村を出て歩き始めて少しして、オレは早くも大体に乗ることにした。のんびり旅を楽しんでも悪くはないのだが今はガゼル王国に行くという明確な目的がある。それを優先させることにした。
ただ、そこで今まで気付かなかった問題が発生する。
「しまった、イリスをどうするか考えてなかった」
オレがどちらかに乗ってイリスがその逆の方に乗ってもらえばいいと考えていたが、ここで神獣であるダイ達の習性を忘れていた。心を許した奴にしか触らせないというものを。
いつも犬みたいに扱っているし、オレには全く嫌がることなくむしろ嬉しそうに触らせてくれるのでイリスも大丈夫だと思い込んでいたのだ。
「イリスを乗せて欲しいんだがダメか?」
二匹は拒否しなかったものの微妙な表情だった。オレの頼みは聞いてあげたいが触らせるだけならともかく背中の乗せるのはといった感じか。いつも完全な犬のダイですらこうである。こうなると飯を与えてどうにかなる問題ではないから困ったものだ。
「ちょっとした飛行魔法なら使えるし、私はそれで付いていくから大丈夫だよ?」
イリスが気を使ってそう言うがそれはまず無理だ。二匹の走る速度は並みではない。背中に乗っているだけ辛いし、飛行魔法でついていくのはオレですら無理だ。もちろん速度を緩めてもらえばそれも可能だがそれだとやはり遅くなるし、イリスの魔力が切れたらそこで止まらざるおえなくなる。なによりイリスだけ疲れさせることになるしそれは流石に申し訳なかった。
「マジで、頼む!うまい肉用意するから!」
二匹はどうしても首を縦に振らない。拒否しないから完全にダメではないのだろうが。
すると意外なことにニキが自らイリスの元に近寄っていきその眼を覗き込む。これは相手の心を感じ取っているのだ。感じ取っているといっても読心術を使っているわけでなく善し悪しを本能で感じ取っているのだ。嘘を見抜く力も相手が悪意を持っていればこそわかるのであって、良かれと思っての嘘はわからないことも多い。それでも超高性能に変わりはないが。
しばらくイリスの眼を見ていた決心したのかニキは更に一歩近寄ってイリスの頬を舐める。正直驚いていた。人懐っこいダイなら懐く可能性もあると思っていたがまさか、比較すればだが、気難しいニキの方が最初に認めるとは。ニキは振り返ってダイに向かって一吠えする。すると、ダイも仕方ないといった様子でイリスの元に行って頬を一舐めした。
これで問題解決だった。オレは二匹に礼を言って戸惑うイリスに事情を説明する。
「オッケーだってさ。こいつらイリスの事完全に仲間として認めたんだよ」
「でも、私何もしてないよ?」
「こいつらは人の本質を本能で見抜くから、認めない奴はどんなことしたって認めないし認める奴はなにもしなくてもあっさり認めるんだとよ。だから認められたイリスは堂々とこいつらに乗ってもいいの」
それでも迷うイリスを説得して、オレはより速い方であるニキに乗ろうとして拒否された。ダイの方もイリスを拒否している、何故だ。
一旦ダイはイリスの元を離れオレの襟を咥えて放り投げると背中に乗せる。その後でイリスの元に行ってオレの後ろに乗るよう首で示す。
「ああそっか。いきなりだときついもんな」
二匹の速度はさっきも言ったが並ではない。こいつらがその気になれば千シクルを一分で走り抜けるくらいだ。しかもニキに至ってはそれでもまだ十分な余力が残っているくらいだ。オレが一人の時、毎回ダイに乗っていたのはオスだからとかではなく、単にニキに乗ってしまうとダイが付いて来られないからだ。神獣最速の名をほしいままにする黒狼の名は伊達ではないのだ。もちろんダイも充分速いのだが。
そんなわけで比較的遅いダイでオレと二人乗りでまずは慣れろいうことだろう。そう言えばオレも初めてこいつらに乗った時はあまりの速さに耐えきれず背中から放り出されて死にかけたものだった。今では慣れたのでそんなことすっかり忘れていた。
「今なら落ちても魔法でキャッチできるし、大丈夫だと思ったんだよ」
非難の視線を向けてくる二匹に言い訳がましく説明したが、その視線は変わらなかった。
「とにかくこれでいいだろ。イリスも早く乗れって」
「え、でも」
「いいから、ほら」
いまだに躊躇うイリスに手をさし延ばす。仲間なのだから何を遠慮しているのか。
「う、うん」
イリスを引き上げオレに腰に腕を回したのを確認してダイに頷く。
ダイはすぐさま駆け出した。前もって地図は見せて方角も教えてあるので指示する必要はない。
「きゃ!」
イリスは想像以上の速さに驚いたのか短く叫んで、腰に回す腕にギュッと力を込める。
そこからは順調だった。途中に数回魔物と擦れ違ったがそのどれもが先導するニキの爪と牙の餌食になる。その血が噴き出す前に二匹はその場を過ぎ去るので血で汚れることもない。そうして、徒歩なら魔物を警戒したりして二日から三日はかかる道のりを半日も立たずに走破する。
「まさにチート」
「チート?」
「ずるいって意味」
あまりの速度に声も風の音でかき消されるので魔法で風の流れを操って、吹き付ける風を無効化する。最初からこうすればよかったのだ。高速特急狼号改め犬号は今日も順調に進んで行った。
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