「じゃあ行きますよ」
魔物退治の準備も終え、といってもオレはそのままでよかったので準備などしてないが、オレ達は村を出た。メンバーはオレとニキとダイ、それにヘルメス、イリス親子の計五名だ。何故二人が同行することになったのかと言うとちゃんと魔物を倒したかしっかりと見てもらうためだ。どちらか一人でよかったのだがヘルメスさんもイリスも眼が神獣の力を見たいと言ったので誘ってみたら恐縮しながらも嬉々としてついてくることになった。ヘルメスさんはもっとお堅い人だと思ったらあの態度は公の場だけらしくオレが辞めてくれるように頼むと言葉使いは変わらないものの態度はかなり軟化させてくれた。そのせいか色々とお互いの事を話すようにもなった。オレは今までの過ごしてきたことしか話すことがないのでつまらないかと思ったが二人は以外に興味を持ってくれたのか色々質問された。その質問に答えるたびに生暖かい目で見られたがか何故だろう。
そんなこんなで話している内に洞窟近くまで到着する。ちなみにここまでの道のりは徒歩だ。ニキもダイも、特にニキが、オレ以外を背に乗せるのは気が進まないらしく、ヘルメス親子の方も恐縮しきっていたのでお互いの精神衛生上の事を考慮して歩くことにしたのである。途中で魔物にも遭遇することもなかったのでほとんど散歩のようなものだった。
「ここが結界ギリギリの地点です。これより先には一切の魔法が使えなくなります」
ここで気になっていたこと試してみる。まず、その場から結界内に現れるように魔法を使ってみる。使う魔法は単純な手のひらサイズの火の玉を起こすもので結果は発動しなかった。次に、前に進んで結界内に入って外に同じ魔法を使ってみると今度は火が点いた。その火を操って結界内に入れても影響なし。これは聞いていた通りだ。火の大きさを大きくして結界と中と外をまたぐように使ったらどちらからでも不発。
この結界とやらはわずかでも結界内に入っている魔法の発動を無効化するが、その外で発動したものや外から中に入って来たものには一切の影響はないらしい。
次にこの結界の範囲の確認だ。これはちまちまやってると日が暮れるので荒業で一気に終わらせる。改めて結界の外に立ち、先程と同じように火を起こす魔法を先の洞窟の更にその向こう側まで、さらにはその遥か上空に至るまでありとあらゆる場所に発動する。
もちろん周囲の木々が燃えたら大変なので燃え移らないようにコントロールして。
そうすると洞窟を中心にして綺麗な半球状に火がない空間が出来上がった。中心部分はかなりの高さまで無効化されるようだ。これで調べるべきことは終わった。
「この魔法無力化能力って他にも持っている魔物いるんですか?あと、これ以外の魔法を無効化する能力ってあるんですか?」
これは知っておかなければ後々足をすくわれかねない情報なのでしっかりと確認しておく。
「は、はい!これは唯一魔物が魔法を無効化する能力のはずです。後、ここらへんにはいませんが使える魔物は世界にはいます。どの魔物も滅多に見ることはありませんが」
ヘルメスさんに尋ねると、何故か緊張した面持ちで答える。何故だろう。
その隣で娘のイリスはまた呆然としていた。
「……すごい」
そうかすれた声で呟いたのが聞こえたが何がすごいのだろうか。これくらいなら老いて弱った母さんでも簡単にできることだというのに。
イリスの態度は若干気になったが今は仕事が最優先なのでスルーする。これで知りたいことは全部終わったから本番だ。
ただその前に
「二人に質問があるんですけどこいつらの、神獣の力が見たいんですよね?」
この言葉に二人はためらいながらも頷く。
「そうですよね……なら、ここから楽に殲滅するのはダメか。見えないもんな」
「ちょ、ちょっと待ってください!まさかと思うんですがここから殲滅出来るんですか?」
