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黒髪娘「そんなにじろじろ見るものではないぞ」
【パート1】【パート2】【パート3】【パート4】【パート5】【パート6】【完】
118 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 02:02:08.66 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「とにかくっ。
最期は一気に燃え上がるのが
基本であり完成度の高い恋の形であると云うことになっている。
会えなければ会えないほど
あなたの顔が浮かんで恋い焦がれる……とか。
そういう世界の話……らしい。
わたしなど、会ったこともない相手の顔が浮かんでくるなど
酒にでも酔って居るのではないかと思うのだけれど」
男「あはははっ」
黒髪娘「笑わないでくれ。
まぁ、そんな事情だから、本当はそこまで姿形や容姿が
重要なわけではないのだ」
男「そうだよなぁ。容姿にびっくりした時って、
要するに手遅れなんだろ? あははっ」
黒髪娘「うむ」 きゅ、きゅっ
男「そんで?」
黒髪娘「だから、要は文のやりとりの中で、
相手が望むような線が細くて弱々しい、
でも一身に相手に恋い焦がれるような女性を演じられれば
それは“美人”といっても良いかと思う」
男「ああー。うん。納得したぜ」
(つか、それってネット美人とかネカマの論理じゃね?)
120 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 02:10:42.99 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「でも、ほら。私は性格も不器用だから」
男「……」
黒髪娘「相手を騙すような歌は、読めない」
男「歌は得意だろう?
あれだって学問の大きな分野だって聞いたぜ?」
黒髪娘「嘘をつくのは苦手だ。
嘘をつけるくらいなら、きっと引きこもりなんてやってない」
男「――そっか」
黒髪娘「でも、この世界では、恋は嘘を基本にしてる。
最初から相手はこうだと決めてかからないとだめなんだ」
きゅ、きゅっ
男「……」
黒髪娘「反対」
男「?」
黒髪娘「反対の手もしよう」
男「え? あ。すごい! 手が軽くなった!」ぶんぶんっ
黒髪娘「そうであろう?」 にこっ
121 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 02:17:21.25 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「……」 きゅぅ、きゅぅっ
男(こんな風にしてるところなんて、
すごく可愛い和風美少女なのになぁ……)
黒髪娘「そちらはどうなのだ?」
男「?」
黒髪娘「祖父君に少しは尋ねたのだが。
祖父君は、ほら。お年を召していられたから……」
男「あー」
黒髪娘「そちらの恋はどのようなのだ?」
男「こっちかー。んー。
まず、男女が顔をあわせないと言うことはないな」
黒髪娘「うむ」
男「爺ちゃんから聞いたかと思うけど
義務教育って云って、こっちの世界の日本。
つまり大和では、平民まで含めて全員学校に行くんだ。
えーっと、6、3で9年。殆ど全員が高校まで含めて12年」
黒髪娘「うん、聞いている」
男「男のみ、女性のみの学舎もあるけれど
殆どは驚愕と云って、男女が一緒に学ぶ。
一つの学舎に同じ年齢の子供が百人以上居ることが多い。
学舎全体では数百人ということもあるな」
黒髪娘「ふむ」
122 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 02:20:22.85 ID:KmqRKDbT0
男「で、それだけ学ぶ期間が長いから
学舎では友人も作るし、年頃になると異性に興味も出るよな。
まぁ、なんだ。
改めて説明すると照れくさいな。
なんの罰ゲームだよこれっ」
黒髪娘「ん? 興味深い話だぞ?」
男「で、そういう状況で、大抵は気になる異性が出来てー」
黒髪娘「ふむ」
男「紆余曲折があるな」
黒髪娘「その紆余曲折が重要ではないかっ」
男「ぐっ」
黒髪娘「話して欲しい」
男(なんでおれは中学生の女子に圧倒されてるんだっ)
黒髪娘「ほら、丁寧に指圧するから」 きゅぅっ
男「……うう」
黒髪娘「ほら」
男「わぁったよ」
125 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 02:23:03.89 ID:KmqRKDbT0
男「まぁ、その辺は年齢に寄るんだよ。
幼い時――おおむね10歳前後とかは、一緒に遊ぶだけだ」
黒髪娘「ふむぅ。筒井筒か?」
男「なにそれ」
黒髪娘「幼なじみ」 きゅっきゅっ
男「ああ、それだ」
黒髪娘「それで?」
男「そっちと違ってこっちには顔を隠す習慣はないからな。
その後もずっと一緒に学び続ける。
あー。最初に云っておくと、こっちの世界では
寿命伸びてるからな? 平均寿命も70超えてるし。
結婚は25〜30位が多い。だから、恋愛のペースもずれてるぜ?」
黒髪娘「ふむ。――承知した」
男「15歳くらいになると、やっぱり異性に興味が出てくるな。
で、みんなに隠れてこっそり二人で遊びに
行ったりすることも覚える。
これをデートという」
黒髪娘「それは自宅ではダメなのか?」
男「自宅でも良いけどな。まぁ、人目に触れないというか
ドキドキがほしいんだろ。たぶんな」
黒髪娘「ふむぅ」きゅむ、きゅむ
126 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 02:26:27.78 ID:KmqRKDbT0
男「でも、この年齢ではあんまり
身体を――あれだ。その“最期”ってのは推奨されないな」
黒髪娘「そ、そうなのか?」
男「こっちでは成人ってのが20歳なんだ。
結婚も出来ないのにいたずらに
相手とそう言うことするのは、不道徳って云う考えがある。
まぁ、実際には17,8になれば経験してるやつも多いんだけどな」
黒髪娘「そのぅ、男殿は」
男「黙秘する」 きっぱり
黒髪娘「むぅー」
男「20前後になると、お金を稼ぐ方法も増える。
さらに上の学舎、大学に行くやつや、職に就くやつも出る。
そうなると二人のデートも本格的になるな。
遠出したり、食事をしたり、プレゼントをしたり」
黒髪娘「そうか。平民でも貴族のような
贈り物をするようになるのだな」
男「そうだなぁ。つまりあれだ。
みんなが貴族と平民の中間みたいな世界なんだよ」
黒髪娘「ふむふむ」
男「で、その間に出会いと別れがあって。
一人の相手のみで思いを遂げる一対もあれば
相手を変えて恋を楽しむような人もいるわけだ」
黒髪娘「それはこちらも大差ないな」 きゅむ、きゅむ
127 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 02:30:03.77 ID:KmqRKDbT0
男「20を越えたあたりで、世間的には成人。
でも、一人前と認められるのは、
特に男は25を超えてからかな。
そうなると思いをさだめた相手に結婚の申し込みをする」
黒髪娘「ふむ」
男「男からが多いけれど、
女性からってのも最近はあるようだな。
……退屈じゃないか?」
黒髪娘「そんな事はない」
男「そか。でも、もう話も終わりだ。
結婚しても良いな、となったら二人で両家の両親に報告して」
黒髪娘「え? そこで報告するのかっ!?」
男「ん? そうだよ。
もちろん許婚とか、両親主導のお見合いなんて
云うのも残っちゃ居る習慣だけれど、少数だ。
結婚は当事者二人の問題だからな。
まぁ、場合によっては反対されたりもするけれど。
最終的には当事者二人の決意が固ければ結婚を阻む物は、
そうはないよ」
黒髪娘「そ……そうなのか……」
男「で、結婚する。めでたしめでたし」
129 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 02:33:23.65 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「想像もつかない世界だ」
男「そりゃ、まぁ。俺だってこっちの世界のことは
見てるけれど判らないことばかりだ」
黒髪娘「……うむ」 きゅ……
男「どした?」
黒髪娘「あ。いや。すまん。さぼってしまった」きゅむっ
男「いや、それは良いんだけど」
黒髪娘「はははっ。
いや、ちょっと空想してしまっただけだ。
酒を頂いたわけでもないのにな」
男「……」
黒髪娘「……」
きゅむっ、きゅむっ
黒髪娘「男殿の手は、大きいな」
男「そっか?」
黒髪娘「うむ。大きい」
男「そうか」
138 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 03:45:09.41 ID:KmqRKDbT0
――黒髪の四阿
黒髪娘「〜♪」
友女房「ごきげんですね、姫?」 にこにこ
黒髪娘「ああ。友か。見てくれ、立派だろう?」
友女房「あらあら。これはこれは」
黒髪娘「上の兄様からだ。見事な鯛だ」
友女房「ですねぇ、美味しそうです」
黒髪娘「塩をして干そう」
友女房「お食べにならないので?」
黒髪娘「沢山届いたのだ。
食べるのはもうちょっと小さいやつでも良いだろう?
これはひときわ立派だから、男殿にとっておきたい」
友女房「あらあら。そうですねぇ」
黒髪娘「女房達の分もあるから、みんなで食べると良い」
友女房「それはありがとうございます」
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139 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 03:48:29.80 ID:KmqRKDbT0
かたかた、ぱさり
黒髪娘「うん。その荷物も運んでいってくれ」
友女房「対の部屋も整いましたねぇ」
黒髪娘「男殿もいつまでも自室がないのは居心地も悪かろう」
友女房「そうですね。まぁ、この程度の調度ならば
豪華すぎることもなく、不審なこともなく」
黒髪娘「そうかな。不調法ではないかな?」
友女房「雑色(※)だとすれば過ぎた部屋です」
黒髪娘「男殿は客人だ」
友女房「客人だとばれるとやっかいですよ?」
黒髪娘「それはそうだが……」
友女房「男様は異界のお客人です。
この世界での豪華さなどを気にされないですよ」
黒髪娘「それもそうだな」
友女房「とは言え、右大臣家の格という物がありますからね。
ええ、この友女房が一肌脱ぐといたしましょう」
※雑色:男の使用人
141 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 04:09:55.08 ID:KmqRKDbT0
――男の実家
男「おろ。姉ちゃんいたの」
姉「うん、休み〜」 ぽりぽり
男「すげぇ格好な」
姉「うっさい」
男「水、飲む?」
姉「あー。ミネラルで。氷一個」
男「寒いのに」
姉「頭はっきりさせたい〜」
からん
男「はいよ」
姉「さんくー。この恩は返さないけど」
男「いーよいーよ」
143 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 04:12:18.92 ID:KmqRKDbT0
姉「んっく、んっく。……どうしたー?」
男「あー。いやねー。中学生くらいの娘の家庭教師を」
姉「バイト?」
男「似たようなもん」
姉「あんた教育課程いくの?」
男「いや、わかんないけど」
姉「まぁそういうの良いかもね。あんたヘタレだけど。
一応お爺ちゃんに似て責任感強そうだし?」
男「あんまり適正ある気がしないんだけどね」
姉「そこは、ほら。庶民パワーで」
男「そうな。……でも、中学生くらいの女の子の
考えは判らないわ、本当」
姉「会ったり前じゃない。素人童貞なんだから」
男「玄人では経験済みみたいな表現やめろよっ。
誤解を招くよっ! あちこちにっ」
姉「仕方ないじゃない。両面童貞なんだから。
む、両穴童貞って新しくない?」
男「くわぁ〜っ」
144 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 04:15:13.36 ID:KmqRKDbT0
姉「まぁ子供扱いしない事ね」
男「そうなの?」
姉「女の子は成長早いのよ。
中学生になったら女としてはもういっちょ前。
昔なら子供産んでた年齢よ?
子供扱いなんてとんでもない。
童貞ごとき、のど笛食い破られるわよ」
男「こわっ!? 肉食系にもほどがあるよっ。
んじゃ、大人扱いなのか」
姉「ばっかねー。大人扱いなんてしたら
碌なことになるわけ無いでしょ。
相手は中坊なんだから」
男「どうしろってのさ」
姉「ちゃんと目線会わせて相手の話聞けば?
