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黒髪娘「そんなにじろじろ見るものではないぞ」
【パート1】【パート2】【パート3】【パート4】【パート5】【パート6】【完】







118 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 02:02:08.66 ID:KmqRKDbT0
    黒髪娘「とにかくっ。
     最期は一気に燃え上がるのが
     基本であり完成度の高い恋の形であると云うことになっている。
     会えなければ会えないほど
     あなたの顔が浮かんで恋い焦がれる……とか。
     そういう世界の話……らしい。
     わたしなど、会ったこともない相手の顔が浮かんでくるなど
     酒にでも酔って居るのではないかと思うのだけれど」

    男「あはははっ」

    黒髪娘「笑わないでくれ。
     まぁ、そんな事情だから、本当はそこまで姿形や容姿が
     重要なわけではないのだ」

    男「そうだよなぁ。容姿にびっくりした時って、
     要するに手遅れなんだろ? あははっ」

    黒髪娘「うむ」 きゅ、きゅっ

    男「そんで?」

    黒髪娘「だから、要は文のやりとりの中で、
     相手が望むような線が細くて弱々しい、
     でも一身に相手に恋い焦がれるような女性を演じられれば
     それは“美人”といっても良いかと思う」

    男「ああー。うん。納得したぜ」
     (つか、それってネット美人とかネカマの論理じゃね?)

120 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 02:10:42.99 ID:KmqRKDbT0
    黒髪娘「でも、ほら。私は性格も不器用だから」
    男「……」

    黒髪娘「相手を騙すような歌は、読めない」
    男「歌は得意だろう?
     あれだって学問の大きな分野だって聞いたぜ?」

    黒髪娘「嘘をつくのは苦手だ。
     嘘をつけるくらいなら、きっと引きこもりなんてやってない」
    男「――そっか」

    黒髪娘「でも、この世界では、恋は嘘を基本にしてる。
     最初から相手はこうだと決めてかからないとだめなんだ」

    きゅ、きゅっ

    男「……」

    黒髪娘「反対」
    男「?」

    黒髪娘「反対の手もしよう」
    男「え? あ。すごい! 手が軽くなった!」ぶんぶんっ

    黒髪娘「そうであろう?」 にこっ


121 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 02:17:21.25 ID:KmqRKDbT0
    黒髪娘「……」 きゅぅ、きゅぅっ

    男(こんな風にしてるところなんて、
     すごく可愛い和風美少女なのになぁ……)

    黒髪娘「そちらはどうなのだ?」
    男「?」

    黒髪娘「祖父君に少しは尋ねたのだが。
     祖父君は、ほら。お年を召していられたから……」
    男「あー」
    黒髪娘「そちらの恋はどのようなのだ?」

    男「こっちかー。んー。
     まず、男女が顔をあわせないと言うことはないな」
    黒髪娘「うむ」

    男「爺ちゃんから聞いたかと思うけど
     義務教育って云って、こっちの世界の日本。
     つまり大和では、平民まで含めて全員学校に行くんだ。
     えーっと、6、3で9年。殆ど全員が高校まで含めて12年」

    黒髪娘「うん、聞いている」

    男「男のみ、女性のみの学舎もあるけれど
     殆どは驚愕と云って、男女が一緒に学ぶ。
     一つの学舎に同じ年齢の子供が百人以上居ることが多い。
     学舎全体では数百人ということもあるな」

    黒髪娘「ふむ」

122 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 02:20:22.85 ID:KmqRKDbT0
    男「で、それだけ学ぶ期間が長いから
     学舎では友人も作るし、年頃になると異性に興味も出るよな。
     まぁ、なんだ。
     改めて説明すると照れくさいな。
     なんの罰ゲームだよこれっ」

    黒髪娘「ん? 興味深い話だぞ?」

    男「で、そういう状況で、大抵は気になる異性が出来てー」
    黒髪娘「ふむ」

    男「紆余曲折があるな」
    黒髪娘「その紆余曲折が重要ではないかっ」

    男「ぐっ」
    黒髪娘「話して欲しい」
    男(なんでおれは中学生の女子に圧倒されてるんだっ)

    黒髪娘「ほら、丁寧に指圧するから」 きゅぅっ
    男「……うう」

    黒髪娘「ほら」
    男「わぁったよ」

125 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 02:23:03.89 ID:KmqRKDbT0
    男「まぁ、その辺は年齢に寄るんだよ。
     幼い時――おおむね10歳前後とかは、一緒に遊ぶだけだ」
    黒髪娘「ふむぅ。筒井筒か?」

    男「なにそれ」
    黒髪娘「幼なじみ」 きゅっきゅっ
    男「ああ、それだ」

    黒髪娘「それで?」
    男「そっちと違ってこっちには顔を隠す習慣はないからな。
     その後もずっと一緒に学び続ける。
     あー。最初に云っておくと、こっちの世界では
     寿命伸びてるからな? 平均寿命も70超えてるし。
     結婚は25〜30位が多い。だから、恋愛のペースもずれてるぜ?」

    黒髪娘「ふむ。――承知した」

    男「15歳くらいになると、やっぱり異性に興味が出てくるな。
     で、みんなに隠れてこっそり二人で遊びに
     行ったりすることも覚える。
     これをデートという」
    黒髪娘「それは自宅ではダメなのか?」

    男「自宅でも良いけどな。まぁ、人目に触れないというか
     ドキドキがほしいんだろ。たぶんな」

    黒髪娘「ふむぅ」きゅむ、きゅむ


126 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 02:26:27.78 ID:KmqRKDbT0
    男「でも、この年齢ではあんまり
     身体を――あれだ。その“最期”ってのは推奨されないな」
    黒髪娘「そ、そうなのか?」

    男「こっちでは成人ってのが20歳なんだ。
     結婚も出来ないのにいたずらに
     相手とそう言うことするのは、不道徳って云う考えがある。
     まぁ、実際には17,8になれば経験してるやつも多いんだけどな」

    黒髪娘「そのぅ、男殿は」
    男「黙秘する」 きっぱり
    黒髪娘「むぅー」

    男「20前後になると、お金を稼ぐ方法も増える。
     さらに上の学舎、大学に行くやつや、職に就くやつも出る。
     そうなると二人のデートも本格的になるな。
     遠出したり、食事をしたり、プレゼントをしたり」

    黒髪娘「そうか。平民でも貴族のような
     贈り物をするようになるのだな」

    男「そうだなぁ。つまりあれだ。
     みんなが貴族と平民の中間みたいな世界なんだよ」
    黒髪娘「ふむふむ」

    男「で、その間に出会いと別れがあって。
     一人の相手のみで思いを遂げる一対もあれば
     相手を変えて恋を楽しむような人もいるわけだ」

    黒髪娘「それはこちらも大差ないな」 きゅむ、きゅむ

127 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 02:30:03.77 ID:KmqRKDbT0
    男「20を越えたあたりで、世間的には成人。
     でも、一人前と認められるのは、
     特に男は25を超えてからかな。
     そうなると思いをさだめた相手に結婚の申し込みをする」
    黒髪娘「ふむ」

