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王都大侵攻編
第十二章 愛情?友情?
 宿に戻ったところ、お互い森に行った時のままの泥だらけの姿だったので一旦身支度をして夜に改めて話をすることになった。もちろん逃げ出さないように冷たい目をしてくぎを刺されたが。ここに戻って来てしまった以上今更逃げ出してもかっこ悪いし、なによりガチで怒った女性には適う気もしないし逆らう気さえ起きないので素直に従うことにした。
 というかダイですらあの修羅状態のイリスに恐怖を感じているようだった。現にイリスがいる間部屋の隅で尻尾を丸めて大人しくしていた。ニキが怖がらないところを見るとやはり女は強いと思わされるが。
 宿の主人には謝ってとりあえずまた元の部屋を使わせてもらっていた。快く受け入れてくれた上、チップも含めて先程渡した金貨すべてを返金してくれた。こちらの事情を察してくれたのだろう。流石ギルドマスターおすすめの宿、従業員の質も高いらしい。
 そんなこんなで風呂にも入って武器も全部外して部屋で、いつまでも緊張していても仕方ないので、リラックスしてベッドに寝転がりながらイリスが呼びに来るのを待っている。イリスは思っていたより遅く、皆が寝静まるくらい夜中にやって来た。
「アゼル、入ってもいい?」
 ノックして言ってきた言葉に先程の恐ろしさはなく普段の声色だった。どうやら時間がたって多少落ち着いたようだ。
「もちろん、空いてるから入ってくれ」
 イリスが入ってきてその姿を見てオレは自分が大きな失敗をしでかしたことに気づいた。
夜中だから当然と言えば当然だが寝間着のような服装でいつもは後ろで括っている髪も下ろしていて普段と違った色気が出ていた。普段ポニーテールのような活発的な姿に慣れていたのでその大人っぽく可愛らしい雰囲気は不意打ちだった。しかも、今までゆったりしていた服ばかりだったので気づかなかったが胸もかなりある。前々から可愛いとはわかっていたのだがこれはヤバかった。そんな状況じゃないと言うのに心臓がドキドキして性欲が湧き上がってくるのがわかる。
(落着け。真面目な話をしようとしてるのに何を考えてるんだオレは)
 一旦目を瞑って精神統一をして準備を整えてイリスに向き直る。
 イリスの長い髪が動くたびに揺れちらちらと綺麗なうなじや鎖骨が見える。ってむしろ逆効果じゃねえか。
「アゼル?」
 こちらの様子がおかしいことに気づいたのかイリスが不思議そうに名前を呼ぶ。オレは慌てて煩悩を振り切った。
「と、とりあえず好きなとこ座れよ」
 オレは体を起こしてベッドに腰を掛ける。イリスは頷くとなんとオレの隣に腰を下ろした。必死にそれらのことを押し殺し、本題に入る。
「それで話ってなんだ?」
「……アゼルは優しいよね」
 しばらくして口を開いたイリスの言葉は理解できなかった。
「優しい? オレが?」
「そうだよ。もちろんあの時みたいに怖い一面もあるし、女の人にだらしなくてスケベな一面もあるんだろうけど、でも優しい。優し過ぎるって言っていいくらいに」
「オレはお前らを放り出して置いて行こうとした人間だぞ?」
「それは私達のことを気遣ったからでしょ。でなきゃ宿のお金とか用意しておいたり、私たちのことをギルドマスターに頼んだりしない」
 それを言われるとこちらとしても恥ずかしいのだが。
「それは、あれだ、お節介なだけだって。実際オレがそんなことしなくてもイリス達だったら冒険者としてやっていけただろうし」
「照れ隠しはいいよ。でも、アゼルは本当に優しいけど同時に物凄く怖いって思う」
 怖い、きついこと言われるのはわかっていたのだがかすかに胸が痛かった。
「勘違いしないでね、アゼルが見せたあの姿のことを言ってるんじゃないの」
「違うのか? オレ自身そう言われて否定できないし、誤魔化さなくても」
「聞いて、お願い」
 イリスが真剣な表情でこちらを見つめてくる。その眼は真剣そのものだった。
「……わかった、話の腰を折って悪かったな。続けてくれ」
