスの口を塞ぐ。手加減などしない。舌も使って痛みは与えないようにけれどそのギリギリまで荒々しく攻め立てる。さすがに困惑したのか昨日とは違って本気でこちらを押し返そうとしているが頭に回した手に力を籠め決して逃がさなかった。
「ぷは! ちょ、んん! 待って、むう!」
返答なんてしない。じっくりと時間をかけて口内を丹念になめまわし隅から隅まで蹂躙する。余計なことを考えられなくなるまで攻め続けてやった。
「あ……」
唇を離すと名残惜しそうな声を上げるくらいメロメロにさせて準備完了。二人をきつくけれど優しく抱きしめる。
「オレは決めた。お前ら二人のこれからの人生をすべて貰い受ける。オレは節操なしだからこういう関係の女性をこれから何人も増やすかもしれないけどその全員、同じように愛して幸せにする。だからお前らはオレの元で存分に幸せになれ。それがオレにこうなることをけしかけたお前らの責任の取り方だ。オレは嫉妬深いし独占欲も強い、一生オレの傍で愛し続けるから覚悟しろ。嫌とは言わせない」
「もちろんにゃ。……だからいっぱい愛してる証をちょうだい」
「だったらそんなの気にならないくらい激しく愛して……。アゼルが望むんだったら私はどんなことでも……」
躊躇うことなく甘えるように答えた二人にオレはもう止まらなかった。ベッドに押し倒し連日だというのに昨日より一層激しく荒々しく二人の肢体を貪りつくす。
結論から言ってオレは猿なんて可愛いものでなく性欲の塊、野獣だった。
二十章前後で話の一区切りになる予定です。時間かかるかもしれませんがよろしくお願いします。感想もぜひ。
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