生徒じゃないんでしょ。
その顔じゃ」
男「う……」
姉「捨てるなら体温覚えさせる前にしなさいよ。
それ、最低限の男の義務だからね」
146 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 04:20:35.80 ID:KmqRKDbT0
――黒髪の四阿、炬燵部屋
男「これ、たまらんなぁ」
黒髪娘「悔しいがこの知恵、認めざるをえない」
友女房「さようですねぇ」
男「火事だけは気をつけないと」
黒髪娘「もっともだ」
友女房「祖父君に話を聞いて、
いつか作ろうと計画を練っていた甲斐がありました」
男「でも良く掘りコタツなんて出来たな」
黒髪娘「うむ、驚きだ」
友女房「火鉢がありますからね。
床下に設置して、換気と手入れさえすれば、
後は描いてもらったとおりです。
そもそも火闥(こたつ)といって、
似たものはありましたからね」
男「そうなのかぁ」
黒髪娘「しかし、このふすまを櫓に掛けるという発想」
友女房「ええ、ええ……」
男「和むわぁ」
147 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 04:22:55.32 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「天板も便利だな。寒いのに書を読んでかじかまないぞ」
友女房「そうですねぇ。お茶もおけますし」
ことり
男「あ。どーも」
友女房「馴染んでますね」
男「うち、炬燵ないんだよね。爺ちゃんちにはあったけど。
そのせいか、めちゃくちゃおちつきます。はい」
友女房「お気に入りいただけましたか?」
男「もちろん。こんな部屋もらっちゃって良いんですか?」
友女房「ええ。この友女房が監督させて頂きました」
男「むちゃくちゃ感謝します。正座とかも苦手だしね。
掘りごたつ最高だな。膝が楽だ」
黒髪娘「友、甘い物が食べたい」
友女房「そですね」
男「ああ。俺お土産もってきてる」
148 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 04:31:01.81 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「これは……?」
友女房「なんでしょう。面妖な」
男「あー。これ、カステラってんだ」
黒髪娘「これは……大きい」
男「一人で全部食うつもりかよっ!?」
黒髪娘「む。すまぬ。違ったのか」
友女房「これは切り分けて食べる菓子なのですね」
男「そうそう。なんか刃物ある?」
友女房「お任せあれ」
とててて
黒髪娘「……」そわそわ
男「そんなに食べたいのか?」
黒髪娘「そんな事はないっ」
男「美味しいよ。これ」
友女房「お皿ももって参りました」
151 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 04:59:44.79 ID:KmqRKDbT0
――黒髪の四阿、炬燵部屋
黒髪娘「甘い。なんと美味しいのだ」じぃん
友女房「これは誠に甘露ですねぇ」じぃん
男「涙ぐむほどかな?」
黒髪娘「何を言う、この黄色と茶色の美しいこと」
友女房「ええ、ええっ!」 じぃっ
男「だめ。全部食べちゃダメ」
黒髪娘「お土産ではなかったのか!?」
友女房 こくこく
男「他にも何人か居るでしょうに」
黒髪娘「う゛」
友女房「しかし」
男「しかしもなにも。みんなにお裾分け。
お裾分けしたらまた美味しいのもってくるけれど
お裾分けしないと二度ともってきません」
友女房「そんな」しょぼん
黒髪娘「そういえばそうだ。甘露の美味に我を忘れては
上に立つ物としての示しもつかぬ」
152 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 05:05:49.00 ID:KmqRKDbT0
男「よしよし。黒髪はよい子」 くしゃ
黒髪娘「っ」
友女房(あら)
男「また持ってきてやるぞ」
黒髪娘「別に、土産目当てでもてなしているわけではない。
男殿はいつでも我が庵の客人として歓迎する」
男「それはありがたいなぁ。別荘気分」
黒髪娘「うむ。別荘気分でくつろいでくれればそれでよい」
友女房「姫も楽しいですしね」
男「そなの?」
黒髪娘「うむ。男殿と過ごす時間は心楽しい。
知識にすれ違いはあれ、お互い知らぬ分野の
それがある上に、男殿はわたしを一人前の
人間としてみてくれるからな」
男「……」
黒髪娘「話して論を戦わせられるというのは
この上なく愉快なことだ。……蝶よ花よと
扱われるのは、やはり寂しい」
153 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 05:08:31.34 ID:KmqRKDbT0
男「そういう物か?」
黒髪娘「うむ」
男「じゃぁ、今日はなんの話をする?」
黒髪娘「男はれぽをとは終わったのか?」
男「終わったよ」
黒髪娘「では、付き合え」
男「なんの話がよい?」
黒髪娘「んーぅ。どうするか」
男「うーん」
黒髪娘「?」
男「いや、話。しなきゃダメか?」
黒髪娘「どういうことだ?」
男「結構勉強、根詰めてただろう?」
黒髪娘「うむ」
154 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 05:13:09.18 ID:KmqRKDbT0
男「じゃぁ、しばらく茶を飲んで」
黒髪娘「うむ」
男「で、ゆっくりしろ」
黒髪娘「ゆっくりか……」
男「……」ずずずっ
黒髪娘「温かいな」
男「だなぁ」
友女房「わたしは、このカステラを女房や雑色に
分けて参りますね。珍しい菓子だと云っておきましょう」
黒髪娘「すまぬな」
男「行ってらっしゃい」
ぽやぁ
黒髪娘「……ほぅ」
男「……」
黒髪娘「どうした?」
男「髪、見てた」
155 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 05:23:50.66 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「そ、そうか……。どうして?」
男「こんなに綺麗な髪は、こっちではまず見ないから」
黒髪娘「そうか……。この髪だけは藤壺の上にも
褒められたことがあるのだ」
男「そっか」
黒髪娘「……その」
男「?」
黒髪娘「触って、見るか?」
男「良いのか?」
黒髪娘「うむ」
男「じゃ、ちょこっとだけ」 ひょいっ
黒髪娘「っ!」ひくんっ
男「びびってるじゃないか」
黒髪娘「そんな事はない」
男「そっか」
156 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 05:30:29.74 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「ど、どうだ? 綺麗か?」
男「うん。すごい、すべすべ」
黒髪娘「女房が毎朝とかしてくれるのだ。
多い時は日に何度も……」
男「そうか」
黒髪娘「引きこもりゆえな。湯浴みや髪梳きの時間はある」
男「世話してもらっている間にも、本読んでるんだろう」
黒髪娘「そう言うことも、まぁ、ある」
男「やっぱし」
黒髪娘「……男殿は短いな」
男「この時代は男も長いのか?」
黒髪娘「いろいろだ」
男「そっか」
黒髪娘「……」ふわり
男「なんか、優しい顔してるな」
157 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 05:32:56.55 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「そうかな?」 きょとん
男「うん、良い顔だったよ」
黒髪娘「……くっ」かぁ
男「どしたんだよ」
黒髪娘「眉も描いてないのにっ」
男「は?」
黒髪娘「いや、なんでもない。油断しすぎだ。わたし」
男「よく判らん」
黒髪娘「炬燵でのぼせただけだ」
すっ
黒髪娘「ひゃわっ!」
男「おい、危ないな。髪の毛長いんだから」
黒髪娘「ううう」
男「もう少し、落ち着きなさいって」
黒髪娘「ううっ。不覚だ」
160 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 05:58:58.34 ID:KmqRKDbT0
――黒髪の四阿
友女房「あらあら、どうなさいました?
燭灯も着けずに、こんな場所で」
黒髪娘「うん……」
友女房「男様は?」
黒髪娘「今日は、帰った。
バイトとか言うのがあるらしい」
友女房「そうですか。お茶を一旦下げますよ?」
黒髪娘「……」
かちゃかちゃ……
黒髪娘「……」
友女房「どうされました?」
黒髪娘「ん?」
友女房「どうか、なされました?」
163 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 06:01:17.60 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「男殿に」
友女房「男様に?」
黒髪娘「髪を触られた」
友女房「なっ!? なんてことを!!
これは気が付かずに申し訳ありませんっ。
すぐお櫛をけずりましょうね。
この友が清らかになるまでお梳かしします。
それにしても男様も、男様ですっ。
いくら異界の方とは言え、姫の髪に手を触れるなどっ。
冗談で済ませられることではございませんよっ。
常識という物を弁えて頂かないとっ」
黒髪娘「いや、違うっ」
友女房「ど、どうしたんですか? 姫」
黒髪娘「その……」
友女房「??」
黒髪娘「触るのを、許したのは、わたしだ」
友女房「ひ、め……?」
黒髪娘「私が、触って良いと云ったんだ」
友女房「ひょぇぇ」
164 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 06:03:43.04 ID:KmqRKDbT0
友女房「大丈夫ですか、お熱ですか?
さっきのカステラに酒でも入ってたのでしょうか」
黒髪娘「いや、違うと思う……」
友女房「……」
黒髪娘「どうすればいいだろう?」
友女房「……姫。姫?」
黒髪娘「……」
友女房「いや、でしたか?」
黒髪娘「――」ふるふる
友女房「どんな感じがしましたか?」
黒髪娘「楽の音と、鳥の囀りが。
聞こえた訳じゃないんだけど、溢れそうになって。
どきどきして頬が熱くなって。
……それに」
友女房「それに?」
黒髪娘「こんなに不器量じゃなければいいのにって。
――泣きたくなった」
166 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 06:10:28.19 ID:KmqRKDbT0
友女房「さようですか」
黒髪娘「……」
友女房「姫はなぁんにも悪くありませんよ」
黒髪娘「そうだろうか」
友女房「それはもう。友が気を利かせすぎましたか」
黒髪娘「?」
友女房「いえいえ。何でもございません。
姫は……清らかでいらっしゃるから」
黒髪娘「そんな事はない。もう15にもなる。
塵にも埃にもまみれた、みっともない黒い鳥だ」
友女房「……」
黒髪娘「……」
友女房「さ。髪を梳きましょう」 にこりっ
黒髪娘「……ん」
友女房「今晩は温かくして寝ませんとね」
175 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 07:24:04.78 ID:KmqRKDbT0
――黒髪の四阿
ことん、かたん
男「んっと。ほいさ」 すたんっ
友女房「男様」
男「お。友さん」
友女房「いらっしゃいませ」
男「お邪魔します。平気そう? 黒髪は居る?」
友女房「いまはお留守にしていらっしゃいますよ。
外せない御用事で尚侍処へいらっしゃっています」
男「ああ。仕事か」
友女房「ええ。おそらくすぐに戻ってらっしゃいますよ。
顔を見せに、と云うか、出仕したという形式のための
出仕ですからね」
男「そっか。待ってて良い?」
友女房「ええ、おこたにどうぞ。お茶をお持ちしますよ」
男「助かる」
177 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 07:27:15.49 ID:KmqRKDbT0
こぽこぽこぽ
男「寒いな」
友女房「ええ、寒さが続きますね」
男「ありがとう」
友女房「いえいえ、どういたしまして。
しばらくご一緒して宜しいですか?」
男「もちろん」
友女房「では、失礼します」
男「ふー。温まる」
友女房「ですねぇ」
男「……黒髪は、元気?」
友女房「はい」
男「そっか」
友女房「何かありましたか?」
男「いや、なんか色々抱え込んじゃいそうな人だから?」
友女房「そうですねぇ」
179 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 07:31:22.13 ID:KmqRKDbT0
男「……」
友女房「尚侍(ないしのかみ)という官職はですね。
帝に仕えて、皇室行事を取り仕切る秘書のような役割です」
男「ふむ」
友女房「その権力は、時に大臣を凌ぎますね。
『位人臣を極める』等と申しますが、
女性としてはまさに最高位の官職だと云えるでしょう」
男「そう……なのか?」
友女房「ええ。もちろん何事にも例外はありますが。
姫は尚侍としては、規格外です。
何しろ仕事していませんからね」
男「そうだなぁ」
友女房「尚侍、尚侍所の重要な役割の一つに東宮の教育があります」
男「東宮って云うのは、確か帝の息子だろ」
友女房「そうですね。子供の頃から云うことを良く言い聞かせて
育てるわけですから、歴代の帝でも、育ての尚侍には
頭が上がらないことも少なくありませんね。
内裏における影響力は絶大な物があるわけです。
こほん。
その。
下世話な話をすればですね」
男「?」
友女房「察しが悪いですね」
182 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 07:35:46.48 ID:KmqRKDbT0
男「ごめん」
友女房「いえ、すみません。
照れ隠しですからお気に為されぬよう。
――こういう事です。
幼い東宮にそば近く接して、その心も身体も導く。
それは、往々にして、えーと、その。
祖父君のいうところの、その……ほら初物を」
男「童貞!?」
友女房「それです。ええ。
それをですね、こう。シてしまうこともあるというか
むしろそれが推奨されているというか……。
東宮の身体を大人にして差し上げるというか。
妃になる尚侍所の女性も少なくはありません」
男「そんなのありか−!?」
友女房「ええ。そもそも、尚侍所に娘を『あげる』というのは
高度に政治的な問題なのです。
もちろんその背景には政治的な闘争もありますし
右大臣家としても後に引くわけにはいかない。
たとえ、東宮が8歳で、姫より6つもお若くとも」
男「……」
友女房「身体のつながりが有れど、無けれど。
姫は東宮の『もの』です。それが尚侍というものですし、
この内裏の秩序なのです」
184 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 07:55:00.98 ID:KmqRKDbT0
友女房「――なんて」 にっこり
男「え?」
友女房「まぁ、そういう俗世の噂もあったり
無かったりするのですが、男様は異界より来られたる客人。
内裏の事情などお気になさることもないでしょう。
ましてやうちの姫は妖憑きの変わり者。
東宮のお召しもあるはずもない。
このまま庭の片隅で咲いて、
誰見ることなくひっそり朽ちるのでしょうし。
そのような姿は、見たくありません」
男「……」
友女房「余計なことを申し上げましたか?」
男「あのさ。俺の世界での話したっけ?