「うん。もちろん最初はあんな姿見せられて恐かった。勝手に怒って出て行って助けてもらって言う事じゃないけど、でもアゼルがああいう風に戦う姿を見てその力が自分に向いたらってほんの少しだけど思ってしまって、最低だと思うけどどうしようもなかった。アゼルが優しくこっちを心配して手を差し伸べてくれたのに私はその手を心の中で拒絶した。でもすぐにそのことを後悔したの。私達を抱き上げてくれたアゼルが諦めたような、でもそれでいて泣きそうな顔で笑ってたから」
「泣きそうだったか、オレ?」
「本当に泣きそうだった訳じゃないし見た目は普通の笑顔だったけどどこか悲しそうで辛そうで、その顔見たら胸が苦しいくらい締め付けられて謝らなきゃいけないって思ったんだけど。どう言い出していいかわからなくて、そのままズルズルギルドまで行ったらいきなりアゼルが私達を置いて消えるつもりだって聞いていてもたってもいられなくて追いかけたのがあの時の私の正直な気持ち」
 イリスは大きく深呼吸してまた話し出す。
「話は変わるけどアゼルは優しいと同時にすっごい我儘だと思う。私たちのことを考えてくれたんだろうけど、自分が正しいって思ったら誰の意見も聞かなそうだし。ギルドマスターも止めたけど意味なかったって言ってたよ」
「あいつ、余計なことを」
「そうかもしれないけどいい人だよ。たかだか一冒険者に過ぎない私達にあんなに親身になってくれるんだもん。それでね、私はアゼルのそういう我儘な所が恐いの」
「よくわからいんだけど、それはオレの性格が恐いってことか?」
「ううん、そうじゃない。普段のアゼルは色々常識ないとこもあるけど、でも基本的に落ち着いてて頼りになるし、優しいし、素敵な人だと思う、そんなアゼルの事が私は好きだよ」
「お、おう」
 こう面と言われると照れてしまった。イリスの言葉は人間的な意味であり、違うとはわかっているのだが、なんだか告白されているみたいに感じてしまって顔が熱くなる。
「でも、だからこそアゼルが私達のことを思ってのこととはいえ、勝手にいなくなってしまいそうなのが恐いの。アゼルにとって私はいてもいなくても一緒なんじゃないかって。仲間って言ってくれてたけど所詮邪魔になったら見捨てられる存在なんじゃないかって。アゼルはそんな人じゃないって頭ではわかっているのに」
 そう言ってイリスはオレの手を握ってくる。
「こんなことアゼルを傷つけた私が言うのは図々しいのはわかってる。でも、今の私は例えアゼルがあんな風に戦っても恐がったりしない。本当のアゼルは優しいってわかったから。アゼルが私達の事を嫌いになったら辛いけどその時は我慢する。でも、お願いだから例え私達のことを思ってでも黙っていなくならないで。アゼルにあんな風に置いて行かれると考えただけど胸が苦しくて、悲しくてどうしようもなくなるの。あんなのもう耐えられない」
 イリスはそう言って泣いていた。まさかこんなオレみたいな奴のことをここまで思ってくれているなんて思ってもみなかった。そして、そんな風に思ってくれるイリスの事が不思議と愛おしくなる。
 そっと涙を流しながら震えるイリスの体を自然に抱きしめていた。そして母さんが昔してくれたみたいに背中をさする。
「オレが悪かった。朝の事もそうだし、こんな風に想ってくれてる人を悲しませるなんて間違ってた、本当にごめん」
「私もごめんなさい。勝手なことしてアゼルを傷つけて」
「じゃあお互い自分が悪いって思ってるんだし、もう謝りあうのはやめようぜ。間違ったと事はこれから一緒に直していこう、仲間なんだし」
「……うん」
 イリスはオレの肩に顔を埋めながら頷いた。これで万事解決、そう思ったのだが、
「それで……アゼルの答えは?」
「答え?」
「だから、その、さっきの私が言ったことの答え! 私はアゼルの事好きだけどアゼルはどうなの?」
 そんな質問あったただろうかと考えたが、答えは決まっている。
「オレもイリスの事は好きだぞ」
「……本当?」
 イリスそのままの体勢でさらに手に力を籠めこちらにギュッとしがみついてくる。完全に抱き合っている格好だ。些かスキンシップにしては過激な気がしたがそれだけ心を許してくれているのだと納得する。
「ああ、本当だって。イリスはオレの一生の友達だ」
 精一杯に気持ちを込めてそう言った。ずっと仲間だという意味を込めて。ただイリスは何も答えず、奇妙な静寂が一瞬流れ、
「……ねえ、アゼル? 今の言葉もう一度言ってくれない?」