    男「男からが多いけれど、
     女性からってのも最近はあるようだな。
     ……退屈じゃないか?」

    黒髪娘「そんな事はない」

    男「そか。でも、もう話も終わりだ。
     結婚しても良いな、となったら二人で両家の両親に報告して」

    黒髪娘「え? そこで報告するのかっ!?」

    男「ん? そうだよ。
     もちろん許婚とか、両親主導のお見合いなんて
     云うのも残っちゃ居る習慣だけれど、少数だ。
     結婚は当事者二人の問題だからな。
     まぁ、場合によっては反対されたりもするけれど。
     最終的には当事者二人の決意が固ければ結婚を阻む物は、
     そうはないよ」

    黒髪娘「そ……そうなのか……」

    男「で、結婚する。めでたしめでたし」

129 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 02:33:23.65 ID:KmqRKDbT0
    黒髪娘「想像もつかない世界だ」
    男「そりゃ、まぁ。俺だってこっちの世界のことは
     見てるけれど判らないことばかりだ」

    黒髪娘「……うむ」 きゅ……
    男「どした?」

    黒髪娘「あ。いや。すまん。さぼってしまった」きゅむっ
    男「いや、それは良いんだけど」

    黒髪娘「はははっ。
     いや、ちょっと空想してしまっただけだ。
     酒を頂いたわけでもないのにな」

    男「……」
    黒髪娘「……」

    きゅむっ、きゅむっ

    黒髪娘「男殿の手は、大きいな」
    男「そっか?」

    黒髪娘「うむ。大きい」
    男「そうか」


138 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 03:45:09.41 ID:KmqRKDbT0
    ――黒髪の四阿

    黒髪娘「〜♪」
    友女房「ごきげんですね、姫?」 にこにこ

    黒髪娘「ああ。友か。見てくれ、立派だろう?」
    友女房「あらあら。これはこれは」

    黒髪娘「上の兄様からだ。見事な鯛だ」
    友女房「ですねぇ、美味しそうです」

    黒髪娘「塩をして干そう」
    友女房「お食べにならないので?」

    黒髪娘「沢山届いたのだ。
     食べるのはもうちょっと小さいやつでも良いだろう?
     これはひときわ立派だから、男殿にとっておきたい」

    友女房「あらあら。そうですねぇ」

    黒髪娘「女房達の分もあるから、みんなで食べると良い」
    友女房「それはありがとうございます」

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139 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 03:48:29.80 ID:KmqRKDbT0
    かたかた、ぱさり

    黒髪娘「うん。その荷物も運んでいってくれ」
    友女房「対の部屋も整いましたねぇ」

    黒髪娘「男殿もいつまでも自室がないのは居心地も悪かろう」
    友女房「そうですね。まぁ、この程度の調度ならば
     豪華すぎることもなく、不審なこともなく」

    黒髪娘「そうかな。不調法ではないかな?」
    友女房「雑色(※)だとすれば過ぎた部屋です」

    黒髪娘「男殿は客人だ」
    友女房「客人だとばれるとやっかいですよ?」

    黒髪娘「それはそうだが……」
    友女房「男様は異界のお客人です。
    この世界での豪華さなどを気にされないですよ」

    黒髪娘「それもそうだな」
    友女房「とは言え、右大臣家の格という物がありますからね。
     ええ、この友女房が一肌脱ぐといたしましょう」

    ※雑色:男の使用人

141 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 04:09:55.08 ID:KmqRKDbT0
    ――男の実家

    男「おろ。姉ちゃんいたの」
    姉「うん、休み〜」 ぽりぽり

    男「すげぇ格好な」
    姉「うっさい」

    男「水、飲む?」
    姉「あー。ミネラルで。氷一個」

    男「寒いのに」
    姉「頭はっきりさせたい〜」

    からん

    男「はいよ」
    姉「さんくー。この恩は返さないけど」
    男「いーよいーよ」


143 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 04:12:18.92 ID:KmqRKDbT0
    姉「んっく、んっく。……どうしたー?」
    男「あー。いやねー。中学生くらいの娘の家庭教師を」
    姉「バイト?」
    男「似たようなもん」

    姉「あんた教育課程いくの?」
    男「いや、わかんないけど」
    姉「まぁそういうの良いかもね。あんたヘタレだけど。
     一応お爺ちゃんに似て責任感強そうだし?」

    男「あんまり適正ある気がしないんだけどね」
    姉「そこは、ほら。庶民パワーで」

    男「そうな。……でも、中学生くらいの女の子の
     考えは判らないわ、本当」

    姉「会ったり前じゃない。素人童貞なんだから」
    男「玄人では経験済みみたいな表現やめろよっ。
     誤解を招くよっ! あちこちにっ」

    姉「仕方ないじゃない。両面童貞なんだから。
     む、両穴童貞って新しくない?」
    男「くわぁ〜っ」


144 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 04:15:13.36 ID:KmqRKDbT0
    姉「まぁ子供扱いしない事ね」
    男「そうなの?」

    姉「女の子は成長早いのよ。
     中学生になったら女としてはもういっちょ前。
     昔なら子供産んでた年齢よ?
     子供扱いなんてとんでもない。
     童貞ごとき、のど笛食い破られるわよ」

    男「こわっ!? 肉食系にもほどがあるよっ。
     んじゃ、大人扱いなのか」

    姉「ばっかねー。大人扱いなんてしたら
     碌なことになるわけ無いでしょ。
     相手は中坊なんだから」

    男「どうしろってのさ」

    姉「ちゃんと目線会わせて相手の話聞けば?
     生徒じゃないんでしょ。
     その顔じゃ」

    男「う……」

    姉「捨てるなら体温覚えさせる前にしなさいよ。
     それ、最低限の男の義務だからね」

146 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 04:20:35.80 ID:KmqRKDbT0
    ――黒髪の四阿、炬燵部屋

    男「これ、たまらんなぁ」
    黒髪娘「悔しいがこの知恵、認めざるをえない」
    友女房「さようですねぇ」

    男「火事だけは気をつけないと」
    黒髪娘「もっともだ」
    友女房「祖父君に話を聞いて、
     いつか作ろうと計画を練っていた甲斐がありました」

    男「でも良く掘りコタツなんて出来たな」
    黒髪娘「うむ、驚きだ」

    友女房「火鉢がありますからね。
     床下に設置して、換気と手入れさえすれば、
     後は描いてもらったとおりです。
     そもそも火闥(こたつ)といって、
     似たものはありましたからね」

    男「そうなのかぁ」
    黒髪娘「しかし、このふすまを櫓に掛けるという発想」
    友女房「ええ、ええ……」

    男「和むわぁ」


147 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 04:22:55.32 ID:KmqRKDbT0
    黒髪娘「天板も便利だな。寒いのに書を読んでかじかまないぞ」
    友女房「そうですねぇ。お茶もおけますし」

