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王都大侵攻編
第九章 ギルド登録と魅惑の香りと念願の夢
 王様との謁見というにはあまりにもフリーダムな体験をしたオレ達は、ダグラスに言われた通りギルドを訪れ、メルルという人を探していた。幸いすぐに見つかったが忙しそうに他の冒険者と話をしていたので声だけ駆けて仕事が片付くまで受付前の椅子に座って待つことにした。
 ニキとダイは連れてくると面倒なことになりそうなのでギルド近くに隠れさせた。なので、今はイリスと二人きりである。
 そう、二人きりなのだ。そのことを意識してしまうとそれまでは普通に会話できたというのに途端にお互いぎこちなくなってします。イリスもぎこちなくなるのだから、それ無いり向こうも意識しているという証であり、そのことを更に意識してぎこちなくなるという悪循環に二人とも陥っていた。なので、その気まずい雰囲気を打ち破ぶるように話しかけた人にオレは柄にもなく感謝していた。
「ねえねえ、君たち何者にゃ?」
 その人物は小柄な体をすっぽり覆うローブを被っており、フードも鼻まで隠れるように深くしているので全く顔がわからなかった。ただ、声から女性だと言う事だけはわかる。たぶん、勘だがそこまでオレ達と齢は離れていないだろう。
「いきなり話しかけてごめんにゃ! 僕の名前はメイ、ここにいるからわかると思うけど冒険者にゃ!」
「オレはアゼル、こっちが仲間のイリスだ。それで何者って言うのはどういう意味だ?」
 ここに来て変なことはしていないしニキやダイも連れていないから目立つ要素はないはずなのだが。
「どういう意味っていわれてもにゃ?何だかすっごい神聖で厳かな匂いがしたから興味がわいたのにゃ?特にアゼルからはその匂いがプンプンするにゃ!」
 神聖で厳かな匂い?一体何の事やら。そもそもこんな冒険者でごった返しており、武器の匂いだろうか、鉄の香りが充満する場所で匂いが他の匂いがわかるとは思えない。変人に絡まれたのかと思ってイリスに視線で助けを求める。イリスも困った顔をしていた。
「今まで色んな匂いを嗅いできたけど、こんないい匂いは初めてにゃ……」
「おい、何すんだよ!」
 そう言って、そいつは遠慮なしに近づいてくる。いきなり見知らぬ人に顔を近づけられて匂いを嗅がれて良い気がするわけがないし変人の相手をしてやるほどオレは酔狂でもない。
 なので、近づいてきたそいつの体を掴むと少し強めに体から引き離す。その勢いでかぶっていたローブのフードがとれ、その隠れていた素顔が明らかになった。
「にゃ!?何するにゃ!」
 慌ててフードをかぶりなおして顔を隠すが見逃すはずもなくばっちり見てしまった。
「耳……?」
 ただの耳ではない。猫のような獣の耳が頭の上でピコピコ売れていたのだ。一瞬しか見られなかったがあれが作り物ではないがわかる。あれ程の生物独特の血の通ったものが作り物であるはずがないのだ。
「半獣人だったんだ……どうりで」
 イリスがうんうん、と頷く。一人だけで納得しないでほしい。
「この世界には獣人と呼ばれる人型の獣のような人がいることは知っているよね。その人たちは人のように知識があることと人型であることを除けば顔も体も動物の物で人間より何倍も強い力を持っているの。それで極稀にだけど人と獣人の間生まれた子供がどちらの特徴も備えている場合があって、その人たちは半獣人、ハーフビーストとも呼ばれているの。半獣人の体は人間の物だけどどこかしらに獣の体の一部と能力や本能とか習性が残ってる場合がほとんどで、こんな場所でアゼルの匂いを嗅ぎ分けたのも獣人の能力だと思う」
「その通りにゃ! メイは猫の獣人と人のハーフで匂いを嗅ぎ分ける力は人の数倍から数十倍あるんだにゃ!」
 そう言って誇らしげに胸を張ったと思ったら今度は照れ臭そうに頭をかく。
「ただ、獣としての本能も残ってて、ついついいい匂いにつられて自分でも気づかない気付かない内に匂いを嗅いじゃうのにゃ。やめようと努力はしてるんだけど本能には勝てなくて申し訳ないにゃー」
「まあ、そう言う事情ならいいけど。でも何でそんなローブかぶって顔隠してるんだ?さっきもすぐに顔隠してたし」
「それは、そのー」
「獣人は一部の人から獣と同じだと思われていて差別されているの。なまじ人の姿を持っている半獣人はもっとひどい差別の対象になることもあるし、その希少性から奴隷として高く売れるってことで狙われることも少なくないみたいだからその対策としてだと思うよ」