黒髪は、今年14だよね。
それは俺の常識では、まだ子供の部類なんだよ」
友女房「ええ、存じておりますよ」
男「だからそういう艶っぽい話はさ、まだ早くてさ」
友女房「そう思うなら、それはそれで結構かと」
男「……うう。とりつく島もない」
187 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 08:09:38.95 ID:KmqRKDbT0
――黒髪の四阿、炬燵の間
黒髪娘「ただいま帰参した」
男「おかえりー」
黒髪娘「寒かった。すごく寒いぞ」
男「入れ入れ」
黒髪娘「ありがたい」
いそいそ、ばふっ
黒髪娘「はふぅぅ〜」
男「温まった?」
黒髪娘「いや、まだ指先が痺れている」
男「重症だな」
黒髪娘「冬の出仕は大変なのだ」
男「この季節はなぁ。ヒートテックなさそうだし」
黒髪娘「?」
男「いや、こっちの話」
190 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 08:19:12.61 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「まぁ。物の怪じみた娘だからな。
仕事らしい仕事もない。気楽と云えば、気楽だ」
男「んー」
黒髪娘「どうした?」
きゅむ
黒髪娘「らにをひゅる?」
男「いや、ほっぺた引っ張ってみたんだよ」
黒髪娘「らかや、いったひ、なんてそんな」
男「んー」
黒髪娘「むぅー」
男「突っ張ってるのかなぁ、って」
黒髪娘「う゛ぅ?」
男「仕事。出来るよな。案だけ学んだもんな。
漢詩も報告書も、上奏文だって律令だって
何でもござれでしょう?」
黒髪娘「……」
男「身につけたもの、使いたくないなんて変じゃない?」
192 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 08:28:36.31 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「……」じぃっ
男「三白眼で睨んでも、普段可愛いんだから意味ありません」
黒髪娘「う゛ぅー」
男「ぷぷっ」
黒髪娘「いいかけん、はらさるかっ」
男「ほいほいっ」
黒髪娘「ふむっ……。そのようなことを」
男「気を張り過ぎなんだよ」
黒髪娘「内裏に云っていたのだ。多少は気を張らねば、
どのような政争に巻き込まれるか知れた物ではない」
男「そりゃ、そうか」
黒髪娘「……それは、わたしだって」
男「……」
黒髪娘「学んだ物を、試したい気持ちがないわけではない」
男「うん」
193 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 08:36:12.39 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「しかし、この身は女だ。
……望むと望まないとに関わらず。
内裏で女が仕事を為そうとすれば方法は二つしかない。
何らかの閥を率いて、邪魔者を廃するための
権力工作を常にしながら事を為すか、
東宮か帝にはべり、その愛妻、愛妾として
権勢を振るうか……。
多分、私にはどちらも無理だと思う」
男「そっか」
黒髪娘「不器量だからとかではないぞ?
いや、その。もうちょっと目鼻立ちが
整っていればよいとは思うのだが」
男(現代美少女ですからな。きみは)
黒髪娘「性格として、受け入れがたい。……のだと思う。
あるいは無駄な矜持か、こだわりなのかとも思うのだが
それは自らが身につけた学識ではないような気がするのだ」
男「……」
黒髪娘「どうも釣り合いが取れていないのだ。私は」
男「……そっか」
黒髪娘「考えても仕方ないだろう」
男「そだな」
195 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 08:55:39.77 ID:KmqRKDbT0
――黒髪の四阿、炬燵の間
黒髪娘「……昴は船乗りの星にて」こくっ
男「眠そうな」
黒髪娘「う……む」こくり
男「寝れば?」
黒髪娘「しかし、うむぅ……」
男「どうしたのさ?」
黒髪娘「部屋に戻るには炬燵から出る必要がある」
男「当たり前だな」
黒髪娘「寒い」
男「うん」
黒髪娘「……寒いではないか」
男「ここで寝たらダメだぞ? 事故があるかも知れないし。
火事なんてまっぴらだろう? 低温火傷も怖い」
黒髪娘「そうは云うが……」
男「仕方ないなぁ。友さーん。友さーん」
196 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 08:58:49.61 ID:KmqRKDbT0
友女房「はい、なんでしょう?」
男「黒髪が寒がって動かないから。
ここに褥(しとね)と、掻巻(かいまき)※かなんか
持ってきて貰える?」
友女房「判りました」
黒髪娘「これでは子供みたいだ」
男「寒いから動きたくないなんて
子供のようなことを云うからだろう?」
黒髪娘「そうは言ったって」
男「じゃ、部屋に引き上げるか?」
黒髪娘「寝ている間に男が帰るのは……不本意だ」
男「別にそれはないけどさ」
きぃ、ふぁさん
友女房「寝具の準備が整いましたよ」
黒髪娘「む」
男「どうする?」
黒髪娘「せっかくだから、今宵はここで」
男「ふっ」
黒髪娘「馬鹿にしないで欲しいのだ」
※褥(しとね)と、掻巻(かいまき):平安時代の寝具
麻などで作られた敷き布団と、袖のついた掛布団
198 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 09:12:59.78 ID:KmqRKDbT0
男「温かいか−?」
黒髪娘「うむ、期待以上だ」
男「おっと。爪先を炬燵に突っ込むのは禁止だぞ」
黒髪娘「そうなのか?」
男「ちらちら見えるだろ」
黒髪娘「なにがだ?」 きょとん
男「うるせぇ。禁止だ」
黒髪娘「横暴だな」
男「いいのっ。禁止」
黒髪娘「判った。
ところで……男殿は、何を読んでいるんだ?」
男「持ってきた本。勉強してるの」
黒髪娘「なにを?」
男「料理の基本」
黒髪娘「男殿は庖丁(料理人)なのか?」
男「違うから勉強してるんだよ」
199 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 09:17:04.32 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「未来の料理か……。
いつも美味しい土産を頂いている」
男「んー。気にしないでくれ。たいした物じゃないからさ。
そもそも、ここで結構飯とかご馳走になってるし」
黒髪娘「ここで供されるのは、ありふれた物だ」
男「あの菓子だって、向こうではコンビニに
売ってる程度の物だよ」
黒髪娘「こんびに?」
男「ああ。えっと、街のあちこちにある商店だ」
黒髪娘「そうか。何が売っているんだ?」
男「飲み物、食べ物、菓子、本」
黒髪娘「本が売っているのか!?」
男「コンビニに売ってるのは漫画や雑誌がせいぜいだけどな。
本は専門の本屋に売っていて、たいがい本屋ってのは
一つの街に一つや二つはあるな」
黒髪娘「そうなのかぁ」
男「布団に入ったら元気だな」
黒髪娘「う」
男「眠くないのかー?」
黒髪娘「少し眠気が去ったのだ」
201 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 09:26:04.04 ID:KmqRKDbT0
男「なんだよ、構って欲しいのか?」
黒髪娘「話し相手になって欲しいのだ」
男「素直だな」
黒髪娘「わたしは率直だ」
男「そっか。そういやそうだな」
黒髪娘「男殿の世界では、女も学問を修められるのだろう?」
男「ああ、そうだな」
黒髪娘「学識や技芸をもって宮仕えも叶う」
男「公務員とか、会社員とかな」
黒髪娘「そうか。……ふふふっ」にこっ
男「どした?」
黒髪娘「良い世界だな。
――そんな世界、早く……来ると良いなぁ」
男「……」
202 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 09:29:54.36 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「ん?」
男「あのさ」
黒髪娘「うむ」
男「……」
黒髪娘「どうしたのだ」
男「……っ」
黒髪娘「なんだ。変な顔をして」
男「なんでもない。1分くれ」
黒髪娘「……」
男「……」
黒髪娘「?」
男「……あー」
黒髪娘「?」
男「黒髪の。髪の毛、触りたい」
黒髪娘「――え」
204 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 09:42:23.30 ID:KmqRKDbT0
男「ダメかな?」
黒髪娘「……駄目……じゃない」
男「触るな?」
さら……さら……
黒髪娘「……うぅ」
男「手触り、良いな」
黒髪娘「あの……ど……どうし……男殿は……」
男「ん?」
黒髪娘「なんで、髪を……」
男「あー。んー。……触りたかったから」
黒髪娘「そ、そうか」
さら……さら……
男「豪華な感じ。……宝物みたいな」
黒髪娘「褒められたみたいだ」
男(なんか、いろいろこだわりとか倫理観とか。
越えちゃってるよな。この髪の感触も、気持ちも)
215 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 12:21:33.12 ID:KmqRKDbT0
――黒髪の四阿
友女房「姫〜。ひーめーっ」
がたっがたたっ
黒髪娘「どうしたのだ?」
友女房「文ですよっ。藤壺の方から」
黒髪娘「……珍しい」
友女房「遅くなってはいけませんから」
黒髪娘「……梅の香」
友女房「あらあら。まぁまぁ。寒中梅でございますね」
黒髪娘「むぅ……」
友女房「なんで困りますか。
雅やかな心遣いではございませんか」
黒髪娘「こう言うところが隙がない。困る」
友女房「そういう物でございましょうかね」
黒髪娘「……うー」
友女房「なんと?」
216 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 12:27:02.04 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「……歌会の誘いだ」
友女房「さようですか。これはまた」
黒髪娘「……」
友女房「何かあるので?」
黒髪娘「形勢を明らかにしないわたしを
哀れにおもってくださったのであろう」
友女房「……」
黒髪娘「このままでは私に風あたりが強くなりすぎると
そう考えてくださったのではないかな」
友女房「さようですか」
黒髪娘「……」
友女房「お返事はいかがいたしましょう」
黒髪娘「……」
友女房「しばらくお考えになられますか」
黒髪娘「そうする」
友女房「姫の良いように」
218 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 12:48:15.19 ID:KmqRKDbT0
――夕刻
ごとん、とさっ
男「ふぅ。到着、っと」
黒髪娘「男殿」
男「お。黒髪。お出迎えありがとう」
黒髪娘「出迎えたわけではないが。
しかし、男殿を迎えられると気持ちが暖まる」 にこっ
男(うわ。……すげぇ可愛い。
やばいな。この間髪触ってから、
どんどん可愛く見えるよ。
病気だぞ、これ……)
黒髪娘「どうした? 寒かろう?」
男「おう」
黒髪娘「丁度昼餉だ。いま友に云って用意させる」
男「へぇ、何食べるの?」
黒髪娘「雑煮だ。餅なのだが……。
餅は食べれるだろう?」
男「おー。大好きだぜ」
219 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 12:53:32.61 ID:KmqRKDbT0
――黒髪の四阿、炬燵
友女房「さぁ、どうぞ」
黒髪娘「頂こう、男殿」
男「ああ、頂きます。ん。美味しいな」
黒髪娘「温かいなぁ」
男「……お、雑煮は魚なんだ?」
友女房「鯛で出汁を取らせて頂きました」
黒髪娘「餅はそれで良いのか?」
男「おう、とりあえず二つでな」
黒髪娘「んぅ……」
男「お、すごく伸びてるな」
黒髪娘「……ん。んく……。
そんなにじろじろ見るものではないぞ」
男「そっか」
友女房「美味しゅうございますか?」
男「ええ、ばっちりですよ」
222 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 12:57:59.56 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「うぅ。美味だ。私は雑煮は大好きだな」
男「カブの葉が美味いよな」
黒髪娘「そちらでも食べるのか?」
男「もちろんだ。味噌汁とかにもいれるぞ」
黒髪娘「うむ。煮るのも旨いな。ひたしもよい」こくり
男「……」 じぃ
黒髪娘「ん? どうした、男殿」
男「いやいや。なんでもないよ」
黒髪娘「?」
男(一瞬見とれたとか、いえねぇし)
黒髪娘「……ふぅ」
男「どした?」
黒髪娘「ん? いや。んー」ぽて
男「??」
223 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 13:07:54.83 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「お腹がいっぱいで、温かい炬燵。
駄目になってしまいそうだ」
男「多少駄目になっておいた方がいいよ」
黒髪娘「そうかな」
男「そう思うね」
黒髪娘「男殿」
男「ん?」
黒髪娘「……掌を、借りれるだろうか?」
男「いいけど」
黒髪娘「額に」
男「ん……。うん」
黒髪娘「ああ……」
男「どうしたんだ?」
黒髪娘「温かくて。嬉しい」 くすっ
男「そか」
225 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 13:19:07.16 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「……」
男「寝ても、構わないぞ」
黒髪娘「眠いわけではない」
男「そなのか」
黒髪娘「私が、男殿の半分ほどでも
他人を思いやって気を遣える性分であったならなぁ」
男「なんだそれ」
黒髪娘「いいや。……うん」
男「何かあったんだろう? 云ってみろよ」
黒髪娘「……歌会の誘いがあってな」
男「ふむ。パーティーか」
黒髪娘「私の立場もかなり厳しいのだ。
藤壺様がそれに気遣って誘ってくださった」
男「藤壺様って云うのは、良いやつなのか?」
黒髪娘「ああ。世話になっている。
心遣いの細やかなたおやかな方だ。
今上帝の寵をうける妃の一人なのだ」
227 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 13:31:53.62 ID:KmqRKDbT0
男「で、何を悩んでいるんだ?」
黒髪娘「そんなわけで藤壺様は後宮では
大きな存在感を持っているが、唯一ではないのだ。
妾妃はひとりではないからな。
私を呼んでくださるのは嬉しい。
私は確かに引きこもりの出不精だが
呼んでくださるのならばはせ参じるくらいのことはしたいのだ。
……しかし、私は気も遣えない不調法物だし
他人の言葉を上手に受け流すことも出来ないし……」
