溜めてたデータがきえてもうた
時間かかりかもしれませんがお付き合いいただけるようお願いします
「あーあ、またやっちゃった」
怒りが覚めて我に返るといつも一抹の後悔と後味の悪さばかり残る。いっそ怒りに我を忘れて全部覚えてなければいいのに、冷静に状況を俯瞰する部分がなくなることはないのでそんなことはなく、すべてのことを鮮明に覚えていた。
(あーもう、絶対嫌われたよな)
こんな姿を見られたら絶対引かれるとわかっていたし、絶対見せないようにしようと思っていたのに会って数日でやってしまった。これでは化物扱いされてもしょうがない。
とはいってもいつまでもこのままではいられないので腹を決め、イリス達の元に戻る。
障壁も解いてまず武器と杖を拾う。その後、二人に話しかけた。
ガンギレしたことを見られた恥ずかしさと気まずさからうまくは話しかけられなかったが。
「二人とも、その、無事で何よりだ」
イリス達が何というか。目を瞑ってくれいたらと期待したが呆然とこちらを見る様子からそれはないとわかる。
「おーい、本当に大丈夫か?」
二人の顔の前で手を振っても反応がない。瞬きしているから目を開けて気絶しているというわけではなさそうなのだが、いくら声をかけてもダメだ。このままの状態でいる訳にもいかないのでニキとダイを呼び、その背中に二人を乗せようとする。二人はオレが手を貸そうとして手を延ばすと、微かだが恐れるように体をピクリと震わせた。
「怖がらせてごめんな。でも、ここはまだ危険だし安全な場所に連れてくだけだから」
正直、その反応にはかなり堪えたが落ち着かせるようにできるだけ優しく微笑んで声をかけ二人の体を一人ずつ抱え上げる。
王都に戻ってゆっくり休んで落ち着いた二人がオレと別れることを選んでも責めもしなし、しょうがないことだ。きっと今は色んな事が有り過ぎて考えがまとまらないのだろうから、落ち着かせてそこで改めて答えを聞ければいい。イリスの事もいくらヘルメスさんに頼まれたとはいえ、本人の意思が最優先なのだから。
最早、諦めたのか事情を考慮してくれたのか二匹は嫌がることなくその背中に二人を乗せてくれた。この状態の二人で二匹の騎乗が満足に出来るとは到底思えないので、周囲の警戒をしつつゆっくり歩いて帰る。幸い、先程の戦闘で魔物は皆逃走したのか森を出るまでの間一度も襲われることなく王都まで戻ることが出来た。
まずは傷の手当などの為にギルドに行く。ダグラスやメルルが、憔悴しきった二人の様子からすぐにことを察して医者を呼んで適切な処置をしてくれる。オレがいては二人も気が休まらないだろうと判断して、こっそりと誰にも気づかれないようにギルド出た。
恐らく、あの様子ではオレがもう一緒に旅を続けることは出来ないだろう。あんな姿を見て怖がらないわけがない。もう、二人にとってオレはきっと恐怖の対象でしかないのだから。
「せっかくできた仲間だったんだけどな」
「クゥーン」
ダイとニキがこちらを慰めるように優しく頬を舐めてくる。自分達はずっと傍にいるぞと言ってくれているのがわかる。
「そうだな。お前らがいてくれるからオレは孤独じゃないのはわかってるし、感謝してる。でも、やっぱり仲良くなった人に恐れられて嫌われるって言うのは悲しいんだよ」
あの森で暮らしていて、ずっと寂しさを感じていたのは否定できない。母さんやこいつらがいて確かにとても幸せだった。だがそれでも友人がずっと欲しかったのだ。元の世界の部活仲間のような気の置けない友人、たわいもない話をして盛り上がるそんな関係を心のどこかで求めていた。
