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王都大侵攻編
第二章 久しぶりに見た他人
 次の日、朝日で目が覚めた。森の中ではバカでかい木々が生い茂っていたので日差しなんて気にしたことがなかったのでこの光は目を覚ますには十分すぎる威力を持っていた。
「今度からなんか顔にかけて寝よ」
 周りに何もない平原だからより日差しに照らされる。まだ早朝言っていい時間帯だ。
 まあ、早く起きられたことに損はないので手早く身支度をすませ、予定通り村に向かうことにする。
 いつも通りダイの背中に跨って進んで行く。朝は苦手なので半分寝たままだったが。途中の出てきた魔物も牙と爪でみじん切りにして止まることなくサクサク順調だったおかげかすぐに目的の村が見えてくる。
 村の入り口らしきところで二匹を停止させ地面に降りる。若干迷ったが二匹にはここで待つように言う。こんな人間よりはるかにでかい狼二匹も連れていたら変に怖がらせてしまうだろうと考えたからだ。事情を説明して入れてもいいと許可を得るべきだ。
「もしかしたら時間かかるかもしれんから、なんなら狩りに行ってきてもいいぞ」
 二匹は昨日大量に。食ったからか今のところ腹は減っていないらしく、仲良く地面に丸まって眠りだす。どうやら早起きしたがまだ眠かったらしい。
 すやすやと眠りだす二匹を置いてオレは村の中に進んで行く。門は締まっていたので悪いと思いながらも乗り越えるとそこには花畑が広がっていた。
「うわー」
 前の世界では花なんてよく見たがこちらに来てからというもの、ほとんど目にすることはなかった。森では花は咲いていないことはないがどれも毒をまき散らしたり、生きてるものを丸呑みにするものであったり植物系の魔物であったりとどれも見て楽しむものではなかったので綺麗な観賞用の花を見るのは実に十七年ぶりだった。
 そのせいか前なら何とも思わなかった花々についつい感動してしまっていた。
ふと、視線を彷徨わすとその花畑の中に一人の女性がいた。遠目だから顔まではわからないが水色の髪を後ろで縛っていることはわかる。じょうろを持っているところを見ると花に水を撒いているようだった。鼻歌を歌いながら楽しげである。
(こんな朝早くから水撒きとは偉いもんだ)
 オレなら朝ははっきり言って弱いのでまず寝ている。昼過ぎに起きることもざらだ。
 面倒だろうに、楽しそうに水を撒くその姿に好感を持った。
 いつまでも見ているわけにもいかないので門から音も無く飛び降りると近寄っていく。
 考えてみたら母さん除けばこの世界で初めて話す人間だ。先程の奴らは獣以下の存在なのでカウントしない。十七年ぶりの家族以外との会話に若干緊張しながら話しかける。
「あの」
「きゃ!」
 後ろから声をかけたのがいけなかったのかビクッとする。ついつい音も無く忍び寄ってしまった。母さんやシロ達はどんなに気配消してもこちらに気づくのでその感覚でやってしまった。普通の人は気付かないから忍び寄らないように気を付ける、と心に留めて気をとり為す。
 向こうも驚きはしたが振り返ってこちらと目が合うとお辞儀をしてくる。ぶっちゃけるとすごい可愛い子だった。青い目もパッチリとしていてドキッとした。久しぶりに年頃の女子に会ったのだから仕方ない、と心中で言い訳して必死に平静に務める。
「ごめんなさい、いきなりだったから驚いちゃって」
「いや、こっちこそ後ろから話しかけて悪い」
 お互い謝り合い、顔を上げるとまた目が合う。その瞬間何故だかおかしくて拭いてしまった。向こうも同じらしくクスクスと笑う。笑ったおかげか変な緊張感は消えていた。その笑いもやがて消え会話を再開する。
「オレはアゼル、最近旅を初めてここに来たんだ」
 冒険者と言えれば楽なのだがまだそうではないのでなんとも説明が難しくなってしまう。
「私はイリス。旅を始めたってことは冒険者志望ってこと?」
「まあ、そんな感じだ」
 実際どうなるかはわからないが話を分かりやすくするために頷いておいた。
「でも、びっくりしちゃった。今村にお客さんが来てるなんて話聞いてなかったからこの時間に誰かに会うことはないと思ってたのにいきなり後ろから声を掛けられるんだもん」
「それは申し訳ない」
「冗談だよ、気にしないで。アゼルはいつから村にいるの?」
 気さくに話しかけてくれて正直助かった。会話のテンポも合うみたいなのでスラスラと言葉が出てきてくれる。
「今さっき。閉まってたからあの門乗り越えてきたんだが問題あるかな?」
「村人以外がやったらちょっと不味いけど、ばれなければ大丈夫だよ」
「それならよかった。それで聞きたいことがあるんだけどこの村って動物を連れ込むのって大丈夫か?」