 やけに固い声でそう言われる。心なしか背筋に寒気がするのだが気のせいだろうか。若干嫌な予感はしたのだが悪いことを言うわけではないのだからと思いもう一度同じセリフを言う。
 この時オレは気付くべきだった。オレの背後の床で今までのんびりと寝転んでいたダイが急に恐怖に毛を逆立て部屋から音も立てずに逃げ出していたことに。ちゃっかりニキもその後について言ったというのに全く気付かなかった、これがオレのこの夜の最大の失敗だったのだ。
「イリスはオレの一生の友達だ」
「そう……まさかと思ったけど、理解してないなんてね」
「ひ!?」
 腕の中のイリスからまたあの修羅の気配が立ち上る。しかもこれは朝と先程のを合わせたものですらはるかに凌駕する殺気だ。ここまで怒りは母さんですら見たことがない。
 肩を、そこに置かれたイリスの手がギリギリと万力のように締め付けてくる。これ普通の人なら骨ごと潰れてれるんではないだろうか。流石のオレでも痛みを感じるレベルである。接近戦は苦手な魔法使いなのにいったいどこからそんな力が湧いてくるのだろうか。
「私が、どれだけの覚悟であの言葉を言ったと思ってるのかしら?」
「痛い、流石に痛いです、イリスさん。後、覚悟ってどういうこと?」
 ブチリっと何か切れる音がした。
「……いいわ。そんな鈍感ならどんな馬鹿でもわかるようにはっきりと態度で示して上げる。恥ずかしがってた私が馬鹿みたいじゃない」
「え?それはどういう」
 こと、という言葉は続かなかった。いきなり口を塞がれたからだ。
 イリスの唇で。
 何が起きたか理解できなかった。いつもならこの程度で迫ってくるものなどあくびをしながら躱せるはずだった。だというのに全く動けなかった。それどころかイリスの顔が目の前にあると言う事すら中々理解できない。ゆっくりとイリスの顔が離れて行って、そうだ今、オレとイリスはキスしていたんだとその時になってようやく頭に情報が入ってきて
「ああ、なるほど」
 魔の抜けた声を出すので精一杯だった。けれど、これで迷いはなくなった。
「これでわかった?」
 イリスにそう言われても頷くしかない。流石にここまでされてわからないわけがないだろう。
「……バカ! もう知らない!」
 恥ずかしさに耐えられなかったのか顔を真っ赤にして部屋を出て行こうとするイリス。扉を開けようとしているその体を引き寄せ抱きしめ有無を言わさず今度はこちらからキスする。
「ん!?」
 驚いてこちらを全力で引き離そうと腕に力を込めるが離さない。しっかりと抱きしめ遠慮なんて一切せずにキスを続ける。もちろんディープな奴を。
 強張っていた体から力が抜けてこちらに身を任せるようになるまで攻め続け、膝に力が入らなくなったイリスの体をお姫様抱っこして先程座っていたベッドまで運ぶ。
「散々オレは襲わない自信はないってちゃんと言ったし、そうならないために精神力振り絞って我慢してきた。でもこんなことされたら無理だって。だからオレは悪くない。そんでオレを発情させるくらい可愛いイリスが全部悪い」
「ちょ、ちょっと待って。いきなりこんな、ん!?」
 目までうっとりとさせているくせに嘘を付く唇をまた塞ぐ。嘘吐きにはお仕置きだ。
キスだけで完全に抵抗しなくなったのを確認して、唇を話す。
「悪いけどもう止まらないし、止まる気もない。責任は取る。一生イリスの事は大切にして命を懸けて守り続ける。だからイリスは一生オレのものだ、いいな?」
 しっかりとイリスの目を見つめて言い切る。恥ずかしそうに目を逸らしていたイリスも段々チラチラとこちらの眼を見て、最終的にはしっかりとこちらの眼を見て返事をする。
「うん。でも、私」
「初めてなんだろ? 大丈夫、優しくするから」
 不安そうにしているので頭を撫でて額に優しくキスをする。それで安心してくれたのかこちらの首に腕を回してきて幸せそうに微笑みながら言う。
「……わかった。アゼルの事を愛してる。だから私をアゼルの物にして」
 その返答はキスでした。
 その夜、オレ達は存分に愛し合った。
タイトルミスりました。すいません


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