男「そうか? そんなに気にしなくても良いかと思うけど」
黒髪娘「そうはいかない。
宮中では目に見えない諍いや政争が続いているんだ……。
私が参加してみっともないところを見せれば
それは、藤壺の方の恥にもなってしまう」
男「ん〜」
黒髪娘「私が恥をかくのは、かまわない。
どうせ物の怪憑きの引きこもりだから。
でも、誘って下さった方に恥をかかせるのは
忍びない……」
男「断れないの?」
228 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 13:35:23.08 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「それは、出来る」
男「そっか」
黒髪娘「……でも、藤壺様は、お悲しみになるかな」
男「……」
黒髪娘「いつも断ってきたんだ」
男(――本当は、行きたいんだな)
黒髪娘「……」
男「なんだ、手のひら気に入ったのか?」
黒髪娘「落ち着く」
男「へこんでるな」
黒髪娘「そう言うことではないんだが」
男「?」
黒髪娘「なんでもない。……私の顔をじろじろ見るな」
男「へいへい」
229 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 13:41:01.05 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「んぅ……」
男「あのさ」
黒髪娘「うん」 くてっ
男「出ろ、って云ったらどうする?」
黒髪娘「男殿が?」
男「うん」
黒髪娘「……」
男「確かに責任は重大だけどさ。
黒髪がそんなに駄目だってのが、
ちょっと想像できないんだよな」
黒髪娘「……私は本当に不器用なのだ。癇癪持ちだし」
男「癇癪持ってるのか?」
黒髪娘「うん。――やっぱり、悔しいとつらい。
私を人間としてみてくれない人には、優しくできない」
男「それは癇癪じゃないと思うけど」
黒髪娘「そうかな……」
230 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 13:44:02.93 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「男殿は、出た方が良いと思うか?」
男「ああ」
黒髪娘「……」
男「思うんだけどさ。あんまり一人で戦う必要も
ないんじゃないか?」
黒髪娘「え?」
男「友さん何回か云ってたよ。“右大臣家の格”とか。
“姫様の名誉”とかさ。それって、つまり名前だよな」
黒髪娘「名前……」
男「あー。よく判らないけどさ。
そう言うのってチーム戦なんじゃないのかな。
現場に行って恥をかくか恥をかかないかは、
黒髪の腕もあるけれど、優秀な女房が居るかどうかにも
左右されるんじゃないの?」
黒髪娘「それは……。確かにその通りだが」
男「友さんって、出来るんじゃねぇの?」
黒髪娘「……う」
男「投げちゃっても良いんじゃないの?」
231 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 13:46:45.76 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「男殿……」
男「手を貸すからさ」
黒髪娘「男殿も?」
男「うん」
黒髪娘「なぜっ?」
男「そんなにびっくりするところか?」
黒髪娘「祖父君はそんな事は言わなかった」
男「爺ちゃんと俺は違うよ。
爺ちゃんは、ここに来たことを……
多分、黒髪に何かを教えるためだと思ってたと思う。
黒髪が余りにも希っていたから」
黒髪娘「……」
男「でも、俺は違うからさ」
黒髪娘「……うん」
男「俺としては、もうちょっと
格好良い引きこもりが見たいんだよ」
242 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 15:10:15.58 ID:KmqRKDbT0
――『和名類聚抄』より
穀類では、稲類、麦類(大麦、小麦、カラスムギ)、
アワ、キビ、ヒエ。主食は米。小麦はうどんのように
して食す。
豆類は、大豆、小豆、クロマメ、ササゲ、エンドウマメ。
イモ類には山芋やクワイ。
野菜は瓜類各種、蒜類(ねぎ、にら、にんにく)、
水菜類(せり、ジュンサイなど)、
園菜類(アオナ、カブラ、タカナ、カラシナ、フキ)
野菜類(ナスビ、アブラナ、ワラビ、ゴボウなど)
草類(ウド、イタドリ、蓬、ユリなど)
蓮類、葛類、たけのこ、タラノメ、ククタチ、キノコetc。
動物性蛋白の補給源としては、魚介類が中心であった。
近海魚は殆ど今日の日本と変わらない物が食されており
庶民は鰯やあじなど。貴族においては鮎や鯛が珍重された。
また貝の類、海草などの水産物が大いに食べられた。
動物も多量にではないが、ヤマドリ、ハト、カモ、ウズラ
またクマ、カモシカ、タヌキ、イノシシ、ウサギなどが
食用として記録に残る。鶏も唐から輸入されたが、卵は
薬用として用いられた。
果実は主に桃、スモモ、ウメ、カキ、タチバナ、梨、
ザクロ、ビワなどが……
243 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 15:15:14.61 ID:KmqRKDbT0
――男の実家
男「なんだなんだ。結構食材豊かだな。
もちろん輸送の関係で、いつでも食べられる
訳じゃないんだろうけど。結構あるじゃん」
男「味付けは……」
ぺらっ
男「基本的には、基本は塩と酢か。酢は米酢なのか?
そのほかに、醤(ひしほ)、味醤(ミソ)。
大豆に小麦の麹か。塩分は低そうだなあ。
そのほか、わさびは、あると」
男「あ−。……そゆことね。
砂糖がないわけだ。そんであんなに
美味しい美味し云ってたのか。
砂糖、砂糖……砂糖の歴史ってなんの本に載ってるんだ?
Wikiりゃでてくっか?」
男「砂糖は……奈良時代に輸入。当初は薬用。
ふむ……サトウキビの栽培は江戸時代か。
こりゃ、到底手に入るわけもないな。
いんちきで、黒糖持って行っちまうか」
男(許されないのかも知れないけどなー)
男「まぁ、その辺俺は爺ちゃんとは違うし?」
246 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 15:21:08.64 ID:KmqRKDbT0
がちゃ
姉「あら。あんたいたの?」
男「あー。んー。いたよ。ちっと台所使ってる」
姉「なに」
男「いや、ゲル化実験?」
姉「料理してるだけじゃん」
男「まぁね」
姉「ふぅん」
くつくつ、くつくつ
男「……」
姉「ミネラルウォーターとって」
男「はい」 きゅぽ
姉「ん。あんがと」
男「庶民は水道水じゃない?」
姉「ビールの代わりなの」
247 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 15:24:31.23 ID:KmqRKDbT0
男「言いたい放題無敵キャラな」
姉「これくらいの強度ないとね。荒くれ者どもの
リーダーはつとまらん!」
男「Aチームかよ」
姉「うはははは! ははっ。そういえば……例のさあ」
男「?」
姉「例の中学の」
男「ああ」
姉「どうなった?」
男「なんでそんな事聞くのさ?」
姉「聞いた方が良いから」
男「なんで?」
姉「まぁ、なんだかんだ云ってさ。
あんた、出来の良い弟だし?
あたしより高給取りになりそうだしさ。
……姉ぶりたいのよ」
男「……そっか」
姉「白状なさいよ。あんた最近、むちゃくちゃ
勉強とかしてるじゃん。バイトも詰め込んでるし」
248 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 15:28:38.74 ID:KmqRKDbT0
男「うん、覚悟決まった」
姉「へぇ……」にやにや
男「話すのやめた。中止〜」
姉「ちょ。待った待った! もう茶化さないっ!!
教えてよ。ねぇってば」
男「だから、覚悟決まったって」
姉「へぇ。どんな娘? 可愛い? 美少女?
チチの大きさどんなもん? まさかあたしより
でかくないでしょうねっ」
男「すげぇ、頑張り屋さんだよ」
姉「……おやおや。なんか父性じみたこといっちゃって。
もうちゅーしたのか? あん? この童貞。うりうり」
男「してませんー」
姉「なんだよ。チキンだな。ゴム無かったのか?」
男「そう言うんじゃないわけ」
姉「覚悟決まったんでしょ? 条例を突破する
覚悟とか。アグネスを敵に回す覚悟とか。
上野千鶴子あたりから朝まで精神攻撃受けたりして」
男「いや、もうマジ姉ちゃんキツイす」
姉「なーによ〜」
251 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 15:34:42.34 ID:KmqRKDbT0
男「そう言うんじゃないくて。頑張り屋だからさー。
覚悟決めて、助けて上げなきゃなぁ、と」
姉「わお。なんだ。らぶじゃないのかー。家庭教師路線?
てっきり彼女にして調教飼育するのかと」
男「そうじゃないって」
姉「でもあんたねー。子供だからって女は女なの。
そういう態度ってすげぇ、傷つけると思うよ?」
男「傷つけるとこも含めて。覚悟決めたって事」
姉「……」
男「傷つく覚悟も決めたし。
それで、まぁ。なんか色々あって。
……そういう未来もあれば、それはそれで、善し。かな」
姉「……難しい娘なんだ?」
男「難易度SSだね」
姉「あんたそれローマの休日クラスだから」
男「うっは。まさにその難易度だわ。弾幕で画面見えない系」
姉「ふぅん。よく判らないけど。……いいわね」
男「……ん?」
姉「まぁ、いんじゃない? 一回くらい。
……そういうの。一回くらい賭けてさ。しないと。
人生生きてる意味なんてさ、無いのかも知れないし。
いいんじゃない? あたしは。
そういうの悪くないと思うよ」
254 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 15:56:39.36 ID:KmqRKDbT0
――黒髪の四阿
友女房「ええ、その箱はこちらへ。
えーい、それは絹ですよ!? もっと丁寧に運びなさい。
真珠は文箱です。間違えてはなりません」
黒髪娘「あの」
友女房「姫はそこで黙って座っていて下さいっ」
黒髪娘「う、うむ」
友女房「襲は何にいたしましょうね。
右大臣家の何かけて、仇やおろそかな衣装で
歌会に出るわけには参りませんが。
この衣装の色合いこそ最初の関門。
一遍の落ち度もあってはなりませんっ」
ごごごごっ
黒髪娘「いや、友? そこまで殺気立たなくとも……」
友女房「紅梅匂ですかね。柳桜……いや、もう一目華やかに
樺桜と云う手も。しかし人妻ではない乙女ですからね。
乙女で14であると。
……我が姫の異能はその才気と知性ですから」
黒髪娘「……わたしは異能者だったのか」
255 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 16:00:02.61 ID:KmqRKDbT0
友女房「成熟した、しとやかな色気。
そして乙女の清らかさ。
しかしそれらはすべて内側から照らしにじむような
知性を基調として表現されなくては。
そうですね……。
やはり、基調は春ですから梅、桜。それに知性の藤色」
黒髪娘「藤壺の君が、藤は使うであろう」
友女房「では、表着は藤色を避けて、
胸元から覗かせましょう。薄色と紗の梅を合わせ
扇には、緑柱石の勾玉をっ!」
黒髪娘「すごい張り切り用だな」
友女房「あたりまえでございますよ。
姫様がとうとう藤壺の君の宴へと参加する。
おつきの女房としてこれほど晴れがましいことは
ございませんですよっ」
黒髪娘「そ、そうか」
友女房「ええ。かくなるうえは、どんな手段を用いても
準備万端、万事遺漏無きよう整えさせて頂きます」
黒髪娘「むぅ」
友女房「後は、お化粧ですね」
黒髪娘「そ、それは……」 きょろきょろ
258 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 16:12:16.78 ID:KmqRKDbT0
がたんっ
男「化粧はいいんじゃね?」
黒髪娘「男殿っ」
友女房「男様、いらしてたんですかっ?」
男「うん。まぁ、紅をさすくらいはしないと
まずいけれどさ。黒髪は、黒髪じゃない。
化粧して誤魔化すのも、面倒だろう?」
黒髪娘「……」 こくん
友女房「しかし、それでは……」
男「いや、考えたんだけどさ。
今さら手のひらを返して『普通の姫君』やったって
もう高得点は狙えないだろ?
こんだけ引きこもりもしてれば、
トンデモ噂だって流れちゃってるんだろうし。
いまから一夜漬けで話し方だのなんだの
仕込んでもそうそう上手くいきゃしないよ」
友女房「それはそうかもしれませんが」
男「黒髪は、黒髪のまんまでいいって。
正面突破で。黒髪は、黒髪の積み重ねてきた物で
それだけでみんなを振り向かせないと」
黒髪娘「男殿……」
259 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 16:14:51.49 ID:KmqRKDbT0
男「信じないとさ。自分の姫だろー?」
友女房「それはそうですが……」
男「それとも、自信ないのか?」
友女房「いえっ。確かに姫様は変わり者ですが
その賢さ聡明さ、そして優しい心根だけは
どこに出しても恥じる事なき、最高の主でございますっ」
男「だってさ」
黒髪娘「……友も、ありがとう」
友女房「もったいないお言葉です」
男「まぁ、実際それ『だけ』って云うわけには
行かないからさ。幾つか仕込みはするんだけど」
黒髪娘「仕込み……?」
友女房「仕込み、ですか?」
男「うん、だから衣服を整えるのは重要だ。
それから参加するメンバーも調べてくれ」
黒髪娘「判った。何か意味があるのか?」
男「賢いんだから、脳みそ使わないとな」
黒髪娘「やってみる」 こくん
黒髪娘「そんなにじろじろ見るものではないぞ」【パート3】へつづく
黒髪娘「そんなにじろじろ見るものではないぞ」
【パート1】【パート2】【パート3】【パート4】【パート5】【パート6】【完】
118 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 02:02:08.66 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「とにかくっ。
最期は一気に燃え上がるのが
基本であり完成度の高い恋の形であると云うことになっている。
会えなければ会えないほど
あなたの顔が浮かんで恋い焦がれる……とか。
そういう世界の話……らしい。
わたしなど、会ったこともない相手の顔が浮かんでくるなど
酒にでも酔って居るのではないかと思うのだけれど」
男「あはははっ」
黒髪娘「笑わないでくれ。
まぁ、そんな事情だから、本当はそこまで姿形や容姿が
重要なわけではないのだ」
男「そうだよなぁ。容姿にびっくりした時って、
要するに手遅れなんだろ? あははっ」
黒髪娘「うむ」 きゅ、きゅっ
男「そんで?」
黒髪娘「だから、要は文のやりとりの中で、
相手が望むような線が細くて弱々しい、
でも一身に相手に恋い焦がれるような女性を演じられれば
それは“美人”といっても良いかと思う」
男「ああー。うん。納得したぜ」
(つか、それってネット美人とかネカマの論理じゃね?)
