久坂葉子という作家がいた。神戸の名家に生まれ、戦後、同人誌に小説や詩を発表。19歳のとき「ドミノのお告げ」が芥川賞候補になるも、1952年の大みそかに阪急六甲駅で鉄路に身を投じた。きらめく才能を羨まれながら21歳で遂げたその自死から、60年になる。
▼女学校を卒業したあとのわずか数年間に「華々しき瞬間」など多くの作品を書いているが、文学史にはほとんど刻まれることがない。しかし一度読めば心に残る文体と、哀惜を深める早世のせいか、いまでもときどき思い出したように作品集などが出る。ブラームスと喫茶店が好きな、おしゃれな神戸っ子であったという。
▼60年も昔の、すこし跳ねっ返りの少女が残した小説が現代の大人の胸にも響くのだから文芸とは不思議なものである。死後こうして、かろうじて読み継がれていく書き手もいれば、一時は熱く注目され、のちに不当なほどに忘れ去られた作家もいる。紡がれた無数の物語が、この世界にはまだまだ眠っているにちがいない。
▼久坂葉子の遺稿「幾度目かの最期」は、命を絶つ直前の数日間に書かれたという。3人の男性の間を揺れ動く、没落華族の娘の苦悩――と言ってしまえば太宰治の女性版だが、その痛々しさは尋常ではない。終戦から7年、新しい世の中をうまく生きられなかった人々の苦悩を知るのだ。遠い時代の、せつない景色である。
久坂葉子、太宰治、神戸っ子、春秋
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