 話しにくそうなメイに代わってイリスが声を潜めて教えてくれる。その知識量に加え、周りに聞こえないようにする配慮を自然とするとはやはり出来る女だと改めて感心させられた。
 たださっきメイ自身が胸を張って自分は半獣人だと言っていた気がしたが周りは騒がしいから誰も聞いてないだろうし問題はないだろうと流す。ただ、メイが抜けているかもと一応心のメモに書き留めておいた。
「ってことはオレらに正体知られるのは良くないんじゃないのか。その原因作ったおれが言う事じゃないかもしれんが」
「君達なら安心できるって匂いでわかるから大丈夫にゃ! こんな風に思える匂い初めてで……もうちょっと嗅がせてにゃ」
「そういうことならしょうがないが、だからって引っ付くな」
 また陶然とした様子で顔を近づけてくるメイの頭を掴んで押しとどめる。そもそも一体何故オレにそんな匂い付いているというのか。
「クンクン、んー確かにすっごく濃く匂いがついてるけど匂いの元はアゼル自身じゃないにゃ。今は傍にいないけど、アゼルが常に身に着けてるか常に傍にいる生物はいるかにゃ?たぶん、それが匂いの元だと思うにゃ」
「……なるほどな。確かに心当たりはあるよ」
 あの二匹以外そんな奴がいるわけない。神獣とは匂いすら神々しいのか。人にわからないのは幸いだった。こんなことで分かられた日にはどんなに隠しても隠し通せないだろうから。
「んー決めた! アゼルにイリス、メイとパーティを組んでくれないかにゃ?」
「パーティ?」
「パーティ分かんないなんて、ここにいるからてっきり冒険者だと思ったんだけど違うのにゃ?」
「オレ達はまだ、これから冒険者として登録するところなんだよ。わからなくて当然だろ」
「私はわかるけど」
 はいはい、どうせ俺が無知なだけですよ。
「でも、アゼルがわかってないとパーティを組むことも出来ないし、いきなりあった私達をそんな簡単に信用していいの?」
「この匂いを嗅いでピンと来たにゃ! この人たちは良い人だって! それによく嗅いでみたらアゼル自身の匂いもすっごいいい匂いだにゃー」
「だから引っ付くな」
「というわけで僕は方には問題なんてないにゃ! もちろん二人が嫌ならしょうがないし諦めるにゃ」
 そう言われてもパーティが何かわからないので答えようもない。イリスに教えを乞うたが、
「私もなんとなくならわかるけど詳しい話はギルドの人に聞いた方がいいと思うよ。もしかしたら制度が変わってることもあり得るし」
「っというわけでその話はオレ達がギルドに登録し終えた後でまたするってことでいいか。もしかしたら結構待たせることになるかもしれんが」
「メイは暇だし全然かまわないにゃ! 終わるまでここで待ってるにゃ」
「お待たせしました、アゼル様、イリス様」
 丁度狙ったかのようなタイミングでメルルさんがこちらに来ていた。どうやら仕事も一段落したようだった。
「詳しい話はあちらで」
 促されるまま受付の奥にある個室に行く。ッとその前に。
「じゃあ、待っててくれ」
「了解にゃ!」
 メイは元気に手を上げて返事をする。何というか楽しい奴だ。
 案内された個室のテーブルに言われるままに座り、まずは自己紹介をする。敬語で挨拶するオレを見てクスリと微笑むと、
「私はこのガラム王国のギルド所属の事務員、メルル・シンフォです。楽にしてもらって構わないですよ。私みたいな一職員に敬意を称する必要もありませんし」
「じゃあお言葉に甘えて。それでオレ達はこれから何するんだ?」
「ちょっと」
イリスが非難するように視線を向けてきたが無視した。最低限の礼儀を守る気はあるが、向こうが良いと言っているならそれ以上変な気を使うつもりは毛頭ない。例えそれが年上だろうがギルドマスターだろうがこの国の王様だろうが関係ない。対等に接するのが長年の狩猟生活を続けてきたオレの流儀だし敬意の表し方なのだから。
「ギルドマスターから聞いていた通り面白い人ですね、アゼルさんは」
 向こうも気にすることなく敬称を変えて呼びかけながら楽しそうに笑ってていた。
「まったくもう」
 イリスは呆れるような、諦めるような重い溜め息を付くもののそれ以上は何も言わなかった。
「それでは気を取り直してギルドについてのご説明をさせていただきます。アゼルさん達は何処までギルドや冒険者について知っていますか?