     ことり

    男「あ。どーも」
    友女房「馴染んでますね」

    男「うち、炬燵ないんだよね。爺ちゃんちにはあったけど。
     そのせいか、めちゃくちゃおちつきます。はい」

    友女房「お気に入りいただけましたか?」

    男「もちろん。こんな部屋もらっちゃって良いんですか?」
    友女房「ええ。この友女房が監督させて頂きました」

    男「むちゃくちゃ感謝します。正座とかも苦手だしね。
     掘りごたつ最高だな。膝が楽だ」

    黒髪娘「友、甘い物が食べたい」
    友女房「そですね」

    男「ああ。俺お土産もってきてる」

148 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 04:31:01.81 ID:KmqRKDbT0
    黒髪娘「これは……?」
    友女房「なんでしょう。面妖な」

    男「あー。これ、カステラってんだ」
    黒髪娘「これは……大きい」

    男「一人で全部食うつもりかよっ!?」
    黒髪娘「む。すまぬ。違ったのか」

    友女房「これは切り分けて食べる菓子なのですね」

    男「そうそう。なんか刃物ある?」
    友女房「お任せあれ」

    とててて

    黒髪娘「……」そわそわ
    男「そんなに食べたいのか?」

    黒髪娘「そんな事はないっ」
    男「美味しいよ。これ」

    友女房「お皿ももって参りました」

151 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 04:59:44.79 ID:KmqRKDbT0
    ――黒髪の四阿、炬燵部屋

    黒髪娘「甘い。なんと美味しいのだ」じぃん
    友女房「これは誠に甘露ですねぇ」じぃん

    男「涙ぐむほどかな?」

    黒髪娘「何を言う、この黄色と茶色の美しいこと」
    友女房「ええ、ええっ!」 じぃっ

    男「だめ。全部食べちゃダメ」
    黒髪娘「お土産ではなかったのか!?」
    友女房 こくこく

    男「他にも何人か居るでしょうに」
    黒髪娘「う゛」
    友女房「しかし」

    男「しかしもなにも。みんなにお裾分け。
     お裾分けしたらまた美味しいのもってくるけれど
     お裾分けしないと二度ともってきません」

    友女房「そんな」しょぼん

    黒髪娘「そういえばそうだ。甘露の美味に我を忘れては
     上に立つ物としての示しもつかぬ」


152 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 05:05:49.00 ID:KmqRKDbT0
    男「よしよし。黒髪はよい子」 くしゃ
    黒髪娘「っ」

    友女房(あら)

    男「また持ってきてやるぞ」

    黒髪娘「別に、土産目当てでもてなしているわけではない。
     男殿はいつでも我が庵の客人として歓迎する」

    男「それはありがたいなぁ。別荘気分」

    黒髪娘「うむ。別荘気分でくつろいでくれればそれでよい」
    友女房「姫も楽しいですしね」

    男「そなの?」
    黒髪娘「うむ。男殿と過ごす時間は心楽しい。
     知識にすれ違いはあれ、お互い知らぬ分野の
     それがある上に、男殿はわたしを一人前の
     人間としてみてくれるからな」

    男「……」

    黒髪娘「話して論を戦わせられるというのは
     この上なく愉快なことだ。……蝶よ花よと
     扱われるのは、やはり寂しい」


153 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 05:08:31.34 ID:KmqRKDbT0
    男「そういう物か?」
    黒髪娘「うむ」

    男「じゃぁ、今日はなんの話をする?」
    黒髪娘「男はれぽをとは終わったのか?」
    男「終わったよ」

    黒髪娘「では、付き合え」
    男「なんの話がよい?」

    黒髪娘「んーぅ。どうするか」
    男「うーん」

    黒髪娘「?」

    男「いや、話。しなきゃダメか?」
    黒髪娘「どういうことだ?」

    男「結構勉強、根詰めてただろう?」
    黒髪娘「うむ」

154 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 05:13:09.18 ID:KmqRKDbT0
    男「じゃぁ、しばらく茶を飲んで」
    黒髪娘「うむ」

    男「で、ゆっくりしろ」
    黒髪娘「ゆっくりか……」

    男「……」ずずずっ
    黒髪娘「温かいな」

    男「だなぁ」

    友女房「わたしは、このカステラを女房や雑色に
     分けて参りますね。珍しい菓子だと云っておきましょう」

    黒髪娘「すまぬな」
    男「行ってらっしゃい」

    ぽやぁ

    黒髪娘「……ほぅ」
    男「……」

    黒髪娘「どうした?」
    男「髪、見てた」

155 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 05:23:50.66 ID:KmqRKDbT0
    黒髪娘「そ、そうか……。どうして?」
    男「こんなに綺麗な髪は、こっちではまず見ないから」

    黒髪娘「そうか……。この髪だけは藤壺の上にも
     褒められたことがあるのだ」

    男「そっか」

    黒髪娘「……その」
    男「?」

    黒髪娘「触って、見るか?」
    男「良いのか?」

    黒髪娘「うむ」
    男「じゃ、ちょこっとだけ」 ひょいっ

    黒髪娘「っ!」ひくんっ
    男「びびってるじゃないか」

    黒髪娘「そんな事はない」
    男「そっか」


156 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 05:30:29.74 ID:KmqRKDbT0
    黒髪娘「ど、どうだ? 綺麗か?」
    男「うん。すごい、すべすべ」

    黒髪娘「女房が毎朝とかしてくれるのだ。
     多い時は日に何度も……」

    男「そうか」

    黒髪娘「引きこもりゆえな。湯浴みや髪梳きの時間はある」
    男「世話してもらっている間にも、本読んでるんだろう」

    黒髪娘「そう言うことも、まぁ、ある」
    男「やっぱし」

    黒髪娘「……男殿は短いな」
    男「この時代は男も長いのか?」

    黒髪娘「いろいろだ」
    男「そっか」

    黒髪娘「……」ふわり
    男「なんか、優しい顔してるな」

157 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 05:32:56.55 ID:KmqRKDbT0
    黒髪娘「そうかな?」 きょとん
    男「うん、良い顔だったよ」

    黒髪娘「……くっ」かぁ
    男「どしたんだよ」
    黒髪娘「眉も描いてないのにっ」
    男「は?」

    黒髪娘「いや、なんでもない。油断しすぎだ。わたし」
    男「よく判らん」

    黒髪娘「炬燵でのぼせただけだ」
    すっ
    黒髪娘「ひゃわっ!」

    男「おい、危ないな。髪の毛長いんだから」
    黒髪娘「ううう」

    男「もう少し、落ち着きなさいって」
    黒髪娘「ううっ。不覚だ」


160 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 05:58:58.34 ID:KmqRKDbT0
    ――黒髪の四阿

    友女房「あらあら、どうなさいました?
     燭灯も着けずに、こんな場所で」

    黒髪娘「うん……」
    友女房「男様は?」

    黒髪娘「今日は、帰った。
     バイトとか言うのがあるらしい」

    友女房「そうですか。お茶を一旦下げますよ?」
    黒髪娘「……」

    かちゃかちゃ……

    黒髪娘「……」
    友女房「どうされました?」

    黒髪娘「ん?」
    友女房「どうか、なされました?」

163 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 06:01:17.60 ID:KmqRKDbT0
    黒髪娘「男殿に」
    友女房「男様に?」

