第十四話 短大問題
女子短大の問題は1990年初め頃から青山学院においてすでに検討されてきた重大な課題でした
時代はバブル経済の真っ只中で女子の短期大学卒業生はかえって四年制大学卒業の女子に比べて就職
において人気があったといっても間違いではないと思います
しかし、すでにこの次点で将来の少子化の傾向ははっきりしていましたし、このため大学という世界がかなりの過当競争になるだろうということも予想されていました
そのために、体力のある学校は先行的に付属の短大の廃止や大学への改組を検討し始めていたのです


何故短大から大学に改組すると学校経営に有利であるのか、最大の理由は2年間しかない短大に比べて大学は四年間という長期の期間に渡って安定的に学費収入を確保できるということでしょう
また、世の中の景気が大幅に後退したこと、学生の就職難が顕著になり、それに伴って女子の高学歴志向もこの頃からかなり強まってきたことなども理由としてあげることができます
この女子の高学歴志向をはっきりさせた理由のひとつに社会における男女機会均等の精神の広がりと加速度的少子化の傾向をあげることができると私は思います。

前者については、社会において男女の境目(言い換えるなら役割分担)がファジーになってきたということです
女性と男性を明確に分化する要因は「出産」のみに限定され、それ以外のおおよそ全ての物事は男性、女性の分別なく可能なことだという価値観が広がってきたということでしょう
勿論、現実社会はそれほど急速に変われるはずはありません
したがって、社会の在るべき観念として男女機会均等が説かれる一方で、実際の社会の中で女性がどれだけ本質的な意味で均等な機会を与えられているかは疑問であり、女性としてはこの実質的意義の薄い男女機会均等はどこか方手落ちという認識を持っていると思います

後者については、少子化によって夫婦一組あたりの養育する子供の人数が減れば当然一人当たりにかけられる教育費用の額も違ってくるということです
また、近年では親の親、つまり子供にとっては祖父母にあたる方たちの生活上のゆとりからも、こうした人数の少ない孫たちへの教育的金銭支出への支援も多く見られます
こうしたことから、近年では大学受験において志願者数が大幅に減る一方で、中学受験においてその数が大幅に増えているよう言うような皮肉な状況ともなっています

こうした要因から有名大学の中では1990年代初めに東京女子大学が短期大学部を廃止、その後学習院女子短期大学は女子大学へと改組、近年では明治大学が伝統ある明治短期大学部(社会科学系の珍しい短大で我が国初の短大出身の女性で司法試験合格者を輩出した名門短大でした)を廃止しました

我らが母校青山学院においてもこの短大問題は1984年の将来計画委員会以降なんと16年間に渡ってああでもないこうでもないと議論が繰り返されてきました
その間、芸術学科の創設や卒業後さらに1年間青学に留まれる専攻科を創設したりと諸種の部分的改革には着手しましたが、やはり歯止めのかからない急激な少子化の傾向の前には無力であったように感じます
青山学院女子短大は青山キャンパス内にキャンパスがあることから、立地的には全短大の中でも別格のものといえます
また、社会的評価としても通称「青短」ブランドは広く受験生一般の人気を集めてきました
しかし、現在では他の短大ほどではないにしても、一般入試における募集人数を大幅に減らして、その分を新たに始めたセンター入試や推薦入試など非主流の入試にシフトしないとまともな倍率さえつかないような状況です(こうした状況でも芸術学科においてはなんとほぼ全入の1倍台となっています)
また、青短では短大卒業後の進路において専攻科もしくは大学への編入が極めて多いのが現状です
これでは一体なんのために短大に入学したのでしょうか?
短大にいて勉強しているうちにもっと深く勉強したくなった、というんだったらこれはむしろ歓迎すべきことでしょう
しかし、そういうことではありません
彼女らは元々四年制の有名大学を志向していたのです
結果論として青短という名門短大から青学大を含めた有名大学への編入が次善の策であっただけなのです

法人の出した、16年間の議論の末出た結果は、なんと!「次世代への問題の先送り」でした

驚くことに、女子短大側からは「新たに女子大を作って短大に併設」という教授会の結論が出されたようです
青短が入試で辛うじて現状においてもある程度の倍率を保っているのは、一般入試での定員の大幅な削減、そしてなによりもキャンパスが青山キャンパスにあるからです
女子大を一体どこに作るのでしょうか?
基準の緩い短大と違って大学には緩和されたとはいえ厳しい基準があります(前述第四話の通り)
小規模なものでも1学年が5百人としても4学年で2千人、単純計算で2万平米の敷地が必要になってきます
短大は現在敷地も施設も一杯一杯です
なにせ特別教室を一般教室に摩り替えてやりくりしてるくらいですから
図書だって短大の基準と大学の基準では異なってきます
施設だって同様です
まさか青学大と新たに作るという女子大の施設や蔵書を共用でもするつもりでしょうか?
それでは一体なんのための「女子大学」でしょうか?もうむちゃくちゃです!教育の一貫性がまったく感じられません
青学大と女子大学の相違点は一体どこにあるのでしょう??
かといって、新たに女子大を創ったとして、そのキャンパスをどこか厚木キャンパスのようなとこに作ったとしたらこれは確実に
志願者が集まりません
これは間違いないでしょう
結局、短大の教授たちは自分たちのことしか考えていないのです!!

そして、こうした短大教授会の結論を受けて法人側の出した最終結論は問題の先送りでした
新たな教育機関に関する法律や規制における一層の改正や緩和によって短大に新しい活路を見出すまで現状の体制を維持するというものらしいです
仮にこうした動きがあったとして、それでどれだけの状況が改善されるのでしょう?
短大の意義自体が問われてしまっている現在、こうしたものが抜本的改善に繋がるとは到底考えられません

青山学院という学校は確かに社会的な評価は高いのですが、けっして規模的に大きな学校ではありません
規模的には関西学院、立教学院などとほぼ同じと考えられます
保有している資産(ヒト・モノ・カネ)も学生から得られる収入も必然的に決まってきます
また、現在の社会的状況が中・長期的に続くだろう可能性を考えれば、政府からの補助金などの増額も期待は出来ないでしょう
青山学院が現在の加速度的な凋落に歯止めをかけて本質的に上昇の体制をとろうとするならば、青学大に資本の集中化しかないのです
学内で各論や自己保守に走っている状況はありません!
青山学院が三流学校と社会的レッテルを貼られてしまえば、もうお仕舞いなのです!
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