「冒険者はギルドからの依頼を隙に選んで受けて金を稼ぐってことくらい。何かAからGランクがあって自分のランク以上の依頼は受けられないってこととかはダグラスから聞いたけどそれ以外はてんでさっぱり」
「私も同じようなものです。宮廷魔術師の事ならわかるんですけど、ギルドについてはあまり母も詳しくなくて」
「わかりしました。では、最初から詳しくお話しした方がよさそうですね。まず、アゼルさんの認識で大体合っています。単純に言えばまさにその通りなのです。ギルドから発信される依頼を解決し報酬を得る、それが冒険者の仕事です。ところでギルドとは何か詳しい内容は知っていますか?」
 オレとイリスは同時に首を横に振る。
「ギルドとは世界各国にありますがそのどれもが根幹は全く同じ組織です。依頼の受け方や報酬の渡し方に至るまですべて形態も同じなのですが、場所によって出される依頼は大きく異なります。」
 世界のどのギルドも同じ会社の別の支部ってところか。存在する場所は違えど中身は一緒というわけだ。
「例えば鍛冶で有名な街ヘリオードでは鉱石収集などの依頼が多いですし水の都アトランティカでは水産関係のものが、華の都アメリアでは作物採取や農耕関係のものが多くなります。もちろん討伐系の盛んな武人の帝国グレンダンは対人系の、強力な魔物が生息する魔物領の国ディンタニアでは強力な魔物の討伐が盛んですね。ちなみにこのガゼル王国は広大な土地柄幅広いランクの魔物の討伐と遺跡や秘境探索が主な依頼になりますね」
「ギルドとして組織は全く一緒でも場所によって受けられる依頼は異なるってことか」
「その通りです。そして各ギルドは世界に十人しかいないギルドマスターの誰かが管理、統率しています。例を上げればここのギルドマスターはここ以外にお隣の国シルフェンと一部の魔物領に隣接するいくつかの小国のギルドを統括しています」
「その魔物領って言うのはなんです」
「魔物領とはその名の通り魔物が多く住む地域の事です。これをご覧ください」
 そう言って出されたのは世界地図らしき物。けれど半分ほどは詳しく書かれているもののもう半分はほぼ完全な白紙だった。
「この完全に白紙のところが魔物領です。強力な魔物が至る所に生息しており未だに人が入り込めぬ場所、その地形すらわかっていないのが現状です。魔物領でところどころ記入されているところはBランク以上の冒険者やそれと同等以上の実力の宮廷魔術師や騎士達が調べてくれたものなのですが、それも微々たるもので奥地に至っては全くの謎。このすべてを調べ上げるのがギルドの至上命題とされています」
 地図をよく見ればガラム王国の名もあった。周辺諸国と比べてもけしてその領地は小さくはないのだがこの地図を占める割合として見ると僅かでしかなかった。オレが住んでいた、かなりの広さを誇っていると思っていた魔徒の森など地図上にさえ載っていない。オレが見ていた世界がどれほど小さかったか嫌でも思い知らされた。
「もちろんそのことをギルドから強制することはありません。魔物領以外でも危険な地域は数多くありますし、そこで魔物退治をして稼ぐのもよし、危険は避け採取系の依頼をこなすものよし。ただ一つの事態を除いて冒険者は自由気ままにしてもらって構わないですから」
「ただ一つの事態以外? それってなんなんだ?」
「それは数年から数十年に一度起こる魔物大量発生による災害のことです。以上な繁殖を繰り返した魔物が大量に押し寄せる大侵攻と呼ばれる緊急事態に際してのみ、冒険者は強制的にその掃討戦に参加させられます。いかなる理由があろうともこの戦闘からの逃亡は重罪としてギルドからの永久除籍に加え各国で指名手配されまともな生き方は送れなくなるのでご注意ください。なお、何らかの依頼で他国に滞在中にいる時にその国で大侵攻が発生した場合でもその義務は発生するのでご注意ください。もちろん、そのような状態で自分が所属するギルドの場所で大侵攻が起こっても義務は発生せず、ペナルティもないのでそこに関してはご安心ください」
「要するに自分がいる場所でその大侵攻とやらが起こったら理由のいかに関わらず戦わされるってことか」