    黒髪娘「髪を触られた」

    友女房「なっ!? なんてことを!!
     これは気が付かずに申し訳ありませんっ。
     すぐお櫛をけずりましょうね。
     この友が清らかになるまでお梳かしします。
     それにしても男様も、男様ですっ。
     いくら異界の方とは言え、姫の髪に手を触れるなどっ。
     冗談で済ませられることではございませんよっ。
     常識という物を弁えて頂かないとっ」

    黒髪娘「いや、違うっ」
    友女房「ど、どうしたんですか? 姫」

    黒髪娘「その……」
    友女房「??」

    黒髪娘「触るのを、許したのは、わたしだ」
    友女房「ひ、め……?」

    黒髪娘「私が、触って良いと云ったんだ」
    友女房「ひょぇぇ」

164 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 06:03:43.04 ID:KmqRKDbT0
    友女房「大丈夫ですか、お熱ですか?
     さっきのカステラに酒でも入ってたのでしょうか」

    黒髪娘「いや、違うと思う……」
    友女房「……」

    黒髪娘「どうすればいいだろう?」
    友女房「……姫。姫?」

    黒髪娘「……」
    友女房「いや、でしたか?」

    黒髪娘「――」ふるふる
    友女房「どんな感じがしましたか?」

    黒髪娘「楽の音と、鳥の囀りが。
     聞こえた訳じゃないんだけど、溢れそうになって。
     どきどきして頬が熱くなって。
     ……それに」

    友女房「それに?」

    黒髪娘「こんなに不器量じゃなければいいのにって。
     ――泣きたくなった」

166 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 06:10:28.19 ID:KmqRKDbT0
    友女房「さようですか」

    黒髪娘「……」

    友女房「姫はなぁんにも悪くありませんよ」

    黒髪娘「そうだろうか」

    友女房「それはもう。友が気を利かせすぎましたか」
    黒髪娘「?」

    友女房「いえいえ。何でもございません。
     姫は……清らかでいらっしゃるから」

    黒髪娘「そんな事はない。もう15にもなる。
     塵にも埃にもまみれた、みっともない黒い鳥だ」
    友女房「……」

    黒髪娘「……」
    友女房「さ。髪を梳きましょう」 にこりっ

    黒髪娘「……ん」
    友女房「今晩は温かくして寝ませんとね」

175 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 07:24:04.78 ID:KmqRKDbT0
    ――黒髪の四阿

    ことん、かたん

    男「んっと。ほいさ」 すたんっ
    友女房「男様」

    男「お。友さん」
    友女房「いらっしゃいませ」

    男「お邪魔します。平気そう? 黒髪は居る?」

    友女房「いまはお留守にしていらっしゃいますよ。
     外せない御用事で尚侍処へいらっしゃっています」

    男「ああ。仕事か」
    友女房「ええ。おそらくすぐに戻ってらっしゃいますよ。
     顔を見せに、と云うか、出仕したという形式のための
     出仕ですからね」

    男「そっか。待ってて良い?」

    友女房「ええ、おこたにどうぞ。お茶をお持ちしますよ」
    男「助かる」

177 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 07:27:15.49 ID:KmqRKDbT0
    こぽこぽこぽ

    男「寒いな」
    友女房「ええ、寒さが続きますね」

    男「ありがとう」
    友女房「いえいえ、どういたしまして。
     しばらくご一緒して宜しいですか?」

    男「もちろん」
    友女房「では、失礼します」

    男「ふー。温まる」
    友女房「ですねぇ」

    男「……黒髪は、元気?」
    友女房「はい」

    男「そっか」
    友女房「何かありましたか?」

    男「いや、なんか色々抱え込んじゃいそうな人だから?」
    友女房「そうですねぇ」


179 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 07:31:22.13 ID:KmqRKDbT0
    男「……」
    友女房「尚侍(ないしのかみ)という官職はですね。
     帝に仕えて、皇室行事を取り仕切る秘書のような役割です」

    男「ふむ」

    友女房「その権力は、時に大臣を凌ぎますね。
     『位人臣を極める』等と申しますが、
     女性としてはまさに最高位の官職だと云えるでしょう」
    男「そう……なのか?」

    友女房「ええ。もちろん何事にも例外はありますが。
     姫は尚侍としては、規格外です。
     何しろ仕事していませんからね」
    男「そうだなぁ」

    友女房「尚侍、尚侍所の重要な役割の一つに東宮の教育があります」
    男「東宮って云うのは、確か帝の息子だろ」

    友女房「そうですね。子供の頃から云うことを良く言い聞かせて
     育てるわけですから、歴代の帝でも、育ての尚侍には
     頭が上がらないことも少なくありませんね。
     内裏における影響力は絶大な物があるわけです。
     こほん。
     その。
     下世話な話をすればですね」

    男「?」

    友女房「察しが悪いですね」

182 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 07:35:46.48 ID:KmqRKDbT0
    男「ごめん」
    友女房「いえ、すみません。
     照れ隠しですからお気に為されぬよう。
     ――こういう事です。
     幼い東宮にそば近く接して、その心も身体も導く。
     それは、往々にして、えーと、その。
     祖父君のいうところの、その……ほら初物を」

    男「童貞!?」

    友女房「それです。ええ。
     それをですね、こう。シてしまうこともあるというか
     むしろそれが推奨されているというか……。
     東宮の身体を大人にして差し上げるというか。
     妃になる尚侍所の女性も少なくはありません」

    男「そんなのありか−!?」

    友女房「ええ。そもそも、尚侍所に娘を『あげる』というのは
     高度に政治的な問題なのです。
     もちろんその背景には政治的な闘争もありますし
     右大臣家としても後に引くわけにはいかない。
     たとえ、東宮が8歳で、姫より6つもお若くとも」

    男「……」

    友女房「身体のつながりが有れど、無けれど。
     姫は東宮の『もの』です。それが尚侍というものですし、
     この内裏の秩序なのです」


184 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 07:55:00.98 ID:KmqRKDbT0
    友女房「――なんて」 にっこり
    男「え?」

    友女房「まぁ、そういう俗世の噂もあったり
     無かったりするのですが、男様は異界より来られたる客人。
     内裏の事情などお気になさることもないでしょう。
     ましてやうちの姫は妖憑きの変わり者。
     東宮のお召しもあるはずもない。
     このまま庭の片隅で咲いて、
     誰見ることなくひっそり朽ちるのでしょうし。
     そのような姿は、見たくありません」

    男「……」
    友女房「余計なことを申し上げましたか?」

    男「あのさ。俺の世界での話したっけ?
     黒髪は、今年14だよね。
     それは俺の常識では、まだ子供の部類なんだよ」

    友女房「ええ、存じておりますよ」
    男「だからそういう艶っぽい話はさ、まだ早くてさ」

    友女房「そう思うなら、それはそれで結構かと」
    男「……うう。とりつく島もない」


187 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 08:09:38.95 ID:KmqRKDbT0
    ――黒髪の四阿、炬燵の間