「別に問題ないけど、どうして?」
 アイリスは不思議そうに聞いてくる。
「門の外に……犬っぽいの二匹置いて来てるんだ。かなりデカいからいきなり連れ込んで問題にならないようにって思ったんだが」
 狼とは何となく言い出せなかったので言葉を濁す。だが、嘘は言っていない。同館が手も普段のあいつらは犬そのものだ。
「ちょっとくらい大きくても大丈夫だよ。魔物だったらさすがに無理だけど」
 イリスはこちらのはっきりしない言動に若干不審そうにしたがそう言ってくれた。あいつらは魔物ではなく聖獣、いや神獣なので大丈夫。そう判断して二匹を呼び寄せる。
「ニキ、ダイ」
 名前を呼ぶだけである程度の意思疎通はできるのでこれで十分だ。二匹は軽やかに門を遥かに超える高さまで跳躍してあっという間にやってくる。
遠目で見る分には縮尺の問題でそこまで目立たなかった体も近くに寄って来た時点で丸わかりになるがその姿を見ながらだんだんとアイリスは顔を強張らせていく。
 不味かったかと思ったがもう呼んでしまったので今更だ。
「ア、 アゼル……この二匹は本当に犬なの?」
 こう聞かれては正直に答えるしかない。なので正直に言った。
「いや、狼」
「ただの狼にしては大きすぎる気がするんだけど……ま、まさか思うけど聖獣とか?」
「いやいや、違うよ」
「だ、だよね! まさかそんなことあるわけないよね!」
「こいつら白狼と黒狼だから」
 この言葉に冗談交じりに聞いてきたイリスは一瞬考え込んで次の瞬間目を見開いて朝っぱらだと言うのに大声で叫んでいた。
「えぇ! ってことはまさか神獣!?」
「らしいぞ」
 肝心の二匹は欠伸をしてオレの足元で眠ろうとしている。叫んだイリスを一瞬うるさげに見たがすぐに気にしなくなり目を瞑る。その姿はどう見ても日向ぼっこする犬だ。犬っぽいと言うのは間違っていないとオレは改めて思った。
「え、嘘、なんで、どうして? 夢? 夢なの?」
 パニックに陥っているイリスを見て神獣というのがどれほど希少ですごい存在なのかようやく実感が得られた。今までどんなに教えられても普段の犬みたいな姿の印象が強すぎてどうにも理解できなかったのだが、ここまでの反応を返してくれるとは。いい勉強になった。
 そんなずれたことを考えているとイリスはようやくまともな言葉をしゃべりだす。
「と、とにかくアゼルは村長のところに来て! いえ、来ていただけませんか?」
 慌てた様子で敬語に言い直す姿はなんだか笑えた。こういう日常的なものは十七年ほとんどなかったので新鮮で仄々とするのだ。
「いいよ。あと別に敬語はやめてくれよ。さっきまでみたいに普通に話してくれたほうがこっちとしても助かるし」
「え、でも、恐れ多いし……」
「ぶ!」
その言葉についに耐えきれなくなって吹き出してしまった。こんな気持ち良さそうに日向ぼっこして食欲旺盛な犬の飼い主というだけで恐れ多いとは何ともおかしな話だった。
「くは、あははははは!」
 最早抑えられなかった。腹を抱えて笑い出してしまう。そんなオレにどうしたらいいのかっわからないのかイリスは戸惑った様子で乾いた笑みを浮かべていた。
「いやー笑った。超おもしろい」
「な、何が?」
「だってこんなのにそこまで恐縮する姿見たらなんかおかしくて、いって!」
 先程、こんな……と思ったことを読んで気に入らなかったのか二匹とも片方ずつの足に軽く噛みついてやがる。加減はされているので怪我はないが痛いことには変わりはなかった。
「お前ら……飯抜くぞ」
 この言葉を発したらしばらく睨み合うことになったがやがて二匹とも足を解放する。ふん、ちょろい。
「神獣をそこまでコントロールできるなんて……」
「こいつら食い意地だけは張ってるから、オレが料理したもん食わせないって言えば大抵のことは聞くぞ」
 まあ、料理と言っても焼くだけだが。こいつらにとってはそれだけでも全然違うらしく、肉で言えば生で食えないわけではないが必ずと言っていいほどオレの元に持ってきて焼かせてから食う。オレの機嫌を損ねればそれが食えないとわかっているから比較的扱いは簡単なのだ。ただ、本当に怒った時はこんなものじゃ機嫌は直らないが滅多にないので気にする必要はない。
「とりあえず、村長のところに行くんだろ。話はそこでしようぜ」
「は、はい!」
 残念ながらまだ緊張は取れないらしく言葉も態度もがちがちだった。歩き始めたら手と足が同時に出てるし、また笑いださないよう腹筋に力を入れるのに苦労した。
 二匹はまた動くのかと言う態度だったが、残っていたオーク肉をやると、途端に機嫌がよくなる。豚の肉で喜ぶなよ、神獣。
かなり長くなるかもしれませんがご容赦を


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