「その通りですが、大侵攻事態早々起こることはないので安心してください。現にこの国での前回の大侵攻は約五十年前、その前になると百八十年前ですし、一生に一度経験すればいい方ですから」
 いい方というか悪い方だと思うがそれなら気に病んでも仕方がないか。これだけいろいろ便宜を図ってもらっているのだから別に一度や二度強制で戦わされたって文句はない。当然の義務という奴だ。
「この条件を受け入れられるというでしたらすぐにでもギルドに登録をしますが宜しいでしょうか?」
 オレとイリスは目を合わせてそれから同時に頷く。どっちみち旅をするなら危険は付き物だ。だったら金を稼げて色々便利なギルドに登録した方が、少し厄介なことがあっても、お得なのは間違いないのだから拒否するわけがない。
「でしたら、二人とも利き手をお出しください」
 そう言われてイリスは左手を、オレは少し迷ったが右手を出した。
 メルルが差し出されたそれぞれの手に両手をかざすと、チリっとした僅かな熱が手の甲に走る。何が起こったのかと見てみると手の甲に、いつの間に刻んだのか複雑に描かれた刺青のようなものがあった。
「それがギルドに登録した冒険者の証、ギルドカードです。特殊な魔法で人体に刻みつけていますが害は一切ありませんし、盗難の恐れもない優れものです。もちろん女性の方のことを考ええて任意で消すことも出来ます。イリスさん、手の甲に意識を向けて蹴るように念じてみてください」
「わかりました」
 イリスが目を瞑って念ずると、刺青はきれいさっぱり消えてしまった。まるでそんなものがなかったかのような綺麗な手がそこにはあった。
「同様に念じれば浮き出るので自分の好きなように出し入れしてください。これがあればどの国でもお金がかかることなく入国できますし、身分の証明にもなるのでなにかあったらこれを見せれば大抵のことはなんとかなりますよ」
「へー便利だな」
まあ、いざという時に戦うという義務があるからこそそんな風に優遇されるのだろうが。
「これでお二人ともギルド登録は終了いたしましたので次に、依頼の受け方などについてご説明いたします。まず、ご存じのとおりですが個人で依頼を受ける場合はその本人のランクに応じた者しか受けられません。いかに実力があろうとランクが足りなければ遺体は受けられないのでご理解ください。ランクを上げる方法は二つ。一つは相当数の依頼をこなした後ギルドにランクアップを申請、それがギルドで認められたならランクアップとなります。その際には試験が課せられることもありますね。二つ目は特殊な方法で大侵攻などの特殊な緊急事態で他の追随を許さない功績を挙げること、です。最近では全世界で現在七人しかいないAランク冒険者。最強と称される内の一人。赤の王、カーディナル・ジョセフ・ダングレストが数年前の大侵攻で破竹の活躍を見せたことによりG-ランクからAランクに一気に駆け上がった記録があります。他にも過去には攫われた王族の姫を助けたたりなどしてランクアップを成し遂げた者もいますが滅多にあることではないので覚えなくてもかまないでしょう」
 確かに起こる可能性が小数点以下のごとき出来事を待っているなんて馬鹿なことはない。そんないつ起こるともしてないことに意識を割くぐらいなら正規の手順でやった方が百倍マシだ。
「基本的にランクを上げるしか上のランクの依頼を受けることは出来ないのですが、一つだけ例外があります。パーティを組むことです」
 待ち望んでいたその話になったか。これでメイが言っていた事がようやくわかる。
「パーティとはその名の通り何人かの冒険者が協力して作る集団の事で、ギルドに申請していただければ正式に登録できます。そして登録したパーティはそのパーティのメンバーのランクに応じた依頼を受けることが出来るのです。詳しく説明しますと、例えば今、アゼルさんとイリスさんがパーティを組んだとします。そうなるとお二方のランクはC-なので当然C-までの依頼を受けることができます。ここにあと二人までならC-以下のランクの人を、例えば最低のG-ランク二人を、加えてもその依頼を受けることが可能になります。仕組みとしてはこうです」
