現在位置:
  1. 朝日新聞デジタル
  2. 天声人語

天声人語

天声人語のバックナンバー

 大学入試問題に非常に多くつかわれる朝日新聞の天声人語。読んだり書きうつしたりすることで、国語や小論文に必要な論理性を身につけることが出来ます。会員登録すると、過去50日間分の天声人語のほか、朝刊で声やオピニオンも読むことができます。

天声人語深堀ファイル
「役立つ」、「使える」天声人語をセレクト!
天声人語をまとめ読み
3カ月分まとめて読める!WEBマガジン「朝日新聞 天声人語・社説」

2012年12月21日(金)付

印刷用画面を開く

 まず母を奪われた。父朴正熙(パクチョンヒ)大統領を狙った銃弾だった。留学先のフランスから戻り、ファーストレディー役を担ったのが22歳。5年後、父も側近に射殺される。韓国初の女性大統領となる朴槿恵(パククネ)さん(60)は、悲憤で心を研ぐように強くなった▼野党党首だった6年前、選挙応援中に右ほおを11センチ切り裂かれた。5ミリ深ければ動脈に達し、即死していたとされる。両親をテロで失い、自らも傷痕を背負う指導者は、荒れ放題の途上国でさえまれだ▼「まだ私にやることが残っているから(天は)命を残したのだろうと考えると、失うものも欲しいものもないという気持ちがおのずとわいてきた」。自伝『絶望は私を鍛え、希望は私を動かす』(横川まみ訳、晩聲(ばんせい)社)にある▼父の時代は、「漢江(ハンガン)の奇跡」と呼ばれる経済成長で再評価されている。娘は選挙中、軍政に虐げられた民主化運動の関係者にわびた。韓国版「三丁目の夕日」を慈しむ中高年の支持が勝因となった▼血に染まる肉親の着衣をすすぎながら、「一生分の涙」を流したその人が青瓦台(チョンワデ)に還(かえ)る。少女期から15年を過ごした大統領府、悲しみの地。父の暗殺を急報する高官には、北からの侵攻がないかをまず問うたという。「国と結婚して」独身を通す彼女は、どうやら筋金入りの愛国者らしい▼親の威光もあろうが、有数の男社会で選ばれた女性である。対立候補より親日だとしても、甘い友ではなさそうだ。幸か不幸か我が方には、これだけ泣いてきた政治家はいない。

PR情報

朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内事業・サービス紹介

アンケート・特典情報