任天堂のブランディング戦略 売上高では計れない“強み”

★デジタルコンテンツ最前線

2012.12.21


家庭用ゲーム機「Wii U(ウイー・ユー)」任天堂【拡大】

 任天堂は8日、新しい家庭用ゲーム機「Wii U(ウイー・ユー)」を発売した。米国では先月26日に発売され、発売1週間で40万台以上を売り上げたが、日本でも初回出荷約40万台のほとんどを初週で売り尽くしたとみられている。

 この数字については議論が分かれるところだが、任天堂広報室は「米国の状況については(2006年に発売した)Wiiの時とほぼ同じで、今回が劣っているとは思わない。その時(の数字)だけで見るのではなく、安定した供給体制を作っていくことが大切だと思っている」とコメント。長くコンスタントに売り続けていくことが、市場を形成するポイントだとみているようだ。

 ソーシャルゲームの爆発的なヒットを受け、ソーシャルゲーム業界の中には売上高だけの比較で任天堂を劣勢に見たい向きがある。だが、任天堂は売上高の単純な争いにはくみしないつもりのようだ。

 実際、売上高だけが企業の価値判断ポイントなのだろうか。話はそれるが、最近面白い話を聞いた。ある人がソーシャルゲームで成功したグリーの面接を受けに行った時の話だ。若い面接官は履歴書を見ながら「ずっと、家庭用ゲームを作ってたんですねえ」とさげすむように言った後、「任天堂の倒し方、知らないでしょ? オレらはもう知ってますよ」と言ったそうだ。

 任天堂の岩田聡社長はソーシャルゲームのシステム「ガチャ」について、一時的に高い収益性が得られる可能性は示唆しているが、「(ガチャでは)お客さまとの関係が長続きするとは考えていないので、今後とも行うつもりはまったくない」と決算説明会で説明している。これが「ずっと続いていく企業体」を目指す任天堂の姿勢だ。

 この姿勢を少なくとも任天堂ユーザーは評価しているようだ。たとえば、先月8日に発売されたニンテンドー3DS用ソフト「とびだせ! どうぶつの森」(4800円)は発売以降すでに100万本以上が売れ、200万本の大ヒットも視野に入ったとみられている。

 「どうぶつの森」は箱庭遊戯型ゲームとして一世を風靡したが、いまやソーシャルゲームの世界でもグリーの「ハコニワ」のような箱庭遊戯型ゲームは珍しくない。しかも、シリーズ前作からは4年が経過している。いくらシリーズ総本数が1800万本を超える大ヒットシリーズの最新作でも、売れないかもしれない可能性は十分にあった。ところが、フタをあけてみれば、品薄すぎて手に入らないユーザーからの悲鳴が殺到、岩田社長が謝罪する事態にまでなった。

 ソーシャルゲームなら、せいぜいアイテム課金程度の出費で済むのに、本体とソフトで2万5000円もする「どうぶつの森」最新作が大ヒットしたのはなぜか? この背景には、「任天堂のゲームは面白い。ましてや、どうぶつの森なら面白いに決まっている」という任天堂に対する深い信頼があるように思える。ディズニーと同じような任天堂のブランディング戦略が実を結んだ結果だろう。

 ちなみに、グリーの面接を受けた彼は別の企業へ転職したという。彼の知人は「任天堂は数々の浮き沈みを経験して今がある。その強みが理解できない企業の将来性に、なんとなく不安を感じちゃったんじゃないですかねえ」と語っていた。 (石島照代)