120 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 02:10:42.99 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「でも、ほら。私は性格も不器用だから」
男「……」
黒髪娘「相手を騙すような歌は、読めない」
男「歌は得意だろう?
あれだって学問の大きな分野だって聞いたぜ?」
黒髪娘「嘘をつくのは苦手だ。
嘘をつけるくらいなら、きっと引きこもりなんてやってない」
男「――そっか」
黒髪娘「でも、この世界では、恋は嘘を基本にしてる。
最初から相手はこうだと決めてかからないとだめなんだ」
きゅ、きゅっ
男「……」
黒髪娘「反対」
男「?」
黒髪娘「反対の手もしよう」
男「え? あ。すごい! 手が軽くなった!」ぶんぶんっ
黒髪娘「そうであろう?」 にこっ
121 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 02:17:21.25 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「……」 きゅぅ、きゅぅっ
男(こんな風にしてるところなんて、
すごく可愛い和風美少女なのになぁ……)
黒髪娘「そちらはどうなのだ?」
男「?」
黒髪娘「祖父君に少しは尋ねたのだが。
祖父君は、ほら。お年を召していられたから……」
男「あー」
黒髪娘「そちらの恋はどのようなのだ?」
男「こっちかー。んー。
まず、男女が顔をあわせないと言うことはないな」
黒髪娘「うむ」
男「爺ちゃんから聞いたかと思うけど
義務教育って云って、こっちの世界の日本。
つまり大和では、平民まで含めて全員学校に行くんだ。
えーっと、6、3で9年。殆ど全員が高校まで含めて12年」
黒髪娘「うん、聞いている」
男「男のみ、女性のみの学舎もあるけれど
殆どは驚愕と云って、男女が一緒に学ぶ。
一つの学舎に同じ年齢の子供が百人以上居ることが多い。
学舎全体では数百人ということもあるな」
黒髪娘「ふむ」
122 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 02:20:22.85 ID:KmqRKDbT0
男「で、それだけ学ぶ期間が長いから
学舎では友人も作るし、年頃になると異性に興味も出るよな。
まぁ、なんだ。
改めて説明すると照れくさいな。
なんの罰ゲームだよこれっ」
黒髪娘「ん? 興味深い話だぞ?」
男「で、そういう状況で、大抵は気になる異性が出来てー」
黒髪娘「ふむ」
男「紆余曲折があるな」
黒髪娘「その紆余曲折が重要ではないかっ」
男「ぐっ」
黒髪娘「話して欲しい」
男(なんでおれは中学生の女子に圧倒されてるんだっ)
黒髪娘「ほら、丁寧に指圧するから」 きゅぅっ
男「……うう」
黒髪娘「ほら」
男「わぁったよ」
125 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 02:23:03.89 ID:KmqRKDbT0
男「まぁ、その辺は年齢に寄るんだよ。
幼い時――おおむね10歳前後とかは、一緒に遊ぶだけだ」
黒髪娘「ふむぅ。筒井筒か?」
男「なにそれ」
黒髪娘「幼なじみ」 きゅっきゅっ
男「ああ、それだ」
黒髪娘「それで?」
男「そっちと違ってこっちには顔を隠す習慣はないからな。
その後もずっと一緒に学び続ける。
あー。最初に云っておくと、こっちの世界では
寿命伸びてるからな? 平均寿命も70超えてるし。
結婚は25〜30位が多い。だから、恋愛のペースもずれてるぜ?」
黒髪娘「ふむ。――承知した」
男「15歳くらいになると、やっぱり異性に興味が出てくるな。
で、みんなに隠れてこっそり二人で遊びに
行ったりすることも覚える。
これをデートという」
黒髪娘「それは自宅ではダメなのか?」
男「自宅でも良いけどな。まぁ、人目に触れないというか
ドキドキがほしいんだろ。たぶんな」
黒髪娘「ふむぅ」きゅむ、きゅむ
126 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 02:26:27.78 ID:KmqRKDbT0
男「でも、この年齢ではあんまり
身体を――あれだ。その“最期”ってのは推奨されないな」
黒髪娘「そ、そうなのか?」
男「こっちでは成人ってのが20歳なんだ。
結婚も出来ないのにいたずらに
相手とそう言うことするのは、不道徳って云う考えがある。
まぁ、実際には17,8になれば経験してるやつも多いんだけどな」
黒髪娘「そのぅ、男殿は」
男「黙秘する」 きっぱり
黒髪娘「むぅー」
男「20前後になると、お金を稼ぐ方法も増える。
さらに上の学舎、大学に行くやつや、職に就くやつも出る。
そうなると二人のデートも本格的になるな。
遠出したり、食事をしたり、プレゼントをしたり」
黒髪娘「そうか。平民でも貴族のような
贈り物をするようになるのだな」
男「そうだなぁ。つまりあれだ。
みんなが貴族と平民の中間みたいな世界なんだよ」
黒髪娘「ふむふむ」
男「で、その間に出会いと別れがあって。
一人の相手のみで思いを遂げる一対もあれば
相手を変えて恋を楽しむような人もいるわけだ」
黒髪娘「それはこちらも大差ないな」 きゅむ、きゅむ
127 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 02:30:03.77 ID:KmqRKDbT0
男「20を越えたあたりで、世間的には成人。
でも、一人前と認められるのは、
特に男は25を超えてからかな。
そうなると思いをさだめた相手に結婚の申し込みをする」
黒髪娘「ふむ」
男「男からが多いけれど、
女性からってのも最近はあるようだな。
……退屈じゃないか?」
黒髪娘「そんな事はない」
男「そか。でも、もう話も終わりだ。
結婚しても良いな、となったら二人で両家の両親に報告して」
黒髪娘「え? そこで報告するのかっ!?」
男「ん? そうだよ。
もちろん許婚とか、両親主導のお見合いなんて
云うのも残っちゃ居る習慣だけれど、少数だ。
結婚は当事者二人の問題だからな。
まぁ、場合によっては反対されたりもするけれど。
最終的には当事者二人の決意が固ければ結婚を阻む物は、
そうはないよ」
黒髪娘「そ……そうなのか……」
男「で、結婚する。めでたしめでたし」
129 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 02:33:23.65 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「想像もつかない世界だ」
男「そりゃ、まぁ。俺だってこっちの世界のことは
見てるけれど判らないことばかりだ」
黒髪娘「……うむ」 きゅ……
男「どした?」
黒髪娘「あ。いや。すまん。さぼってしまった」きゅむっ
男「いや、それは良いんだけど」
黒髪娘「はははっ。
いや、ちょっと空想してしまっただけだ。
酒を頂いたわけでもないのにな」
男「……」
黒髪娘「……」
きゅむっ、きゅむっ
黒髪娘「男殿の手は、大きいな」
男「そっか?」
黒髪娘「うむ。大きい」
男「そうか」
138 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 03:45:09.41 ID:KmqRKDbT0
――黒髪の四阿
黒髪娘「〜♪」
友女房「ごきげんですね、姫?」 にこにこ
黒髪娘「ああ。友か。見てくれ、立派だろう?」
友女房「あらあら。これはこれは」
黒髪娘「上の兄様からだ。見事な鯛だ」
友女房「ですねぇ、美味しそうです」
黒髪娘「塩をして干そう」
友女房「お食べにならないので?」
黒髪娘「沢山届いたのだ。
食べるのはもうちょっと小さいやつでも良いだろう?
これはひときわ立派だから、男殿にとっておきたい」
友女房「あらあら。そうですねぇ」
黒髪娘「女房達の分もあるから、みんなで食べると良い」
友女房「それはありがとうございます」
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139 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 03:48:29.80 ID:KmqRKDbT0
かたかた、ぱさり
黒髪娘「うん。その荷物も運んでいってくれ」
友女房「対の部屋も整いましたねぇ」
黒髪娘「男殿もいつまでも自室がないのは居心地も悪かろう」
友女房「そうですね。まぁ、この程度の調度ならば
豪華すぎることもなく、不審なこともなく」
黒髪娘「そうかな。不調法ではないかな?」
友女房「雑色(※)だとすれば過ぎた部屋です」
黒髪娘「男殿は客人だ」
友女房「客人だとばれるとやっかいですよ?」
黒髪娘「それはそうだが……」
友女房「男様は異界のお客人です。
この世界での豪華さなどを気にされないですよ」
黒髪娘「それもそうだな」
友女房「とは言え、右大臣家の格という物がありますからね。
ええ、この友女房が一肌脱ぐといたしましょう」
※雑色:男の使用人
141 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 04:09:55.08 ID:KmqRKDbT0
――男の実家
男「おろ。姉ちゃんいたの」
姉「うん、休み〜」 ぽりぽり
男「すげぇ格好な」
姉「うっさい」
男「水、飲む?」
姉「あー。ミネラルで。氷一個」
男「寒いのに」
姉「頭はっきりさせたい〜」
からん
男「はいよ」
姉「さんくー。この恩は返さないけど」
男「いーよいーよ」
143 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 04:12:18.92 ID:KmqRKDbT0
姉「んっく、んっく。……どうしたー?」
男「あー。いやねー。中学生くらいの娘の家庭教師を」
姉「バイト?」
男「似たようなもん」
姉「あんた教育課程いくの?」
男「いや、わかんないけど」
姉「まぁそういうの良いかもね。あんたヘタレだけど。
一応お爺ちゃんに似て責任感強そうだし?」
男「あんまり適正ある気がしないんだけどね」
姉「そこは、ほら。庶民パワーで」
男「そうな。……でも、中学生くらいの女の子の
考えは判らないわ、本当」
姉「会ったり前じゃない。素人童貞なんだから」
男「玄人では経験済みみたいな表現やめろよっ。
誤解を招くよっ! あちこちにっ」
姉「仕方ないじゃない。両面童貞なんだから。
む、両穴童貞って新しくない?」
男「くわぁ〜っ」
144 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 04:15:13.36 ID:KmqRKDbT0
姉「まぁ子供扱いしない事ね」
男「そうなの?」
姉「女の子は成長早いのよ。
中学生になったら女としてはもういっちょ前。
昔なら子供産んでた年齢よ?
子供扱いなんてとんでもない。
童貞ごとき、のど笛食い破られるわよ」
男「こわっ!? 肉食系にもほどがあるよっ。
んじゃ、大人扱いなのか」
姉「ばっかねー。大人扱いなんてしたら
碌なことになるわけ無いでしょ。
相手は中坊なんだから」
男「どうしろってのさ」
姉「ちゃんと目線会わせて相手の話聞けば?