オレの呟いた言葉を聞き逃さなかったのかヘルメスさんが聞いてくる。その答えは簡単だ。
「はい、できますよ」
魔法が離れたところから正確に狙えないのは肉眼で見えないのでは狙いがつけようもないから。双眼鏡があれば違うのかもしれないが(この世界に)あるかどうかわからない物を頼るつもりはない。だがオレはその為の魔法を昔、作り出していたのだ。
手を振って魔法を発動させる。この程度の魔法なら詠唱も必要ない。すると、前方四角形の景色が歪み次の瞬間には洞窟の入り口を映していた。そこにテレビがあってチャンネルを変えたといえばわかりやいだろうか、そんな感じである。オレはこの魔法を映写と呼んでいる。
この魔法はオレが作り出したオリジナル魔法で二人はこの性能に驚いているが本当に驚くべきところは実はそんなところではない。
オレがこの魔法を作ったのは数年前の事で、双眼鏡の仕組みを利用すれば遠く物を見れるようになるのではないかと持って作り上げたものだ。ここで重要なのがオレは双眼鏡の詳しい仕組みなんて知らない。せいぜい対物レンズと接眼レンズを使って光を操るらしい、くらいのものだ。そんな適当な理屈を魔法で使ったら簡単に視界を遠くに移すことも出来るようになったし、それを映像化したいと試行錯誤したら意外に簡単にできてしまったのだ。
ここで重要なのはオレが詳しい理屈を知らなかった、という事だ。そんな曖昧でほんの欠片のような情報でも多少の苦労はあったが魔法は再現できてしまうのだ。これほど卑怯なことはないだろう。現にオレは元の世界の情報や知識を参考に幾つものオリジナル魔法を作り出すことに成功している。それらを見た母も非常に珍しい顔、絶句して声もでないという表情をしていたくらいだ。
この世界の人には思いつかない発想をオレは知識として持っている、これは凄いことで魔法に限らず色々な面で大きなアドバンテージを得ることになる。事情を知ったら卑怯と言われるかもしれないがだからといって使わないのももったいないし、使った方が楽だからバンバン使うが。
そんなわけで作った映写はどうやら思った以上に二人に衝撃をもたらしたらしく二人は魚のように口をパクパクさせるばかりだった。このままでは埒が明かないので手を叩いて二人の意識を覚まさせる。
「それで、ここから洞窟の中に魔法ぶち込めば速攻で片付きますけど、それはわざわざ来てくれた二人に申し訳ないのでやめるにしてどうしますか?洞窟の中に入ってみます?それともそとに無理矢理おびき出しますか?」
オレとしては、用意する飲み物をお茶にするか緑茶にするかと聞いたくらいどうでもいいことだった。手っ取り早いと言ってもたいした差ではないし。
そこらへんでいい加減向こうとの価値観やら常識の違いからの擦れ違いに着かれてきていたオレは聞いたくせに心の中で方法を勝手に決める。
即ち、選ばなきゃいいのだ。
「……やっぱり面倒なんで全部やりますね」
ヘルメスさんが何か言おうとしたが無視した。十七年もほぼ引きこもっていたせいもあるが、元々対人コミュニケーション能力は高くないし我慢強くもない。ちゃっちゃと終らせて飯を食って寝る、そう決めた。
「二人はここで見ていてください」
映像を四つに分割し三つはオレ、ニキ、ダイを映すように最後は今まで通り洞窟の入り口付近を映すようにして、
「加減して……火炎弓」
炎で出来た弓で同じく炎の矢を引き絞り、放つ。
物理法則を無視して加速した矢は狙い過たず洞窟に吸い込まれ爆発した。威力はかなり抑えたので死ぬ奴はいないはずだ。ただ、これで外から攻撃されると理解しただろうから出てくるはずだ。中にいれば一方的に狙い撃ちだと魔物でもわかることだし。案の定、少ししたらオークやゴブリンそれに加えて大きな蝙蝠のような魔物、ジャイアントバットが煤けてはいるもののそこまでの怪我はない様子でわらわらと出てくる。その中には明らかに他の魔物と違った奴がいた。巨大な人型の骸骨の姿をした魔物、聞いていたエレメンタルアサシンの特徴と一致する。通常は白の骨だが、その魔物の骨の色は赤銅色だった。これが亜種、色違いか。
