ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・

尖閣を米軍が防衛するとはかぎらない

 尖閣関連を続けてもうひとつ。
 20日に米議会下院、翌21日に上院が、尖閣防衛条項を盛り込んだ国防権限法案を可決し、成立しました。これでアメリカは尖閣の防衛義務を自ら宣言した・・・かのように見えますが、さにあらずです。
 これは従来の米政府の見解をそのままなぞったような内容ですが、重要な文言は以下。

「アメリカは領有権に関して特定の立場をとらないが、尖閣諸島は日本の施政下にあり、第三国の一方的な行為によってこの認識が変わることはない」
「日本の施政権が及ぶ地域に対して、アメリカは日米安全保障条約の第5条に基づき、防衛の義務がある」

 まず第一に、アメリカは日中間の領有権問題にはタッチしないと宣言しています。
 そして、尖閣は現在、日本の施政下にあるから防衛範囲だとわざわざ明記しています。尖閣を防衛範囲とすると一言言えばいいのに、わざわざ「施政下」と書くのは、逃げ道です。領有権にはタッチしないなどと逃げずに、「日本固有の領土である尖閣は防衛範囲」と書けばいいのに、そうはしません。
 これはもちろん、中国と無用に事を荒立てないための措置ですが、逃げ道は逃げ道であり、日本の施政が崩れれば、防衛範囲から外れることになります。尖閣にこのままどんどん中国船や中国機が入り込み、日本側の実効支配が崩れれば、アメリカは「領有権問題にはタッチしない」と言うことができます。
 しかし、どの時点までが日本の施政が成立しているか?というのは、非常に曖昧な問題になります。このファジーさは、故意です。それこそ、アメリカ側には非常に都合がいいのです。
 日米安保条約は、なにもアメリカに日本防衛の義務を科すということだけではなく、日米安保を口実に、軍事行動を発動できる機会を与えるという、アメリカ側にとって大きな利となる側面があります。仮に中国が尖閣周辺で軍事行動を起こした場合、アメリカは日米安保を口実に、部隊を派遣することができるわけです。それは、アメリカ自身の安全保障と世界戦略にプラスなわけです。
 こうしたファジーさを、アメリカはどちらにせよ自分たちに都合よく使い分けます。アメリカに有益と判断したら軍を出しますし、不利益と判断したら兵を引きます。
 米軍をどう動かすかは、結局はアメリカの都合次第です。なので、これでアメリカは尖閣防衛を約束した!などということにはなりません。
 これはなにも、アメリカが腹黒くてけしからんというような話ではなく、どの国も自国の安全保障、世界戦略、国益といったもののためにどう他国を利用するかを考えるという、ごく当然な話です。日本は、そういったことは承知のうえで、ではこちらはどうアメリカを利用するか?を考えるべきでしょう。
  1. 2012/12/22(土) 19:18:20|
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黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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