金言:20年来の開国、進めよ=西川恵

毎日新聞 2012年12月21日 東京朝刊

 <kin−gon>

 総選挙の争点となった主要な3課題。原発廃止か否か、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の賛否、消費税値上げ容認か否かのうち、待ったなしで態度表明を迫られているのはTPPである。

 今月、ニュージーランドのオークランドで開かれたTPP交渉の第15回会合で、米豪など11カ国は13年中の合意を目指すと決めた。日本が交渉に参加する場合は米議会の承認が必要で、日本に与えられた時間的な余裕は少ない。

 私は日本はTPPに参加すべきだと考えている。東アジアの日中韓自由貿易協定(FTA)と環太平洋のTPPを並行的に進めるのが国益だと思う。二者択一でなく、アジアと環太平洋の双方に足場を置くことで日本は外交の幅を広げられる。特に政治、経済、軍事面で台頭する中国に選択肢をもっていることが重要だ。

 国内でも農業にこのまま税金を投入し続けていても、立ち直ると思っている人はほとんどいないだろう。競争の中で打開策を考えねばならないし、輸出で伸びる農業分野もあるはずだ。困難に直面した分野には支援を集中するか産業転換を図る。ただ現状を守るだけではもう通じない。

 実は日本にとって「国を開く」は20年前からの課題であり続けている。冷戦が終結した90年代初め、グローバリズムが普遍的現象となる中で、日本では堰(せき)を切って「規制緩和」と「普通の国」がキーワードとなった。

 護送船団方式と言われたように、国の規制に守られ、特定の業種と利益集団が利益を分かち合うやり方はもう通じない。規制を緩和し、新たな民間活力を入れ、一定の競争の導入で国を活性化しようとの考えがここにはあった。細川内閣の誕生などはこれを政治面で体現した。

 しかしこの流れは96〜97年に一転する。アジア通貨危機などで「規制緩和」と「普通の国」が前提とするグローバリズムへの不信が広がったからだ。橋本内閣の構造改革と財政再建も頓挫する。

 あれ以来、グローバリズムに対する不信は続いている。小泉政権が過度の競争主義だったと私は思わないし、あれは途中で挫折した橋本政権の構造改革の延長にあった。しかし小泉政権時代に格差が広がったということが、経済学者の間では一致した結論は出ていないにもかかわらず、深く信じられている。

 グローバリズムへの不信の背景には、そこそこに国内市場があること、市場・競争主義の米国流に対するアレルギー、変わることへの恐れなどある。TPPは20年来の課題に決着がつけられるかどうかでもある。(専門編集委員)

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