    黒髪娘「ただいま帰参した」
    男「おかえりー」

    黒髪娘「寒かった。すごく寒いぞ」
    男「入れ入れ」
    黒髪娘「ありがたい」

    いそいそ、ばふっ

    黒髪娘「はふぅぅ〜」
    男「温まった?」

    黒髪娘「いや、まだ指先が痺れている」
    男「重症だな」

    黒髪娘「冬の出仕は大変なのだ」
    男「この季節はなぁ。ヒートテックなさそうだし」

    黒髪娘「?」
    男「いや、こっちの話」

190 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 08:19:12.61 ID:KmqRKDbT0
    黒髪娘「まぁ。物の怪じみた娘だからな。
     仕事らしい仕事もない。気楽と云えば、気楽だ」

    男「んー」

    黒髪娘「どうした?」

    きゅむ

    黒髪娘「らにをひゅる?」
    男「いや、ほっぺた引っ張ってみたんだよ」

    黒髪娘「らかや、いったひ、なんてそんな」
    男「んー」
    黒髪娘「むぅー」

    男「突っ張ってるのかなぁ、って」
    黒髪娘「う゛ぅ?」

    男「仕事。出来るよな。案だけ学んだもんな。
     漢詩も報告書も、上奏文だって律令だって
     何でもござれでしょう?」
    黒髪娘「……」

    男「身につけたもの、使いたくないなんて変じゃない?」

192 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 08:28:36.31 ID:KmqRKDbT0
    黒髪娘「……」じぃっ
    男「三白眼で睨んでも、普段可愛いんだから意味ありません」

    黒髪娘「う゛ぅー」
    男「ぷぷっ」

    黒髪娘「いいかけん、はらさるかっ」
    男「ほいほいっ」

    黒髪娘「ふむっ……。そのようなことを」
    男「気を張り過ぎなんだよ」

    黒髪娘「内裏に云っていたのだ。多少は気を張らねば、
     どのような政争に巻き込まれるか知れた物ではない」
    男「そりゃ、そうか」

    黒髪娘「……それは、わたしだって」
    男「……」

    黒髪娘「学んだ物を、試したい気持ちがないわけではない」
    男「うん」

193 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 08:36:12.39 ID:KmqRKDbT0
    黒髪娘「しかし、この身は女だ。
     ……望むと望まないとに関わらず。
     内裏で女が仕事を為そうとすれば方法は二つしかない。
     何らかの閥を率いて、邪魔者を廃するための
     権力工作を常にしながら事を為すか、
     東宮か帝にはべり、その愛妻、愛妾として
     権勢を振るうか……。
     多分、私にはどちらも無理だと思う」

    男「そっか」

    黒髪娘「不器量だからとかではないぞ?
     いや、その。もうちょっと目鼻立ちが
     整っていればよいとは思うのだが」

    男(現代美少女ですからな。きみは)

    黒髪娘「性格として、受け入れがたい。……のだと思う。
     あるいは無駄な矜持か、こだわりなのかとも思うのだが
     それは自らが身につけた学識ではないような気がするのだ」

    男「……」

    黒髪娘「どうも釣り合いが取れていないのだ。私は」
    男「……そっか」

    黒髪娘「考えても仕方ないだろう」
    男「そだな」


195 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 08:55:39.77 ID:KmqRKDbT0
    ――黒髪の四阿、炬燵の間

    黒髪娘「……昴は船乗りの星にて」こくっ
    男「眠そうな」

    黒髪娘「う……む」こくり
    男「寝れば?」

    黒髪娘「しかし、うむぅ……」
    男「どうしたのさ?」

    黒髪娘「部屋に戻るには炬燵から出る必要がある」
    男「当たり前だな」

    黒髪娘「寒い」
    男「うん」

    黒髪娘「……寒いではないか」
    男「ここで寝たらダメだぞ? 事故があるかも知れないし。
     火事なんてまっぴらだろう? 低温火傷も怖い」

    黒髪娘「そうは云うが……」
    男「仕方ないなぁ。友さーん。友さーん」


196 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 08:58:49.61 ID:KmqRKDbT0
    友女房「はい、なんでしょう?」

    男「黒髪が寒がって動かないから。
     ここに褥(しとね)と、掻巻(かいまき)※かなんか
     持ってきて貰える?」

    友女房「判りました」
    黒髪娘「これでは子供みたいだ」
    男「寒いから動きたくないなんて
     子供のようなことを云うからだろう?」

    黒髪娘「そうは言ったって」
    男「じゃ、部屋に引き上げるか?」

    黒髪娘「寝ている間に男が帰るのは……不本意だ」
    男「別にそれはないけどさ」

    きぃ、ふぁさん

    友女房「寝具の準備が整いましたよ」

    黒髪娘「む」
    男「どうする?」

    黒髪娘「せっかくだから、今宵はここで」
    男「ふっ」
    黒髪娘「馬鹿にしないで欲しいのだ」

    ※褥(しとね)と、掻巻(かいまき):平安時代の寝具
     麻などで作られた敷き布団と、袖のついた掛布団


198 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 09:12:59.78 ID:KmqRKDbT0
    男「温かいか−?」
    黒髪娘「うむ、期待以上だ」

    男「おっと。爪先を炬燵に突っ込むのは禁止だぞ」
    黒髪娘「そうなのか?」

    男「ちらちら見えるだろ」
    黒髪娘「なにがだ?」 きょとん

    男「うるせぇ。禁止だ」
    黒髪娘「横暴だな」

    男「いいのっ。禁止」
    黒髪娘「判った。
     ところで……男殿は、何を読んでいるんだ?」

    男「持ってきた本。勉強してるの」
    黒髪娘「なにを?」

    男「料理の基本」
    黒髪娘「男殿は庖丁(料理人)なのか?」

    男「違うから勉強してるんだよ」

199 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 09:17:04.32 ID:KmqRKDbT0
    黒髪娘「未来の料理か……。
     いつも美味しい土産を頂いている」
    男「んー。気にしないでくれ。たいした物じゃないからさ。
     そもそも、ここで結構飯とかご馳走になってるし」

    黒髪娘「ここで供されるのは、ありふれた物だ」
    男「あの菓子だって、向こうではコンビニに
     売ってる程度の物だよ」

    黒髪娘「こんびに?」
    男「ああ。えっと、街のあちこちにある商店だ」

    黒髪娘「そうか。何が売っているんだ?」
    男「飲み物、食べ物、菓子、本」
    黒髪娘「本が売っているのか!?」

    男「コンビニに売ってるのは漫画や雑誌がせいぜいだけどな。
     本は専門の本屋に売っていて、たいがい本屋ってのは
     一つの街に一つや二つはあるな」
    黒髪娘「そうなのかぁ」

    男「布団に入ったら元気だな」
    黒髪娘「う」

    男「眠くないのかー?」
    黒髪娘「少し眠気が去ったのだ」


201 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 09:26:04.04 ID:KmqRKDbT0
    男「なんだよ、構って欲しいのか?」
    黒髪娘「話し相手になって欲しいのだ」

    男「素直だな」
    黒髪娘「わたしは率直だ」

    男「そっか。そういやそうだな」

    黒髪娘「男殿の世界では、女も学問を修められるのだろう?」

    男「ああ、そうだな」

    黒髪娘「学識や技芸をもって宮仕えも叶う」
    男「公務員とか、会社員とかな」

    黒髪娘「そうか。……ふふふっ」にこっ
    男「どした?」

    黒髪娘「良い世界だな。
     ――そんな世界、早く……来ると良いなぁ」

    男「……」


202 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 09:29:54.36 ID:KmqRKDbT0
    黒髪娘「ん?」
    男「あのさ」