そう言って説明してくれたものを要約すると次の通りのものだった。
受けられる依頼はそのランクに応じた物を個人で一つ、パーティで一つまで、別々の依頼を同時に受けることも可。
 一つのパーティのメンバーは最大十人まで。
 そのパーティ内でC-ランク以上の高位の冒険者一人につき一名、どのランクの冒険者をパーティに加えてもその者ランクを無視して依頼を受けることが出来る。
 パーティで受けた依頼の報酬はそのリーダーに渡され、配分はパーティの自由。
任務達成や失敗による評価や記録はランク関わらずメンバー全員に与えられる。
そのパーティで依頼を失敗する数があまりに多い場合は強制的に解散、などだ。
仮にパーティ内にC-ランク一人、Cランク一人、C+ランク一人、Gランク三人だった場合Gランクの三人は上の三人のおかげでランクを無視。それを無視したうえでの最低ランクであるC-の依頼までを受けられるということだ。
今のオレらで言えば二人までならパーティに加えてもC-依頼を受けられると言う事である。
もちろんこれはギルドが管轄する上での話であり、実際には個人で受けた依頼を複数の仲間と共に受けても何ら問題はない。ただし、その場合、依頼成功時にギルドから与えられるランクアップに必要な評価はその依頼を受けた当人のみに与えられ、報酬も同じだ。なので。どうしてもの場合以外パーティを組んだ方が圧倒的に得ということだ。パーティを組まないと他の仲間はただ働き同然というわけで、割に合わないとはまさにこのことだ。
 こうしてすべての説明を聞き終えたところで、メルルにメイとのことを相談してみる
「メイ・ファラシオンですか。Dランクでシーカーという情報偵察の役割をこなす中々有望は冒険者ですよ。半獣人と言う事で今までパーティは一度も組まず単独で行動していましたが、アゼルさんの力を見抜く辺りを考えると観察力も相当なものですね。実力の割に抜けている子だとばかり思っていたので驚きました」
 いや、たぶんその考え間違ってない気がすると思ったが確証はないので黙っておいた。メイがオレを気に入った主な理由はあの二匹の匂いで恐らくこちらの実力は全く気付いてないし。
 ところでそんな簡単に他の冒険者の情報を他人に教えていいのかと聞いたところ、特別ですよ、と人差し指を口に当て他の人には内緒のポーズをする。知的美人でクールなイメージがあるメルルさんがそんな可愛らしいボーズを取るなんて、はっきり言ってそのギャップにかなりそそられた。反則級の可愛さである。
「獣人は生来仲間を大事にする起筆を持ってますし、彼女ならば信用できると思いますよ」
 だったら問題はないだろう。どうせいつかは仲間を増やそうと密かに考えていたのだ。こういう縁で仲間が出来るというもの悪くない。
 イリスも同意見らしく、すぐにその場でオレとイリスとメイでのパーティを作ることにした。リーダーを誰にするかを相談するため、メルルがメイをこの場に呼んできてくれ、互いにで自己紹介をする。
「それじゃあ改めて自己紹介するにゃ。メイ・ファラシオン、猫の獣人と人のハーフで好きな物はマタタビにゃ!これからよろしくにゃ!」
 その語尾からある程度予想はついていたがフードをとったその短い茶髪の頭に付いていたのは猫の耳だった。目の色も猫特有の物なのか片方ずつ異なる色をしている。それ以外は見たところ髭もないしただの人だ。
 こちらも名乗り次にリーダー決めとなったのだがこれ意外なことに、
「僕はリーダーなんて柄じゃないから二人のどっちかに任せるにゃ!」
「私もアゼルを差し置いてリーダーになる程おこがましくはないので遠慮する」
 との二人の言葉であっさりとリーダーはオレに決定。物を知らないオレでいいのかと思ったが二人がそう言うのなら仕方がない。いざとなったら二人も協力してくれると言ってくれているし。
「それではリーダーがアゼルさん、メンバーがイリスさんにメイさんで登録しておきますね。それとアゼルさんには届け物があります」
「届け物?」
 いったい誰が?
