社説:再審無罪確定 誤判防ぐ法とルールを

毎日新聞 2012年11月09日 02時30分

 東京電力女性社員殺害事件で、ゴビンダ・プラサド・マイナリさんの再審無罪が確定した。

 事件発生から15年だ。判決は、捜査や公判の問題点に言及することはなく、謝罪もなかった。

 なぜ誤判を生んだのか。その解消になぜ時間がかかったのか。検証を通じて明らかにしなければ、刑事司法への信頼は大きく揺らぐ。

 近年、再審無罪事件が相次ぐ現状もある。裁判所も検察も重く受け止めるべきだ。

 今回の捜査、公判を通じて浮き彫りになった二つの重要な点について指摘しておきたい。

 一つは、最新の科学技術の進展に伴うDNA型鑑定だ。鑑定の精度が上がった影響もあり、第三者が女性の殺害に及んだ疑いが強いことが明らかになった。

 有罪、無罪いずれにしても証拠として極めて重大な役割を果たす。

 その鑑定は警察が指針を作って運用している。どのようなケースで試料を採取し、どう保存するかは警察任せで、被告や弁護人からのアクセス権についての取り決めもない。

 また、再鑑定の機会も保障されていない。鑑定試料の「使い切り」が真相解明の壁になるケースも出ている。死刑が執行された元死刑囚の再審請求が行われている「飯塚事件」でも、試料が残っていなかった。

 菅家利和さんの再審無罪が確定した足利事件の後、再鑑定に配慮し、鑑定はなるべく試料の一部で実施するよう警察は指針を改めた。

 だが、適正な保存を義務づけることも含め、DNA型データベースの運用は法律で厳格に規定すべきだ。管理には当事者である警察以外の第三者のチェックが入る仕組みも検討すべきだろう。DNA型鑑定が無罪の決め手となった裁判からくみ取るべき教訓である。

 そして検察の証拠開示の見直しが二つ目の課題だ。

 今回、第三者による殺害の疑いが強いことを決定づけた血液型に関する鑑定書などが長い間、開示されなかった。また、被害女性の爪の付着物のDNA型鑑定も長く実施されなかった。こうした証拠が速やかに開示されていれば、早く無実が明らかになったとの弁護団の指摘はもっともだ。

 裁判員制度導入を機に、裁判員裁判など公判前整理手続きが実施される事件での証拠開示は大きく前進した。だが、それ以外の事件は再審事件も含め、証拠開示の規定はなく、検察の裁量に任されている。

 少なくとも、「新証拠」が必要な再審請求審では、全面的な証拠開示か全証拠リスト公表が必要だ。それが公正な裁判を担保する道だ。早急な法整備やルール作りを求めたい。

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