それから二日、オレはこの村で過ごした。イリスは思っていたより村人に人気があったらしく別れを惜しむ者、旅立ちを祝福する者などたくさんの人がイリスの元を訪れていた。それだけなら一日で済むことだったのだが村の男どもが祝いの宴会をやりたいと言い出し旅立ちを数日待ってもらえるかヘルメスさんが申し訳なさそうに聞いてきたので、どうせ急いでいないオレも二言で承諾。一日掛けて準備がなされ魔物討伐の祝いも兼ねた大宴会が開かれることになった。
オレは無用な混乱を避けるために流石に名前は明かされていなかったが討伐した奴の特徴はどこからか噂になっていた。大きな狼を連れた男なんて伝わっていたのでそんな奴オレしかしないから特定されるのも時間の問題であり、最初は二匹と角っこで大人しく飯を食っていたのに、すぐさま中心の席に座らされイリスと同じ主賓の扱いになってしまった。ニキとダイはいつの間にか姿が見えなくなっていたので部屋に戻ったのだろう。酒も飲まずに酔っぱらいの騒ぎを見ていても何も面白くないし。皆、酔っぱらいながらも礼を言ってくる。中には涙ながらに手を握ってくる老人もいたので扱いに困ったがなるべく失礼にならないよう丁寧に相対した。
そうしている内にこの世界では成人は十五歳でありもうお酒が飲めると知って飲み物をジュースから酒に変更、初めてだし酔っぱらうかと思ったがどうやらこの体ザルらしくほんのり体が温まっていい気分になったが、それ以上になりはしなかった。イリスも、同い年だと勝手に思っていたので聞いて驚いたが、十九なので酒は飲めるはずなのだがあまり飲んでいなかった。酒が苦手なのだそうだ。
酒が入ったこともあり、詳細は語れないものの今までの森でのことなども話したりした。魔物退治の話をしたときは何故だか小さい子供たちが寄ってきて目を輝かせながらもっと話をして、とせがまれて困ったり、これからイリスと共に旅立つ話をしたら結婚しちまえと冷やかされたりと騒々しいけれど楽しい時間を過ごしていった。
そうして騒ぎに騒いだ楽しい夜も開け、オレが次の日の朝、俺とイリスは村の入り口に立っていた。
「今までお世話になりました」
見送りにはヘルメスさんだけにしてもらった。イリスが湿っぽいのを嫌い、昨日のうちに村人との別れは済ませてきたらしい。
「アゼルさん、娘の事よろしくお願いします」
ヘルメスさんが深々と頭を下げる。思えばこの人には本当に色々なことで世話になった。森を出て早いうちにこの家族に会えたことはオレにとって物凄く幸運なことだったの今更のことながら気付かされる。このまま別れるのも何なので土産を残していくと決めた。
「ダイ、頼めるか?」
「ウォン」
威勢よくダイも吠える。ダイもこの村を気に入ったみたいだった。八割が飯のおかげだろうが。
大きく遠吠えをするダイの周囲に氷の塊が現れる。その氷の塊は徐々に形を為していく、狼の物へと。
「これは一応対魔物用の木偶人形みたいなものです。ゴブリンくらいなら集団で襲ってきて返り討ちに出来るくらいの能力はあるんで好きに使ってください。壊れない限りはずっと持つし、門の前にでも置いとけば近くに魔物が来たら知らせてくれる優れものです」
しかも、木偶の割はだが、そこそこ強い。ゴブリンやオーク等の雑魚なら一匹で五十から百くらいは軽く殺せる。こいつがいればまたエレメンタルアサシンが現れてもどうにかなるはずだ。
「何から何まで本当にありがとうございます」
「じゃあ、今度来たときうまい飯食わせてください。もちろんこいつらにも」
「わかりました。その時を心待ちにしています」
オレはそこでその場を離れる。残されたイリスはヘルメスさんに飛びつく様に抱き着いた。
「行ってくるね、お母さん」
「ええ……体に気をつけるのよ。無理はしないようにね」
「うん、わかった」
イリスばかりかヘルメスさんも涙ぐんでいた。永久の別れではないがそれでもしばらくは会えないだろうから母親としては色んな思いがあるのだろう。イリスも鼻をすすっていたがやがて離れて笑顔を見せる。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
そうお互い笑い合って、イリスはこちらの元にやってくる。そしてそのまま歩き出した。
こうして二人と二匹になったオレ達はガゼル王国を目指して旅立つのだった。
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