今月のタイトル「筋金入りの文武両道」は、本校の金子恵美子PTA会長さんがある席で使われた言葉です。ユーモアのセンスの光る楽しい表現を気に入って、私も時々使わせてもらっています。
11月8日、藤沢にある辻堂海浜公園に全校生徒が集まって行われました駅伝大会で、今年度の対組行事が終わりました。当日は「雨男」(私のことです)の汚名を返上できるほど見事に晴れ渡り、冬の富士山をくっきりと眺めることができました。
対組競技は競争ですから、結果はもちろん大切です。しかし、合唱コンクールや体育祭のように、行事に取り組むプロセスや、そのことによってクラスが団結したり、仲間意識が芽生えることも大切な学びであると私は思います。
長い歴史を持つ駅伝大会で、クラスごとに襷をつないでいく様子を見ていますと、大会に使われた「見える襷」だけではなく、湘南高校の先輩から後輩へ歴史をつないできた伝統という「見えない襷」も同時に手渡されているのではないかと思いました。そして、それは来年、再来年と湘南高校の「未来へつなぐ襷」でもあります。
「筋金入りの文武両道」の一翼を担う部活動も頑張っています。サッカー部は、ベスト8をかけて私立の向上高校と戦いました。惜しくも延長戦で敗退しましたが、選手達の中には修学旅行も行かずに、この試合のために練習を続けた者もおります。学力向上進学重点校で、あそこまで勝ち上がったチームはないのですから、私は見事だったと思います。沢山の保護者やOBの皆さんに応援に来ていただきました。心より感謝いたします。
弓道部では2年生の松葉陽子さんが神奈川県高等学校弓道新人大会で、第1位となりました。1回戦、2回戦ともに「皆中」(すべて的中)し、「皆中賞」もいただきました。顧問の八田先生からは、「1、2年あわせて42名の部員がおり、弓道場が6人立ち(矢を射るときに一回に6人立つ)であるため、練習時間が長くても、実際に平日に立てる回数は2~3回で、その中で上達していくのはそれなりに難しいと思われる。その中、今回、松葉さんは技術的にも精神的にも『安定した美しい射』ができてすばらしかった。」というお褒めの言葉をいただきました。
11月10日に行われました『 第24回 高文連 ソロ・コンテスト 本選 』では、管打楽器部門において、2年生 岡田直樹君がマリンバの演奏で奨励賞を受賞し、弦楽器部門において、2年生 小塚樹君がコントラバスの演奏で奨励賞を受賞しました。声楽部門(ソプラノ)においては、2年生 中津川結衣さんが専門部会長賞を受賞しました。
放送部では、2年生 武藤玄君が神奈川県高等学校総合文化祭放送情報部門のアナウンス部門で高文連会長賞を受賞し、神奈川県代表として来年1月に行われる関東地区高校放送コンクール(埼玉大会)に出場することになりました。
さらに、湘南高校の定時制演劇部は、17校が参加した鎌倉・湘南地区の演劇地区大会で最優秀賞を獲得し、大船高校と本校定時制の2校が選ばれて「第51回神奈川県高等学校演劇発表会」(県大会)に出場しました。この大会は、公立、私立を含めた全県の高校演劇部104校の中から、激戦をくぐり抜けた13校だけが出場できる大会です。定時制の高校でこの大会に出場したのは本校だけでした。湘南高校定時制のスクールモットーは、“SHONAN DREAM -湘南で夢を-”です。本校定時制演劇部は素晴らしい演技で観客の心をひきつけました。舞台の上で演じた者も、応援に行った者も “SHONAN DREAM” を確信しました。
定時制では、サーフィンの世界大会に出場する男子生徒もおり、現在の湘南高校は、全日制も定時制も生徒達の筋金入りの活躍が光っています。
5月には、3学年のキャリア教育講演会として大正大学名誉教授の鈴木健次先生(湘南高校28回生)をお招きして、「ニュースを見る目、史料を見る目 -複眼的視点のすすめ- 」という演題で講演をお願いしました。鈴木先生の講演につきましては6月の「校長室の春夏秋冬」においてご紹介いたしました。
2学年対象のキャリア教育講演会では、前国際日本文化センター所長の片倉もとこ先生(31回生)においでいただきました。演題は「international からtransnational -国際から民際へ- 」です。
片倉先生は、「世界は国民国家の総体ではない。これからの世界は、文化についても面的世界から離陸して個人が文化を選ぶ時代である。また、常識には多様性があり、複数の常識がある。相手の側にもたち、総合的な視点を持つことが大切である。」と述べられました。
