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「俺が護るから!」
大丈夫だ!
一護は元気づけるように言った。 少し諦めが入ったような、投げやり感が添えられつつではあったが。
お決まりのようなセリフだ。 幾度となく自分も言ってきた気がする。
だが言う相手がいつもと少し違う。 いや少しなんてものじゃない。 ありえないのだ。
だが現実に今目の前で起こっている事実である。
「一護君…ありがとう!」
私、頑張るよ!
一護の言葉に感動したように少しばかり目を潤ませながら礼を言う。 一護が護ると宣言した相手。
がしりと手を両手で握られる。 一護はそれに乾いた笑いを返すしかなかった。
「今日は本当にありがとう、君に会えてよかった」 「いや…うん。まぁ、放ってはおけないし」
言い淀みながら答える。
相手は微笑みながら片手を横に出した。
すると大きな黒い穴―――黒腔を作り出す。 すっと何の躊躇いもなく中へ入る。
そしてもう一度一護の方へ振り返り、にこりと笑う。
「じゃあ私は帰るとするよ。また会おう、一護君」
「…おう。きっと、大丈夫さ。 …じゃあな…―――藍染、さん」
「ありがとう」
うれしそうにまた笑って、消えていった。
一護は自室で大きなため息を吐いた。
さて…どうするか。
一護はそのまま疲れたようにベッドにダイブした。
時を遡ること30分。
今日は生憎の雨模様だった。 どんよりとした重く暗い雲が空一面を覆い、しとしとと雨が降っていた。
一護はそんな中一人歩いていた。 学校の帰り道だった。 傘をさしながら家路を急ぐ。
そういえば朝見た天気予報では明日も雨だったなぁ、面倒だなぁ、なんてことを思いながら。
そんな時。
一護はぴたりと足を止めた。
視線を先は数メートル先の電信柱の下。
最初は目をぱちぱちと瞬かせる。 その次にそのまま目を細める。 そしてごしごしと目をこする。 じーっと凝視してみる。
見間違いではないらしい。 雨が見せる夢幻でもないらしい。
ともなれば今目の前のものはそこに存在しているものということで。
一護はゆっくりと近づいて行った。 自然とそろりそろりという忍び足になりながら。
そして傍まで行き、すっと傘をずらす。 それに傘をかけてやるように。
そこでようやくそれは一護と視線を交わすことになった。
一護は胡散臭そうな表情を顔いっぱいに広げて見下ろした。
「…あんた…藍染惣右介、か?」
「………そういう君は、あの時の旅禍の少年?」
一護の問いに返ってきた答えはぼんやりとした肯定の言葉で。
これがよくある子犬や子猫であればどれだけよかったことか。 いやそうでなくともそれ以外の人物であってさえくれれば。
一護は下校途中に電信柱の下で小さく膝を抱えて濡れそぼっていた藍染を見つけてしまった。
「…で、なんであんた現世にいんだよ。 虚圏とかいうところに行ったんじゃなかったのかよ。 ていうか敵だろうが」
ことりと机の上に麦茶を注いだコップを置く。 ありがとう、と小さく微笑まれた。 心なしか力はなく、儚げに。
その表情に一護の心は揺れる。
敵だと分かっている。 分かっているがあの状況でどうしろというのだ。
自身がああした状態の人間を放っておけるほどの心は持っていない。
確かに最後に尸魂界で別れた際には最悪の状況だったことには変わりない。 それは自分が一番よく分かっている。
だがその彼の面影が今現在全くと言っていいほど、ない。
自分を油断させるためにそうしているのかと警戒はしている。 だが一向にその様子は見受けられない。
一護は藍染を自分の家へと招き入れた。 声をかけてしまった以上、放置はできない。 だがそのままその場で話しこむことは躊躇われた。 ならばと自宅、自室へということになったのだが。