    黒髪娘「うむ」
    男「……」

    黒髪娘「どうしたのだ」
    男「……っ」

    黒髪娘「なんだ。変な顔をして」

    男「なんでもない。1分くれ」

    黒髪娘「……」
    男「……」

    黒髪娘「?」
    男「……あー」

    黒髪娘「?」

    男「黒髪の。髪の毛、触りたい」
    黒髪娘「――え」


204 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 09:42:23.30 ID:KmqRKDbT0
    男「ダメかな?」
    黒髪娘「……駄目……じゃない」

    男「触るな?」

    さら……さら……

    黒髪娘「……うぅ」
    男「手触り、良いな」

    黒髪娘「あの……ど……どうし……男殿は……」
    男「ん?」
    黒髪娘「なんで、髪を……」

    男「あー。んー。……触りたかったから」
    黒髪娘「そ、そうか」

    さら……さら……

    男「豪華な感じ。……宝物みたいな」
    黒髪娘「褒められたみたいだ」

    男(なんか、いろいろこだわりとか倫理観とか。
     越えちゃってるよな。この髪の感触も、気持ちも)

215 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 12:21:33.12 ID:KmqRKDbT0
    ――黒髪の四阿

    友女房「姫〜。ひーめーっ」

    がたっがたたっ

    黒髪娘「どうしたのだ?」

    友女房「文ですよっ。藤壺の方から」
    黒髪娘「……珍しい」

    友女房「遅くなってはいけませんから」
    黒髪娘「……梅の香」

    友女房「あらあら。まぁまぁ。寒中梅でございますね」
    黒髪娘「むぅ……」

    友女房「なんで困りますか。
     雅やかな心遣いではございませんか」

    黒髪娘「こう言うところが隙がない。困る」
    友女房「そういう物でございましょうかね」

    黒髪娘「……うー」
    友女房「なんと?」

216 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 12:27:02.04 ID:KmqRKDbT0
    黒髪娘「……歌会の誘いだ」
    友女房「さようですか。これはまた」

    黒髪娘「……」
    友女房「何かあるので?」

    黒髪娘「形勢を明らかにしないわたしを
     哀れにおもってくださったのであろう」
    友女房「……」

    黒髪娘「このままでは私に風あたりが強くなりすぎると
     そう考えてくださったのではないかな」
    友女房「さようですか」

    黒髪娘「……」

    友女房「お返事はいかがいたしましょう」
    黒髪娘「……」

    友女房「しばらくお考えになられますか」
    黒髪娘「そうする」

    友女房「姫の良いように」

218 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 12:48:15.19 ID:KmqRKDbT0
    ――夕刻

    ごとん、とさっ

    男「ふぅ。到着、っと」
    黒髪娘「男殿」

    男「お。黒髪。お出迎えありがとう」
    黒髪娘「出迎えたわけではないが。
     しかし、男殿を迎えられると気持ちが暖まる」 にこっ

    男(うわ。……すげぇ可愛い。
     やばいな。この間髪触ってから、
     どんどん可愛く見えるよ。
     病気だぞ、これ……)

    黒髪娘「どうした? 寒かろう?」
    男「おう」

    黒髪娘「丁度昼餉だ。いま友に云って用意させる」

    男「へぇ、何食べるの?」

    黒髪娘「雑煮だ。餅なのだが……。
     餅は食べれるだろう?」

    男「おー。大好きだぜ」

219 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 12:53:32.61 ID:KmqRKDbT0
    ――黒髪の四阿、炬燵

    友女房「さぁ、どうぞ」

    黒髪娘「頂こう、男殿」
    男「ああ、頂きます。ん。美味しいな」

    黒髪娘「温かいなぁ」
    男「……お、雑煮は魚なんだ?」

    友女房「鯛で出汁を取らせて頂きました」

    黒髪娘「餅はそれで良いのか?」
    男「おう、とりあえず二つでな」

    黒髪娘「んぅ……」
    男「お、すごく伸びてるな」

    黒髪娘「……ん。んく……。
     そんなにじろじろ見るものではないぞ」

    男「そっか」

    友女房「美味しゅうございますか?」

    男「ええ、ばっちりですよ」

222 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 12:57:59.56 ID:KmqRKDbT0
    黒髪娘「うぅ。美味だ。私は雑煮は大好きだな」
    男「カブの葉が美味いよな」

    黒髪娘「そちらでも食べるのか?」
    男「もちろんだ。味噌汁とかにもいれるぞ」

    黒髪娘「うむ。煮るのも旨いな。ひたしもよい」こくり
    男「……」 じぃ

    黒髪娘「ん? どうした、男殿」
    男「いやいや。なんでもないよ」

    黒髪娘「?」
    男(一瞬見とれたとか、いえねぇし)

    黒髪娘「……ふぅ」
    男「どした?」

    黒髪娘「ん? いや。んー」ぽて
    男「??」


223 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 13:07:54.83 ID:KmqRKDbT0
    黒髪娘「お腹がいっぱいで、温かい炬燵。
     駄目になってしまいそうだ」

    男「多少駄目になっておいた方がいいよ」
    黒髪娘「そうかな」

    男「そう思うね」

    黒髪娘「男殿」
    男「ん?」

    黒髪娘「……掌を、借りれるだろうか?」
    男「いいけど」

    黒髪娘「額に」
    男「ん……。うん」

    黒髪娘「ああ……」
    男「どうしたんだ?」

    黒髪娘「温かくて。嬉しい」 くすっ
    男「そか」

225 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 13:19:07.16 ID:KmqRKDbT0
    黒髪娘「……」
    男「寝ても、構わないぞ」

    黒髪娘「眠いわけではない」
    男「そなのか」

    黒髪娘「私が、男殿の半分ほどでも
     他人を思いやって気を遣える性分であったならなぁ」

    男「なんだそれ」

    黒髪娘「いいや。……うん」
    男「何かあったんだろう? 云ってみろよ」

    黒髪娘「……歌会の誘いがあってな」
    男「ふむ。パーティーか」

    黒髪娘「私の立場もかなり厳しいのだ。
     藤壺様がそれに気遣って誘ってくださった」

    男「藤壺様って云うのは、良いやつなのか?」

    黒髪娘「ああ。世話になっている。
     心遣いの細やかなたおやかな方だ。
     今上帝の寵をうける妃の一人なのだ」


227 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 13:31:53.62 ID:KmqRKDbT0
    男「で、何を悩んでいるんだ?」

    黒髪娘「そんなわけで藤壺様は後宮では
     大きな存在感を持っているが、唯一ではないのだ。
     妾妃はひとりではないからな。
     私を呼んでくださるのは嬉しい。
     私は確かに引きこもりの出不精だが
     呼んでくださるのならばはせ参じるくらいのことはしたいのだ。
     ……しかし、私は気も遣えない不調法物だし
     他人の言葉を上手に受け流すことも出来ないし……」