「まあ、関係ないけど」
オレはダイに跨ることなく風の魔法で加速すると二人を置いて二百シクルの距離をあっという間に詰める。もちろんダイとニキも遅れることなくついて来ているの。
「派手にやっていいぞ!」
二匹はうれしそうに雄叫びを上げると、それぞれ獲物に向かって食らいついていく。そこからは一方的な虐殺だった。
まずはダイ、白狼の能力である氷の力を使って周囲の奴らの氷漬けにしていった。神獣の力は魔法ではなく元々備わっているもので人間に表すなら涙が出たり毛が生えたりするようなものなので封じられることはない。存分にその力を振るっているその姿に恐れをなして逃げようとしたオーク達は残念ながら突然現れた土の壁にその退路を断たれてしまう。その壁はダイが作り出したものだ。黒狼との混血であるダイは通常の能力の他に大地を操る力も持っているのだ。ダイが吠えれば大地はダイの思い通りになり、地形すら変わる。神の名を持つ獣に相応しい力だった。退路を断たれたオーク達に焦らずゆっくりと近づいていき、ダイは食事用であろう一匹以外を氷漬けにして嬉しそうに吠えていた。こんな時でも食い物のことを考えるとは相変わらずである。
一方、ニキも圧倒的だった。黒狼の能力である雷の力を体から迸らせながら凄まじい速度駆けていく。ニキが通ったところには原型をとどめない黒焦げの炭のような死体しか残らない。やはり力の差はわかるのか逃げ出そうとする奴らもいるが圧倒的な速度差に逃げることは適わず息絶えていく。しかも黒狼であるニキは空が飛べる。否、飛べると言うより空を掛けると言った方が正確か。しかもこれまた白狼との混血であるニキは風の力も持っており通常の黒狼よりも、さすがに他の空を飛べる神獣に比べれば劣るが、速く自由に空を駆け抜ける。少しばかり飛行できる奴など敵ではなった。一体の打ち洩らしもなくニキは黒焦げの山を作り上げた。
そう言うオレは雑魚ばかりだが数が多いというこの状況を某アクションゲームのごとく、次々に敵を斬り倒していった。魔法が使えないからと言って二匹の足手まといになるような軟な鍛え方はしてないので問題はない。二匹がほとんどの魔物を駆逐してくれるので目的のエレメンタルアサシンの元まで簡単に辿り着き、
「よっと」
有無を言わさず一刀の元に斬り伏せた。聞いていた通りこいつ自身は力がないらしくあっさりと首を、と言っても骨だが、胴体から切り離す。生命力も低いとの情報なのでこれで終わりかと思い、残りを一掃するべく魔法を使おうと思ったら不発だった。
まさかと思って先程倒したはずのエレメンタルアサシンを見てみたら、自分の首を持って絶賛逃亡中だった。どうやら亜種は生命力も通常種とは比べものにないらしい。
ストレス発散はもう十分したし、二匹の力も十分見せたと判断して手早く片付ける方に作戦をシフトする。
「ニキ!」
叫んで上空に飛びあがる、それを狙い過たずニキは背中でキャッチしてその勢いのまま更に上空に昇っていく。魔物全体が見えるところで停止し、オレは魔法を発動する。それをサポートするようにダイが魔物全体を囲むように巨大な円状の壁を作り出し、これで逃げることは適わない。いつでも外に出られるだろうに、何故かダイもその壁の中にいるがこれから使う魔法程度ではダイには傷一つ付けられないので気にせず発動する。
「百万の悲雨!」
遥か上空に雲が架かりそこから雨が降り始める。もちろんただの雨ではない。雨は魔物体に当たると弾けることなくその部分を貫き、だが地面に当たると弾けてしまいただの水になる。これもオレの考えたオリジナル魔法、雨が降ろうが槍が降ろうがという言葉から思いついた魔法だ。槍のような雨、これなら一つでどっちの意味もこなすだろうと考えた末に出来た優れものだ。