家に入れる際、すでに中には妹たちがいた。 遊子はよしとしても夏梨は確実に藍染の姿が見えてしまうだろうと思った一護は、ばれないように細心の注意を払って階段を上らせ、なんとか部屋に入れることができた。 自室にはコンもいなかったのでよかったと思った。 いれば何事かと騒ぎたてて余計に話がややこしくなることは目に見えている。
藍染は、自分のためにいろいろと苦労をかけていることを自覚しているのだろう、すまないね、と小さく何度も謝ってくる。 騙されるな、と自分の中で何度も呟きながらそれを聞いているが、やはり偽っているようには思えなかった。 自分がお人好しな性格のせいだろうかとも思えたが、それを入れても、やはり。
藍染はコップを手にとってゆっくりと口をつけた。
毒が入ってるとか考えないのか、と小さな疑問を抱きつつそれを見守る。
ふう、と小さく息を吐いてまたことりとコップを机の上に戻した。
「…突然、本当にすまなかったね」
「…別に」
ぶっきらぼうに答えるが藍染に気分を害した様子はない。 むしろ安心しているような、そのような感じが。
「…実はね……」
藍染は目の前にあるコップを見つめながら静かに話し出した。
「私は、ただ…―――"悪"に憧れただけだったんだ」
「………は?」
一護は長い長いためのあと、間抜けな言葉しか返せなかった。
何をふざけたことを、という目で藍染を睨んでみるが相変わらず目の前を見つめているだけで。 そしてその表情は愁いを帯びており。
こいつ、本気だ。
一護は勘でそう思った。 たらりと背中に嫌な汗が流れた。
「…え、えぇっとー…… その、じゃああんたは……悪人ではない、と?」
恐る恐ると言った様子で一護が問いかける。 しかし藍染はかっと勢いよく一護の方を振り向いて目を見開いた。 あまりに突然のことで一護は一瞬戸惑う。
「何を言っているんだ、私は悪人だよ! これまで長きに渡って多くの人を騙してきた最悪最低の極悪人だ! 自分の欲望に打ち勝てずに悪に走ってしまった! ワルの自分がかっこいいと心酔していた時期が今思うとすごく恥ずかしいんだ!!」
「わ、分かったから!!ちょっと落ち着けって!な!」
うわあああ、と頭をかきむしり始めた藍染を止めるように一護はあわあわと動く。
一護は藍染が暴れるせいで机の上のコップが傾きかけたのを見て慌てて持ち上げた。 それに気づいた藍染がはっとして動きを止めた。
「す、すまない! 私はまたなんて悪いことを!」 「い、いやこれくらいはいいけど…」
藍染は心底詫びる気持ちの視線を一護に送っていた。 鬱陶しいほどその感情がびしびしと伝わってくる。 こんなことを「悪」だと思っていることが変だ。
一護はだんだんと藍染惣右介という人間を理解し始めた。
中学生によくある傾向だ。 何か悪いことをしている方が真面目にしているよりかっこいいと思ってしまう。
恐らくその時期があったのだろう。 この藍染という男にも。
「百余年前までずっとそうだったんだ… 実験やら何やらで自分はこんなすごいことやってる、 みたいな愚かなことを思ってたんだよ」 「……それで?」
こうなれば全部聞いてやろう、と一護はすでに聞く体勢を完璧にして続きを待つ。 もう暴れないだろうと踏んでことりとコップを元の位置に戻した。
「ついつい、その頃に悪事を働きまくって。 自分の能力を使いに使って尸魂界にいる全死神に完全催眠とかしかけたり」 「………」
全死神、というのは計り知れない数だろう。 よほど自分の力を使いたかったのだろう。 そして自分はこんなに悪いことをしているという自覚と自信が欲しかったのだ。
「でも、それから……その愚かな考えも成長を見せて、変わった。 自分はなんてことをしていたんだろう、と気づいた」
お、と一護は目を丸くした。 やっと進展か、と次の言葉を待つ。
「でもすでに自分は動いてしまっていたから! ギンとか要とかは自分の部下にしてしまっていたしその頃にはもう虚圏に行って虚たちを従えようとしてたから! 今さら引き下がることなんかできなくなったんだよ!!」
悲痛な叫びのように訴える。
