(本)中島義道「人生に生きる価値はない」

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2012/12/20



最近ハマって読みあさっている中島義道本。こちらはエッセイ集です。琴線に触れた文章をメモ。


人生に生きる価値はない

・では、空気や重力のようないじめの「本当の」原因とは何だろうか?それは、わが国の国土をすっぽり覆っている、いや日本人のDNAの中にしみ込んでいるとすら思われる「みんな一緒主義」である。あるいは、協調性偏愛主義であり、ジコチュー嫌悪主義である、形だけ平穏主義と言ってもいい。つまり、日本人のほとんどがそれに絶大な価値を置いていることこそが「日本型いじめ」の真の原因なのだ。

・わが国の大人社会がまた「みんな一緒主義」であって、日本人型大人としていきていくためには、その予備訓練がぜひとも必要だからである。だから、私の提案は、大人の社会からも「みんな一緒主義」という名の毒草を駆除しよう、せめて刈り込もうという提案になる。そのことを片鱗も思わずに、「昔は、みんなもっと協調性を持っていた。他人に対する思いやりがあった」としみじみ語るバカ評論家は、即刻廃業すべきである。

・いじめは、協調性の欠如から生ずるのではない。協調性の欠如を非難する態度から生ずるのである。(中略)協調性の弊害をまったく念頭に置かず、そこから逸脱する行為を「わがまま」と言って一刀両断のもとに切り捨てるあなたのような大人こそ、いじめの根本原因なのだ、と言いたい。

・容易にわかることであるが、協調性にはそれ自体としての道徳的価値はないのだ。協調性のある人とは「周囲に合わせられる人」にすぎない。周囲が魔女裁判に熱病のように浮かされているときに、魔女を火あぶりにしようと真剣に企む人であり、周囲がユダヤ人狩りに製を出しているときに、ユダヤ人を躊躇なく密告する人である。

・ひきこもりとは両親に対する復讐にほかならないからだ。両親がおろおろすればするほどおもしろい、途方に暮れればくれるほど、喜びがこみ上げてくる。彼は、じわじわ相手の心身を滅ぼしていく復讐の喜びをもって、人間としてもっとも卑怯な輩に転落したのだ。(中略)彼は弱い者特有の卑劣きわまりない手段で、もっとも扱いやすい者をもっとも手軽な方法で支配しているのだ。

・われわれの若い頃には、欧米人に対しては、後進国と思われないよう全身で身構えており、「日本人はウサギ小屋に住んでいる」とか「東京は偉大な田舎である」とか「日本人はマナーがなっていない」というような彼らの発言のうちに潜む見下しの姿勢に対して、怒りに身を震わせた、あるいはひどく身にこたえたものである。

・ヨーロッパに住んでいると、来る日も来る日も人々はおおらかに怒りを発散させ、それに慣れっこになってしまった目で見ると、日本人は不気味なほど「怒らない」民俗だと言っていいだろう。(中略)人間は、生物として、不快の限度を超えたら怒るのが自然なのだ。怒ることが、あたかも不自然であるかのようなこの倒錯的空気は換えねばならない。

・他人の幸福を第一の同期にしている人の身体には、巧妙な嘘の匂いが付きまとっている。ただしいことをしているのだから賞賛されるはずだという思い込みにまみれている。彼(女)に向かって、「じつは自分の幸福のためでは?」という疑惑を向けたとたん、目を吊り上げて憤慨し、それを「侮辱」ととらえるのだから、始末に負えない。

・私が目指すコミュニケーション力とは、(中略)「総合的人間力」とでも言えるものであって、なるべく自分の信念を貫きながらも共同体から排斥されない生き方を実現できる力である。自分の信念を曲げて権力者や多数派に媚びなくても済む力を体得すること。そのためには、血の滲むような(?)努力をしなければならない。ただ無防備に好き勝手に生きて、他人を納得させることはできない。

・人間の生き方は、大きく分けて、努力に努力を重ねて自分の信念を磨き上げ、それを貫き通すか、それともとにかくラクに生きることを第一目標にして信念を放棄するか、のふたつしかないように思う。オルテガは前者のような生き方をする者をエリートと呼び、後者の生き方を選び取った者を大衆と呼んだ。

・コミュニケーション的強者とは、「ノブレス・オブリージュ」を身に引き受けるほどの覚悟がなければならない。これは、人間は平等だという真っ赤な嘘をかなぐり捨て、自分の強さを実感するところから始まる。自分はより強いがゆえに、どこまでも困難な課題と過酷な試練を要求する。他人はより弱いがゆえに、それほどの課題も試練も要求しない。

個人的に面白かったのが巻末解説をめぐる城山三郎さんとのエピソード。(半ば意図的に演出しているのでしょうけれど、)近寄りがたい印象を抱く中島義道氏ですが、ここでは柔和な側面が覗いているように感じます。

連載をまとめたものなので、他の著作に比べて小振りで読みやすい内容となっています。中島義道氏の著書の入門にもいいかもしれません。