「差出人の名前は『おちゃめな王様』です」
「「ぶ!」」
 オレとイリスは同時に吹いた。こんな馬鹿なことをするオレと知り合いの王様、そんな奴は一人しかいない。そう言えばダグラスに届け物がどうとか言っていた。あれはオレに対するものだったのか。
「届け物は全部で三つ。まずはこれです」
 そう言って渡されたのは中くらいの大きさの布袋だ。外見は所々汚れておりこんなものが王様からの届け物だとは別に金銀財宝を期待していたわけではないが正直表拍子抜けした。
「こんな袋、そこら辺の店でも売ってるだろ」
「いえ、見た目はただの布袋ですがそれは普通の物ではありませんよ。まぎれもなく国宝級の魔道具です」
 こんなボロボロの袋が?信じられなかった。
「これをみてください」
 メルルは立ち上がると今まで座っていた椅子を持ち上げ袋の入り口に近づけていく。無論、小さな袋にどう考えても椅子が入りきるわけがない。はずだったのだが驚くべきことに袋はスルスルと何の引っ掛かりもなく椅子を飲み込んでしまった。
「この袋には特殊な魔法が掛けられていて中の空間がほぼ無限に広がるように設計されています。なので、アイテムや倒した魔物の金になる部分などを、重さを気にせずいくらでも持ち運びができるのです。並みの冒険者では手に入らない逸品ですね」
 中に入れた椅子を取り出しながらメルルは言う。
「こんなすごいものくれるなんて太っ腹な人だにゃ。このおちゃめな王様ってアゼルの知り合いかにゃ?」
「ま、まあたぶんだが心当たりはいる」
 こんな高価なそうなものをタダでくれるところを見るとまず間違いない。
「ふーん、アゼルは良いお友達を持ってるんだにゃー」
 それで納得せずもっとおかしいと思えよ、と突っ込みを入れてやりたいところだがじゃあ誰からと聞かれても堪えられないので何も言えない。イリスも同じような何とも言えない顔している。とはいってももらえる物はもらう主義なので心の中で感謝しつつ受け取った。
「次にギルドマスターからアゼルさんに例の件の報酬とギルドに登録した時に配布され地図です」
 まず、渡されたのは金貨一枚に銀貨五十枚。
 この世界の通貨は金銀銅それぞれの硬貨があり、銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨一枚で金貨一枚の価値がある。大体銅貨一枚で元の世界で言う百円ぐらいの価値だから、銀貨は一万、金貨ならなんと百万の価値となるのだ。ちなみに金貨二枚で平均的な四人家族が一年裕福なくらいが出来るらしい。無論、冒険者は特殊な回復薬であったり高価な武器を消耗するので一般の数倍から数十倍の金がかかることを考えればこの報酬も安いとは言わないが破格ではないのだが。
 ただ、実はオレには母さんが残した金、おおよそ金貨百枚があるのである。元の世界風に言うなら一億円の遺産が与えられたというところだ。なので、この程度のお金貰っても、本来なら喜ぶべきなのかもしれんが、そこまで実感がわかないところが正直なところであるのだった。
 そんなことは露とも知らず喜ぶイリス達を尻目にメルルは次に地図を渡して指をさしながら説明してくれる。
「この地図は魔法が施されていて、他の誰かに踏破されてギルドが登録されているか、自分が言ったことがあるところなら地図上にすべて現れます。また、詳しい内容が見たければその場所を見たいと念じ触れば拡大されます。練習として二人ともここ、ガゼル王国、王都レディアントを拡大してみください」
 言われた通りにするとガラム王国の領地が表示される。その中のレディアントを開くと都の中の詳しい地図が出た。
「へー便利だな。……ん?」
 その中の一角に何故だか赤い丸で囲まれた場所がある。しかも小さくだが言葉が何か書いてあった。