千どころか数え切れない槍雨の嵐に魔物達は細切れどころか肉片一つ残さず消えていく。エレメンタルアサシンも砕かれ続け欠片も残さなくなったらさすがに復活は無理らしく素直に消えていった。ニキだけは普通に気持ちよさそうに水浴びしていたが。
この魔法は倒し敵の血も洗い流してくれるので便利なのである。血を含んだ水は仕込んだ通り地面に水たまりを作ることなく土に吸われていき、すべての痕跡を消し去った。そこに残るのは何もなかったかのような普通の草原、ここで魔物の群れが全滅したなどと言っても誰も信じないだろう。
この魔法強そうに見えるが実際そこまでじゃない。魔法にわずかでも抵抗があったり体が頑丈だったりしたら、ただの雨と同じだ。魔物は総じて頑丈な奴が多いので効かない奴の方が多い魔法なのだ、これは。今回のように雑魚を片付ける分には役立つ魔法だが。
二匹が周囲や洞窟内に打ち漏らしの魔物がいないことを確認した後、残してきたヘルメスさんたちの元に戻る。そこには最早見慣れた唖然とした表情の二人が待っていた。
「これで完了です。他に倒す奴はいませんか?」
ここまで来たら完璧にここらの魔物を掃除してやる気分だった。やらずにこの村が襲われたら気分が悪いし。だが、その心配は無用らしかった。
「ここ以外に近隣の魔物の巣はないので大丈夫です。大丈夫なんですが……その、すごいですね」
「まあ、こいつらは普段は犬みたいですけど神獣ですから。あれぐらいは当然だし、あれでもまだ全然本気じゃないですよ」
「いえ、確かにそれもそうなんですが……私がすごいと言ったのはアゼルさん、あなたのことです」
「え、オレですか?」
ヘルメスさんは大真面目な顔で頷いた。
「アゼルさんが使った魔法はどれも見たこともないし、どれをとっても高度で実に綿密に構成された魔法でした。これでも知識だけならかなりの物を持っていると誇っていたのですが、あんな魔法があったなんて知りませんでした」
「ああ、あれはオレが作ったオリジナルなんで知らないも当然ですよ」
「……はあ、もう呆れてものも言えませんよ。オリジナルなら尚更です。あんな魔法を独力で作り上げるなんて……天才としか言いようがないです。同じ魔法使いとしての格の違い、いえ、次元の違いを見せつけられたかたちですよ」
評価してもらえるのはうれしいが、過大評価ではないのか。それとも基準が母さんしかいなかったからそこそこ優れているかな、くらいだったのだが、世間一般では違うのだろうか。
考えてみれば母さんが普通であるわけがないのだ。老いたとはいえ神獣連れている元宮廷魔術師だ。そうでなくても齢喰った婆の癖に素手で魔物なぎ倒していたくらいだし、あれで普通だったら魔物なんて脅威じゃない。
ただ、いくらそう言われても自覚がないからいまいち実感がわかない。それを理解するにはこの世界の常識やらを知らな過ぎた。
取り留めのない思考そこで区切る。今、そのことを考えたところでどうにかなることでもない。こればかりは時間をかけて慣れていくしかないのだから。
「とりあえず戻りますか」
若干強引に話をひと段落させてオレ達は歩き出す。何故だかイリスは頬を赤くさせてこちらを見てきていたが原因がわからなかったので気付かないふりをしておいた。今までみたいに畏れられているようではないのでましだ。
こうして魔物退治はピクニックのような手軽いもので終わったのだった。
ちなみに、ダイは飯用のオークはあの雨での中もちゃっかり守っていやがった。どんだけ食い意地張ってるんだつーの。
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