訓練費用700万円を自己負担して鉄道の運転士になる夢をかなえる。千葉県のいすみ鉄道が取り組む運転士の養成事業で1期生の4人が6月にも独り立ちできそうなんだ。経営再建中の地域鉄道がひねり出したアイデアが大人になった鉄道少年たちを夢中にさせているよ。
Q 自腹で訓練費用を用意してもらうなんてすごいアイデアだね。どんな事情があるの?
「いすみ鉄道(い鉄)は1988年にJR木原線を引き継いだ第三セクター。大原(千葉県いすみ市)と上総中野(大多喜町)との26.8キロを結ぶ沿線は人口減が進んで、ずっと苦しい経営が続いていたんだ。そこへベテラン運転士の引退が迫ってきたんだけれど、自前で若手を育てる余裕はない。『お金を出してでも運転士になりたい人はきっといるはず』と、社会人を対象にした公募にかけてみたんだ」
Q 鉄道が好きなら、みんな心を揺さぶられるよ
「い鉄は社長も鉄道マニアを自任しているよ。外資系航空会社の旅客運航部長だった鳥塚亮さん(51)。経営立て直しの切り札として公募で社長に就任したんだ。ムーミン列車や土産物販売の充実、レトロ列車のキハ52の導入など、いろんな企画を仕掛けている。一時はバス路線などへの転換も取りざたされたけど、経営は改善されてきたんだ。訓練生の公募も、鳥塚さんのアイデアの一つだよ」
Q 訓練生の募集にはお手本があるとも聞いたよ
「イギリスなんかにある『保存鉄道』だね。廃止された鉄道や廃止されそうな鉄道を、ボランティアが運営している。い鉄の訓練生募集は、保存鉄道の考えを日本流に採り入れられないかと考えたんだ。鉄道好きの気持ちがよく分かる鳥塚さんには成算があったんだろうね」
Q 応募した人たちは、よほど鉄道が好きなんだろうね
「3期生までの10人は30代後半から50代後半。確かに鉄道が好きな人が多いようで、『職業に対して、とてもモラルが高い人が集まった』と鳥塚さんは喜んでいる。みんな700万円を最初に払ったけど、採用後は嘱託社員として働いた時間に応じて給料をもらっている。でも、それだけでは足りなくて貯金を取り崩しているようだね」
Q 訓練はどんな内容?
「い鉄を走るディーゼル車の運転には国の免許がいる。試験は筆記と実技で、筆記に合格したら先輩運転士に付き添ってもらって実際の車両で実技試験に向けた訓練をするんだ。最初の1週間は臨時列車だけど、その後は普段の列車を使うから乗り合わせた人もいるかもよ」
「実技試験はとても厳しい。1期生の高崎浩さん(51)は『ブレーキをかけるだけでも難しい。運転は体で覚えました。趣味の延長じゃできない』と話していたよ。1期生の4人は昨年11月、3度目のチャレンジで実技に合格。採用から1年半で運転士の免許をとったんだ」
Q デビューは6月の見込みだよね。それまでは?
「免許を持っているだけではダメで、社内の『見極め試験』に合格しないといけない。い鉄はワンマン運転だからアナウンスやお客への対応の仕方も大事。そういう訓練も積んで初めて独り立ちが許されるんだ」
Q いままで築いた生活から離れて運転士の夢を追いかけるなんて。憧れちゃうなあ
「来春採用予定の4期生はもう4人が内定している。残念だけど、しばらくは募集はなさそうなんだ。訓練生に選ばれた人には『子どもに一生懸命、挑戦している姿を見せたい』というお母さんもいるよ。い鉄の車内で訓練生を見かけたら、運転の邪魔にならないように、心の中で『頑張れ』って応援してあげようね」(茂原支局・稲田博一)
東北新幹線「はやぶさ」から九州新幹線「みずほ」「さくら」まで全国の新幹線の全車種、全駅を佐々倉実氏の写真とともに紹介。見て乗って楽しむための実用的なガイド
200系新幹線や近畿地区の183系、東海地区の117系など、さまざまな国鉄型車両が引退する…
詳細は鉄道コムでご覧ください。