生徒じゃないんでしょ。
その顔じゃ」
男「う……」
姉「捨てるなら体温覚えさせる前にしなさいよ。
それ、最低限の男の義務だからね」
146 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 04:20:35.80 ID:KmqRKDbT0
――黒髪の四阿、炬燵部屋
男「これ、たまらんなぁ」
黒髪娘「悔しいがこの知恵、認めざるをえない」
友女房「さようですねぇ」
男「火事だけは気をつけないと」
黒髪娘「もっともだ」
友女房「祖父君に話を聞いて、
いつか作ろうと計画を練っていた甲斐がありました」
男「でも良く掘りコタツなんて出来たな」
黒髪娘「うむ、驚きだ」
友女房「火鉢がありますからね。
床下に設置して、換気と手入れさえすれば、
後は描いてもらったとおりです。
そもそも火闥(こたつ)といって、
似たものはありましたからね」
男「そうなのかぁ」
黒髪娘「しかし、このふすまを櫓に掛けるという発想」
友女房「ええ、ええ……」
男「和むわぁ」
147 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 04:22:55.32 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「天板も便利だな。寒いのに書を読んでかじかまないぞ」
友女房「そうですねぇ。お茶もおけますし」
ことり
男「あ。どーも」
友女房「馴染んでますね」
男「うち、炬燵ないんだよね。爺ちゃんちにはあったけど。
そのせいか、めちゃくちゃおちつきます。はい」
友女房「お気に入りいただけましたか?」
男「もちろん。こんな部屋もらっちゃって良いんですか?」
友女房「ええ。この友女房が監督させて頂きました」
男「むちゃくちゃ感謝します。正座とかも苦手だしね。
掘りごたつ最高だな。膝が楽だ」
黒髪娘「友、甘い物が食べたい」
友女房「そですね」
男「ああ。俺お土産もってきてる」
148 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 04:31:01.81 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「これは……?」
友女房「なんでしょう。面妖な」
男「あー。これ、カステラってんだ」
黒髪娘「これは……大きい」
男「一人で全部食うつもりかよっ!?」
黒髪娘「む。すまぬ。違ったのか」
友女房「これは切り分けて食べる菓子なのですね」
男「そうそう。なんか刃物ある?」
友女房「お任せあれ」
とててて
黒髪娘「……」そわそわ
男「そんなに食べたいのか?」
黒髪娘「そんな事はないっ」
男「美味しいよ。これ」
友女房「お皿ももって参りました」
151 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 04:59:44.79 ID:KmqRKDbT0
――黒髪の四阿、炬燵部屋
黒髪娘「甘い。なんと美味しいのだ」じぃん
友女房「これは誠に甘露ですねぇ」じぃん
男「涙ぐむほどかな?」
黒髪娘「何を言う、この黄色と茶色の美しいこと」
友女房「ええ、ええっ!」 じぃっ
男「だめ。全部食べちゃダメ」
黒髪娘「お土産ではなかったのか!?」
友女房 こくこく
男「他にも何人か居るでしょうに」
黒髪娘「う゛」
友女房「しかし」
男「しかしもなにも。みんなにお裾分け。
お裾分けしたらまた美味しいのもってくるけれど
お裾分けしないと二度ともってきません」
友女房「そんな」しょぼん
黒髪娘「そういえばそうだ。甘露の美味に我を忘れては
上に立つ物としての示しもつかぬ」
152 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 05:05:49.00 ID:KmqRKDbT0
男「よしよし。黒髪はよい子」 くしゃ
黒髪娘「っ」
友女房(あら)
男「また持ってきてやるぞ」
黒髪娘「別に、土産目当てでもてなしているわけではない。
男殿はいつでも我が庵の客人として歓迎する」
男「それはありがたいなぁ。別荘気分」
黒髪娘「うむ。別荘気分でくつろいでくれればそれでよい」
友女房「姫も楽しいですしね」
男「そなの?」
黒髪娘「うむ。男殿と過ごす時間は心楽しい。
知識にすれ違いはあれ、お互い知らぬ分野の
それがある上に、男殿はわたしを一人前の
人間としてみてくれるからな」
男「……」
黒髪娘「話して論を戦わせられるというのは
この上なく愉快なことだ。……蝶よ花よと
扱われるのは、やはり寂しい」
153 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 05:08:31.34 ID:KmqRKDbT0
男「そういう物か?」
黒髪娘「うむ」
男「じゃぁ、今日はなんの話をする?」
黒髪娘「男はれぽをとは終わったのか?」
男「終わったよ」
黒髪娘「では、付き合え」
男「なんの話がよい?」
黒髪娘「んーぅ。どうするか」
男「うーん」
黒髪娘「?」
男「いや、話。しなきゃダメか?」
黒髪娘「どういうことだ?」
男「結構勉強、根詰めてただろう?」
黒髪娘「うむ」
154 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 05:13:09.18 ID:KmqRKDbT0
男「じゃぁ、しばらく茶を飲んで」
黒髪娘「うむ」
男「で、ゆっくりしろ」
黒髪娘「ゆっくりか……」
男「……」ずずずっ
黒髪娘「温かいな」
男「だなぁ」
友女房「わたしは、このカステラを女房や雑色に
分けて参りますね。珍しい菓子だと云っておきましょう」
黒髪娘「すまぬな」
男「行ってらっしゃい」
ぽやぁ
黒髪娘「……ほぅ」
男「……」
黒髪娘「どうした?」
男「髪、見てた」
155 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 05:23:50.66 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「そ、そうか……。どうして?」
男「こんなに綺麗な髪は、こっちではまず見ないから」
黒髪娘「そうか……。この髪だけは藤壺の上にも
褒められたことがあるのだ」
男「そっか」
黒髪娘「……その」
男「?」
黒髪娘「触って、見るか?」
男「良いのか?」
黒髪娘「うむ」
男「じゃ、ちょこっとだけ」 ひょいっ
黒髪娘「っ!」ひくんっ
男「びびってるじゃないか」
黒髪娘「そんな事はない」
男「そっか」
156 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 05:30:29.74 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「ど、どうだ? 綺麗か?」
男「うん。すごい、すべすべ」
黒髪娘「女房が毎朝とかしてくれるのだ。
多い時は日に何度も……」
男「そうか」
黒髪娘「引きこもりゆえな。湯浴みや髪梳きの時間はある」
男「世話してもらっている間にも、本読んでるんだろう」
黒髪娘「そう言うことも、まぁ、ある」
男「やっぱし」
黒髪娘「……男殿は短いな」
男「この時代は男も長いのか?」
黒髪娘「いろいろだ」
男「そっか」
黒髪娘「……」ふわり
男「なんか、優しい顔してるな」
157 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 05:32:56.55 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「そうかな?」 きょとん
男「うん、良い顔だったよ」
黒髪娘「……くっ」かぁ
男「どしたんだよ」
黒髪娘「眉も描いてないのにっ」
男「は?」
黒髪娘「いや、なんでもない。油断しすぎだ。わたし」
男「よく判らん」
黒髪娘「炬燵でのぼせただけだ」
すっ
黒髪娘「ひゃわっ!」
男「おい、危ないな。髪の毛長いんだから」
黒髪娘「ううう」
男「もう少し、落ち着きなさいって」
黒髪娘「ううっ。不覚だ」
160 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 05:58:58.34 ID:KmqRKDbT0
――黒髪の四阿
友女房「あらあら、どうなさいました?
燭灯も着けずに、こんな場所で」
黒髪娘「うん……」
友女房「男様は?」
黒髪娘「今日は、帰った。
バイトとか言うのがあるらしい」
友女房「そうですか。お茶を一旦下げますよ?」
黒髪娘「……」
かちゃかちゃ……
黒髪娘「……」
友女房「どうされました?」
黒髪娘「ん?」
友女房「どうか、なされました?」
163 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 06:01:17.60 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「男殿に」
友女房「男様に?」
黒髪娘「髪を触られた」
友女房「なっ!? なんてことを!!
これは気が付かずに申し訳ありませんっ。
すぐお櫛をけずりましょうね。
この友が清らかになるまでお梳かしします。
それにしても男様も、男様ですっ。
いくら異界の方とは言え、姫の髪に手を触れるなどっ。
冗談で済ませられることではございませんよっ。
常識という物を弁えて頂かないとっ」
黒髪娘「いや、違うっ」
友女房「ど、どうしたんですか? 姫」
黒髪娘「その……」
友女房「??」
黒髪娘「触るのを、許したのは、わたしだ」
友女房「ひ、め……?」
黒髪娘「私が、触って良いと云ったんだ」
友女房「ひょぇぇ」
164 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 06:03:43.04 ID:KmqRKDbT0
友女房「大丈夫ですか、お熱ですか?
さっきのカステラに酒でも入ってたのでしょうか」
黒髪娘「いや、違うと思う……」
友女房「……」
黒髪娘「どうすればいいだろう?」
友女房「……姫。姫?」
黒髪娘「……」
友女房「いや、でしたか?」
黒髪娘「――」ふるふる
友女房「どんな感じがしましたか?」
黒髪娘「楽の音と、鳥の囀りが。
聞こえた訳じゃないんだけど、溢れそうになって。
どきどきして頬が熱くなって。
……それに」
友女房「それに?」
黒髪娘「こんなに不器量じゃなければいいのにって。
――泣きたくなった」
166 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 06:10:28.19 ID:KmqRKDbT0
友女房「さようですか」
黒髪娘「……」
友女房「姫はなぁんにも悪くありませんよ」
黒髪娘「そうだろうか」
友女房「それはもう。友が気を利かせすぎましたか」
黒髪娘「?」
友女房「いえいえ。何でもございません。
姫は……清らかでいらっしゃるから」
黒髪娘「そんな事はない。もう15にもなる。
塵にも埃にもまみれた、みっともない黒い鳥だ」
友女房「……」
黒髪娘「……」
友女房「さ。髪を梳きましょう」 にこりっ
黒髪娘「……ん」
友女房「今晩は温かくして寝ませんとね」
175 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 07:24:04.78 ID:KmqRKDbT0
――黒髪の四阿
ことん、かたん
男「んっと。ほいさ」 すたんっ
友女房「男様」
男「お。友さん」
友女房「いらっしゃいませ」
男「お邪魔します。平気そう? 黒髪は居る?」
友女房「いまはお留守にしていらっしゃいますよ。
外せない御用事で尚侍処へいらっしゃっています」
男「ああ。仕事か」
友女房「ええ。おそらくすぐに戻ってらっしゃいますよ。
顔を見せに、と云うか、出仕したという形式のための
出仕ですからね」
男「そっか。待ってて良い?」
友女房「ええ、おこたにどうぞ。お茶をお持ちしますよ」
男「助かる」
177 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 07:27:15.49 ID:KmqRKDbT0
こぽこぽこぽ
男「寒いな」
友女房「ええ、寒さが続きますね」
男「ありがとう」
友女房「いえいえ、どういたしまして。
しばらくご一緒して宜しいですか?」
男「もちろん」
友女房「では、失礼します」
男「ふー。温まる」
友女房「ですねぇ」
男「……黒髪は、元気?」
友女房「はい」
男「そっか」
友女房「何かありましたか?」
男「いや、なんか色々抱え込んじゃいそうな人だから?」
友女房「そうですねぇ」
179 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 07:31:22.13 ID:KmqRKDbT0
男「……」
友女房「尚侍(ないしのかみ)という官職はですね。
帝に仕えて、皇室行事を取り仕切る秘書のような役割です」
男「ふむ」
友女房「その権力は、時に大臣を凌ぎますね。
『位人臣を極める』等と申しますが、
女性としてはまさに最高位の官職だと云えるでしょう」
男「そう……なのか?」
友女房「ええ。もちろん何事にも例外はありますが。
姫は尚侍としては、規格外です。
何しろ仕事していませんからね」
男「そうだなぁ」
友女房「尚侍、尚侍所の重要な役割の一つに東宮の教育があります」
男「東宮って云うのは、確か帝の息子だろ」
友女房「そうですね。子供の頃から云うことを良く言い聞かせて
育てるわけですから、歴代の帝でも、育ての尚侍には
頭が上がらないことも少なくありませんね。
内裏における影響力は絶大な物があるわけです。
こほん。
その。
下世話な話をすればですね」
男「?」
友女房「察しが悪いですね」
182 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 07:35:46.48 ID:KmqRKDbT0
男「ごめん」
友女房「いえ、すみません。
照れ隠しですからお気に為されぬよう。
――こういう事です。
幼い東宮にそば近く接して、その心も身体も導く。
それは、往々にして、えーと、その。
祖父君のいうところの、その……ほら初物を」
男「童貞!?」
友女房「それです。ええ。
それをですね、こう。シてしまうこともあるというか
むしろそれが推奨されているというか……。
東宮の身体を大人にして差し上げるというか。
妃になる尚侍所の女性も少なくはありません」
男「そんなのありか−!?」
友女房「ええ。そもそも、尚侍所に娘を『あげる』というのは
高度に政治的な問題なのです。
もちろんその背景には政治的な闘争もありますし
右大臣家としても後に引くわけにはいかない。
たとえ、東宮が8歳で、姫より6つもお若くとも」
男「……」
友女房「身体のつながりが有れど、無けれど。
姫は東宮の『もの』です。それが尚侍というものですし、
この内裏の秩序なのです」
184 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 07:55:00.98 ID:KmqRKDbT0
友女房「――なんて」 にっこり
男「え?」
友女房「まぁ、そういう俗世の噂もあったり
無かったりするのですが、男様は異界より来られたる客人。
内裏の事情などお気になさることもないでしょう。
ましてやうちの姫は妖憑きの変わり者。
東宮のお召しもあるはずもない。
このまま庭の片隅で咲いて、
誰見ることなくひっそり朽ちるのでしょうし。
そのような姿は、見たくありません」
男「……」
友女房「余計なことを申し上げましたか?」
男「あのさ。俺の世界での話したっけ?
