目先の便利より後世の負担回避を
中央自動車道の笹子トンネルでコンクリート製の天井板が落下して、通行中の車に乗っていた9人が亡くなりました。天井板をつり下げていた部分の老朽化が原因のようです。高度経済成長期に多く造られた道路や橋、トンネルの老朽化が進んでいます。補修には膨大な費用がかかりますが、国や自治体のお金もあまりありません。
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笹子トンネルでの事故後、天井板をつる金具をハンマーでたたき点検する作業員=12月3日、神奈川県山北町の都夫良野トンネルで ©朝日新聞社 |
Q どんな事故なの?
A トンネルの上り線で、コンクリート製の天井板と天井を仕切る隔壁計約330枚が、連鎖的に長さ約130メートルにわたって落下した。重さは計約360トンにもなる。ワゴン車など3台が下敷きになり、9人が死亡、2人が負傷した。
事故後、天井をトンネル本体に固定していたボルトが抜け落ちているのが見つかった。管理する中日本高速道路は、固定部分を金づちでたたいて音で異常を探る「打音検査」を必須にしておらず、目視で異常を確認した場合にとどめていた。天井板でトンネル上部に空間を作ったのは換気のためだ。最近は、天井に大きなファンをつける方式が主流になっているよ。
Q 他のトンネルは大丈夫かな?
A 笹子トンネルの下り線でもボルトやナットのゆるみが見つかったんだ。9月の目視点検で見逃されており、下り線の天井板と隔壁約1万1200枚がすべて撤去されることになった。国土交通省の調べでは、笹子トンネルのようなつり天井構造のトンネルは、国道や県道も含めて全国に計48カ所61本あった。
首都高速の羽田トンネルは年内に天井板を撤去する。全国で撤去の動きが広がっているんだ。
Q 橋の老朽化も問題になったね。
A 2007年に三重県の国道23号木曽川大橋で破断が見つかった。1963年に完成した橋で、腐食が進み、破断場所は15センチも隙間ができていた。さらに放置されていれば橋が崩落する危険もあった。07年には米ミネソタ州ミネアポリスで1967年に完成した高速道路橋が崩落、50台以上の車が川に落ち、多数の死傷者が出た。
こうした事例から、インフラの老朽化問題の危機感が高まった。老朽化した施設を使い続けていると、地震や津波が来たときに壊れて被害が拡大する恐れもある。橋やトンネルばかりでなく、道路、下水道、堤防、水門、ダム、港の岸壁、地すべり防止施設など、いろんなものの老朽化が進んでいる。
Q たくさんあるね。
A 国交省によると、高速道路や国道などにある約1万のトンネルのうち45%、約15万5千の道路橋の53%が、2030年度に建設から50年以上になる。ひび割れが見つかるなどで通行が規制される橋も増えている。
港の岸壁、河川の水門、下水道などの老朽化も進み、これまで通りに維持管理や更新をした場合、今後50年間で必要な更新費は190兆円必要だが、30兆円が不足すると国交省は推計している。
損傷する前にこまめに補修する「予防保全」をした場合、設備の長寿命化につながるが、それでも不足額は6兆円だと試算している。
Q 大変な時代だね。
A 現状の把握、問題がないか判定する方法さえできていない施設もある。効率的で確実な点検・診断技術の開発も必要だ。点検にお金や労力がかかりすぎると、予算や人手が足りずに、危険な兆候を見つける前に事故が起きる恐れがある。なにより、どの橋やトンネルが本当に必要なのかを考えて、残す施設を選び直す必要がある。
すでに、あまり使わない橋を廃止する動きも出ている。新しく造ったり、現在あるものを残すことは、目先では便利だけれども後世の負担につながる。政治家も、これまでのように「新しい橋や道路を造って、生活を便利にします」とばかり言ってはいられないはずだ。
笹子トンネル 山梨県大月市と甲州市にまたがる中央自動車道のトンネル。片方向2車線で上下線に分かれ、上り4784メートル、下り4717メートル。1977年に開通。1日に平均4万6千台が行き来する。
主なトンネル事故 ▼東名高速道路の日本坂トンネル(静岡県)で1979年、トラック4台や乗用車2台が関係する衝突事故が起き火災が発生、7人が死亡、車両173台が焼失▼国道229号豊浜トンネル(北海道)で96年、岩盤が崩落してバスの乗客ら20人が死亡▼山陽新幹線の福岡トンネル(福岡県)で99年、天井からはがれたコンクリート塊が走行中の新幹線を直撃。
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朝日新聞編集委員 黒沢大陸
1963年生まれ。91年から朝日新聞記者。 科学医療部デスクなどを経て編集委員。 社会部や科学部で、防災や科学技術行政、 環境、鉄道などを担当、国内外で数々の 災害現場を取材した。
2012年12月16日 |