ようやく出来たと思っていたらわずか数日で自分からその関係を壊してしまった、そのことには後悔の念はあるもののあそこで本性の一部を見せたことには一切後悔してない。きっといずれ冒険者を続け、旅を共にしていたらいつかはバレることだった。もう少しこちらの事も理解してもらって、自分もあちらを理解してから見せるのがベストだったが世の中そんな準備万端になるのを待ってくれるほど甘くはないらしい。
「あいつらはギルドの人が保護してくれたからもう大丈夫みたいだし、オレはこのまま黙って消えるべきか」
ヘルメスさんとの約束は破ることになってしまうが、あんな風に怖がる二人の傍にいることこそ迷惑以外の何物でもない。ダグラスにでも二人のことを見守ってくれるように頼んでおけば今回のようなことに巻き込まれることも滅多になくなるはずだ。その分オレがギルドに無償で貢献するとか条件付ければ多少無茶な願いも聞いてくれるだろう。
「また、オレ達だけの旅なっちまうけどいいか?」
「ガウ」
二匹は全く嫌がらずにオレが決めたなら従うそうだ。まったく、オレには過ぎた相棒達だ。
そうと決めたら、行動しよう。イリスが宿に戻る前に身支度をして早めにこの街を去る。中途半端な絶縁など意味はない。やるならきっぱりと二度と会わないようにするべきだ。
オレは宿に戻って手早く王様にもらった袋に荷物をぶち込むことで、といっても荷物は服くらいでほとんどないのだが、準備を終えた後、宿の主人に金貨を十枚ほど渡す。
「お、お客様、これはどういったことで?」
「イリスが、オレの仲間が望む限りここに泊めてあげて欲しい。ギルドマスターに言ってもらえればすぐに追加の金は用意するから。オレの部屋は引き払ってくれて構わない」
と告げ、チップとして更に金貨一枚を宿主のポケットにそっと入れる。
「あ、ありがとうございます。もちろんそれは構いませんが、お客様はどうされるのですか?」
「オレはたぶんこの国を出てどっか違うところに行く。だからオレの事は気にしないでくれ」
そう言って宿を出る。これで後やることはダグラスに話を通すだけだ。すぐさまギルドに向かう。
「アゼル、お前何処に行ってたんだ?」
「任せっぱなしにして悪いな、ダグラス。それで二人の様子は?」
「まあ、いいけどよ。あの二人は幸い軽傷だし命に別状もない。疲労が残ってるみたいだから今日は休んだ方がいいが、明日からすぐに動けるようになるってよ」
「そうか、よかった。それで一つ頼みがあるんだが聞いてくれないか?」
「何だよ、言ってみろ」
そうしてオレは先程あったことやこれから国を出ること、金を預けたいことなどをすべて話す。
「……俺は別にかまわないが、あの娘達と話はしなくていいのか? なにも、黙って出て行くことはねえだろ」
「今、オレが話にしにいったってあいつらには怖い思いをさせるだけだ。そんな思いさせるくらいならひっそりと出てって二人がいち早く忘れられるようにする方がいいだろ」
「まあ、冒険者の行動にはギルドマスターとはいえ早々口出しは出来ないからな、そう意味では俺はもう何も言わねえよ。けどな、人生の先輩として、そして友人として一つだけ忠告しといてやる。お前はもう少し人を信じろ。ずっと一人で生きてきたから仕方ない部分もあるがそうやって一人で何でも背負い込んでたら辛いだけだぞ」
「徐々に直していくさ。じゃあ頼んだぞ」
「もう行くのか?」
「決めたら即行動が信条なんでね」
オレは最後に姿だけでもと思って影から医務室にいるイリス達を見る。そこではメルルや医者と普通に話す二人がいた。どうやら大丈夫のようだ。少なくとも、イリスは魔力量があるってことは魔法使いとしての才能はあるし、メイもギルドから有望と言われる冒険者だ。二人でも十分やっていけるだろう。
オレはギルドを後にして、ゆっくりと王都から出る道を歩く。その途中で腹が鳴った。
「出発するのは飯を食ってからにするか」
