畏友島田洋一教授からのアドバイスもあり、昨年以来、燃え上がってきた慰安婦問題について、その背後に北朝鮮とその追随者らの国際謀略があることを暴いた拙稿を分割して掲載する。
まず、月刊正論2011年12月号掲載拙稿「危険水位を超えた慰安婦問題を巡る対日謀略宣伝——体系的反論キャンペーンで嘘を打ち破れ」から掲載する。雑誌掲載にあたり紙数が足りなくカットした部分などを復元してある。
韓国第1野党の代表に李海瓚元首相が選ばれた。彼は盧武鉉政権時代の2006年3月8日、慰安婦問題について
〈韓日請求権協定で扱われなかった日本軍慰安婦など反人道的不法行為に対しては日本政府に持続的に責任を追及する〉
という信じがたい韓国政府の基本的立場を明らかにした。
この問題が3度目に盛り上がってきた元凶を提供した張本人だ。本論文ではそのことを詳しく論じている。
危険水位を超えた慰安婦問題を巡る対日謀略宣伝(1)
西岡力
2011年8月30日、韓国の憲法裁判所が「韓国政府が日本に対して元慰安婦の賠償請求のための外交交渉をしないことは憲法違反だ」とする判決を下し、それにもとづき韓国外交通商部は9月15日、在韓日本大使館の兼原信克総括公使を呼び、この問題に関する2国間協議を公式に提案した。
趙世暎東北アジア局長は「慰安婦と被爆者の賠償請求権が請求権協定により消滅したのかどうかを話し合うため、同協定第3条により両国間協議を開催することを希望する」という内容が記された口上書を渡し、兼原公使は「本国に知らせる」と答えたという。
9月のニューヨーク日韓外相会談と10月のソウルでの日韓外相会談においても同様の要求があった。
本稿では、なぜ今頃になって慰安婦の賠償問題が蒸し返されるのか、日本はいかに対処すべきかについて論じたい。まず、慰安婦賠償問題は全く根拠のないナンセンスな主張である理由を述べる。
第一に、歴史的事実として慰安婦は公権力による動員や強制によるものではなかったので国家による賠償や補償の対象ではない。戦前、日本軍が駐屯していた戦地に慰安所がありそこに慰安婦という女性らが存在していたことは歴史的事実だが、貧困による「身売り」がその背景にあり、賠償責任が発生する公権力による動員や強制はなかった。
国家間の交渉で解決すべき特別な問題や事情は何もない。徴兵や徴用という法的強制力のある動員によって日本の戦争遂行に協力した韓国人たちと元慰安婦は、補償に関する法的立場が完全に異なる。そのことは1990年代初めから20年間の論争で明確に証明されている(詳しくは拙著『よくわかる慰安婦問題』草思社参照)。
第二に、仮に賠償責任があったとしても1965年の協定で解決している。
1965年日韓両国が国交を正常化した際、韓国は日本から無償3億ドル、有償2億ドルの資金を受け取った。そのとき両国が締結した「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する協定」第2条の1項で
〈両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、1951年9月8日にサンフランシスコ市で署名された日本国との平和条約第4条⒜に規定されるものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する〉
とされている。
丁寧なことに、そのとき両国が確認した「同協定について合意された議事録」では協定第2条1項に関し、
〈完全かつ最終的に解決されたこととなる両国及びその国民の財産、権利及び利益並びに両国及びその国民の間の請求権に関する問題には、日韓条約において韓国側から提出された「韓国の対日請求要綱」(いわゆる八項目)の範囲に属するすべての請求が含まれており、したがって、同対日請求要綱に関しては、いかなる主張もなしえないことが確認された。〉
と明記されている。ここで言われている「韓国の対日請求要綱」8項目には
〈5 韓国法人又は韓国自然人の日本国又は日本国民に対する日本債券、公債、日本銀行券、被徴用韓人の未収金、補償金及びその他の請求権の弁済を請求する。本項の一部は下記の項目を含む。
⑴⑵略、
⑶被徴用韓人未収金、
⑷戦争による被徴用者の被害に対する補償、
⑸韓国人の対日本政府請求恩給関係その他、
⑹略
⑺その他
6 韓国人(自然人及び法人)の日本政府又は日本人(自然人及び法人)に対する権利の行使に関する項目〉
が入っている。したがって万一、元慰安婦動員が徴用など強制力のあるであり賠償請求が法的に求められると仮定しても、その権利は完全かつ最終的に解決されたこととなる8項目の中に入っているとしか読めない規定となっている。
つづく