片倉先生の講演を聞いて、思い出したことがあります。30年以上も前のことですが、当時イギリスの植民地であった香港に行った時のことです。たどたどしい日本語を話す現地のガイドに親しみを込めて「あなたは日本語をどこで学んだのですか。」と聞くと、彼は急に厳しい表情になって「私は日本人です。」と答えました。聞けば、ご両親は日本の方ですが、生まれも育ちも香港ということでした。
現在は公立高校で帰国生徒特別募集が行われ、入試科目に配慮がある時代ですから、海外生活が長く日本語が苦手な日本人(生徒)がいることは、当然のことと思われていますが、その頃の私は、「日本人=日本語を話す」と漠然と考えていて、このことは、生まれ育った地の文化の影響がいかに強いかという(当たり前の)ことを学ぶ良い経験になりました。
現在は、外国の文化(言語も含めて)を理解していることは、グローバル社会の中では大切なことであり、どの文化を自分のライフスタイルにするか、あるいは色々な文化のいいとこ取りをして生活していくかが選択可能な時代だと思います。その意味で、「個人が文化を選ぶ時代」という片倉先生の考え方には共感する部分があります。
今回の講演ではイスラームのことにはほとんど触れられませんでした。片倉先生が日本で指折りのイスラーム研究家であることを知っている生徒は多くないかも知れません。しかし、私は、ワーディ・ハディ-ジャをはじめ、様々なアラブ地域でフィールドワークをされてイスラーム研究をまとめあげられた片倉先生を大変尊敬しておりますし、世界史の教員であった時分に先生の著作に随分と助けられました。
『学士會会報 No895』(2012年4月号)の「ひとびとの地中海世界」によれば、「原人や猿人からわかれて区別される『人間』が出現しはじめたのは、人類の一部がアフリカ大陸から移動しはじめたことによる。それは移動による壮大な地球開拓につながるものであった。移動は出会いをともなう。絶滅したといわれる旧人ネアンデルタール人と新人とのあいだに子どもが生まれていたことが、最近あきらかにされたが、ユダヤ人とアラビア人の混血も、ごく自然のことで、地中海地域に英仏によってイスラエルが建国されるまえは、ユダヤもアラブも隣人同士のつきあいをしていた。現在のパレスチナ情勢からは、ありえないだろうと思われているイスラエル人とアラビア人の結婚さえもみられる。」(20頁)と人間の移動に肯定的な意義づけをされています。
『アラビア・ノート』(ちくま学芸文庫)『イスラームの日常生活』(岩波新書)『イスラームの世界観』(岩波現代文庫)を繙けば、「世界は国民国家の総体ではない」という湘南高校の大先輩の考え方を、イスラーム社会の移動と関連づけて学ぶことができます。
最後に、片倉もとこ先生の著作である『ゆとろぎ イスラームのゆたかな時間』(岩波書店)から私の好きなところを紹介します。「人間はホモ・サピエンスとか、ホモ・ファーベルとかとよばれますが、なによりもまずホモ・モビリタスとしての特性をもっているといえます。『人間は引越しをする動物』なのです。後世の歴史家から民族大移動とよばれる集団的大移動もありましたが、しだいに小さな集団で移動し、近年は個人移動が激しくなっています。人間の歴史の中で『国境に呪縛される国家』が完成したといえる20世紀は、人間の移動もコントロールされ、人々の移動は比較的にいえば、すくなかったともいえるでしょう。
しかし、20世紀の後半になって膨大な数の人びとが動くようになりました。アルビン・トフラーのいうネオ・ノマドの時代です。移動が日常化するようになりました。20世紀の交通革命が拍車をかけることにもなりました。多国籍企業などの動きとともに、人びとは、本来のホモ・モビリタスの動きを国内外で発揮するにいたっています。こういった人間の歴史の大きな流れのなかに、わたしたちの『すまいの歴史』、『引越しの歴史』があって、今日にいたっているといえるのです。」
片倉先生の言葉をお借りして「人間は引越しをする動物」とすれば、活躍の場を求めて世界中どこに住んでも良いはずです。さらに、「私たちの舞台が世界」であるということは、居住の自由だけでなく、今までの考え方にとらわれない、自由でグローバルな視点を持つということではないかと私は考えます。そういう考え方を共有できる「ネオ・ノマドの時代」になれば、片倉先生の言われる transnational の時代もそう遠くはないのではないかと思います。
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県大会に出場した湘南高校定時制の演劇部 |
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片倉もとこ先生とご一緒に |