黒髪は、今年14だよね。
それは俺の常識では、まだ子供の部類なんだよ」
友女房「ええ、存じておりますよ」
男「だからそういう艶っぽい話はさ、まだ早くてさ」
友女房「そう思うなら、それはそれで結構かと」
男「……うう。とりつく島もない」
187 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 08:09:38.95 ID:KmqRKDbT0
――黒髪の四阿、炬燵の間
黒髪娘「ただいま帰参した」
男「おかえりー」
黒髪娘「寒かった。すごく寒いぞ」
男「入れ入れ」
黒髪娘「ありがたい」
いそいそ、ばふっ
黒髪娘「はふぅぅ〜」
男「温まった?」
黒髪娘「いや、まだ指先が痺れている」
男「重症だな」
黒髪娘「冬の出仕は大変なのだ」
男「この季節はなぁ。ヒートテックなさそうだし」
黒髪娘「?」
男「いや、こっちの話」
190 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 08:19:12.61 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「まぁ。物の怪じみた娘だからな。
仕事らしい仕事もない。気楽と云えば、気楽だ」
男「んー」
黒髪娘「どうした?」
きゅむ
黒髪娘「らにをひゅる?」
男「いや、ほっぺた引っ張ってみたんだよ」
黒髪娘「らかや、いったひ、なんてそんな」
男「んー」
黒髪娘「むぅー」
男「突っ張ってるのかなぁ、って」
黒髪娘「う゛ぅ?」
男「仕事。出来るよな。案だけ学んだもんな。
漢詩も報告書も、上奏文だって律令だって
何でもござれでしょう?」
黒髪娘「……」
男「身につけたもの、使いたくないなんて変じゃない?」
192 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 08:28:36.31 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「……」じぃっ
男「三白眼で睨んでも、普段可愛いんだから意味ありません」
黒髪娘「う゛ぅー」
男「ぷぷっ」
黒髪娘「いいかけん、はらさるかっ」
男「ほいほいっ」
黒髪娘「ふむっ……。そのようなことを」
男「気を張り過ぎなんだよ」
黒髪娘「内裏に云っていたのだ。多少は気を張らねば、
どのような政争に巻き込まれるか知れた物ではない」
男「そりゃ、そうか」
黒髪娘「……それは、わたしだって」
男「……」
黒髪娘「学んだ物を、試したい気持ちがないわけではない」
男「うん」
193 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 08:36:12.39 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「しかし、この身は女だ。
……望むと望まないとに関わらず。
内裏で女が仕事を為そうとすれば方法は二つしかない。
何らかの閥を率いて、邪魔者を廃するための
権力工作を常にしながら事を為すか、
東宮か帝にはべり、その愛妻、愛妾として
権勢を振るうか……。
多分、私にはどちらも無理だと思う」
男「そっか」
黒髪娘「不器量だからとかではないぞ?
いや、その。もうちょっと目鼻立ちが
整っていればよいとは思うのだが」
男(現代美少女ですからな。きみは)
黒髪娘「性格として、受け入れがたい。……のだと思う。
あるいは無駄な矜持か、こだわりなのかとも思うのだが
それは自らが身につけた学識ではないような気がするのだ」
男「……」
黒髪娘「どうも釣り合いが取れていないのだ。私は」
男「……そっか」
黒髪娘「考えても仕方ないだろう」
男「そだな」
195 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 08:55:39.77 ID:KmqRKDbT0
――黒髪の四阿、炬燵の間
黒髪娘「……昴は船乗りの星にて」こくっ
男「眠そうな」
黒髪娘「う……む」こくり
男「寝れば?」
黒髪娘「しかし、うむぅ……」
男「どうしたのさ?」
黒髪娘「部屋に戻るには炬燵から出る必要がある」
男「当たり前だな」
黒髪娘「寒い」
男「うん」
黒髪娘「……寒いではないか」
男「ここで寝たらダメだぞ? 事故があるかも知れないし。
火事なんてまっぴらだろう? 低温火傷も怖い」
黒髪娘「そうは云うが……」
男「仕方ないなぁ。友さーん。友さーん」
196 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 08:58:49.61 ID:KmqRKDbT0
友女房「はい、なんでしょう?」
男「黒髪が寒がって動かないから。
ここに褥(しとね)と、掻巻(かいまき)※かなんか
持ってきて貰える?」
友女房「判りました」
黒髪娘「これでは子供みたいだ」
男「寒いから動きたくないなんて
子供のようなことを云うからだろう?」
黒髪娘「そうは言ったって」
男「じゃ、部屋に引き上げるか?」
黒髪娘「寝ている間に男が帰るのは……不本意だ」
男「別にそれはないけどさ」
きぃ、ふぁさん
友女房「寝具の準備が整いましたよ」
黒髪娘「む」
男「どうする?」
黒髪娘「せっかくだから、今宵はここで」
男「ふっ」
黒髪娘「馬鹿にしないで欲しいのだ」
※褥(しとね)と、掻巻(かいまき):平安時代の寝具
麻などで作られた敷き布団と、袖のついた掛布団
198 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 09:12:59.78 ID:KmqRKDbT0
男「温かいか−?」
黒髪娘「うむ、期待以上だ」
男「おっと。爪先を炬燵に突っ込むのは禁止だぞ」
黒髪娘「そうなのか?」
男「ちらちら見えるだろ」
黒髪娘「なにがだ?」 きょとん
男「うるせぇ。禁止だ」
黒髪娘「横暴だな」
男「いいのっ。禁止」
黒髪娘「判った。
ところで……男殿は、何を読んでいるんだ?」
男「持ってきた本。勉強してるの」
黒髪娘「なにを?」
男「料理の基本」
黒髪娘「男殿は庖丁(料理人)なのか?」
男「違うから勉強してるんだよ」
199 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 09:17:04.32 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「未来の料理か……。
いつも美味しい土産を頂いている」
男「んー。気にしないでくれ。たいした物じゃないからさ。
そもそも、ここで結構飯とかご馳走になってるし」
黒髪娘「ここで供されるのは、ありふれた物だ」
男「あの菓子だって、向こうではコンビニに
売ってる程度の物だよ」
黒髪娘「こんびに?」
男「ああ。えっと、街のあちこちにある商店だ」
黒髪娘「そうか。何が売っているんだ?」
男「飲み物、食べ物、菓子、本」
黒髪娘「本が売っているのか!?」
男「コンビニに売ってるのは漫画や雑誌がせいぜいだけどな。
本は専門の本屋に売っていて、たいがい本屋ってのは
一つの街に一つや二つはあるな」
黒髪娘「そうなのかぁ」
男「布団に入ったら元気だな」
黒髪娘「う」
男「眠くないのかー?」
黒髪娘「少し眠気が去ったのだ」
201 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 09:26:04.04 ID:KmqRKDbT0
男「なんだよ、構って欲しいのか?」
黒髪娘「話し相手になって欲しいのだ」
男「素直だな」
黒髪娘「わたしは率直だ」
男「そっか。そういやそうだな」
黒髪娘「男殿の世界では、女も学問を修められるのだろう?」
男「ああ、そうだな」
黒髪娘「学識や技芸をもって宮仕えも叶う」
男「公務員とか、会社員とかな」
黒髪娘「そうか。……ふふふっ」にこっ
男「どした?」
黒髪娘「良い世界だな。
――そんな世界、早く……来ると良いなぁ」
男「……」
202 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 09:29:54.36 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「ん?」
男「あのさ」
黒髪娘「うむ」
男「……」
黒髪娘「どうしたのだ」
男「……っ」
黒髪娘「なんだ。変な顔をして」
男「なんでもない。1分くれ」
黒髪娘「……」
男「……」
黒髪娘「?」
男「……あー」
黒髪娘「?」
男「黒髪の。髪の毛、触りたい」
黒髪娘「――え」
204 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 09:42:23.30 ID:KmqRKDbT0
男「ダメかな?」
黒髪娘「……駄目……じゃない」
男「触るな?」
さら……さら……
黒髪娘「……うぅ」
男「手触り、良いな」
黒髪娘「あの……ど……どうし……男殿は……」
男「ん?」
黒髪娘「なんで、髪を……」
男「あー。んー。……触りたかったから」
黒髪娘「そ、そうか」
さら……さら……
男「豪華な感じ。……宝物みたいな」
黒髪娘「褒められたみたいだ」
男(なんか、いろいろこだわりとか倫理観とか。
越えちゃってるよな。この髪の感触も、気持ちも)
215 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 12:21:33.12 ID:KmqRKDbT0
――黒髪の四阿
友女房「姫〜。ひーめーっ」
がたっがたたっ
黒髪娘「どうしたのだ?」
友女房「文ですよっ。藤壺の方から」
黒髪娘「……珍しい」
友女房「遅くなってはいけませんから」
黒髪娘「……梅の香」
友女房「あらあら。まぁまぁ。寒中梅でございますね」
黒髪娘「むぅ……」
友女房「なんで困りますか。
雅やかな心遣いではございませんか」
黒髪娘「こう言うところが隙がない。困る」
友女房「そういう物でございましょうかね」
黒髪娘「……うー」
友女房「なんと?」
216 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 12:27:02.04 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「……歌会の誘いだ」
友女房「さようですか。これはまた」
黒髪娘「……」
友女房「何かあるので?」
黒髪娘「形勢を明らかにしないわたしを
哀れにおもってくださったのであろう」
友女房「……」
黒髪娘「このままでは私に風あたりが強くなりすぎると
そう考えてくださったのではないかな」
友女房「さようですか」
黒髪娘「……」
友女房「お返事はいかがいたしましょう」
黒髪娘「……」
友女房「しばらくお考えになられますか」
黒髪娘「そうする」
友女房「姫の良いように」
218 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 12:48:15.19 ID:KmqRKDbT0
――夕刻
ごとん、とさっ
男「ふぅ。到着、っと」
黒髪娘「男殿」
男「お。黒髪。お出迎えありがとう」
黒髪娘「出迎えたわけではないが。
しかし、男殿を迎えられると気持ちが暖まる」 にこっ
男(うわ。……すげぇ可愛い。
やばいな。この間髪触ってから、
どんどん可愛く見えるよ。
病気だぞ、これ……)
黒髪娘「どうした? 寒かろう?」
男「おう」
黒髪娘「丁度昼餉だ。いま友に云って用意させる」
男「へぇ、何食べるの?」
黒髪娘「雑煮だ。餅なのだが……。
餅は食べれるだろう?」
男「おー。大好きだぜ」
219 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 12:53:32.61 ID:KmqRKDbT0
――黒髪の四阿、炬燵
友女房「さぁ、どうぞ」
黒髪娘「頂こう、男殿」
男「ああ、頂きます。ん。美味しいな」
黒髪娘「温かいなぁ」
男「……お、雑煮は魚なんだ?」
友女房「鯛で出汁を取らせて頂きました」
黒髪娘「餅はそれで良いのか?」
男「おう、とりあえず二つでな」
黒髪娘「んぅ……」
男「お、すごく伸びてるな」
黒髪娘「……ん。んく……。
そんなにじろじろ見るものではないぞ」
男「そっか」
友女房「美味しゅうございますか?」
男「ええ、ばっちりですよ」
222 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 12:57:59.56 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「うぅ。美味だ。私は雑煮は大好きだな」
男「カブの葉が美味いよな」
黒髪娘「そちらでも食べるのか?」
男「もちろんだ。味噌汁とかにもいれるぞ」
黒髪娘「うむ。煮るのも旨いな。ひたしもよい」こくり
男「……」 じぃ
黒髪娘「ん? どうした、男殿」
男「いやいや。なんでもないよ」
黒髪娘「?」
男(一瞬見とれたとか、いえねぇし)
黒髪娘「……ふぅ」
男「どした?」
黒髪娘「ん? いや。んー」ぽて
男「??」
223 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 13:07:54.83 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「お腹がいっぱいで、温かい炬燵。
駄目になってしまいそうだ」
男「多少駄目になっておいた方がいいよ」
黒髪娘「そうかな」
男「そう思うね」
黒髪娘「男殿」
男「ん?」
黒髪娘「……掌を、借りれるだろうか?」
男「いいけど」
黒髪娘「額に」
男「ん……。うん」
黒髪娘「ああ……」
男「どうしたんだ?」
黒髪娘「温かくて。嬉しい」 くすっ
男「そか」
225 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 13:19:07.16 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「……」
男「寝ても、構わないぞ」
黒髪娘「眠いわけではない」
男「そなのか」
黒髪娘「私が、男殿の半分ほどでも
他人を思いやって気を遣える性分であったならなぁ」
男「なんだそれ」
黒髪娘「いいや。……うん」
男「何かあったんだろう? 云ってみろよ」
黒髪娘「……歌会の誘いがあってな」
男「ふむ。パーティーか」
黒髪娘「私の立場もかなり厳しいのだ。
藤壺様がそれに気遣って誘ってくださった」
男「藤壺様って云うのは、良いやつなのか?」
黒髪娘「ああ。世話になっている。
心遣いの細やかなたおやかな方だ。
