文・久田将義(編集者)

初登庁で花束を受け取る猪瀬直樹東京都知事=18日午前、東京都新宿区の都庁(大西史朗撮影)

©2012 The Sankei Shimbun & Sankei Digital 初登庁で花束を受け取る猪瀬直樹東京都知事=18日午前、東京都新宿区の都庁(大西史朗撮影)

総選挙前に報じられたのが角田美代子容疑者の自殺である。これでもって一気に日本中を騒がした「尼崎連続怪死事件」がすっかり薄まった。

この国の民は忘れっぽい、とは言われることだが、今回に関しては当然と言えば当然である。なにせ、約4年ぶりの国政選挙であり、東京都民にとってみれば新都知事が誕生するダブル選挙であるからだ。景気、原発、外交と日本に課せられたテーマは多すぎる。242議席で大躍進の自民党。とは言え投票率が低い事から、「国民があきらめた選挙」の印象だ。

衆院選大勝から一夜明け、記者会見に臨む自民党の安倍晋三総裁。26日に発足する自らの新内閣を「危機突破内閣」と位置づけた=17日午後、東京・永田町の自民党本部(財満朝則撮影)

©2012 The Sankei Shimbun & Sankei Digital 衆院選大勝から一夜明け、記者会見に臨む自民党の安倍晋三総裁。=17日午後、東京・永田町の自民党本部(財満朝則撮影)

3年半前の「自民から民主へ」の熱狂的なあの雰囲気はどこへ行ったのか。その期待に全く応えられなかった民主党。民主党は国民をなめていた、と言う人がいたがそれはそれでその通りだと思うものの国民も政治をなめていないかと、自戒を込めて思うのだ。

「自民党は変わったのか」

次の参院選まで我々は見守らなければならない。そしてまずは投票所に向かうことだ。でないと、また「国民はなめられる」だろう。また、我々も「政治をなめてはいけない」。つけは「こちら」に回ってくるのだ。

さて、この稿が出る頃には恐らく各週刊誌が冒頭に書いた通り、大なり小なり「尼崎連続怪死事件」について報じているはずである。この事件のポイント、というより謎は2つ

角田美代子容疑者、李正則容疑者、瑠衣容疑者

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・なぜ角田容疑者はあれほどの人を死なせたのか
・なぜ角田容疑者は皆を従わせたのか

前者に関しては兵庫県警の大失態のおかげで、「死人に口なし」で角田容疑者が「全て私の責任です」と供述していると言われている通り、「責任者」がいない今、誰も真実が分からなくなってしまった。ただ生き残っている「暴力装置」と言われている李正則容疑者、瑠衣容疑者らの口から「角田容疑者の指示で動いた」的な供述をするのだろう。つまり、角田容疑者に全ての責任を押しつけて、「本当の真相」は分からなくなってしまうのではないか。そういう危惧(きぐ)を僕も含めて記者は抱いているはずである。

しかし、角田容疑者の自殺にはいくつもの謎がささやかれている。3人部屋で果たして、残りの2人に気付かれずに自死できるものだろうか。また、各週刊誌、新聞で報じられている通り、同房だった1人の女性の証言がクローズアップされている。僕も彼女と接触しようとしたが、間に入った人の話を聞くと確かに角田容疑者は「死にたい」という弱音をこぼしていたと言う。

また看守も居眠りをしていたという話も入っている。「死にたい」と言い、また世間を震撼(しんかん)させた大事件の容疑者の看守にしては、居眠りが事実なら何という失態だろう。この責任は当然、兵庫県警に向かう。

兵庫県警本部で角田美代子容疑者が自殺した問題で、県議会警察常任委で陳謝する倉田潤・県警本部長(中央)=17日、神戸市中央区(甘利慈撮影)

©2012 The Sankei Shimbun & Sankei Digital 兵庫県警本部で角田美代子容疑者が自殺した問題で、県議会警察常任委で陳謝する倉田潤・県警本部長(中央)=17日、神戸市中央区(甘利慈撮影)

 また、これはブロマガ「久田将義の延長ニコ生ナックルズ」でも書いたのが「実はある団体が事件に関わっており、世間の目をそらす目的で兵庫県警に責を負わせそれで幕引をはかった」という陰謀論的な言説もうわさレベルだが僕の耳にも入ってきた。

そして、2番目。どのようにして「角田グループ」は人々を支配せしめたのか。ちまたで言われている事は李正則容疑者の暴力というが、それだけであのように人間を支配できるものだろうか。その裏には僕がインタビューしたように暴力団の影がちらついている。また、警察とのつながりもささやかれている。

角田グループは地元、尼崎から杭瀬の区間ではかなり目立っており、いつも10人くらいで行動していたという。「ヤカラ(がらが悪い)でしたから」とインタビューしたヤクザが言っていたがそれほど目立っていれば、そこを縄張りとしていたヤクザが黙っているはずもない。とすれば、ヤクザがバックについていたのではないか、という疑惑がわいてくる。

またマル暴の刑事は暴力団との情報交換をしている人間もおり、そこから警察との結びつきもあったのではないかという推測も可能だ。

しかし、現在僕が取材した潜伏中の元ヤクザも決して、真実を話すことはないだろう。こちらの質問についても「話せません」「自分は関わっていません」の一点張りだった。僕の勘としては何らかの関わりがあるとは思っているのだが……。

この事件の真相も事件史の闇にまぎれてしまうのだろうか。兵庫県警には遺族の為に頑張って真相を解明してほしいのだが、角田容疑者の自死を許してしまったことから期待は出来ないのではないのだろうか。

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