外で魔物を狩れば飯にありつけるとはいえ、そうそう簡単に職に適した魔物が現れるとは限らない。魔物の大半は食えたもんじゃないものばかりなのだから。餓死するなんて間抜けな死に方は御免なので近くにあった料理屋に入る。ニキとダイには特大の肉の丸焼きを一つずつ与えて、オレは適当に注文してきた料理に齧り付く。うまいことにはうまいのだが、
「……冷めてたけどイリスの作ってくれた飯の方がうまかったな」
そういえばちゃんと朝の事も謝れなかったし、イリスの温かい手料理も食えなかったと考えて溜め息を付いた。未だにそんな風に引きずるなんて女々しいことこの上ない。
(さっさと食べてここを出よう)
それが向こうのためでもあるし、自分のためで。ここにいたら無駄なことばかり考えてしまう気がする。もう、イリスの手料理を食べたり話したり、そんなことあるわけないのに。
手早く料理を食い終えて金を払って、今度はもう止まらず城門まで歩き続けた。時刻はまだ昼ごろなので門は解放されている。そこを抜けて外に出ればこの国ともおさらばだ。
二匹を連れて門をくぐろうとした時、
「アゼル!」
聞き覚えのある声に名前を呼ばれて振り返れば予想通りの人物がそこに立っていた。肩で大きく息をして辛そうにしている。いくら軽傷だったからといって疲労しているだろうに汗だくになるまで街を走り回ったのだろうか。
「イリス? なんでここに?」
「はあ、はあ、ギルドマスターが、教えてくれたの」
息を切らし苦しそうなのでその息が落ち着くまで待って話を続ける。
(それにしてもダグラスの奴、何でそんな余計なことを)
「ギルドマスターから全部聞いたけど一応確認させて。私達がアゼルのことを怖がったからアゼルは私達に黙ってどこかに行こうとしたの?」
「若干違うが、まあ大体それで合ってるよ。イリス達にしたってあんな姿見せたオレの事なんてもう二度と見たくないだろうし。怖い思いさせて悪かった。でも、オレがいなくなればそのことを思い出すこともないだろうし、それがお互いにとって一番だろ?」
「アゼルは私たちの事が嫌いになったの? 助けたのにあなたのことを怖がった私達の事が許せない?」
「いや、そんなことはない。悪いのはオレだし。魔徒の森でずっと過ごしてきた所為なのかたぶん、オレは普通の人とは根本的に何かが違うんだと思う。それがイリス達、普通の人にとっては理解できない、気味の悪いものだってこともわかるからな。あんな姿見せて受け入れてくれるなんて甘っちょろいこと信じる程単純な人間でもないしな」
「じゃあアゼルは純粋に私たちのことを思っていなくなろうとしていて、そして本当に私達に怒っても失望もしていないのね?」
「ああ、だから」
「ふざけないで!」
イリスの怒声にオレの言葉はかき消された。その響き渡った声に周囲も何事かとこちらを見てくる。
「え、えっとイリス……さん」
何故さん付けかというと怖かったからだ。イリスから立ち上る怒りのオーラは今朝の物と比べ物にならないくらいのプレッシャーを放っていた。
「アゼル」
「な、なんでしょう?」
声が地獄の底から響いて来るかのように冷たい。今のイリスに逆らったらまずいと研ぎ澄まされた本能が警鐘を鳴らす。
(この感じはどっかで……そうだ。母さんがマジギレした時と全く同じだ)
逆らったら殺される、比喩でなくそう思った。
「とりあえず宿に戻ろっか」
「え、でも」
「戻るよね、アゼル?」
「は、はい」
一文字ずつ区切るように凄まれたらもう何も言えなかった。この時確信した。間違いなくイリスはヘルメスさんの血を継いでいる。腹黒ではないのかもしれないが、怒った時の雰囲気やその有無を言わせない感じがまさに親子だ。
「話はそこでするから」
「……了解」
オレは抵抗する気も失せて素直に頷くしかなかった。
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