ビッグイシューの202号の特集が大変面白いです。いずれビッグイシュー・オンラインにもアップされると思うのですが、これとても重要なテーマだと思うので読書メモをご共有です。
手薄い日本の公的住宅
・(神戸大学大学院教授・平山洋介さん)日本の住宅政策の特徴は、公的住宅保障が極端に弱いことです。(中略)公的な住宅保障が弱いのに、社会がどうにか壊れずにすんでいます。その理由の一つは、親世代の持ち家の存在です。不安定就労の若者が親の家に住むというケースが増えました。しかし、彼らが低所得のままで高年化すると、老朽する家を修繕できないと言った状態になっていく。親の家に依存するという方式をずっと続けられるとは思えません。
・(平山)これまで日本の住宅政策の基本線は中間層に家を買ってもらうということでした。GDPが伸びていた時代に「たいていの人は家を買えるだろう」という前提の政策が展開し、今になってもそこから抜けきれない。公営住宅が全住宅のたった4%。家賃補助もほとんどないという日本の状況は先進国の中できわめて特異です。
・(平山)日本に流布しているのは「今から公的住宅を建てるはずがない」という言説です。しかし、リーマンショック後の西欧諸国では社会住宅の建設が再開しました。持ち家率が8割以上のスペインのような国でさえ、社会住宅供給や家賃補助を開始しました。東アジアでは、韓国が公的住宅の大量建設に着手しました。中国はずっと持ち家重視でしたが、住宅バブルで若い人が家を買えなくなって、公的賃貸住宅を建てはじめました。日本は内向きになって奇妙なイデオロギーに縛られたままです。世界の動向をもっと知るべきです。
・(NPO法人「自立サポートセンターもやい」理事長・稲葉剛さん)「福祉可」の物件の多くはもともと40,000〜45,000円で貸したいたのを、生活保護の住宅扶助費の上限の、53,700円までつり上げているところが多く、生活保護費も無駄遣いされています。
・(平山)大阪でも似たような状況があります。「生活保護歓迎」という意味の看板がけっこう目に付きますし、底辺の民間木造借家の家賃が住宅扶助の上限にすり寄っている。(中略)住宅扶助の制度は、劣悪住宅を淘汰するどころか温存する結果を招き、食い物にされています。
・(平山)日本でも、公営住宅だけでなく、民間の賃貸住宅に公的支援を投入し、それを社会住宅として供給するという制度をつくるべきです。ヨーロッパ諸国では、社会住宅はだいたい2割ぐらいです。オランダは35%、イギリスは21%、フランスは18%。
・(稲葉)東京では生活保護受給者目当てで家賃相場が上がり、質の悪い住宅であっても共益費・管理費を含めると6万円くらいになっている。そのため、基礎年金だけの高齢者やワーキングプアの人も借りられなくなっています。
・(平山)雇用対策や社会保障はもちろん重要ですけど、住宅保障はもっと重要です。たとえば、国民年金の高齢者の場合、持ち家でないと生活できないはずで、借家人が生活保護制度に流れ込む可能性があります。こうしたグループには、家賃補助を供給すれば、生活保護受給にはいたらないという人が多いと思います。
・(平山)持ち家政策の結果として、住宅は個人の買い物の問題だということになってしまった。ホームレス問題にしても、雇用問題だという問題の建て方が多い。
・(稲葉)昔から不思議だったのは、特に派遣切りの時に、住まいを失った人たちが何らかの公的な支援を得たいと思ったときに、戦期が福祉やハローワークの窓口しかないことです。住宅課が住宅を直接提供してくれれば、みんなそこに行くんですが、そもそもそういう制度がないし、ないのが当たり前だとみんなも思っていますよね。
というわけで、この論点は重要だと思うわけです。質の悪い物件の価格が生活保護費に貼り付いている、というのは衝撃的な話。僕自身ももっと勉強していきたい分野です。東京は家賃明らかに高すぎですからね…。
関連した動きでは、猪瀬さんが多世代型シェアハウスを進めようとしているのは、第一歩として意義深いと思います。
関連記事:猪瀬都知事:お年寄りと若者、共生 「都営住宅にシェアハウス」構想明言- 毎日jp(毎日新聞)
「地域社会圏主義」には、住宅政策は少子化対策にもなるという指摘がされています。「若者向けの住宅保障を手厚くすることで、家を出る若者が増え、同棲・結婚するカップルが増えて、子どもが生まれる」というロジックです。
僕も一人暮らししてから同棲して結婚しましたし、これは肌感として納得できる話。この本も名著なのでぜひ。