今上帝の寵をうける妃の一人なのだ」
227 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 13:31:53.62 ID:KmqRKDbT0
男「で、何を悩んでいるんだ?」
黒髪娘「そんなわけで藤壺様は後宮では
大きな存在感を持っているが、唯一ではないのだ。
妾妃はひとりではないからな。
私を呼んでくださるのは嬉しい。
私は確かに引きこもりの出不精だが
呼んでくださるのならばはせ参じるくらいのことはしたいのだ。
……しかし、私は気も遣えない不調法物だし
他人の言葉を上手に受け流すことも出来ないし……」
男「そうか? そんなに気にしなくても良いかと思うけど」
黒髪娘「そうはいかない。
宮中では目に見えない諍いや政争が続いているんだ……。
私が参加してみっともないところを見せれば
それは、藤壺の方の恥にもなってしまう」
男「ん〜」
黒髪娘「私が恥をかくのは、かまわない。
どうせ物の怪憑きの引きこもりだから。
でも、誘って下さった方に恥をかかせるのは
忍びない……」
男「断れないの?」
228 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 13:35:23.08 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「それは、出来る」
男「そっか」
黒髪娘「……でも、藤壺様は、お悲しみになるかな」
男「……」
黒髪娘「いつも断ってきたんだ」
男(――本当は、行きたいんだな)
黒髪娘「……」
男「なんだ、手のひら気に入ったのか?」
黒髪娘「落ち着く」
男「へこんでるな」
黒髪娘「そう言うことではないんだが」
男「?」
黒髪娘「なんでもない。……私の顔をじろじろ見るな」
男「へいへい」
229 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 13:41:01.05 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「んぅ……」
男「あのさ」
黒髪娘「うん」 くてっ
男「出ろ、って云ったらどうする?」
黒髪娘「男殿が?」
男「うん」
黒髪娘「……」
男「確かに責任は重大だけどさ。
黒髪がそんなに駄目だってのが、
ちょっと想像できないんだよな」
黒髪娘「……私は本当に不器用なのだ。癇癪持ちだし」
男「癇癪持ってるのか?」
黒髪娘「うん。――やっぱり、悔しいとつらい。
私を人間としてみてくれない人には、優しくできない」
男「それは癇癪じゃないと思うけど」
黒髪娘「そうかな……」
230 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 13:44:02.93 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「男殿は、出た方が良いと思うか?」
男「ああ」
黒髪娘「……」
男「思うんだけどさ。あんまり一人で戦う必要も
ないんじゃないか?」
黒髪娘「え?」
男「友さん何回か云ってたよ。“右大臣家の格”とか。
“姫様の名誉”とかさ。それって、つまり名前だよな」
黒髪娘「名前……」
男「あー。よく判らないけどさ。
そう言うのってチーム戦なんじゃないのかな。
現場に行って恥をかくか恥をかかないかは、
黒髪の腕もあるけれど、優秀な女房が居るかどうかにも
左右されるんじゃないの?」
黒髪娘「それは……。確かにその通りだが」
男「友さんって、出来るんじゃねぇの?」
黒髪娘「……う」
男「投げちゃっても良いんじゃないの?」
231 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 13:46:45.76 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「男殿……」
男「手を貸すからさ」
黒髪娘「男殿も?」
男「うん」
黒髪娘「なぜっ?」
男「そんなにびっくりするところか?」
黒髪娘「祖父君はそんな事は言わなかった」
男「爺ちゃんと俺は違うよ。
爺ちゃんは、ここに来たことを……
多分、黒髪に何かを教えるためだと思ってたと思う。
黒髪が余りにも希っていたから」
黒髪娘「……」
男「でも、俺は違うからさ」
黒髪娘「……うん」
男「俺としては、もうちょっと
格好良い引きこもりが見たいんだよ」
242 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 15:10:15.58 ID:KmqRKDbT0
――『和名類聚抄』より
穀類では、稲類、麦類(大麦、小麦、カラスムギ)、
アワ、キビ、ヒエ。主食は米。小麦はうどんのように
して食す。
豆類は、大豆、小豆、クロマメ、ササゲ、エンドウマメ。
イモ類には山芋やクワイ。
野菜は瓜類各種、蒜類(ねぎ、にら、にんにく)、
水菜類(せり、ジュンサイなど)、
園菜類(アオナ、カブラ、タカナ、カラシナ、フキ)
野菜類(ナスビ、アブラナ、ワラビ、ゴボウなど)
草類(ウド、イタドリ、蓬、ユリなど)
蓮類、葛類、たけのこ、タラノメ、ククタチ、キノコetc。
動物性蛋白の補給源としては、魚介類が中心であった。
近海魚は殆ど今日の日本と変わらない物が食されており
庶民は鰯やあじなど。貴族においては鮎や鯛が珍重された。
また貝の類、海草などの水産物が大いに食べられた。
動物も多量にではないが、ヤマドリ、ハト、カモ、ウズラ
またクマ、カモシカ、タヌキ、イノシシ、ウサギなどが
食用として記録に残る。鶏も唐から輸入されたが、卵は
薬用として用いられた。
果実は主に桃、スモモ、ウメ、カキ、タチバナ、梨、
ザクロ、ビワなどが……
243 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 15:15:14.61 ID:KmqRKDbT0
――男の実家
男「なんだなんだ。結構食材豊かだな。
もちろん輸送の関係で、いつでも食べられる
訳じゃないんだろうけど。結構あるじゃん」
男「味付けは……」
ぺらっ
男「基本的には、基本は塩と酢か。酢は米酢なのか?
そのほかに、醤(ひしほ)、味醤(ミソ)。
大豆に小麦の麹か。塩分は低そうだなあ。
そのほか、わさびは、あると」
男「あ−。……そゆことね。
砂糖がないわけだ。そんであんなに
美味しい美味し云ってたのか。
砂糖、砂糖……砂糖の歴史ってなんの本に載ってるんだ?
Wikiりゃでてくっか?」
男「砂糖は……奈良時代に輸入。当初は薬用。
ふむ……サトウキビの栽培は江戸時代か。
こりゃ、到底手に入るわけもないな。
いんちきで、黒糖持って行っちまうか」
男(許されないのかも知れないけどなー)
男「まぁ、その辺俺は爺ちゃんとは違うし?」
246 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 15:21:08.64 ID:KmqRKDbT0
がちゃ
姉「あら。あんたいたの?」
男「あー。んー。いたよ。ちっと台所使ってる」
姉「なに」
男「いや、ゲル化実験?」
姉「料理してるだけじゃん」
男「まぁね」
姉「ふぅん」
くつくつ、くつくつ
男「……」
姉「ミネラルウォーターとって」
男「はい」 きゅぽ
姉「ん。あんがと」
男「庶民は水道水じゃない?」
姉「ビールの代わりなの」
247 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 15:24:31.23 ID:KmqRKDbT0
男「言いたい放題無敵キャラな」
姉「これくらいの強度ないとね。荒くれ者どもの
リーダーはつとまらん!」
男「Aチームかよ」
姉「うはははは! ははっ。そういえば……例のさあ」
男「?」
姉「例の中学の」
男「ああ」
姉「どうなった?」
男「なんでそんな事聞くのさ?」
姉「聞いた方が良いから」
男「なんで?」
姉「まぁ、なんだかんだ云ってさ。
あんた、出来の良い弟だし?
あたしより高給取りになりそうだしさ。
……姉ぶりたいのよ」
男「……そっか」
姉「白状なさいよ。あんた最近、むちゃくちゃ
勉強とかしてるじゃん。バイトも詰め込んでるし」
248 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 15:28:38.74 ID:KmqRKDbT0
男「うん、覚悟決まった」
姉「へぇ……」にやにや
男「話すのやめた。中止〜」
姉「ちょ。待った待った! もう茶化さないっ!!
教えてよ。ねぇってば」
男「だから、覚悟決まったって」
姉「へぇ。どんな娘? 可愛い? 美少女?
チチの大きさどんなもん? まさかあたしより
でかくないでしょうねっ」
男「すげぇ、頑張り屋さんだよ」
姉「……おやおや。なんか父性じみたこといっちゃって。
もうちゅーしたのか? あん? この童貞。うりうり」
男「してませんー」
姉「なんだよ。チキンだな。ゴム無かったのか?」
男「そう言うんじゃないわけ」
姉「覚悟決まったんでしょ? 条例を突破する
覚悟とか。アグネスを敵に回す覚悟とか。
上野千鶴子あたりから朝まで精神攻撃受けたりして」
男「いや、もうマジ姉ちゃんキツイす」
姉「なーによ〜」
251 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 15:34:42.34 ID:KmqRKDbT0
男「そう言うんじゃないくて。頑張り屋だからさー。
覚悟決めて、助けて上げなきゃなぁ、と」
姉「わお。なんだ。らぶじゃないのかー。家庭教師路線?
てっきり彼女にして調教飼育するのかと」
男「そうじゃないって」
姉「でもあんたねー。子供だからって女は女なの。
そういう態度ってすげぇ、傷つけると思うよ?」
男「傷つけるとこも含めて。覚悟決めたって事」
姉「……」
男「傷つく覚悟も決めたし。
それで、まぁ。なんか色々あって。
……そういう未来もあれば、それはそれで、善し。かな」
姉「……難しい娘なんだ?」
男「難易度SSだね」
姉「あんたそれローマの休日クラスだから」
男「うっは。まさにその難易度だわ。弾幕で画面見えない系」
姉「ふぅん。よく判らないけど。……いいわね」
男「……ん?」
姉「まぁ、いんじゃない? 一回くらい。
……そういうの。一回くらい賭けてさ。しないと。
人生生きてる意味なんてさ、無いのかも知れないし。
いいんじゃない? あたしは。
そういうの悪くないと思うよ」
254 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 15:56:39.36 ID:KmqRKDbT0
――黒髪の四阿
友女房「ええ、その箱はこちらへ。
えーい、それは絹ですよ!? もっと丁寧に運びなさい。
真珠は文箱です。間違えてはなりません」
黒髪娘「あの」
友女房「姫はそこで黙って座っていて下さいっ」
黒髪娘「う、うむ」
友女房「襲は何にいたしましょうね。
右大臣家の何かけて、仇やおろそかな衣装で
歌会に出るわけには参りませんが。
この衣装の色合いこそ最初の関門。
一遍の落ち度もあってはなりませんっ」
ごごごごっ
黒髪娘「いや、友? そこまで殺気立たなくとも……」
友女房「紅梅匂ですかね。柳桜……いや、もう一目華やかに
樺桜と云う手も。しかし人妻ではない乙女ですからね。
乙女で14であると。
……我が姫の異能はその才気と知性ですから」
黒髪娘「……わたしは異能者だったのか」
255 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 16:00:02.61 ID:KmqRKDbT0
友女房「成熟した、しとやかな色気。
そして乙女の清らかさ。
しかしそれらはすべて内側から照らしにじむような
知性を基調として表現されなくては。
そうですね……。
やはり、基調は春ですから梅、桜。それに知性の藤色」
黒髪娘「藤壺の君が、藤は使うであろう」
友女房「では、表着は藤色を避けて、
胸元から覗かせましょう。薄色と紗の梅を合わせ
扇には、緑柱石の勾玉をっ!」
黒髪娘「すごい張り切り用だな」
友女房「あたりまえでございますよ。
姫様がとうとう藤壺の君の宴へと参加する。
おつきの女房としてこれほど晴れがましいことは
ございませんですよっ」
黒髪娘「そ、そうか」
友女房「ええ。かくなるうえは、どんな手段を用いても
準備万端、万事遺漏無きよう整えさせて頂きます」
黒髪娘「むぅ」
友女房「後は、お化粧ですね」
黒髪娘「そ、それは……」 きょろきょろ
258 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 16:12:16.78 ID:KmqRKDbT0
がたんっ
男「化粧はいいんじゃね?」
黒髪娘「男殿っ」
友女房「男様、いらしてたんですかっ?」
男「うん。まぁ、紅をさすくらいはしないと
まずいけれどさ。黒髪は、黒髪じゃない。
化粧して誤魔化すのも、面倒だろう?」
黒髪娘「……」 こくん
友女房「しかし、それでは……」
男「いや、考えたんだけどさ。
今さら手のひらを返して『普通の姫君』やったって
もう高得点は狙えないだろ?
こんだけ引きこもりもしてれば、
トンデモ噂だって流れちゃってるんだろうし。
いまから一夜漬けで話し方だのなんだの
仕込んでもそうそう上手くいきゃしないよ」
友女房「それはそうかもしれませんが」
男「黒髪は、黒髪のまんまでいいって。
正面突破で。黒髪は、黒髪の積み重ねてきた物で
それだけでみんなを振り向かせないと」
黒髪娘「男殿……」
259 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 16:14:51.49 ID:KmqRKDbT0
男「信じないとさ。自分の姫だろー?」
友女房「それはそうですが……」
男「それとも、自信ないのか?」
友女房「いえっ。確かに姫様は変わり者ですが
その賢さ聡明さ、そして優しい心根だけは
どこに出しても恥じる事なき、最高の主でございますっ」
男「だってさ」
黒髪娘「……友も、ありがとう」
友女房「もったいないお言葉です」
男「まぁ、実際それ『だけ』って云うわけには
行かないからさ。幾つか仕込みはするんだけど」
黒髪娘「仕込み……?」
友女房「仕込み、ですか?」
男「うん、だから衣服を整えるのは重要だ。
それから参加するメンバーも調べてくれ」
黒髪娘「判った。何か意味があるのか?」
男「賢いんだから、脳みそ使わないとな」
黒髪娘「やってみる」 こくん
黒髪娘「そんなにじろじろ見るものではないぞ」【パート3】へつづく
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