次に目を開けて映った光景は意外な光景だった。見たと言っても何故だか体がうまく動かせなかったのでほとんど見れていないに等しいが。
「……森?」
そう言おうとしても声は出なかった。目に映るのは暗い森、それもホラー映画に出てくるような不吉で不気味な。直感的にここは日本ではないことがわかった。どんな心霊スポットでもこんな闇で包まれた森になりはしない。本能がここを危険だと感じたのだ。
どう見ても天国ではないしかと言って地獄だろうかと問われれば首を傾げるしかなかった。否定できない雰囲気だったが体が地面に寝かせる感覚もあるし木々は不気味ながらも生きているように見える。地獄に生命があると言うのはおかしな話だった。
動かない体で取り留めもないことを考えていると影が顔に被さる。目は動くのでそちらを見てみると真っ白で大きな犬がいた。大型犬ですら軽く上回る、いや、人間よりはるかに巨大な体だった。それに犬のように愛嬌がないというかビリビリトしたプレッシャーが感じられるのは気のせいだろうか。
その犬が大きく口を開けて吠える。ワンワンと言ったものではなく長く周囲に響き渡る、遠吠えだ。
(こいつ……犬じゃないな)
犬ではないなら何かと考えて狼と言う結論に達して、
(食われてまた死ぬのかな)
最早悟りの境地だ。ここまでわけのわからない状況では混乱を通り越して何も感じなくなる。驚きとかの感情が完全に麻痺しきっているのか恐怖も感じない。
目を瞑ってその時を待っていたが頬に何か温かいものが当たる。その感触は何度も押し当てられて顔にベチャベチャとした何かが塗りつけられるようだった。食うなら早く食えよ、そう抗議の言葉を載せて目を開けると大きな口が眼前に迫ってはいたものの舌だけがこちらの顔を舐めていた。
動けないのでなすがままになっていると今度は別の影がやってくる。
今度は人間だった。背丈はかなり大きいが口元のしわから老人のようだったがフードで顔の上半分を覆っているので正確な齢や性別はわからない。その来ている服も見たこともないものだった。
「何やってるんだい……ってそれ、人間じゃないか。あんたいきなりいなくなったと思ったらこんな面倒な物見つけて」
その人物はまったくと言って溜め息を吐いた。いかにも億劫と言った様子だったがこちらに近寄ってきて狼と同じようにこちらを覗き込んでくる。
「……シロが懐くなんて珍しいこともあったもんだ。まあいい。とりあえず家に持って帰るよ。こんなところに放置したら一晩と待たずにあの世行きさね」
そう言ってフードを脱ぐとその顔が露わになる。赤みが強い茶髪に同じ瞳の色、こう言っては申し訳ないがかなり齢がいっていることが顔の皺から見て取れる。少なくともオレの祖母や祖父くらいの年齢だろうことが予想できた。
「よいしょっと」
そう言って老婆はこちらに手を伸ばしオレの体をいとも簡単に抱きかかえる。そこで違和感を持った。いくらこの老婆が大きいからと言って十七になる自分の体を抱きかかえるなんてことが出来るか。しかもこの老婆は簡単にそれを為し得ている。流石におかしいと思って自分の体を見て唖然とした。
「こんな赤ん坊をこんなところに放置するなんてひどい親もいたもんだ」
そう、その言葉通りオレの体はまるで赤ん坊のようだった。いや、ようだではなく赤ん坊そのものなのだが。体が動かなかったのも声が出なかったのもそれが出来るような齢ではなったからだったのだ。
ただ、それに気付いたところでどうしようもない。オレは老婆の腕に抱かれたままなすすべなく運ばれていくしかなかった。途中で赤ん坊の体のせいか急速に眠くなり、寝てしまっていた。その中でオレは自分が生まれ変わったという突拍子もない事実を認識するのだった。
それから時は流れていった。
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