感染症は国境を越えて
2012年12月20日
前回に引き続き、米兵によるレイプ事件について、沖縄県で仕事をしている感染症医の視点から考えてみたいと思います。
まず、沖縄における米兵の性犯罪を理解するうえで忘れてはならないのは、これは「実態の一部にすぎない」ということです。昔から、少なからぬ沖縄の女性たちは泣き寝入りをしていたのですが、少しずつ声をあげる女性が出てきたということでしょう。そういう女性を支える風潮が沖縄に育ってきたこともあると思います(「基地軍隊を許さない行動する女たち」によるまとめ ← かなり気分が悪くなると思います。覚悟して読んでください)。
綱紀粛正とか、再発防止という考え方では、この問題は解決できないと私は思います。なぜなら、軍隊とはレイプをするものだからです。私には、自衛隊に親しい友人が何人かいますし、彼らの活躍を友人として誇らしく思い、また敬意を抱いています。ですから、こうした表現をするのは忍びないのですが、しかし、「生死に直面させられた壮健な男子集団」が何を欲するかについて、私たちは冷静に理解する必要があると思っています。
遠洋練習航海に参加した海上自衛隊員について、どのような健康問題が発生したかを防衛医官の加辺純雄先生がまとめておられました(加辺純雄ら:防衛衛生 36, 177-185, 1989)。このレポートを読んで感心したのは、参加人数779名のうち東南アジア方面における月間新規発生数でした。一番多かったのが上気道炎(150.5名)、2番目が腸炎(65名)、3番目が白癬・頑癬(35名)と、ここまでは仕方がないかと思うんですが・・・、なんと第4位がセックス関連疾患(文献の表現に従ってます)の31名だったということ。これは、参加隊員の4%にあたりますが、まあ、いかに性的に活発であるかは推して知るべしですね。
加辺先生らは、レポートの最後で次のように考察されていました。「頻回の教育にもかかわらず少なからぬ疾患が発生した事は残念である。人間の本能とかかわる問題だけに、解決の難しさを痛感している」
軍隊において、性感染症をコントロールすることの重要性が伝わってきますね。もし、これが戦闘のために東南アジアに向かっていたとしたら、司令官として1ヶ月に4%もの発症はとても許容できないでしょう。いまは抗菌薬がありますから、梅毒も淋病も治療できますけど、それがなかった第二次世界大戦時に日本軍が従軍慰安婦を連れていったのは、純粋に感染症医の立場からは理解できる気がします。なお、ポスターのように連合国側はペニシリンの大量生産に成功していたので、米軍にとって性感染症が怖くなくなっていた(レイプを戦地政策的に規制する閾値が低下していた)ことも注目しておく必要があります。
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さて、話を沖縄に戻しましょう。このような集団が2万人以上も沖縄に駐留していて、しかも、常にどこかで戦争をさせられているんです。まあ、少なくとも、「厳正なる綱紀」なんてちゃんちゃらおかしいですよね~~
私の外来に通院してくださっているオジイに、いわゆる「特飲街」で米兵向けの置屋をやっていた方がいるのですが、彼曰く「いまも女の子はいるんだけど、若い米兵には高すぎるんだよね。お客さんが日本人に変わっちゃったよ」とのこと。
1950年の琉球政府の警察文書では、売春の対価が1回につき1~2ドル、あるいはタバコ8個と報告されています(山崎孝史ら:戦後沖縄における米軍統治の実態と地方政治の形成に関する政治地理学的研究)。
しかし、戦後の復興とともに、日本が、そして沖縄も豊かになってきて、米兵たちは歓楽街でナンパするしか方法がなくなってきているようです。ただ、モテる男もいれば、モテない男もいる。私はレイプする兵士たちを弁護するつもりは毛頭ありませんが、ただ、沖縄に派遣されているあいだ、「セックスをせずに訓練に没頭しろ」ということの難しさも理解しています。
兵士のことを誰よりも知っているはずの司令官ですから、綱紀粛正で何とかなると信じているはずがありません。せいぜい、「またかよ、仕方ねぇなぁ」と思っているぐらいでしょう。
ニューヨークタイムズの記事によると、1945年に日本政府がGHQの要請に従って、日本女性の貞操を守る犠牲として愛国心のある女性を募集したそうです。そして、米軍慰安婦として55,000人を提供したとあります(The New York Times,October 27, 1995)。韓国でも、ベトナムでも、数万人単位の米兵相手の慰安婦が準備されたと言われています。もちろん、日本軍だって同じことをしました。
しかるに、いま沖縄には慰安所がありません。慰安所機能をもっていた赤線地帯もすたれました。当然、あるべき方向ですし、それでよかったんですけど、米兵は残っています。かつてと比べれば、米兵の素行は改善してきているのでしょう。沖縄の人々を見下すような行動も減ってきているはずです。でも、性犯罪をなくすことはできないはずです。なぜなら、一定の割合で兵士たちの衝動は外れながら、市中へと溢れてゆくからです。
根本的な解決は、軍隊がいらなくなるような、平和な時代がやってくることなんでしょう。そうなるまでの間は、平和を希求しながらも、平和でないことの代償について、沖縄の人たちは払いつづけることになります。せめて、その事実について蓋をしないことが大切だと私は思っています。
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