    男「そうか? そんなに気にしなくても良いかと思うけど」

    黒髪娘「そうはいかない。
     宮中では目に見えない諍いや政争が続いているんだ……。
     私が参加してみっともないところを見せれば
     それは、藤壺の方の恥にもなってしまう」

    男「ん〜」

    黒髪娘「私が恥をかくのは、かまわない。
     どうせ物の怪憑きの引きこもりだから。
     でも、誘って下さった方に恥をかかせるのは
     忍びない……」

    男「断れないの?」


228 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 13:35:23.08 ID:KmqRKDbT0
    黒髪娘「それは、出来る」
    男「そっか」

    黒髪娘「……でも、藤壺様は、お悲しみになるかな」
    男「……」

    黒髪娘「いつも断ってきたんだ」
    男(――本当は、行きたいんだな)

    黒髪娘「……」
    男「なんだ、手のひら気に入ったのか?」

    黒髪娘「落ち着く」
    男「へこんでるな」

    黒髪娘「そう言うことではないんだが」
    男「?」

    黒髪娘「なんでもない。……私の顔をじろじろ見るな」
    男「へいへい」

229 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 13:41:01.05 ID:KmqRKDbT0
    黒髪娘「んぅ……」
    男「あのさ」

    黒髪娘「うん」 くてっ
    男「出ろ、って云ったらどうする?」

    黒髪娘「男殿が?」
    男「うん」

    黒髪娘「……」

    男「確かに責任は重大だけどさ。
     黒髪がそんなに駄目だってのが、
     ちょっと想像できないんだよな」

    黒髪娘「……私は本当に不器用なのだ。癇癪持ちだし」
    男「癇癪持ってるのか?」

    黒髪娘「うん。――やっぱり、悔しいとつらい。
     私を人間としてみてくれない人には、優しくできない」
    男「それは癇癪じゃないと思うけど」

    黒髪娘「そうかな……」


230 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 13:44:02.93 ID:KmqRKDbT0
    黒髪娘「男殿は、出た方が良いと思うか?」
    男「ああ」

    黒髪娘「……」
    男「思うんだけどさ。あんまり一人で戦う必要も
     ないんじゃないか?」

    黒髪娘「え?」

    男「友さん何回か云ってたよ。“右大臣家の格”とか。
     “姫様の名誉”とかさ。それって、つまり名前だよな」

    黒髪娘「名前……」

    男「あー。よく判らないけどさ。
     そう言うのってチーム戦なんじゃないのかな。
     現場に行って恥をかくか恥をかかないかは、
     黒髪の腕もあるけれど、優秀な女房が居るかどうかにも
     左右されるんじゃないの?」

    黒髪娘「それは……。確かにその通りだが」

    男「友さんって、出来るんじゃねぇの?」

    黒髪娘「……う」

    男「投げちゃっても良いんじゃないの?」

231 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 13:46:45.76 ID:KmqRKDbT0
    黒髪娘「男殿……」
    男「手を貸すからさ」

    黒髪娘「男殿も?」
    男「うん」

    黒髪娘「なぜっ?」
    男「そんなにびっくりするところか?」
    黒髪娘「祖父君はそんな事は言わなかった」

    男「爺ちゃんと俺は違うよ。
     爺ちゃんは、ここに来たことを……
     多分、黒髪に何かを教えるためだと思ってたと思う。
     黒髪が余りにも希っていたから」

    黒髪娘「……」

    男「でも、俺は違うからさ」

    黒髪娘「……うん」

    男「俺としては、もうちょっと
     格好良い引きこもりが見たいんだよ」

242 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 15:10:15.58 ID:KmqRKDbT0
    ――『和名類聚抄』より

    穀類では、稲類、麦類(大麦、小麦、カラスムギ)、
    アワ、キビ、ヒエ。主食は米。小麦はうどんのように
    して食す。
    豆類は、大豆、小豆、クロマメ、ササゲ、エンドウマメ。
    イモ類には山芋やクワイ。
    野菜は瓜類各種、蒜類(ねぎ、にら、にんにく)、
    水菜類(せり、ジュンサイなど)、
    園菜類(アオナ、カブラ、タカナ、カラシナ、フキ)
    野菜類(ナスビ、アブラナ、ワラビ、ゴボウなど)
    草類(ウド、イタドリ、蓬、ユリなど)
    蓮類、葛類、たけのこ、タラノメ、ククタチ、キノコetc。

    動物性蛋白の補給源としては、魚介類が中心であった。
    近海魚は殆ど今日の日本と変わらない物が食されており
    庶民は鰯やあじなど。貴族においては鮎や鯛が珍重された。
    また貝の類、海草などの水産物が大いに食べられた。

    動物も多量にではないが、ヤマドリ、ハト、カモ、ウズラ
    またクマ、カモシカ、タヌキ、イノシシ、ウサギなどが
    食用として記録に残る。鶏も唐から輸入されたが、卵は
    薬用として用いられた。

    果実は主に桃、スモモ、ウメ、カキ、タチバナ、梨、
    ザクロ、ビワなどが……


243 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 15:15:14.61 ID:KmqRKDbT0
    ――男の実家

    男「なんだなんだ。結構食材豊かだな。
     もちろん輸送の関係で、いつでも食べられる
     訳じゃないんだろうけど。結構あるじゃん」

    男「味付けは……」

    ぺらっ

    男「基本的には、基本は塩と酢か。酢は米酢なのか?
     そのほかに、醤(ひしほ)、味醤(ミソ)。
     大豆に小麦の麹か。塩分は低そうだなあ。
     そのほか、わさびは、あると」

    男「あ−。……そゆことね。
     砂糖がないわけだ。そんであんなに
     美味しい美味し云ってたのか。
     砂糖、砂糖……砂糖の歴史ってなんの本に載ってるんだ?
     Wikiりゃでてくっか?」

    男「砂糖は……奈良時代に輸入。当初は薬用。
     ふむ……サトウキビの栽培は江戸時代か。
     こりゃ、到底手に入るわけもないな。
     いんちきで、黒糖持って行っちまうか」

    男(許されないのかも知れないけどなー)

    男「まぁ、その辺俺は爺ちゃんとは違うし?」


246 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 15:21:08.64 ID:KmqRKDbT0
    がちゃ

    姉「あら。あんたいたの?」

    男「あー。んー。いたよ。ちっと台所使ってる」
    姉「なに」

    男「いや、ゲル化実験?」
    姉「料理してるだけじゃん」

    男「まぁね」
    姉「ふぅん」

    くつくつ、くつくつ

    男「……」
    姉「ミネラルウォーターとって」

    男「はい」 きゅぽ
    姉「ん。あんがと」

    男「庶民は水道水じゃない?」
    姉「ビールの代わりなの」


247 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 15:24:31.23 ID:KmqRKDbT0
    男「言いたい放題無敵キャラな」
    姉「これくらいの強度ないとね。荒くれ者どもの
     リーダーはつとまらん!」
    男「Aチームかよ」


