危険水位を超えた慰安婦問題を巡る対日謀略宣伝(4)
しかし、盧武鉉政権でもまたその後の李明博政権でも外交を担当する専門外交官たちには最低の常識があり、慰安婦への賠償請求を外交議題とすることは自制してきた。
それに対して、1990年から一貫して慰安婦問題を日韓関係を悪化させる手段として利用してきた親北左派団体「挺身隊問題対策協議会」が元慰安婦らに働きかて、2006年7月5日、韓国政府が慰安婦賠償を日本に求めないことを憲法違反だとする裁判を起こしていたのだ。李海瓚委員会が慰安婦問題は日韓協定で扱われなかったから外交的に日本を追及するという法的立場の逆転を明言してから4ヵ月後のことだ。まさに民と官が合同で反日政策と運動を協力して展開している。
韓国は日本と違い、裁判所の違憲審査は三審制の最高位裁判所である大法院が行わず、別途1審制の憲法裁判所が行う。その判決が2011年8月30日に出たのだ。なぜ、外交交渉をしないことが憲法違反と言えるのか。そこにはもう一つ、奇抜な協定解釈がある。
前述の通り1965年に締結された協定では、日本が無償3億ドル、有償2億ドルを提供し(第1条)、その結果、日韓の補償問題は完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認している(第2条)。それにつづく第3条には協定の解釈及び実施に関する紛争解決の手段が次のように規定されている。少し長いが今後の展開を考える上で重要な条項なので全文引用する。
〈第3条
1 この協定の解釈及び実施に関する両締約国間の紛争は、まず、外交上の経路を通じて解決するものとする。
2 1の規定により解決することができなかった紛争は、いずれか一方の締約国の政府が他方の締約国の政府から紛争の仲裁を要請する公文を受領した日から三十日の期間内に各締約国政府が任命する各一人の仲裁委員と、こうして選定された二人の仲裁委員が当該期間の後の三十日の期間内に合意する第三の仲裁委員又は当該期間内にその二人の仲裁委員が合意する第三国の政府が指名する第三の仲裁委員からなる仲裁委員会に決定のため付託するものとする。ただし、第三の仲裁委員は、両締約国のうちいずれかの国民であってはならない。
3 いずれか一方の締約国の政府が当該期間内に仲裁委員を任命しなかったとき、又は第三の仲裁委員若しくは第三国について当該期間内に合意されなかったときは、仲裁委員会は、両締約国政府のそれぞれが三十日の期間内に選定する国の政府が指名する各一人の仲裁委員とそれらの政府が協議により決定する第三国の政府が指名する第三の政府が指名する第三の仲裁委員をもって構成されるものとする。
4 両締約国政府は、この条の規定に基づく仲裁委員会の決定に服するものとする。〉
1項で協定の解釈及び実施に関する紛争が発生した場合、外交で解決することを定め、2項と3項で外交での解決できなかった紛争は、第三国委員を含む仲裁委員会を構成して解決することとし、4項で仲裁委員会の決定に服することを定めている。
挺身隊問題協議会と元慰安婦らは、まず李海瓚委員会が明確にした韓国政府として慰安婦賠償問題は未解決だとする立場と日本政府の解決済みという立場の違いを「協定の解釈に関する紛争」と規定し、その解決のために協定第三条にもとづく外交交渉を韓国政府が行わなかったことが憲法違反の不作為だという奇抜な論理を開発して憲法裁判所に訴えた。
すでに協定が締結されてから46年、協定にもとづき日本が韓国に資金を提供し終わってから36年が経っている。韓国政府は資金提供が終了した1976年「請求権白書」を発行しているが、483ページに上る白書のどこにも「紛争が起きた」あるいは「起きている」という記述はない。
交渉中にも協定締結後、資金提供中にも一切、異議を申し立てなかった韓国政府が、いまになって協定第三条を根拠に外交交渉を要求すべきだという論理は、倒錯した主張というほかない。