「……」
それを読んだオレは誰にも悟られぬようにその部分をさりげなく手で隠す。チラッと隣のイリスの地図を見てみるが、案の定そこには何も書かれていない。
ここに書かれていたことはこれを書いた人物と恐らくそれをわかっていて渡したであろうメルル以外誰にも知られるわけにはいかない。ある意味、今までの貰ったどんな物よりも価値があり、それと同時に危険な言葉がここには書かれているからだ。
 それをわかっているのかメルルはこちらにだけ聞こえる声で、
「それはギルドマスターからの好意です」
「……この情報、有効に活用させてもらう」
 囁いてくるのでオレは厳粛に返しておいた。
 その後は相談の結果、依頼は明日また受けることにして一時解散と言う事になりオレとイリスは既に宿をとっているメイとは別れ、メルルさんの勧められたペット可、あの二匹をペットで片づけられるのか別にして、の店に行きそこで用意された夕飯にありついたり、ごろごろして旅の疲れをいやしたりして日は暮れて行った。
 当然のことながらイリスとは別々の部屋を取ったオレは皆が寝静まる頃になると行動を開始する。この時をずっと待っていたのだ。誰にも気づかれてはならないので、十全と言える警戒をして部屋を出る。保険として音を消すものと姿が見えなくなる魔法を併用してこっそりと宿を出る。
リビングで眠るダイとニキはやはり誤魔化せなかったがこちらの意図を悟ったのか、首を上げてこちらを見たもののカーペットにまた顔を突っ伏して寝はじめる。後で、礼をしなければならないなと思いつつ、俺は目的の場所まで早足で進む。
 緊張で早鐘のように鼓動を打つ心臓を感じながらオレは遂にその場所に辿り着いた。
 何度も地図で確認したので間違いはない。
待ちに待ったその場所、それは。
「遂に来れた……花街」
 いわゆる娼館、要するにそういうことするお店だ。
「何年この時を待ったことか!」
 十七歳という性の真っ盛りの記憶をなまじ覚えていたばかりに赤子の頃がこれまでどれほど辛かったから。周囲にいたのは老人一人に獣三匹、魔物たくさんというそう言う意味では一切の娯楽の無い地獄の環境でも約十七年、計三十余年。どれほどそれを望み、焦がれたことか。渇望していたと言っていい。
 しかも、今は超が付くほど可愛い女の子と一緒の旅、これで意識するなという方が無理なのだ。どれほどの精神力を使って平静を保ってきたか、何度襲ってしまおうかという悪魔の囁きを退けたことか。これまで押し込んできた欲望をもう抑え込む自信はない。否、もう抑えるつもりは毛頭ない。
「感謝するぞ、わが友ダグラス」
 この王都で一番の穴場を地図にコメント付きで教えてくれた恩人にオレは心の底から感謝する。ちなみにそのコメントは
『ここに男の楽園がある。行って来いby男の男、ダグラスより』
「確かにあいつは男、いや、漢だ」
 さて、感謝するのもここまでだ。もう後は突っ走るのみ。
 オレは意気揚々とダグラスおすすめ店に入っていって好みに合った女性を選ぶ。透き通るような金髪に、海のように深く神秘的な青い瞳でナイスバディのお姉さん、ジュリリーアン・フェアリアさんだ。
元の世界でも経験なかったオレは、最初は緊張してジュリリーアンになすがままだったが、徐々に慣れていき、やがてはジュリリーアンさんを悦ばせてあげられるまでになった。
 何回戦かもわからないくらいやって小休止している中
「アゼルちゃんって言ったよね。初めてだと思えないくらい気持ちよかったわー」
 娼婦という割にほわほわした雰囲気のジュリリーアンさんだった。そしてまさかのちゃん付けはそれとなく断っておく。
「いや、なんかすんません、激しくしちゃって。止まんなくて」