    姉「うはははは! ははっ。そういえば……例のさあ」
    男「?」

    姉「例の中学の」
    男「ああ」

    姉「どうなった?」
    男「なんでそんな事聞くのさ?」
    姉「聞いた方が良いから」

    男「なんで?」

    姉「まぁ、なんだかんだ云ってさ。
     あんた、出来の良い弟だし?
     あたしより高給取りになりそうだしさ。
     ……姉ぶりたいのよ」

    男「……そっか」
    姉「白状なさいよ。あんた最近、むちゃくちゃ
     勉強とかしてるじゃん。バイトも詰め込んでるし」

248 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 15:28:38.74 ID:KmqRKDbT0
    男「うん、覚悟決まった」
    姉「へぇ……」にやにや

    男「話すのやめた。中止〜」

    姉「ちょ。待った待った! もう茶化さないっ!!
     教えてよ。ねぇってば」

    男「だから、覚悟決まったって」
    姉「へぇ。どんな娘? 可愛い? 美少女?
     チチの大きさどんなもん? まさかあたしより
     でかくないでしょうねっ」

    男「すげぇ、頑張り屋さんだよ」
    姉「……おやおや。なんか父性じみたこといっちゃって。
     もうちゅーしたのか? あん? この童貞。うりうり」

    男「してませんー」
    姉「なんだよ。チキンだな。ゴム無かったのか?」

    男「そう言うんじゃないわけ」
    姉「覚悟決まったんでしょ? 条例を突破する
     覚悟とか。アグネスを敵に回す覚悟とか。
     上野千鶴子あたりから朝まで精神攻撃受けたりして」

    男「いや、もうマジ姉ちゃんキツイす」
    姉「なーによ〜」


251 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 15:34:42.34 ID:KmqRKDbT0
    男「そう言うんじゃないくて。頑張り屋だからさー。
     覚悟決めて、助けて上げなきゃなぁ、と」
    姉「わお。なんだ。らぶじゃないのかー。家庭教師路線?
     てっきり彼女にして調教飼育するのかと」
    男「そうじゃないって」

    姉「でもあんたねー。子供だからって女は女なの。
     そういう態度ってすげぇ、傷つけると思うよ?」

    男「傷つけるとこも含めて。覚悟決めたって事」
    姉「……」

    男「傷つく覚悟も決めたし。
     それで、まぁ。なんか色々あって。
     ……そういう未来もあれば、それはそれで、善し。かな」

    姉「……難しい娘なんだ?」

    男「難易度SSだね」
    姉「あんたそれローマの休日クラスだから」

    男「うっは。まさにその難易度だわ。弾幕で画面見えない系」
    姉「ふぅん。よく判らないけど。……いいわね」

    男「……ん?」
    姉「まぁ、いんじゃない? 一回くらい。
     ……そういうの。一回くらい賭けてさ。しないと。
     人生生きてる意味なんてさ、無いのかも知れないし。
     いいんじゃない? あたしは。
     そういうの悪くないと思うよ」

254 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 15:56:39.36 ID:KmqRKDbT0
    ――黒髪の四阿

    友女房「ええ、その箱はこちらへ。
     えーい、それは絹ですよ!? もっと丁寧に運びなさい。
     真珠は文箱です。間違えてはなりません」

    黒髪娘「あの」
    友女房「姫はそこで黙って座っていて下さいっ」

    黒髪娘「う、うむ」
    友女房「襲は何にいたしましょうね。
     右大臣家の何かけて、仇やおろそかな衣装で
     歌会に出るわけには参りませんが。
     この衣装の色合いこそ最初の関門。
     一遍の落ち度もあってはなりませんっ」

    ごごごごっ

    黒髪娘「いや、友? そこまで殺気立たなくとも……」

    友女房「紅梅匂ですかね。柳桜……いや、もう一目華やかに
     樺桜と云う手も。しかし人妻ではない乙女ですからね。
     乙女で14であると。
     ……我が姫の異能はその才気と知性ですから」

    黒髪娘「……わたしは異能者だったのか」

255 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 16:00:02.61 ID:KmqRKDbT0
    友女房「成熟した、しとやかな色気。
     そして乙女の清らかさ。
     しかしそれらはすべて内側から照らしにじむような
     知性を基調として表現されなくては。
     そうですね……。
     やはり、基調は春ですから梅、桜。それに知性の藤色」

    黒髪娘「藤壺の君が、藤は使うであろう」

    友女房「では、表着は藤色を避けて、
     胸元から覗かせましょう。薄色と紗の梅を合わせ
     扇には、緑柱石の勾玉をっ!」

    黒髪娘「すごい張り切り用だな」

    友女房「あたりまえでございますよ。
     姫様がとうとう藤壺の君の宴へと参加する。
     おつきの女房としてこれほど晴れがましいことは
     ございませんですよっ」

    黒髪娘「そ、そうか」
    友女房「ええ。かくなるうえは、どんな手段を用いても
     準備万端、万事遺漏無きよう整えさせて頂きます」

    黒髪娘「むぅ」
    友女房「後は、お化粧ですね」

    黒髪娘「そ、それは……」 きょろきょろ

258 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 16:12:16.78 ID:KmqRKDbT0
    がたんっ

    男「化粧はいいんじゃね?」

    黒髪娘「男殿っ」
    友女房「男様、いらしてたんですかっ?」

    男「うん。まぁ、紅をさすくらいはしないと
     まずいけれどさ。黒髪は、黒髪じゃない。
     化粧して誤魔化すのも、面倒だろう?」

    黒髪娘「……」 こくん
    友女房「しかし、それでは……」

    男「いや、考えたんだけどさ。
     今さら手のひらを返して『普通の姫君』やったって
     もう高得点は狙えないだろ?
     こんだけ引きこもりもしてれば、
     トンデモ噂だって流れちゃってるんだろうし。
     いまから一夜漬けで話し方だのなんだの
     仕込んでもそうそう上手くいきゃしないよ」

    友女房「それはそうかもしれませんが」

    男「黒髪は、黒髪のまんまでいいって。
     正面突破で。黒髪は、黒髪の積み重ねてきた物で
     それだけでみんなを振り向かせないと」

    黒髪娘「男殿……」

259 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/20(水) 16:14:51.49 ID:KmqRKDbT0
    男「信じないとさ。自分の姫だろー?」
    友女房「それはそうですが……」

    男「それとも、自信ないのか?」

    友女房「いえっ。確かに姫様は変わり者ですが
     その賢さ聡明さ、そして優しい心根だけは
     どこに出しても恥じる事なき、最高の主でございますっ」

    男「だってさ」
    黒髪娘「……友も、ありがとう」
    友女房「もったいないお言葉です」

    男「まぁ、実際それ『だけ』って云うわけには
     行かないからさ。幾つか仕込みはするんだけど」

    黒髪娘「仕込み……?」
    友女房「仕込み、ですか?」

    男「うん、だから衣服を整えるのは重要だ。
     それから参加するメンバーも調べてくれ」

    黒髪娘「判った。何か意味があるのか?」
    男「賢いんだから、脳みそ使わないとな」

    黒髪娘「やってみる」 こくん


黒髪娘「そんなにじろじろ見るものではないぞ」【パート3】へつづく

 
 
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