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【We Love Tokyo】

動物園を考える 『動』と『静』リアルに

2006年5月31日

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 動物の生き生きとした姿、愛らしいしぐさは、世代を超えて人々に喜びや癒やしを与えてくれる。自然保護や種の保存といった役割も果たす大切な存在でもある。「東京の可能性 動物園を考える」では、東京の大小七つの動物園のうち、ともに日本を代表する二大動物園の園長に、課題と将来の展望を聞いた。併せて、いま日本で最も注目されている北海道旭川市の旭山動物園の成功例を見ながら、動物園の将来像を探った。

 上野 ■施設の個性化は歓迎■行動展示で身近に観察

 ――旭山動物園に一時、月間入場者数で抜かれたが。

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 小宮輝之園長 上野の入場者数のピークは春と秋で、旭山は夏だ。むしろ「夏はこっちがいい、冬はこっち」と、いろいろなタイプの動物園が出れば面白くなる。その意味で旭山の動きは歓迎すべきだ。これまで日本の動物園は、上野のまね、外国の動物園のミニチュアが多かった。これからは、それぞれが個性を打ち出していけばいい。

 上野動物園は長い間、年間入場者数三百万人以上を維持し、世界的にもまれだ。入園者の密度は飛び抜けて高い。大事なのは(入園者数より)動物の生き生きした姿が見られることだ。

 ――上野の個性をどう打ち出すか。

開園から大人気の上野動物園のパンダ「リンリン」=東京都台東区で

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 日本最古、百二十四年の歴史がある。日本の動物園の代表だ。ほかの手本にならなければ日本一とは言えない。特にシロクマの展示スペースや猿山は七十年の歴史があり、簡単に壊せるものではない。世間の風潮に安易に乗れない。

 ――入園者に“見せる”工夫は。

 動物の行動を間近に観察できる行動展示はかなり前から考え、ここ二年間で約二十カ所の展示方法を改良した。透明なチューブを泳ぐカワウソ、ケヤキの大木の上にいるカナダヤマアラシを、橋の上から間近に見られる工夫…。四月から公開した新しいクマ舎は、冬眠している姿を見ることができ、クマ本来の生態を見せる世界初の試みだ。

 ――これから上野が目指す方向は。

 一九八〇−九〇年代は希少種の保護、繁殖を目的とした「ズーストック計画」のもと、展示動物の種類を減らした。しかし多くの種類の動物が見られる“国民的動物園”としての役割も重要だ。

 ――東京には、ライバルとなるレジャースポットも多い。

 動物の生態や面白さ、知識を来場者に知ってもらうため、広報宣伝の専門部署を四月に立ち上げ、さまざまなアイデアを練っている。動物の声やにおい、肌触りなどをじかに感じられる点が大事だ。 (聞き手・大原啓介)

 小宮輝之(こみや・てるゆき)1947年、東京都生まれ。72年、多摩動物公園飼育係を振り出しに長年、飼育畑を歩む。上野動物園飼育課長などを経て2004年から現職。

 多摩 ■地域の貴重な自然ある■大人のファン増やす

 ――各地で動物園が増えた中で、「東京第二の動物園」、多摩動物公園の役割とは。

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 土居利光園長 上野動物園ができないことを実現しようとやってきた。代表例が約五十二ヘクタールの広い敷地を生かした生態展示だ。ライオンやチンパンジーといった群れで生活する動物を、群れのままの姿で見てもらってきた。園内には多摩丘陵の豊かな緑があり、地域の貴重な自然を残すという社会的な貢献も果たしてきた。

 ――生態展示や環境エンリッチメント(動物本来の行動を見てもらう展示方法)の具体例は。

多摩動物公園で人気を集める「ライオンバス」=東京都日野市で

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 最近では昨年春に完成したオランウータンのスカイウオーク。高さ約十メートルのロープを渡る「空中散歩」ばかりが注目されているが、ロープを渡った後、飛び地の放飼場にいる姿も見てほしい。自然の樹木が残り、実に生き生きと過ごしている。

 キリン用に高い場所に餌場をつくったり、ペリカンに流しそうめんのような方法でアジを食べさせたり、お金をかけずにできる努力もしている。

 ――入場者数は一九九四年度以降、百万人を割る年もあるが。

 「子どものもの」というイメージがある動物園を、これからは大人も楽しめるようにしなければいけない。「かわいい」「驚いた」だけでは大人のファンは増えない。

 もっと動物の個性を見せる努力をしなければ。例えばライオン園では、一見、散らばっているように見えるライオンは、実は力関係で強弱に分かれている。チンパンジーのオスのケンタは、群れのリーダーなのに仲間に好き嫌いがあり、朝、メスのサザエがあいさつに来ても応えないとか。

 動物の個性や群れのストーリーが分かれば、劇を見ているようで面白い。名前も覚えれば、大人なら、動物園にのめり込んでもらえるはず。

 ――どのように来園者に個性を伝えるのか。

 施設をつくったり、展示方法を考えたりするよりも難しい。来園者向けのキーパーズ・トーク(飼育担当者による動物の生態などの解説)もやっているが、人前で話すのが苦手な職員もいる。ボランティアとも協力し、地道にやるしかない。 (聞き手・杉本慶一)

 土居利光(どい・としみつ)1951年、東京都生まれ。1975年東京都採用。板橋区みどりの課課長、都環境局生態系保全担当課長、同局自然公園課長を経て、2005年から現職。

 ■『日本一元気』北海道・旭山 『すぐ近く』徹底

目の前を巨大なホッキョクグマが豪快に遊ぐ=旭川市の旭山動物園で

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 目の前でホッキョクグマが泳ぎ、手が届く所でペンギンがこちらを見つめる。頭上にはアムールヒョウが−。北海道旭川市の郊外にある旭山動物園。園内では動物たちが「すぐ近く」にいる。表情が間近に見え、息づかいすら聞こえる。

 「日本一元気」「奇跡の動物園」。昨今、旭山動物園に冠された言葉だ。一昨年の7、8月、月間入場者数で上野動物園から全国トップの座を奪い、昨年は年間入園者数で全国2位。北海道の一衛星都市が運営し、パンダもコアラもいない動物園の、「奇跡」だ。

 「堅実に努力すれば、年間100万人は維持できるのでは」と小菅正夫園長(57)は言う。人気の秘密は徹底した「行動展示」。ペンギンの「水中トンネル」、オランウータンの「空中散歩」、アザラシの「円柱水槽」…。動物の「自分らしさ」を大切にし、より自然な行動を、より近くで見てもらう工夫をこらした。

 だが、こうしたハード面の整備よりも「大切なのは動物の『命を伝える』という思想なんです」と小菅園長は言う。

 十数年前、入園者減から廃園の危機に陥ったころ、現在は副園長の坂東元さん(45)は「私たちが長年見ていて飽きない動物たちが、なぜお客さんに飽きられたのだろう」と思った。職員は動物の日々の動き、変化を見つめ、議論を重ねた。「こんな姿を見せたい。こう展示したら動物が生き生きする」。現在の行動展示施設の原点だ。

 「動物の成長や変化など最新の情報を、いかに観客に伝えるか」。今も重視する点だ。飼育係は気付いた点を掲示板に手書きして観客に見せ、自ら観客の前で解説する。「動物は“モデルチェンジ”できない。でも動物の日々の変化、眠っている能力を発見し、お客さんに伝える工夫を続ければ、決して飽きられない」と坂東さん。

 旭山を日本一に導いた、動物の「命」と「今」を観客に感じてもらおうという姿勢。現代の動物園が求められるカギがある。 (榎本哲也)

 

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