「……つまり、何か。 昔の自分の行動を悔いて恥じているがそれは今さらどうこうできる問題じゃなくなってて 引き返せないまま仕方なく今に至る…ってことか?」
「そう」
こくりと力強く頷いた。
一護はしらーとした目を向けるしかなかった。
なんだそれは、というのが感想だ。
藍染とはこういう人間だったか?と自問自答してみる。 いや自分はほとんど彼と関わってはいないかは分からないのだ。 だがイメージとかけ離れていることには変わりない。 今のこの藍染の思いを尸魂界の死神たちが知ったら激怒するだろうか。 一時の気の迷いで何てことを、と。
だが自分にとってはただの愚かな過去暴露にすぎない気がする。 確かに藍染の一件に巻き込まれたのは事実だ。 自分も傷を負うほどに。
だがこうして裏を聞いてしまうと、逆に可哀想に思えてきて仕方がない。
「…じゃあなんであんた今日、あんなとこで一人膝抱えてたんだよ」
「虚圏にいても部下たちが私を様付けで呼んできたりそれぞれの仕事をしていたりして… すごくその子たちも騙してしまっているような気がして来てね。 私の昔の戯言に付き合わせているのかと思うともう…心がひどく痛むんだよ。 だからちょっと…逃げ出したくなって」
藍染は落ち込むようにぼそぼそと呟くように言う。
「……じゃあ、なんでそれを俺に話すんだ?」
こんな大事な、展開が180度変わってしまうような大きな話を。
「誰かに言いたかったんだ…!私の本音を! もうほとんどが私の催眠にかかっているし… それに君なら…大丈夫な気がしたんだ」
「…気がしたって、随分曖昧な…」
一護は呆れたように苦笑を返す。
だが一護は何となく分かった。
本当の自分を出せる場所がなかったのだろう、と。 外堀を埋めに埋め、自分が偽りばかりになって。 頼れる者もいないのだ。 藍染に関わっている者すべてが藍染を"そう"だと思っているから。
過去に失敗はつきものだ。 誰だってそんな頃もあるだろう。 藍染の場合は少し規模が大きかっただけの話。 そしてそれを今悔いているというのはなかなかない。 そう思えば藍染は元は"悪人"に向いている素質を持ち合わせていないということになる。
確かに今までのそれそのものは許されるものではない、かもしれない。
だが、目の前のこの人間は悩んでいるのだ。 困っているのだ。
ならば。
―――――護らなければならない、と決意してしまった。
その後数度、藍染は一護の元へ訪れるようになっていた。 藍染の現状を聞き、打開策がないか話し合うのだ。 それと藍染にとっては唯一の心が休まる時ということもあった。
そしてその後、破面と呼ばれる者が現世を襲う。 ああこれも自分の立場での義務を果たしているだけなんだろうな、と思いつつ。
そして今度は織姫が拉致された。 しかし織姫には一護から藍染の情報を伝えてある。 藍染自身もそれを知っている。 恐らく虚圏では一護に代わって藍染の話を聞いて話しあっているのだろうと思われた。 しばらく藍染は現世を訪れていなかったから。 何せ最初に破面が現世にやってきたあとから死神が派遣されてきたために来れなかったのだ。
しばらく何の連絡もできていなかったから不安になっていたが、織姫がいるなら大丈夫だろうと安心する。
「黒崎君、早く藍染さんを追って!」 「君はさっさと行け!ここはもういい!」
「…分かった…!」
ウルキオラとの戦いが終わった後、一護は駆け出した。 間に合えばいいのだが、と祈りながら。
「藍染さん、今行くから… 俺が助けてやるから!!」
一護はひたすら空を駆けた。
中二病患者、藍染様(笑) 私はとことん藍染様のキャラを崩壊させてしまうな…ファンの方超すいません、でも超楽しい!w ただ単に一護に藍染様に対して「護ってやる!」って言わせたかっただけです。 ウルキオラたちが来て冬獅郎たちが来る前の時に「ごめんね一護君〜!!」ってなってるはず。 藍染様の事情を知ってるのは現世組のみ、てことで。
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