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'12/12/22

日銀の役割 独立性 守られているか

 お札を大量に刷り、デフレが改善されるまで市場に供給していく。金融緩和策だ。一歩間違えれば副作用を生じる「劇薬」であることは肝に銘じたい。

 日銀はおとといの金融政策決定会合で10兆円の追加緩和を決めた。併せて白川方明総裁は、「前年比2%」の物価目標の設定を検討することも表明した。来年1月の次回決定会合で結論を出すという。

 「大胆な金融緩和」を公約に掲げて衆院選で大勝し、来週政権を発足させる自民党の安倍晋三総裁の求めに応えた形だ。

 長期化するデフレと円高にあえぐ日本経済。これまでの金融緩和策で効果が表れてきたとは言いにくい。より大胆な策に活路を求めることもやむを得ない、との見方はあるだろう。

 とはいえ経済界や専門家らの間で、賛否は分かれる。

 日銀が国債を大量に買い上げて市場にお金を供給すれば、企業は設備投資を前倒ししやすくなる。企業の売上高が伸びれば雇用と賃金も上向き、個人消費も押し上げていく―。金融緩和が好循環を創出するとの期待は確かにあろう。

 特に経済成長を重視する人たちは評価しているようだ。景気と成長の回復は、2014年4月からの消費増税を判断する前提でもある。

 一方で、警鐘を鳴らす声も根強い。物価が上昇しても、企業が収益を内部留保に回すだけでは、賃金の上昇や雇用の増加につながらないことは明らかだ。

 しかも日本の公債残高は700兆円を超える。物価と連動して国債の金利も上がれば、利払い負担もそれだけ重くなる。金融緩和と同時に財政出動で景気を支えるといっても、インフレ下で国の借金ばかりが膨らむ。そんな懸念である。

 金融緩和のアクセルとブレーキを踏むタイミングを間違えれば、重い副作用を招く。薬の効き目を確かめながらの慎重な処方が求められよう。

 かねて日銀は、大胆な金融緩和に慎重だった。安倍氏に対し白川総裁は「大量の国債買い入れは金利の上昇を招き、財政再建や実体経済に悪影響を与える」などと反論してきた。

 ところが、ここにきて政治の意向を丸のみした格好である。次期首相候補に迫られ、政府との間で物価目標を柱とする政策協定(アコード)を交わす検討にも入った。

 総裁は否定するが、圧力に屈したと取られても仕方ないだろう。これまでの発言との整合性を、どう説明するのだろうか。

 中央銀行は、その独立性が大原則である。政治の介入で金融政策を曲げるようなことがあれば市場の信認に影響してくるからだ。政府が言うがままに国債の引き受けを続けることは、暴落の引き金ともなりかねない。

 自民党は先の衆院選の公約で、政府の関与を強めようと、日銀法の改正を「視野に入れる」とした。

 これに対し日銀内では「中央銀行の独立性は、歴史の苦い教訓を踏まえた制度だ」との警戒感が強い。かつて戦費調達のため国債を無制限に引き受けし、戦後の猛烈なインフレの一因ともなったことを指すのだろう。

 日銀法は15年前に全面改正され、現在の独立性が担保された。その意義を踏まえ、再改正論議は慎重にすべきだ。




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