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冨久岡ナヲ
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【イギリス】安倍氏は「戦争挑発者」、原発ほどんど触れられず

2012年12月22日

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 イギリスでは、米国で12月15日に起こった米国での小学校乱射事件に紙面が大幅に割かれ、日本の衆院選の結果は主要メディアではあまり大きな扱いを受けなかった。結果が判明した直後の反応は、どの紙面も異口同音に「タカ派政府の誕生〜アジアに緊張が走る」というものだった。

 インディペンデント紙は、中国メディアが安倍氏を「ウォーモンガー(戦争挑発者)」と呼んでいると伝え、領土問題への態度がより硬化するだろうという予想が、周辺のアジア諸国に緊張をもたらしていると伝えた。

 デイリーテレグラフ紙も、国家主義的な新首相が、中国との間の領土問題では妥協しないと表明したことで、大国同士が衝突する日も近いのではという警戒感が強まっていると報じた。

 中国メディアの報道に注目したのはガーディアン紙だ。新華社が日本の右傾化への警鐘を鳴らしていると伝えた上で、アジア問題専門家スヴェンソン=ライト氏の、選挙時の攻撃的な主張とは裏腹に、実際安倍氏は領土問題を含む外交にもっと実利的な対応をするだろうというコメントを添えている。他の評論家筋も、日本にとって最大の貿易相手である中国に対して、結局は懐柔的戦略に落ち着くのではないかと読んでいるそうだ。

 選挙から数日経過すると、報道の焦点は安倍氏の思い切った金融緩和および脱デフレ策に移った。

 今回の選挙と新政府に関する記事を最も多く掲載しているファイナンシャル・タイムズ紙は、これからの日本が取るべき方向性を説く。17日の社説では、前回「美しい日本づくり」を掲げながら首相の座をたった1年で降りた安倍氏が再登板というチャンスを与えられたのは、尖閣諸島問題によって国民の平和に対する態度が変化したことだと分析。しかし、やはり肝心なのは経済政策であり、日銀に対するインフレターゲット2〜3%の提言を良案だと支持。「美しい日本」のお題目を唱えるのはしばらく諦めた方がよい、と結んでいる。

 また、選挙結果を受けて原発関連株値が上がりし、円安が進み、公共事業への大幅予算増への期待など、停滞している社会の新陳代謝を刺激する動きがすでに見られること、金融緩和策の提言と日銀への厳しい態度などについて複数の記事を通じて報じた。

 ガーディアン紙のエコノミストは20日、安倍氏の金融緩和策は、ヨーロッパがまだしばらくの間混乱し脆弱なまま、という前提で立てられている。もしそのシナリオが崩れたら少なからず窮地に陥るだろう、と書いている。

 タイムズ紙は18日の社説で「東京の苦悩」と題した記事を掲載。安倍氏率いる新政府は、右傾化の熱で日本経済の構造的な問題〜コンセンサスを何よりも重んじる文化が思い切った政策の実行を妨げ、金融や官僚などの問題を野放しにしてきたこと〜を覆い隠すのではなく、冷静になって経済の建て直しと保安政策を固めるべきであるとした。ここでも領土問題による中国、韓国との関係悪化への憂慮が表明され、どちらにしても強いリーダーシップがまずは必要だと論じている。

 選挙と原発、という視点からの記事は主要新聞には見られなかった。BBCは放送ではなくウェブ版ニュースにおいて、新政府は原発再開と新設へ向かうが、国民の反感を考えると実行はかなり難しいだろうという見方を示した。

 22日発行の週刊エコノミスト誌は、自民党が政権に復活した事で、原発は全廃の憂き目から救われるかもしれない、という記事を載せている。しかし、内容は原発の是非よりも電力株と投資の見通しが中心。イギリスのメディアは日本のエネルギー事情にあまり関心がない、という感触は選挙前と変っていない。

プロフィール

冨久岡ナヲ(ふくおか・なを)

イギリス・ロンドン在住ジャーナリスト。一般誌記事執筆ほか、企業広報誌、英国政府諸庁の日本語広報媒体なども手がける。

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