「私も楽しんだし気にしないで。それと私の事はジュリーって呼んで。あなたは特別だからね。それで私はなんて呼ぼうかな。そうだ! 旦那様って呼ぶわね」
 そう言って可愛らしく甘えられたらそりゃその気になるわけで休憩なんて遥か彼方に放り投げてその綺麗な肢体にむしゃぶりつく。
 この世界の女性達は、精霊などは生まれつきで人間は生まれてすぐ施される魔法で、本人が望まなきゃ妊娠しないようになっているとのこと。なので、向こう違って避妊とかそういうことを気にせずやれるのだ。なので、最初から全力全開全速前進である
その後ジュリーが人間とニンフという精霊のハーフであること、人を誘惑し癒すことを欲求に持つニンフとのハーフ故に金ではなくその本能を満たすことが目的で娼館にて働いていること、良い出会いがあればその人に一生尽くすつもりであること等様々な話もした。
 何となく今までの客の話を聞いてみれば驚くべきことにどの人も話をして手を握るだけで陶然として、あまりの緊張からか皆本番まで行くことなくお金を払って帰っていったとのこと。それで、皆満足しているとこのことだし、娼館のトップ座に君臨しているのだから恐るべきニンフの血とは言うほかない。
 だからオレみたいにそういう関係になれる客は初めてでとても幸せだったと微笑まれ、ムラムラしたのでまた一戦。猿か、オレは。
 イリスにばれる前に帰らなきゃいけないと思って深夜の内に帰ろうとしたのだが、お金は自分が立て替えるから朝まで一緒にいて、とせがむジュリーの思った以上の粘りと可愛い甘えに適うはずもなく、結局夜通しで楽しんでしまった。この体、戦闘や酒だけじゃなくこれにも超人的な力を発揮するらしい。
空が白んできた時にはさすがにまずいと思ったのでそれでも引き止めるジュリーに必ず近いうちにもう一度来ることを約束することでどうにか引き下がってもらう。それでもしぶしぶといった様子で拗ねて頬を膨らませる様子は綺麗なお姉さんといった外見とはちぐはぐな感じだった。中でいいと言ったのに娼館の外まで見送られて、別れのキスもせがまれたのでたっぷりとして、
「待ってるから絶対来てね、絶対よ。私、これからあなた専属になるから。来なかったら泣いちゃうから」
 とのお言葉を貰いその場を後にする。まだ、時間は早朝。これなら間に合うと思ってきた時と同じようにこっそりと扉を開けたところで顔から血の気が引いた。
「あら、おかえりなさい。ところでどこに行ってたの?」
 顔は笑っているのに目は笑っていないという恐ろしい表情のイリスが部屋まで至る会談の途中で仁王立ちしていた。まさかこの時間に起きているとは。考えてみればあの村で出会った時も花の世話とかで早朝から起きていたではないか。そのことを完全に失念していた。
 だが、ここで諦めるオレではない。何とか切り抜けようと、
「ちょ、ちょっと鍛錬してたんだ」
 必死に動揺が伝わらないように話す。
「ふーん、そうなんだ。こんな朝早くから鍛錬するんだ」
「も、もちろんだ。習慣だからしないと落ち着かないんだ」
 無論、嘘だ。昼まで寝ていることもざらである。だからそんなことを知らないイリスならこれで騙せると考えたのだが、
「ふーん、じゃあその首の痣は?」
「首の痣?」
 一体何だ、それは。そんなものに心当たりはない。
 イリスから差し出された手鏡を受け取って確認してみて、その浅はかな抵抗は終了した。
「そんなキスマークみたいな痣を作る鍛錬ってどんなものなのか詳しく教えてくれる?」
「え、エッチな鍛錬。なんちゃて」
 こんなので誤魔化せるはずもなく、オレは観念して言われるまま正座してこっぴどく叱られるのだった。
誤字脱字などもあったら教えてください


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